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貧しい子どもに劣等感を植えつける、日本の“教育格差”問題

ASCII.jp / 2023年12月21日 7時0分

写真はイメージ

 日本が先進国のなかでワースト4位の貧困国であるという報道を目にしたことがある方は、決して少なくないだろう。とはいえ日々の生活を通じ、貧困を実感する機会があまりないのも事実。だから開発途上国の貧困と日本の貧困にはどのような差があり、いかなる問題を生んでいるのかはわかりにくくて当然だ。

 そもそも同じ貧困とはいっても概念が異なるわけで、『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』(石井光太 著、PHP文庫)の著者もそこに着目している。

たとえば、日本の公立の小学校には富裕層から貧困層まで様々な階層の子供が通っているが、途上国の小学校には富裕層なら富裕層、貧困層なら貧困層しかいない。あるいは、日本のホームレスは高齢の単身者ばかりだが、途上国の路上生活社のほとんどが家族連れだ。こうした違いが生まれるのは、日本と途上国とで貧困の形態が別物だからだ。(「はじめに」より)

 したがって、日本の貧困がどういったものなのかを知るためには、まず途上国の貧困となにが違うのかを認識しなければならないと著者は主張するのだ。日本の貧困には日本特有の現象があるので、それを浮き彫りにしてこそ日本が抱える状況や社会問題を理解することになるのだと。

 そこで本書は、「住居」「路上生活」「教育」「労働」「結婚」「犯罪」「食事」「病と死」という項目に分け、途上国と日本におけるそれぞれの現状を比較しているのである。ここではそのなかから、上述した「教育」の部分に焦点を当ててみることにしよう。

日本の公立校で“教育格差”が深刻に

 著者によれば途上国の子どもが学校へ行けない理由は、次の3点だそうだ。

1.家計が厳しく、子供が働かなければ生活が成り立たない。 2.学校の数が少なく、家から歩いて通える距離にない。 3.義務教育に当てはまらない子供がいる。(81ページより)

 価値観も生活習慣も異なるとはいえ、多少なりとも情報は伝わってくるだけに、少なからず理解はできるのではないだろうか? では、日本ではどうだろう? この国ではほぼすべての人が義務教育を修了しているだけに、教育は行き届いているといえるはずだ。

 過疎の集落にも学校はあるし、障害や病気を持つ子にも学習の機会は提供されている。そのため、日本の識字率は99%以上と世界最高水準だ。

 なのに、そうした環境のどこに貧困が入り込むのだろうか? 言うまでもなくそれは、貧しい子どもたちが直面することになる「教育格差」だ。親が子どもにかける教育費に、親の所得や環境によって違いが生じるわけである。

 高所得の家庭であれば、子どもに対して塾や習い事にお金をかける傾向があるが、低所得の家庭ではそれができない。そのため進学率にも明らかな差が出るし、当事者である子どもも、そうした現実を強く感じることにならざるを得ない。

 その結果、日本の公立校には相応のチャンスが用意されているにもかかわらず、それを自ら捨ててしまう子どもたちが一定数いるというのだ。

なぜか。それは経済格差の中で子供たちの中に生まれる劣等感が深く関係している。貧しい子供たちは高所得家庭の子供たちと過ごし、競い合ううちに、持たざる者としての自分の立場を思い知らされるのである。(94ページより)

 たとえば文部科学省の調べでは、公立の小中学校の生徒の約1%が給食費(小学校が月平均4477円、中学校が月平均5121円)を未納しているという。だとすれば、そんな境遇にある子たちが「うちの家は貧乏で恥ずかしい」「もう学校に行きたくない」というような否定的な気持ちを抱いてしまったとしても仕方がない。

 また、富裕層の子どもが誕生日に高価なプレゼントを買ってもらっていたり、夏休みに海外旅行に行っていたり、最新のゲームやスマートフォンを持っていたりするのを目の当たりにすれば、貧困層の子どもたちは家庭環境の違いを痛感することになるだろう。

 教育にしてもそうだ。富裕層の子どもは、小さなころから学校以外にも学習塾や英会話に通うなど、より高いレベルの教育を受ける機会に恵まれる。だが、貧しい子たちはそうもいかないので、本人たちの努力だけでは埋めることの難しい差が生じてしまうのは仕方がないことなのだ。

日本の教育は絶対的な格差を生み、子どもたちのメンタルにまで入り込んでいる

 著者は、決して日本の教育システムを否定したいわけではないと前置きをしたうえで、「富裕層と貧困層が混在する日本の教育環境のなかでは、低所得家庭の子どもたちは、自分が抱えるハンディーを感じやすい」と指摘している。

 それによって劣等感が生じると、子ども自身が身の回りにあるさまざまなチャンスを放棄することがあるのだとも。いわば、知らず知らずのうちに植えつけられた劣等感が足枷になってしまうということだ。

 印象的なのは、著者が昔、アフリカのギニア出身の有名外国人タレントと貧困についてのトークイベントをした際、そのタレントから聞いたということばだ。

「僕は大人になるまで、自分が貧しいって思ったことなかったよ。周りがみんな大変だったから、それが当たり前だって思っていた。だから、つらいとか大変だったっていう記憶がないの。けど、日本はそうじゃないでしょ。子供の時から自分は貧乏だとか、頭が悪いとか植えつけられる。こんなのかわいそうだよ。僕だったら嫌になっちゃうもん」(99ページより)

 ここからもわかるように、充実しているかに見える日本の教育は絶対的な格差を生んでおり、それは子どもたちのメンタルにまで入り込んでしまっているのだ。

 
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  • 世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル (PHP文庫)石井 光太PHP研究所

筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。 1962年、東京都生まれ。 「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。 著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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