Macによるゲーム体験の進化が止まらない! アップル担当者に聞く「シリコンとOSの技術革新」
ASCII.jp / 2023年12月14日 12時40分
2023年はアップルが独自に設計するAppleシリコン「Apple M3」を発表。さらに11月7日にはこれを搭載する新しいMacBook Proを発売したことが大きな話題になりました。秋には最新のmacOS Sonomaも提供を開始しています。
Appleシリコン搭載のMacとmacOS Sonoma以降を組み合わせた環境で、あらゆるゲームコンテンツが快適に楽しめる「ゲームモード」という新機能があります。加えてApple M3チップにはグラフィックス処理の中核を担うGPUに大きな負荷がかかるゲームコンテンツをサクサクと動作させる「Dynamic Caching(ダイナミック・キャッシング)」という新たなメモリー制御の仕組みが導入されました。ふたつの進化が重なる時、Macによるゲーム体験はどう変わるのでしょうか?
今回はMacのゲーム体験に関わる最新技術について、アップル本社の責任者3名の方々に詳しく聞ける機会を得ました。インタビューに応じてくれたのはMac Product Marketing担当のゴールデン・ケッペル氏とダグ・ブルックス氏、GPU Software Product Marketing担当のレランド・マーティン氏です。
macOSの新機能「ゲームモード」がプレイ環境を自動最適化
macOS Sonomaには「ゲームモード」という新機能が加わりました。Appleシリコン搭載のMacで、ゲームをフルスクリーン表示にするとゲームモードが自動でオンになります。メニューバーにはゲームモードが有効化したことを知らせるゲームコントローラーのアイコンが目印として表示されます。
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マーティン氏はMacのゲームモードの特徴を次のように解説しています。
「macOS Sonomaでは、ゲームモードの実行に合わせていくつかの処理をします。ひとつはAppleシリコンのCPUとGPUのパフォーマンスをゲームアプリに対して最優先で割り振り、同時にバックグラウンドタスクによる使用を最小限まで抑えます。その効果として、ゲームモード時には一層なめらかで安定した映像表示が実現され、応答速度も向上します」
もうひとつの処理はゲームモードがオンになると同時に、Bluetoothで接続するワイヤレスゲームコントローラーとワイヤレスオーディオの使い勝手がさらに良くなります。さらにマーティン氏の解説が続きます。
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「ワイヤレスゲームコントローラーの場合、BluetoothによるMacへのポーリングレートを約2倍に高めることにより、入力操作に対する遅延を約半分に下げます。ワイヤレスオーディオは、MacにペアリングしたアップルAirPodsシリーズによる音声信号の伝送の遅れを改善します。ゲームの映像、コマンド入力操作に対するオーディオの“もたつき”を感じることなく、ゲームの世界に心地よく入り込めます」
マーティン氏はゲームモードの有効性を最も鮮やかに体感できるゲームタイトルのひとつに、2023 App Store Awardsの“ベストMacゲーム”部門を受賞した「Lies of P」を挙げています。
ゲームデベロッパーにとってのメリットは、それぞれのコンテンツをmacOS Sonomaに対応させるだけで別途ゲームモードに関わる最適化を図る必要がないことです。
また、デベロッパーはアップルの「Game Controller フレームワーク」を活用すれば、ゲームコントローラーにレーシングホイール、スティックリモコン、キーボードやマウスなど幅広い周辺機器にアプリを対応させることが可能になります。
ゲームを遊ぶプレーヤーにとっても、「Macのゲームモードに対応するワイヤレスリモコン」を探すことに奔走する手間から解放されます。それだけではありません。ゲームタイトルによってはコントローラーが搭載するハプティクス(触感)やモーションセンサー、スクリーンショットにゲーム映像のビデオ録画などの機能も、Macによるゲーミング時に楽しめます。
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例えばソニーの「DualSense ワイヤレスコントローラー」をMacに接続して、コントローラー特有の機能であるアダプティブトリガーやハプティックフィードバックを連動させることもできます。ただし、ゲームモードがオンの状態でゲームコントローラでの入力操作の遅延は低減されるものの、ハプティクフィードバックの振動などに遅延が残る場合があるようです。
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Apple M3チップの新しいテクノロジー 「ダイナミック・キャッシング」とは
続いてApple M3チップから搭載された「ダイナミック・キャッシング」を紹介します。新しい機能の概略をブルックス氏が次のように語ります。
「ダイナミック・キャッシングはApple M3チップの中で、グラフィックス処理の中核を司る高速次世代GPUのパフォーマンスを最大限まで引き出すことを狙った新しいテクノロジーです。M3チップはM2よりも50億個多い、250億個のトランジスタと、次世代アーキテクチャを採用する10コアGPUを搭載しています。従来のAppleシリコンに比べるとグラフィックス処理のスピードが大きく向上します。Apple M1チップとの比較では約65%高速化しています。ダイナミック・キャッシングはMacのゲーミングパフォーマンス改善も引き出します」
従来のGPUアーキテクチャではMacが複雑なプログラムを実行する際に、最も負荷の大きなタスクを元にしながら各タスクに同量のメモリを確保していました。ダイナミック・キャッシングはM3チップのGPUの性能をさらに限界まで引き出せるよう、各タスクが必要とする適切な量のメモリをリアルタイムに、かつ動的に割り当てます。M3チップのGPUが持つコンピューティングリソースがより効率よく使えることから、負荷の高いゲームやプロフェッショナル向けのクリエイティブツールなども使用環境に余裕が生まれます。
