【写真家レビュー】Pixel 8 Proはカメラとして考えても魅力的なアイテム
ASCII.jp / 2023年12月13日 19時0分
グーグルがカメラ機能を全面にうたうようになった最初のスマホが、2021年10月に発売されたPixel 6 Proだった。そのときASCII.jpから「フォトグラファーとしての視点を」とレビューを依頼され、1年後にはPixel 7 Proでも同様に記事を担当。そして今回のPixel 8 Proである。
Pixel 8 Proをまず手にすると、Pixel 6シリーズからの特徴である背面のカメラバーが少しずつサマというか、アイデンティティーになってきたのを感じる。Pixel 6/6 Proでは黒い帯で、そこにレンズがあるのはわかりにくかった。Pixel 7/7 Proではシルバーの帯になり、黒いレンズが“目玉”のように主張するようになったが、3眼が並ぶPixel 7 Proでは“目玉”が大小2つに分離。個人的には少し野暮ったいなぁと感じていた。Pixel 8 Proでは3眼がひとつの楕円にまとまり、よりシャープな印象を受ける。
Pixel 7 Proに比べてウルトラワイド カメラの描写が向上 各ズームレベルでの写真品質にも注目
スペックをざっと紹介すると、広角カメラ(24mm相当)は5000万画素、ウルトラワイド カメラ(12mm相当)と望遠カメラ(110mm相当)はともに4800万画素。いずれも画素混合により1200万画素で記録される。4分の1に減って損をした気分になりそうだが、1画素につきセンサーでは4画素+αを費やすことで、階調の豊かな写真に仕上げることができる。はっきりわからないけれど、仕組みから推測するに画素ごとに露出を変えて明暗を広くカバーしているのだろう。センサーサイズが小さなスマホでは理にかなった仕組みだ。
ちなみにPixel 7 Proのウルトラワイド カメラは1200万画素で、繊細なメインカメラと比較すると、線の描写が太くて粗い印象があった。さらにさかのぼってPixel 6 Proになると、そもそもオートフォーカスですらなくピントが固定だった。Pixel 8 Proのウルトラワイド カメラは解像感も階調もあり、記録画素は変わらないもののPixel 7 Proより描写が向上。もちろんPixel 6 Proからは圧倒的にレベルアップしている。不動産会社の人はスマホのウルトラワイド カメラを多用するそうだが、当てはまるPixel 6 ProやPixel 7 Proのユーザーは即刻Pixel 8 Proに買い換えられたし。
新搭載「プロ設定」でISO感度などをマニュアルで調節可能
広角カメラや、光学5倍の望遠カメラはPixel 7 Proから目立ったスペックアップはないが、シャッタースピードやピント、ISO感度などをマニュアルで調節できる「プロ設定」が新たに搭載されている。正直にいえば動きを表現する「アクションパン」や前後をボカす「ポートレート」の仕上がりがよいので、あまり出番はないと思うが、色合いを調整する「ホワイト」(一般的なカメラでいうホワイトバランス)は重宝するかもしれない。
スマホのカメラは全般的にホワイトバランスが不安定だが、Google Pixelは日陰で青みが強く残るように感じる。余裕があれば自分で補正して、イメージ通りの色味に仕上げるのがいいと思う。また「編集」メニューに従来からあるフィルタも有効だ。
写真という静止したメディアで動きや時間を表現する 「アクションパン」をはじめ、AIを活用した機能が充実
動く被写体を簡単に、しかもきれいに流し撮りできる「アクションパン」は、僕がGoogle Pixelシリーズでもっとも気に入っている機能だ。
写真という静止したメディアで、動きや時間をもっとも効果的に表現できる手法が“ブレ”。しかしシャッタースピードを自在に調節できるミラーレスカメラや一眼レフカメラでも、そう簡単にかっこいい表現ができるわけでもない。それが「アクションパン」ならいとも簡単に決まってしまう。僕が知る限りは唯一無二で、レンズ交換式カメラにもこの機能が入ったらいいのに……と思う(処理能力的に難しいだろうけど)。
Google Pixelは撮影やレタッチに関する機能がとにかく豊富。Pixel 6/6 Proから搭載されている「消しゴムマジック」など、他にない独自性というか、とっつきやすさもセールスポイントだ。そんなことはフワちゃんのCMで皆さんもご存知かと思うが、5歳になる息子がついにテレビCMの内容を理解するようになり、僕がPixel 8 Proであれこれ実写していると、「それ消せるスマホでしょ? グーグルピクセル!」と、父の業務内容をすっかり把握。
というわけでPixel 6 ProやPixel 7 Proのレビューに続いて息子に協力してもらったのだが、あれこれ消えたり、AIで生成されるのが楽しくて仕方ない様子。これ撮って、あれ撮っての後にこれ消して、あれ消してと日々実演をせがまれている。グーグルさんからお借りしているデモ端末をお返ししたら、息子はどれほど落胆するだろうか。親として心配だ。
