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MEMSスピーカーの鮮烈な音を聴く、Noble Audioの「FALCON MAX」を先行レビュー

ASCII.jp / 2023年12月24日 9時0分

 12月9日と10日に開催された“ポタフェス2023冬 秋葉原”のレポート記事で、MEMSスピーカーを採用したNoble Audioの完全ワイヤレスイヤホン「FALCON MAX」が展示されたことを紹介した。12月19日には、輸入代理店のエミライとxMEMS Japanの合同プレスイベントも開催されている。その内容と試聴用のサンプル機のインプレッションを合わせて掲載する。

FALCON MAX
FALCON MAX

 エミライ 取締役の島幸太郎氏は、Noble AudioとxMEMS Japanのパートナーシップについて説明した。Noble AudioはBAドライバーを伝統的に採用してきたが、近年入手が困難になっているという問題の解決や技術的な行き詰まりを打開するために、2019年の「KHAN」を嚆矢に様々な種類のドライバーとその特性を活かす設計を模索し始めた。MEMSスピーカーの採用はその延長上にある戦略で、直接の契機は1月開催のCES 2023でxMEMS社のブースを訪問し、MEMSスピーカーの可能性を感じたことだという。

エミライの島氏
エミライの島氏

MEMSスピーカーの特徴

 xMEMS Japan 副社長のマーク・ウッド氏はMEMSスピーカーについて説明した。本連載では早い段階からMEMSスピーカーに着目して紹介を続けてきたが、インタビューを通じて詳細な話を聞かせてくれた人物である。

xMEMSのマーク・ウッド氏
xMEMSのマイクロスピーカー(MEMSドライバー)について解説するマーク・ウッド氏

 xMEMSは創業から6年ほどの新しい会社であり、MEMSスピーカー技術をイヤホンや補聴器などに活用することを目的とした企業だ。デバイスの製造はTSMCの工場に委託している。保有特許は130以上に及ぶとのこと。MEMSスピーカーは、8インチのシリコンウエハーから切り出される。製造方法は通常の半導体チップ(IC)と同じであるが、MEMSはデバイスの一部が機械的に稼働するのが特徴だ。いわばシリコンドライバーであるMEMSスピーカーは、この稼働部を空気振動に活用するデバイスである。

 MEMSスピーカーの振動部は、xMEMSの場合、シリコンの膜に薄膜のピエゾを重ねたものになっている。ピエゾは電圧をかけることで動作するので、これで空気を動かして音を出す仕組みだ。MEMSスピーカーは、ダイナミック型ドライバーなど、従来型のドライバーとは異なり、組み立ての工程がないため、製造時のばらつきが少なく、位相特性にも優れる。また、小型軽量なので、バランスド・アーマチュア(BA)型ドライバーと比較した厚さは1/3ほどである。レスポンスも従来型ドライバーと比べて100倍ほど速く、1万Gの力に耐える高い耐久性を持つ。また、長時間使用しても劣化が少ないという利点もあるそうだ。

 デメリットは、まだコストが高い点だが、これは生産規模によって変化していくだろう。もうひとつのデメリットは(特に低域の)感度だ。逆位相の波で騒音を打ち消すアクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)を実現するためには、騒音と同じだけの音圧を出す必要があるが、現状では十分ではない。完全ワイヤレスイヤホンでは、MEMSスピーカーを主にツィーターとして採用しているが、これはMEMSスピーカーの高域特性がいいということに加え、フルレンジに使うと、ANC機能が搭載できなくなるのが理由のようだ。言い換えると、ANCを持たない有線イヤホンではその問題がなくなる。過去に連載で紹介したSingularityの製品(ONI)などでは、MEMSスピーカーをフルレンジで使用しているとのことだ。

FALCON MAXとマーク・ウッド氏

 また、MEMSスピーカーを駆動するためには高い電圧が必要になるのも考慮が必要だ。「FALCON MAX」は、このためにxMEMSが提供するアンプ「Aptos」を搭載している。イヤホンに内蔵できるほど小型の昇圧アンプだ。

 プレゼンで興味深かったのは、デモ用に制作されたスピーカーだ。ツィーター部が、MEMSスピーカーを16個並べたスピーカーアレイになっている。MEMSは位相特性の均一性が高いので、こうした用途にも向いていると思われる。

FALCON MAXの特徴

 FALCON MAXは、Noble Audioの完全ワイヤレスイヤホン“FALCON”シリーズの最新作で、さまざまな最新技術を搭載しているのがポイントだ。MEMSスピーカーの搭載もその一つとなる。

