NobleとxMEMSが戦略的に提携、全てのイヤホンメーカーが関心を持つ「MEMSスピーカー」とは?
ASCII.jp / 2023年12月20日 10時0分
Noble AudioとxMEMSは、MEMSスピーカーの提供について戦略的パートナーシップを結んだと発表。これに合わせ、日本でもNoble Audioの輸入代理店エミライとxMEMS Japanによる合同プレスイベントが開催された。
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エミライはxMEMSのマイクロスピーカー「Cowell」を搭載した完全ワイヤレスイヤホン「FALCON MAX」を国内で取り扱う予定。発売日などの詳細は未定だが、実機は12月9日と10日開催の“ポタフェス2023冬 秋葉原”でも公開されている。
すべてのイヤホンメーカーが関心を持つMEMSスピーカー
xMEMS JapanのMark Wood(マーク・ウッド)副社長は、xMEMSの製品ロードマップと技術的優位性について解説した。Mark Wood氏自身は日本の顧客のみを担当しているため、他メーカーとの比較は難しいが、パートナーシップはワールドワイドのかなり緊密なものであり、xMEMSの米国チームが直接Noble Audioをサポートするという。なお、xMEMSは8月にCreative Technologyとも同種の契約を結んでおり、「Aurvana Ace」シリーズなどが登場している。
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また、今後ほかの日本メーカーからMEMSスピーカー搭載のイヤホンが登場するのかという質問については、直接的なコメントを控えた。一方で「どのメーカーも興味はあるはず」と、市場の雰囲気を感じさせる言葉もあった。
取り扱いしやすく、オーディオ性能も優れる
xMEMSや同社のMEMSスピーカーに関する説明は概ね過去の記事に準ずる内容。加えて、2024年のCESでデモを初披露する予定の新製品にも言及した。
MEMSは可動部分を持つシリコンチップのこと。これを空気振動に活用して音を出すのがMEMSスピーカーだ。xMEMSのマイクロスピーカーでは、電圧を掛けると変形する薄膜ピエゾをアクチュエータにして空気を振動させる仕組みになっている。
駆動にはバイアス電圧を掛ける必要があるため専用のアンプが必要だが、「Aptos」というチップ型のアンプも用意している。アンプはセットメーカーが独自に開発することもできるが、アンプの小型化や設計/製造の手間を掛けずに使えるよう基本的な要素をモジュール化して提供。これを使えば、完全ワイヤレスイヤホンなどの開発コストや開発期間を大きく短縮できるわけだ。
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製品としては、2020年に発表し、翌年夏から量産を開始した「Montara」が皮切り。2023年に入って、FALCON MAXも採用した「Cowell」や高音質IEM向けの「Montara Plus」の量産が始まった。詳細は未公開だが、「Cypress」という新製品も開発中だという。
このうちCowellは、主にハイブリッド型イヤホンの高域再生に適した小型のユニットでサイズは幅6×奥行き3.2×高さ1.15mm。BA型ドライバーと同程度のフットプリントで、高さは1/3に抑えている。BA型ドライバー1基でフルレンジをカバーするのは難しいが、Cowellは40kHzまでの帯域をカバーし、フルレンジでの使用も可能である。
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ただし、完全ワイヤレスイヤホンでアクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)機能を提供しようと思った場合、低域の音圧が出せるドライバーが必要になる。Cowellはコンパクトな反面、低域の感度が低いので、製品化する際にはダイナミック型ドライバーと組み合わせるメーカーが中心になりそうだ。Noble AudioのFALCON MAXも同様の構成になっている。
Montara Plusはフルレンジ再生に適したやや大型のユニットで、高音質の再生を訴求している。xMEMSはMontara Plusに向けた、より低ノイズのアンプ「Aptos2」も開発。200Hzで120dBと低域の感度もCorellより高い。ANC機能の実現にはより高い感度が求められる面もあるが、MEMSスピーカーのみで構成したハイエンドイヤホンが普及する際は、Montara Plusが採用されるケースが多くなりそうだ。
CES 2024で登場予定の新開発チップも
開発中のCypressは、超音波の振幅変調/復調技術を備えた新しいマイクロスピーカーで、開発のために25以上の特許を取得しているという。ポイントは低い周波数帯の感度が飛躍的に高まる点にある。20Hz~40kHzと非常に広い周波数帯域をカバーし、低域の感度は20Hzで140dB以上という数値。これはCowellの40倍に相当するとのこと。サイズは6.5×6.3×1.65mmとMontara Plusより小さく、9mm径のダイナミック型ドライバーと同程度だという。アンプと組み合わせたサンプルは2024年6月、量産は2025年の春ごろを予定している。
