Meteor LakeことCore Ultraの性能と消費電力が判明 インテル CPUロードマップ
ASCII.jp / 2023年12月18日 12時0分
前回の続きでInstinct MI300Aについて説明する予定だったが、AMDに負けじとインテルが12月14日に“AI Everywhere”というイベントを開催。ここでMeteor LakeことCore UltraとEmerald Rapidsこと第5世代Xeon Scalableの正式発表を行なった。そこで今回は、予定を変更してインテルのイベント内容を解説していく。
Core Ultraと第5世代Xeon Scalableを発表
概略は発表記事ですでにレポートが上がっているので、ご覧になった方も多いだろう。本稿も内容が多いので2回に分割させていただく。今回はCore Ultraである。
Meteor Lakeの内部構造についてはこれまでも何度か説明している。連載734回や735回、739回、740回、741回などではけっこう細かいところまで掘り下げて説明したつもりだ。ただ構造はともかく最終スペックは今回が初の発表になるので、そうした部分を取り上げていく。
動作周波数などは後で説明するとして、まずスペックで目につくのは、以下の項目だろう。
- GPUが8 Xeコアとなった
- NPUが複数ストリームを実行可能
- メモリーコントローラーがLPDDR5xで最大7467MHz/64GB、DDR5で5600MHz/96GBまで対応
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657401/x/bdb1f9bd5776c5eb.jpg)
いろいろと性能に関する指標が出てきたので、今回はそのあたりも含めて順に説明する。まずマルチスレッド性能をCore i7-1370PやRyzen 7 7840U、Apple M3、Snapdragon 8cx Gen3などと併せて比較したのが下の画像だ。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657403/x/11c142c9f878c7ed.jpg)
Performance IndexによればCore Ultra 7 165Hの性能は以下のとおり。
- Core i7-1370P比で8%向上
- Ryzen 7 7840U比で11%向上
- Apple M3比で29%向上
- Snapdragon 3cx Gen3比で3.25倍
この手のベンチマークの常としてこれは怪しい。まずすべてのテストでCore Ultra 7 165HはLPDDR5-7467 16GB×2を搭載した社内の評価システムであり、一方比較対象はLenovo T16 AMD Ryzen 7-PRO-7840U(LPDDR5-6400 16GB×2)やLenovo X13(LPDDR4X-32GB)、MacBook Pro 14(LPDDR5 24GB)である。
Core i7-1370Pはやはり社内の評価システム(LPDDR5-6000 16GB×2)ということで、Core i7-1370PとCore Ultra 7 165Hの性能/消費電力の関係はおそらく正確だろうが、他の3製品の性能はともかくCPUの消費電力をどこまで正確に測定できているのかやや疑問である。
それなりに性能が高いことは間違いないはずだが、例えばRyzen 7 7840Uとのマルチスレッド性能の差が本当に11%あるのか? はけっこう疑わしい感じである。
そのうえ、SPECrate 2017_int_baseはけっこうメモリーの帯域で性能差が生じることを考えると、「LPDDR5-7467まで動作するのもCPU性能のうちだ」と主張されればそのとおりではあるが、同じLPDDR5-6400同士ではどこまで性能差があるのか、少し興味あるところだ。
もっとも、わりと信憑性の高そうな数字もある。下の画像はビデオ再生の際のSoC全体としての消費電力で、Core i7-1370Pで1540mWの消費電力がCore Ultra 7 165Hでは1150mWまで削減されたとする。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657404/x/18aee772c248e948.jpg)
この場合、画面制御などに必要なCPU処理はSoCタイル内のLP Eコアが使われ、またデコードもSoC タイル内のメディアエンジンが担うため、CPUタイルやGPUタイルは本当にシャットダウンできる。これにより25%の省電力化が可能になった、というわけだ。ちなみに競合であるRyzen 7040Uシリーズと比較すると、最大79%の消費電力削減が可能になった、としている。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657405/x/9cb0e475df01f1c6.jpg)
再び性能の話に戻るが、SPECrate 2017_int_baseを使っての1スレッドでの性能比較が下の画像だ。興味深いのは、1スレッドで言えばCore i7-1370Pの方がむしろ性能が上のことだろうか。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657406/x/a66ea34d7212b3eb.jpg)