 すでに述べたように、BA型ドライバーは納期遅れが目立つようになってきたとともに、品質のばらつきによるマッチングや選別も必要になる。製造品質にばらつきがないMEMSスピーカーには期待しているという。MEMSスピーカーは形式的にはピエゾ方式だが、Noble Audioはセラミック振動板を直接振幅させるピエゾ型ドライバーを採用した経験があり、その経験も開発に役立ったという。

 MEMSスピーカーは高域再生用のドライバーとして、xMEMSのマイクロスピーカー「Cowell」を使用している。Cowellは歪みが非常に少なく、ダイナミック型ドライバーの1/10程度、BA型ドライバーの1/30程度とのこと。左右の位相が揃っていてリンギングも少ないということだ。

Cowell(右中)とFALCON MAX、ドライバーの小ささが分かる。

 ダイナミックドライバーには新設計の10mm「Dual-Layered LCP Driver」が搭載されている。これは高い耐熱性と強度、内部損失性をもつポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とポリウレタン(PU)の複合素材に加え、高い弾性率と内部損失性を持つ液晶ポリマー(LCP)を採用することで振動板として理想的な特性が得られるドライバーだという。

 SoCはクアルコム最新の「QCC5171」を搭載、Noble Audio初となるLE Audio対応に加え、SoCが持つプログラマブルな機能を用いて、LDAC対応も果たしている。aptX AdaptiveとLDACに両対応した完全ワイヤレスイヤホンは世界初だという。このほかにもANC効果の強弱を周囲の環境に合わせて自動調整する「Adaptive ANC」に対応している。

 また、MEMSスピーカーの特性は、完全ワイヤレスイヤホンでポイントになる防水・防塵特性を得るためにも有効だという。

FALCON MAXの音を聴く

 FALCON MAXのサンプル機が提供されたので、十分にエージングして音を確かめた。

FALCON MAX

 装着感は良好だ。FALCON ANCは耳穴に軽くフィットするデザインだったが、FALCON MAXは耳の奥に入れるカナル型という昔ながらの方式なので、耳穴にしっかりとはまる。また、フォームタイプのイヤーピースが付属するが、これもよくフィットする。普段はLサイズを使うユーザーであれば、Mサイズでもいいだろう。大きすぎるイヤーピースは、全体に音が膨らむ傾向があるので、FALCON MAXのシャープな音を楽しむには小さめのイヤーピースを選んだほうがいいと思う。ANCはよく効く方だと思う。

FALCON MAX

 充電ケースはスリムでバッグに入れてもあまり邪魔にはならないサイズ感だ。ケースでの充電は3回までという製品が多い中で、イヤホン本体を4回充電できるバッテリー容量を持つので、長期の旅行で安心感があるかもしれない。

 音の特徴は、MEMSスピーカーを高域側に配したことによる中音域から高音域にかけての伸びの良さ、高音域がシャープでたれにくい(高音域が落ちない特性)点だ。これはアコースティックギターなど生楽器の音やハイハットの音の鮮明さでよく分かる。特に金属的な音の硬質感再現は特筆ものだろう。女性ヴォーカルでは声の明瞭感が高く、細かな音までしっかりと聞き取れる。たとえば声の掠れ具合や吐息の強さもかなり聞き取りやすい。

 ダイナミックドライバーの低音の質もかなりいい。パンチがあって緩みが少ない低音は、高音側のMEMSスピーカーの音によくマッチしている。全体に躍動感を感じるサウンドだ。

 オーディオグラスを皮切りに、MEMSスピーカー技術をフォローし始めてからだいぶ経つが、ようやくきちんとしたオーディオ製品が出てきたことは感慨深い。会場にはUSB-Cデジタル接続でMEMSスピーカー搭載の「XM-1」も展示されていた。軽く音を聞いたが、音の傾向自体はFALCON MAXと似ていたが、まだ情報があまりないので、別の機会に紹介したいと思う。

USB Type-C接続の「XM-1」

 xMEMSのプレゼンで紹介された、超音波を用いて低域の感度を上げる新開発のMEMSスピーカー「Cypress」は、ANC機能を搭載した完全ワイヤレスイヤホンのフルレンジドライバーとしても利用できるものだという。ただし、製品投入できるのは早くても2025年後半まで待つ必要があるようだ。MEMSスピーカー技術の今後についてもぜひ期待したい。

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