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MEMSスピーカーが期待されているのは、イヤホンで良く用いられるダイナミック型ドライバーやBA型ドライバーにはない利点を多く備えるからだ。
組み立て工程がなくウエハーから直接切り出したコアを金属ケースに収めるため、製造のバラツキが少なく小型であること。バイアス電圧を掛ける必要はあるが消費電力も低い。落としても壊れにくい耐久性を持ち、長期間使用して特性が変わらないなど高い信頼性を持っている。
Cowellは、IP58対応の防塵防水仕様でホコリや水に強く、高温、低温時の動作試験、落下試験などを経て出荷されている。こうした使い勝手の部分に加えて音質面でのメリットも持つ。周波数が変わっても、位相特性の変化がほぼゼロであり、インパルス応答に優れる。価格は高価格帯のBAドライバーと普及価格帯のBAドライバーの中間程度とのことだが、数が出回れば量産効果で安価にできる。
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このようにさまざまな可能性を秘めた新世代のドライバーがMEMSスピーカーであり、イヤホンはもちろんより小型のドライバーが求められるウェアラブルデバイスや、逆にMEMSスピーカーをスタックしたスピーカーなどさまざまな応用が考えられている。
なお、xMEMSはMEMSスピーカー以外にも、DynamicVentと呼ばれる、イヤホンのポート開閉に使うデバイスも開発している。「Skyline」は最初の製品で、MEMS技術とDSP制御を組みあわせ、周囲の環境に合わせてイヤホンのポートを開閉することが可能。静かな部屋では密閉感を高め音楽に集中、屋外ではポートを空けて外音を取り込み危険を察知できるようにするといった使いこなしが可能になる。また、ウェブ会議での通話で密閉感の高いイヤホンを使うと自分の声が聴きにくく違和感があるが、ポートを空けることで周囲の音や自分の声が自然に耳に入り、ストレスなく会話できるようになる。そのためのベントクローズ、ベントオープン、コンフォートモードを用意。効果としては100Hzで20dBほどの遮音性向上が望めるという。
音質にこだわるNobleがMEMSスピーカーを採用したわけ
Noble Audioは、多数のバランスド・アーマチュア(BA)型ドライバーを組み合わせたハイエンドイヤホンの開発に長けたブランドだ。BA型ドライバーを10基搭載した「Kaiser 10」(K10)などが特に有名だが、近年はダイナミック型ドライバーやピエゾドライバーを組み合わせたハイブリッド型イヤホンの開発でも成果を上げている。
転機になったのは2019年に発売した「KHAN」だ。複数の種類のドライバーを用い、その長所を組み合わせた積極的な音作りを開始した製品となる。FALCON MAXにおけるMEMSドライバーの採用は、こういった戦略の延長線上にあり、「BA型ドライバーに続く新しい高性能ドライバー」として期待を寄せていることの表れだそうだ。
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エミライの島幸太郎取締役によると、MEMSスピーカーの採用は「新しいドライバーを使った音作りへの挑戦」でもあるが、同時に良質なBA型ドライバーを安定して入手することが困難になりつつある現状を踏まえてのことだという。
ここ数年、半導体など電子機器に使う部品の調達が世界的に困難になっていた。BA型ドライバーの供給も例外ではなく、Noble Audioも注文から納品までの時間がかかるなど苦労していたようだ。
製造上のメリットもある。すでに述べたようにMEMSスピーカーはICチップなどと同じようにシリコンウエハーから切り出すため、組み立てが必要な他のドライバーと比べて品質のばらつきが少ない。組み立て工程が必要なBA型ドライバーは、どうしても生産上のばらつきが発生してしまうため、使用する際にはマッチング作業や選別作業が必要となる。また、Noble Audioの基準を満たさずに利用できないものも一定数出ていたという。
Noble Audioには、MEMSスピーカーを利用し、信頼性が高く、品質的にも均質化された“別の選択肢”を持っておきたいという考えがあったようだ。
島氏はNoble Audioのジム・モールトンCEOに誘われ、2023年1月にラスベガスで開催されたCESで、初めてMEMSスピーカーに触れたという。商談用に構えたMEMSのプライベートブースでその音を聴き、「いままでのイヤホン体験と一線を画するというと大げさだが、新しい音楽体験を実感できた」と感じたそうだ。加えて「xMEMSの開発陣は、いい音で聞きたいと考えるユーザーの感性やクライテリア(価値基準)をよく理解している」ことも印象的だったとする。
イベント会場などで聴いたFALCON MAXの音は確かにこれまでの完全ワイヤレスでは得られない音の可能性を感じさせるものだった。発売が楽しみな製品と言えるだろう。
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