ダイナミック・キャッシングはM3チップのGPUアーキテクチャに組み込まれる機能であることから、グラフィックスによる表現に贅を尽くしたゲームタイトルを快適な環境で遊ぶのであれば、やはりM3チップ搭載のMacが一番おすすめということになります。
デベロッパーによるMac版ゲームタイトルの開発を支援する 「ゲームポーティングツールキット」
アップルは今年の世界開発者会議「WWDC23」で「Game Porting Toolkit(ゲームポーティングツールキット)」というデベロッパー向けのツールを発表しました。Windowsなど他のプラットフォーム向けに開発されたゲームを、Appleシリコン搭載のMacで動かせるよう、簡単に移植するためのツールです。AppleのウェブサイトでApple Developer Programの加入者向けにツールの提供が始まっています。
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新しいツールキットの特徴をマーティン氏に聞きました。
「ゲームポーティングツールキットにはいくつかの主要な構成要素があります。ひとつはエミュレーション環境です。ツールキットを活用すれば、デベロッパーの方々はプログラムコードを1行も書かずに、既存のWindowsゲームをmacOSで実行した時の潜在的なパフォーマンスが把握できます。最初のシーンをmacOSの環境で動作させるまでに必要になるソースコードのリコンパイル、HLSL(High Level Shading Language)からの何千ものカスタムシェーダーの変換など、通常は何ヵ月もかかる前処理の作業が省けます」
MetalはAppleプラットフォーム上で、ゲームなどのグラフィックスから豊かな表現を引き出すソフトウェアです。ツールキットに付属するMetalシェーダーコンバーターの役割をマーティン氏が次のように説明しています。
「どんなゲームにも何万行ものシェーダーコードがあり、それをMetalに変換するためには大変な労力が必要になります。この大きな負担を目の前にして、二の足を踏んでしまうデベロッパーの方々の気持ちも良くわかります。ゲームポーティングツールキットのMetalシェーダコンバーターを使えば、既存のHLSL GPUシェーダーを自動的にMetalに変換できます。シェーダーやグラフィックスの移植がとても簡単に、より短い時間でできます。ゲームタイトルのリリースまでの工期短縮にもつながります」
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マーティン氏は「Appleシリコンが、より多くのプレイヤーにゲームを届けたいと考えているデベロッパーにも大きなチャンスを提供する」としています。ゲームポーティングツールキットを活用した“Mac版”の好例として、マーティン氏は「The Medium」を注目すべきタイトルに挙げています。
今後はコジマプロダクションの「デス・ストランディング ディレクターズカット」やカプコンの「バイオハザード RE:4」の“Mac版”など、楽しみなビッグタイトルもローンチを控えています。
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Apple M3を搭載するすべてのMacで最高のゲーム体験を届ける
AppleシリコンのM3チップはスタンダードなM3のほか、上位のM3 ProとM3 Maxがあります。M3ファミリーのチップの中でパフォーマンスを比較した場合に、上位チップを搭載するMacの方がリッチなゲーム体験を得られるのでしょうか。ケッペル氏が次のように答えています。
「AppleシリコンのM3ファミリーには、ユーザーのニーズに合わせて仕様を最適化した3つのチップがあり、それぞれに素晴らしいパフォーマンスを発揮します。一方、各チップの基幹部分の構成要素はM3ファミリーの中ですべて共通になります。私たちがAppleシリコンを設計する際には、いつもバランスの取れたシステムであることを最優先に考えます。CPUとGPU、ユニファイド・メモリの帯域幅の比率など、すべての要素を総合的に検討しながらアーキテクチャを決めていきます。その理由は、どのチップでもあらゆるワークロードにおいて優れたユーザー体験を提供したいと考えているからです」
M3ファミリーはすべてのチップにダイナミック・キャッシングや、ハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシング、メッシュシェーディングといった次世代GPUに基づく新しいテクノロジーを採用しています。ケッペル氏は「M3チップを搭載する14インチのMacBook Proから、M3 Maxチップを搭載する16インチのMacBook Pro、そしてM3チップ搭載のiMacまで等しく先進的なゲーム体験が得られる」と太鼓判を押しています。
ブルックス氏もM3チップを搭載するMacによるゲーミング体験について、次のようにコメントしています。
「等しくバランスの良いMacのシステムを構築することが私たちが目標に掲げるコンセプトです。もちろん、よりパワフルなMacであればより良い体験が得られる使い方や場面もあります。でも一番大事なことは、同世代のチップを搭載するMacがスタンダードクラスのマシンからハイエンドに至るまで、等しく最先端の体験が楽しめるMacであることなのだと私たちは考えています」
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筆者紹介――山本 敦 オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
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