そもそもCore i7-1370Pに搭載されるGolden Coveと、Core Ultra 7 165Hに搭載されるRedwood Coveが基本的には同じで、1次キャッシュの容量が違う程度の差しかないという話は連載739回で説明したとおり。
この状況でCore i7-1370Pの方が8%ほどスコアが上、というのは要するにそれだけ実効動作周波数が高いということの裏返しでもある。これはCore i7-1370Pの方が動作周波数が早く上がりやすいということなのか、それともCore Ultra 7 165Hの方の最適化が十分でなくて、動作周波数の上がり方が遅いだけなのかは現状不明である。
同様にマルチスレッドでの性能比較が下の画像だ。こちらではCore Ultra 165Hが最高速になっているが、思ったほどに性能差がない。消費電力を同等にした場合にどこまで性能差が出るのかは気になるところだ。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657407/x/bbda241f332c1af3.jpg)
実際の製品を利用した比較が下の画像。こちらではメディア・プロセシング系の比較である。ただProcyonのVideo EditingではおそらくAdobe Media Encoderの性能(≒シングルスレッド性能)が結果につながったのだろうと想像できるが、PugetBenchを使ったPremier Pro/Lightroomではどのあたりで性能差が出たのか興味ある部分だ。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657408/x/acc2b20d096f6769.jpg)
GPU性能はRaptor Lake世代の約2倍 Ryzen 7 7840UとCore Ultra 7 155Hがほぼ同等
次がGPU性能である。Meteor LakeのGPU性能はRaptor Lake世代(≒Alder Lake世代)と比較して2倍になるという話は連載741回で説明した。実際にAlder Lake世代のCore i7-1370PとCore Ultra 165Hを比較した結果が下の画像である。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657409/x/a4507261b06c5126.jpg)
Apex Legendsは軽いゲームなのでフレームレートが上がりにくいのはわかるが、そこまで軽いわけでもないGrand Theft Auto Vが意外に上がらない印象がある。逆にFar Cry 6やBorderlands 3などはこれまでAlder LakeではGPUがアップアップしている印象だったので、ここまで性能が伸びたというのはそれなりに性能改善効果があったということだろうか。
ただこのあたりは向上率ではなく実フレームレートを示して欲しかったところだ(Performance Indexの方を見ても、実際のフレームレートは掲載されていない)。
ちなみに競合との比較として示されたのが下の画像だ。一概には言いにくいのだが、Ryzen 7 7840UとCore Ultra 7 155Hがほぼ同等、Core Ultra 165Hがそこから5%増しのフレームレートだとしている。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657410/x/4aee3d38c4f63cc6.jpg)
やや気になるのはCore Ultra 165Hのみ16インチのノート(実際Zenbook 14やThinkPad T16と比較すると一回り大きい)なことで、それだけ冷却能力にゆとりがあるように思えるのだが、これがどの程度フレームレートに関係してくるかははっきり断言できない。
とはいえ、Zenbook 14とThinkpad T16ではほぼ同クラスなので、XeコアベースのGPUはRDNAと同等のところまで性能を引き上げてきた「ように見える」のは大きい。なぜ「ように見える」と書くかと言えば、自分で試したわけではなく、あくまでもインテルの発表だからである。
そのGPU関連では、今回XeSSを改めて前面に出す形でアピールした。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657411/x/444b17ff0e5dc8c8.jpg)
実際にXeSSの有無でどこまで性能が向上するか、というのが下の画像だ。Like a Dragon:Gaidenでは倍以上になってるのはなにか違う気がする。これが事実だとすれば、相当クオリティを犠牲に性能を引き上げているように見える。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657412/x/a459dc922da4975f.jpg)
これでeスポーツをやるのは無茶にしても、自分で遊ぶだけであればShadow of the Tomb Raiderくらいまではなんとかプレイできる範疇に入る結果になっているのは相応に大きい。
