アップルついに他社ストア容認「EU規制対応」日本への影響は?(西田宗千佳)
ASCII.jp / 2024年1月29日 8時0分
野良アプリは許さず「他社ストア容認」で手打ちか
アップルが、EU圏におけるDMA(デジタル市場法)対策のため、App Storeの運営ルールなどに変更を加える。変更はあくまでEU向けだが、日本も似た規制を求めており、影響は避けられない。
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中心となるのは「外部アプリストアの開設を容認し、そこからアプリの取得を可能とする」こと、「Safari以外のウェブブラウザーを標準設定可能にする」こと、そして「Apple Pay以外を非接触決済の標準設定にできること」だ。
中でもやはり影響が大きいのは「外部アプリストアの開設を容認し、そこからアプリの取得を可能とする」ことだろう。
俗にいうサイドローディングだが、ストアなしでインストール可能にするいわゆる「野良アプリ」を容認するものではない。あくまで「他企業が運営するアプリストアからのアプリインストールを認める」という形だ。
結果としてアプリ決済の自由度は上がる。アップルの決済や審査システムを使いたいくない事業者は、独自のストアを経由することで関与を最小限にとどめられる。
アップルはこの流れを良いと思っているわけではない。厳密に言うなら、他ストアを使った仕組みであっても、App Storeの管理体制を離れてアプリが使われることはセキュリティの低下につながる。
意見を変えないEUとの間での落としどころとして、「野良アプリは認めず他ストア経由で」という選択になったであろうことは想像に難くない。アップルは認めたくなかったろうが、現実解の1つではある。
巧みな施策の組み合わせで 「外部ストア拡大」を阻止するアップル
一方、他社ストアを使った場合であっても、年間にアプリのインストールが100万回を超える場合には、「コアテクノロジー利用料」として毎回0.5ユーロ(約80円)を徴収する。
この点については、Epic Gamesなどが「アップルが関わらないのに料金徴収するのはおかしい」と反論している。それももちろん一理ある。一方、OSなどの維持コストを考えた時、アップルが一定額を徴収したいと考えるのもわかるのだ。
同時に、アップルはEUでのApp Store利用手数料を下げ、10〜17%とする。さらに、アップル自体の決済を使う場合には、プラス3%が必要になる。おそらくアプリを流通させる企業の側としては、この施策で「減額もしくは横ばい」になるところがほとんどだろう。
これら2つの施策を用意したのは、アプリデベロッパーに対し「少しでも料金を徴収したい」ということよりも、「よほど強い主張があるのでなければ、従来通りApp Storeを利用した方が良い」という言外のアピールなのだろう。
外部アプリストアを運営するには、相応の経済的なメリットが必要になる。しかしコストと手間を考えると、自ら大規模にゲームを配信して収益を回収する事業者くらいしか、大きなメリットが出てこない。
おそらくは、決済のみ外部決済へ切り替える事業者の方が多く、アプリ流通の軸としてはApp Storeがそのまま使われるのではないだろうか。Androidでの流れを見ても、その形で落ち着きそうな予感がする。
影響がありそうな部分ももちろんある。
アップルがコンテンツの審査に関わらなくなるため、外部アプリストアはコンテンツの内容がより自由になる。App Storeの審査基準とその国の文化のアンマッチという意味では、EU圏よりもアジア圏、特に日本の方がトラブルは多い。仮に日本で似た施策が展開されるとするなら、この点が1つ重要な論点になるかもしれない。
「クラウドゲーミング」「ミニアプリ」開放も大きな影響あり
ただ個人的に見るなら、EU圏向けのルール改正と同等以上の影響がありそうな変化が同時に起きたことも見逃せない。
それは「全世界のApp Storeで、ストリーミング・ゲームやミニアプリ、チャットボットなどの提供を認める」というルール改正だ。
これまでアップルは、「アプリ内で別のアプリ動作環境が生まれる」ことを良しとしてこなかった。Xbox Cloud GamingやGeForce NOWのようなクラウドゲーミングアプリが認められてこなかったのもそのためだ。
だが話はそれだけにとどまらない。
アプリ内で「ミニアプリ」「チャットボット」などを提供する場合、それを発見しやすくし、サブスクリプションなどの提供も可能になる。
そうすると、「アプリ内にミニゲームのマーケットプレイスを作る」ことや「チャットボットによる複雑な処理系」をウリとしたアプリ・サービスの構築が容易になる。結果として、いわゆる「スーパーアプリ」や「ミニゲームアプリ」などのビジネスを活性化しやすくなる。
ここに「外部決済可能」という要素が加われば、「App Store経済圏を守りつつ、ビジネスの自由度を上げる」ことが可能になってくる。
これもまた、外部ストアへ流れる事業者を減らす策の1つだろうし、それがEU規制対応の前に全世界(すなわち日本も含まれる)でオープンになるのは、なかなか象徴的なことだという印象を受けているのだが、どうだろうか。
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筆者紹介――西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、書籍も多数執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略」(SBクリエイティブ)、「ネットフリックスの時代」(講談社)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)などがある。
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