「2025年のNTT法廃止にはこだわらない」NTT島田社長、自民党の提言ひっくり返す
ASCII.jp / 2023年12月14日 7時0分
NTT法を巡る議論に新展開だ。
自民党の政調審議会は12月5日、NTT法のあり方を巡っての提言をまとめ、11日に岸田文雄総理大臣に手渡した。提言では「NTT法は2025年までに廃止すべき」という結論でまとめられていた。
しかし、12月13日になって、急転直下、状況が大きく変化した。
NTTの島田明社長が「2025年のNTT法廃止にはこだわらない」と自民党の提言をひっくり返したのだ。
携帯キャリア「巨大なNTT」誕生に危機感
NTT法を巡る議論は、防衛財源を確保するために、国が保有するNTT株を売却する案が自民党内で浮上したのが発端だった。NTT法では国がNTT株を保有することを義務づけているため、NTT法の見直しが避けて通れないのだ。
しかし、このタイミングに合わせて、NTTからは外資規制や研究成果の開示義務、ユニバーサルサービス義務のあり方についての見直しもして欲しいという主張があった。
一方、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルを始めとした全国のケーブルテレビ局など181者は「NTT法の廃止には反対」という意見を出してきた。
NTT法が廃止されれば、NTT東日本と西日本、さらにはNTTドコモやNTTデータなどの関連会社がひとつになる「巨大なNTT」が誕生し、公平競争が阻まれると警戒したのだ。
実際、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルの通信サービスはNTT東西が持つ光ファイバー網に接続することで提供されている。
「巨大なNTT」ができれば、NTT東西はNTTドコモなどを優遇する一方、KDDIなどに不利な条件を突きつけ、結果として、接続料を値上げする可能性がゼロではなくなってくるのだ。
接続料というコストが上がれば、我々が支払う通信料も値上げを余儀なくされてしまう。
また、離島や山間部などでは、NTTが固定電話を引いているが赤字体質が続いている。NTT法が廃止されれば、そうした場所からの撤退も可能となるため、「地方で電話が使えなくなる」という事態も想定されるのだ。
ソフトバンク社長「廃止ありきではないと聞いて安堵した」
国民の通信インフラの危機を避けるため、KDDI髙橋社長やソフトバンク宮川社長、さらに楽天モバイル三木谷会長が何度も会見を開き、「自民党の密室で、NTT法廃止ありきの提言をまとめるべきではない。オープンな議論が必要だ」と世間に訴えてきた。
時にはX(旧Twitter)に書き込み、そこにNTT広報室のオフィシャルアカウントが噛みつくといった空中戦にまで発展していたのだった。
「自民党からNTT法廃止の提言がまとまり、岸田総理の手に渡った」ということで、もはやNTT法の廃止は決定事項になってしまうのか、と見られた中、12月13日に総務省で開催された情報通信審議会において、NTTの島田明社長が「2025年までに廃止したいと我々が言っていないのは事実。ただ自民党がそういう発言をしているのは尊重しないといけないのではないか」としたのだ。
つまり、NTTとしては2025年までという期限を決め、急いで結論を出す必要はないようだ。
これを受けてソフトバンクの宮川社長は「廃止ありきではないと聞いて安堵した。2025年というのも自民党が勝手に言ったというのも理解した。(時間に余裕があるなら)NTTがどうあるべきかをもう一度、立ち止まって議論して結果を出すのが望ましい」と語った。
ソフトバンク社長「アクセス部分は完全資本分離すべき」
今回の情報通信審議会では、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルから「NTTはアクセス部門だけでなく、NTTドコモやNTTデータを資本分離すべきでは」という意見が出された。
NTTが現在、開発中の光電融合技術である「IOWN」は電気信号で処理されている半導体を光技術に置き換えることで、さらなる高速化と省電力化を実現するものと言われている。IOWNを成功させた暁には、NTTは半導体の分野にも進出を狙っているとされている。
そんなNTTの野望に対して、警鐘を鳴らすのがソフトバンクの宮川社長だ。
「NTTが新しいことにチャレンジしたというのは応援したいが、一方で半導体事業は浮き沈みがとても激しいのは、既存の企業を見れば明らかだ。NTTが半導体に進出したいのであれば、リスクを避ける意味でも国民にとって大事なアクセス部門は完全資本分離して切り離しておくべきだ」と語る。
仮にNTTが半導体で失敗したら、その穴埋めを、通信料の値上げで補う可能性を宮川社長は懸念しているのだ。
自民党の提言が「骨抜き」になった上での議論か
今回の議論で、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルとしては、NTTの島田社長から「2025年までのNTT法廃止にはこだわらない」といった言質を取っただけでも、万々歳だったようだ。
全国にあるアクセス部門や2020年にNTTの完全子会社になったばかりのNTTドコモを再度資本分離するというのはかなりハードルが高い議論であるが、2025年までという期限がなくなったのであれば、じっくりと検討する時間ができたことにはなる。
さらに「NTT法の廃止」を提言にまとめてきた自民党も、ここ最近のゴタゴタで、来年にはどんな状態になっているか不透明になってきた。
自民党の提言が「骨抜き」になった上で、今後、NTT法がどうあるべきかという議論が進むことになるかも知れない。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。
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