ただこれはRyzen 7 7840Uにも言えることだが、やはり統合GPUとしての足枷(主にメモリー帯域と消費電力)の壁は大きく、がんばってもこの程度が現在の上限ということも示している。それでも、例えばGhost Runner IIではCore i7-1370P比で最大3倍のフレームレートが実現できるというのは、これまで遊べなかったゲームが遊べるようになるという点で大きな進歩だろう。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657413/x/4fedd69f841e84f9.jpg)
AIアプリケーションが高速化
そしてMeteor Lake最大の売りがNPUを利用したAIアプリケーションの高速化である。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657414/x/47880f8469c16fa4.jpg)
NPUの素性そのものは連載740回で説明したが、Myriad Xの次世代製品を搭載、さらにコアをデュアルで構成した形だ。記事冒頭の画像で“Dedicated NPU with n-Stream Execution”とあったが、この後半部の“n-Stream”というのは複数のモデルを同時に動かせるという意味である。Meteor Lake世代ではコアが2つなので、要するに2つのモデルを同時に実行できることになる。
加えて、絶対的なAI推論性能ではむしろIntel Arcの方が上という話は連載740回の最後で説明したとおりであり、実際にいくつかのコンテンツ制作系アプリケーションではGPUを利用することで高い性能が出ているという結果が示されている。このあたりは、純粋にGPUの性能が向上したことが大きな効果を発揮しているものと考えられる。
ではNPUの方は? というと、下の画像で示されているが、OpenVINOに対応したアプリケーションが少ないこともあり、特定のシチュエーションでしか効果がない感じだ。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657415/x/8b1a026e4071c174.jpg)
連載740回でも説明したが、現状のOpenVINOに対応しているのはビデオ分析系の一部のアプリケーションに留まっている。このあたりは今後のアプリケーション対応に期待したいところだが、AMDもRyzen AIで同じことをしているあたり、差別化は容易ではないだろう。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657399/x/224cec128b22f224.jpg)
ちなみにインテルとしてはなんとしてもOpenVINOを推し進めたいようで、下のスライドも一緒に提示されているが、だからといってアプリケーション開発者が「ではWinMLを捨ててOpenVINOのみをサポートしよう」とは普通思わないわけで、どこまでOpenVINOを担ぎ続けるつもりなのか興味あるところだ。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657416/x/e8cd2a8715387b75.jpg)
なおCore UltraではCPUとGPU、NPUのすべてを同時に使うことで、LLama2-7Bをクライアント上で直接動かせる、としている。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657417/x/10ef450ec25a41bd.jpg)
Core Ultra 9 185Hの発売は年内? それとも来年?
Core Ultraの性能に関する話はこの程度であるが、SKU一覧になかなかすごい爆弾が仕込まれていた。
![](https://ascii.jp/img/2023/12/17/3657397/x/61cbea261e1f91e4.jpg)
紹介記事の一覧表にも示されているが、PBP(Processor Base Power)とMTP(Maximum Base Power)と呼ばれる従来の消費電力枠に、新たにMaxiumu Assured PowerとMinimum Assured Powerという新しい概念が追加された。今回発表になった9製品で言えば以下のようになっている。
Minimum/Maximum Assured Powerという概念は、第12世代インテルCoreプロセッサーにはすでに存在していたことがわかっている(それ以前もあったかどうかは未確認)。要するにcTDPとして表現されていた数字の最小のものがMinimum Assured Power、最大のものがMaximum Assured Powerである。したがって、例えばCore Ultra 9 185Hで言えば定格は45Wで、cTDPが35~65Wレンジ、MTPというかPL2が115Wになるわけだ。
TDP(PBP)が45Wレンジの製品は、例えば従来ではCore i9-13900HKがやはりPBP 45W、MTP 115W枠なので変わらないとは言えるが、PBPが28Wの製品(例えばCore i7-1370P)はMTPが64Wに留まっていた。
こうしたMTP 64W枠の製品を全部MTP 115Wまで引き上げたというのが従来からの大きな変更点でもある。連載735回のタイトルは「Meteor Lakeはフル稼働時の消費電力が大きい可能性あり」だったが、本当にそんな感じになりそうである。
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