Pixel 8/8 ProのテレビCMでアピールされているのが「編集マジック」なる新機能。これは生成AIを用いて被写体を消すだけでなく、位置やサイズをアレンジできるというものだ。被写体を消去・移動すれば、元あった場所を何かで埋めなければいけない。「消しゴムマジック」ではその周辺から拾った情報で埋めており、まさに何かを消すという感覚だった。
しかし「編集マジック」では、同じように消去した場合でも、本来そこにない(けれど、ありそうな)世界をAIが生成。テレビCMでは被写体の移動を実演していて、正直「この機能っているのかなぁ……」と思っていたが、ただの消去だけでも「消しゴムマジック」より実用性が高い。
ただし「編集マジック」は端末ではなく、クラウドでその処理をしている。よって元画像をGoogleフォトにバックアップする必要があり、もちろんインターネットに接続されている必要がある。被写体を指定するのもスムーズにはいかず、画像処理にも20~30秒、場合によっては1分近く待たされる。背後に写ってしまった通行人とか頭上の電線を消したい、といったシンプルな処理であれば、従来からの「消しゴムマジック」のほうがよいと思う。
一方「編集マジック」は画像処理をすると複数の結果が提示され、保存できるのはひとつだけというのが残念なのだが、気に入るものがなければ異なる結果をリクエストすることもできる。遠景を指定すると世界のさまざまな場所に置き換わり、そうした偶然性を含めて遊ぶのがいいように思う。もちろん少しだけ被写体をずらすといった、本来の使い方も有効だ。
個人的に仕事で使いたいのは 全員がいい表情になる新機能「ベストテイク」
複数人が写る集合写真で、全員がいい表情になるという新機能「ベストテイク」は個人的に仕事で使いたくなる。というか、もしPixel 8/8 Proを買ったら使うかもしれない。複数人をすんなりといい表情で撮れるのは、せいぜい3人まで。4~5人になると誰かがよそ見や瞬きをしてしまい、気をつけて撮る必要がでてくる(鹿野調べ)。枚数を撮ればいいかというと、ずっとよそ見をする人がいて、1枚だけこっちを見ていると思いきや、別の人が瞬きということもある。
そこで連写で撮った複数枚から、各人のよい表情を拾って1枚にまとめるのが「ベストテイク」だ。この機能はGoogleフォトに保存されている写真であれば、カメラを問わず実行できる。
そこで以前、息子の保育園で行事の際に撮影した集合写真で試してみた。保育園の決まりで公開はできないのだが、試す素材としてはうってつけだ。実際よそ見や瞬きをしている子に関して、別カットから抽出した顔がいくつも候補で提示された。その中からよい表情を選択すると、瞬きはまったくわからないレベルで修正。よそ見がこちらを向いた顔に修正された子は、さすがに拡大すると不自然な部分もあったが、SNS程度のサイズであれば気付かれないだろう。
また僕の守備範囲を外れるため、今回は軽く試した程度でお見せ(というかお聞かせ)できないのだが、動画の音声を認識・処理する「音声消しゴムマジック」もすごかった。動画から複数の音声を認識し、トラックとして表示。それぞれスライダーでボリュームを調整できる。
たとえば踏切の警報音や電車の走行音、救急車のサイレンなどは「ノイズ」というトラックで表示される。それを最大限までマイナスすると、ほぼわからないレベルまで静かになる。一方で話し声などそれ以外の音声は分離されており、しっかり残すことができた。いわばイヤホンのノイズキャンセリング機能がさらに高度になった感じだ。プロ向けの動画編集ソフトにもやっと搭載されたような機能が、スマホでできてしまうのに驚かされる。
カメラとして考えても8Proは魅力的なアイテム
なんてことを書いた直後の2023年12月7日、突如グーグルから高性能AIモデル「Gemini」が発表された。同日から英語版ではあるが、Pixel 8 Proではモバイルに特化した「Gemini Nano」を体験できる。その恩恵はさまざまで、カメラ機能だけでも動画の手ブレ低減や高画質化、過去に撮影された写真も含めて人物撮影における明るさの向上に寄与するという。
あいにくGemini Nanoは試すことができず、それどころかPixel 8 Proで触ったアプリといえば「カメラ」と「フォト」のみ。写真と少しばかり動画を撮っただけだが、カメラとして考えても8Proは魅力的なアイテムだ。僕個人はアップル経済圏にすっかり取り込まれていることもあり、iPhoneから離れられずにいるが、うまく折り合いがつけばGoogle Pixelシリーズを使ってみたいとも思う。まあ息子は大きくなったら確実に欲しがるだろうなぁ(笑)。
筆者紹介――鹿野貴司
1974年東京都生まれ、多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーランスの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるかたわら、精力的にドキュメンタリーなどの作品を発表している。
写真集に『山梨県早川町 日本一小さな町の写真館』(平凡社)など。公益社団法人日本写真家協会会員。
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