Macintosh発売40周年 コンピューターは一般家庭のリビングルームへやって来た
ASCII.jp / 2024年1月23日 8時0分
このところ、あちこちで関連記事やイベントの告知などを見かけるように、Macintoshというパーソナルコンピューターが発売されてから、この1月24日でちょうど40年となる。振り返ってみると、あっという間のことだったようにも感じられる半面、その間には実にいろいろなことがあったと感慨深く思い出されるのも確かだ。
現在、単純に市場にあるパソコンのシェアとして見てみれば、Macが特に大きな領域を占めているわけでもなく、世の中に対してさほどの影響力を持っているようには感じられないかもしれない。しかし冷静に考えてみれば、今の世の中に出回っているパソコンはもちろん、一般ユーザー向けの電子機器でも、Macの影響をまったく受けていないと言い切れるものは、実はほとんどないと言ってもいいのではないか。名前はMacintoshからMacに変わったものの、1つの系統の製品が、はっきりそれとわかる確かな痕跡を歴史に刻んできたことは間違いない。
本稿では、特にMacintoshの登場前とその後で、パーソナルコンピューターというものがどのように変わったのかということについて、世の中への影響も踏まえつつ考えてみることにしよう。
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大企業の研究室から一般家庭のリビングルームへ
1984年に登場したMacintoshは、小さな画面ながら完全なビットマップディスプレイを採用し、画期的なGUI(Graphical User Interface)を実現したパソコンだった。また、画面に表示した文字や画像を、ほとんどそのままのイメージで紙の上に印刷できる、いわゆるWYSIWYG(What You See Is What You Get)を実現していたことも忘れてはならない。
このようなMacに特徴的な機能を最初に実現したのが、もしMacそのものだったのであれば話は単純だ。
しかし、残念ながら実際はそうではない。こうしたものをMacが初めて実現したかのように書くと、いや本格的なGUIを採用したパソコンはLisaが最初だとか、それより前にXeroxのAltoやStarといったワークステーションがあったからこそ、アップルがそれらをパソコンで実現できたのだ、といった反論が聞こえてくるのは必至だろう。いやいやそもそもGUIに不可欠なマウスを発明したのは、スタンフォード研究所のエンゲルバートだし、GUIを最初に実現したのはサザランドの作ったSketchpadだろうといった話までさかのぼりたくなる人もいるかもしれない。さらにはGUIの元祖はアメリカ空軍の防空管制システムにあるという話も出てきそうで、とりとめがなくなってしまう。
ここで取り上げたいのは、そのような研究レベルものや一般のユーザーには手の届かない、企業ユーザーを対象にした高額なシステムの話ではない。家電品としては高価な部類に入るとしても、自動車ほどの金額を積まなくても入手できる範囲のパーソナルコンピューターに限った話だ。
そして、そうした歴史に名を残すような研究室や実験室の中でのみ実現されていたもの、高額で大規模なシステムでのみ可能だったことを、誰もが一般家庭のダイニングテーブルの上でできるようにしたことこそ、Macの最大の功績だったと言えるのではないだろうか。
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理系の実験装置から文系の文房具へ
それとはまったく異なるレベルの話になるが、一般家庭内での個人用コンピューターの位置づけというものも、Macの登場を機に大きく変わった。
Macの登場以前に「パソコン」あるいは、もっと普通に「マイコン」と呼ばれていたものは、どちらかというとアマチュア無線など、いわゆる「機械いじり」が好きな人がこぞって使うような、実験的な装置という印象の強いものだった。ゲーム専用機が普及する前には、テレビゲームという用途があったのも確かだが、それを含めても機械類に強い、いわば理系の人だけが使える高級なおもちゃ的な位置づけのものとみなされていた。
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それを大きく変えたのもMacだった。それが紛れもない事実であることは、1984年に発売された初代の製品に付属していた2本のアプリケーションが雄弁に物語っている。1つは「MacPaint」、もう1つは「MacWrite」だ。
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MacPaintは、いわゆるお絵描きソフトの元祖的なものであるだけでなく、GUIを本格的に活用したパソコン用アプリケーションのお手本とも言えるような重要な存在だ。ユーザーインターフェースの面でも機能の面でも、画期的としか言いようのないものを多く備えていた。そのような特徴は、アップル社の後継ソフトよりも、むしろ他社のあるいは他機種用の多くのアプリケーションに引き継がれて現在にいたっている。MacPaintから多大な影響を受けて開発されたアプリケーションの代表格としては、Adobe Photoshopがある。
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MacWriteはいわゆるワープロソフトで、今見ると何の変哲もないもののように思えるかもしれない。しかし当時としては、WYSIWYGを実現していたことだけでも、パソコン用として画期的だった。ここで言うWYSIWYGとは、作成中の文書に含まれる文字の書体やサイズの変更を指示すれば、それが画面上での書体やサイズの変化としてその場で確認でき、ページ内にどのように配置されるかも、ただちに画面に反映されるというもの。そして、それをプリンターに出力すれば、画面に表示しているのとまったく同じイメージの印刷物が得られる、といった一連の機能のことだ。
そんなことは当たり前だろうと思うかもしれないが、パソコンクラスでそれを実現したのは、Macの前にはLisaくらいしかなかった。パソコンではないが、Xerox社のStarという製品もあった。これは業務用の大掛かりなシステムであり、一般のユーザーが手を出せるような代物ではなかった。Starは、当時としては巨大な17インチのディスプレイを備え、まだまだ珍しかったレーザープリンターを使ってWYSIWYGを実現していた。それに近いことを、たった9インチのディスプレイを装備したMacが、安価なドットインパクトプリンター、Image Writerによって家庭内で実用できるようにしたのだから、そのインパクトは大きかった。
これら2つのアプリケーションを利用して、画像とテキストという紙の媒体はもちろん、現在のウェブにおいてすら主要な2種類の情報を、自在に操って文書を作成できるようになった。それによって、手紙やメモのようなものから、レポート、論文のような文書まで、コンピューターの知識なしに簡単に作成できるようになった。簡単に言えば、Macがパソコンを文系のユーザーに開放したのだ。
当時はまだDTP(Desktop Publishing)という概念すらなかったが、その種は初代Macの登場時に早くも蒔かれていたことになる。
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未完成なキットから完成した製品へ
最後に3つめとして、パソコンというカテゴリーの製品の形態に対してMacが与えた影響を挙げておこう。それは、むしろ未完成であることをウリにする「××キット」のようなものをベースとするものから、箱から出せば、完全な状態すぐに使える完成度の高いものへと、パソコンという製品を格上げしたことだ。
アップル社のMac以前の主力製品であったApple IIでさえ、フロッピードライブやプリンターを接続したり、メモリを増設したりするための拡張カードを必要に応じて内部に増設して使うのが当たり前という形態の製品からスタートした。一般的なインターフェース類は、徐々に標準装備となっていったものの、拡張スロットを利用してカスタマイズして使うのは、むしろ当然と考えられていた。それは、他社の主力製品でも似たようなものだった。
ところがMacは、ユーザーによる本体のカスタマイズや内部の増設など、いっさい許さないという姿勢を前面に打ち出した。容易には内部にアクセスできないよう、特殊な工具を使わないと分解できないような措置が取られていたことが、それを象徴している。
それには、やはり初代Macの製品開発の指揮を取ったスティーブ・ジョブズの意向が大きく反映されている。Mac発売後にジョブズがアップルを離れると、同社の製品はまた拡張性を重視するような方向に舵を切った。そしてジョブズが復帰後は、再びアンタッチャブルな完成度を追求する方向に向かったのは、Mac以外のさまざまなアップル製品を見れば明らかだろう。
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筆者紹介――柴田文彦 自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。
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