【自腹レポ】アップル「Vision Pro」をハワイで買った。その美点と価値はどこにあるのか(西田宗千佳)
ASCII.jp / 2024年2月5日 8時0分
アップルが開発した初の空間コンピューター「Apple Vision Pro」を、ハワイで購入してきた。
予約までの諸々はすでに「約50万円のアップル「Vision Pro」予約にいたった経緯を解説する」と題した記事を掲載しているが、その時から諸々変化もあって、今は実際にモノを手にしている。
ハワイで実機を手にするまでの経緯と実機写真、そしてファーストインプレッションをお届けしよう。
急遽ハワイへ飛んで発売日にゲット
前回解説した時には、品物は在米の友人宅に送り、そのあと日本に送ってもらう予定でいた。
だがその後、「西田さん、ハワイならまだ2月2日に受け取れそうですよ」という悪魔の誘いが、同じく購入を予定しているライターの石川 温さんから聞こえてくる。
発売日当日に手に入って、しかも現地でテストできるならそれに越したことはない。そして、旅の道連れがいるというのも心強い。
というわけで、予約をハワイ・ホノルルのカハラにあるApple Store Kahalaでの受け取りにかえ、元々のものはキャンセルした。
石川さんの受け取り予約は、同じホノルルのアラモアナ・センター内のApple Store Ala Moana。まずは朝の開店を取材し、その後に彼の受け取りを見て、さらに1時間後にカハラで自分の分を受け取り……という算段だったのだ。
ただ、実際には変わった。
「Vision Proは売り切れなので予約していないと買えない」という前提だったのだが、店頭在庫がけっこうあったようで、店員からは「だったらここでフィッティングして買う? カハラの予約はキャンセルできるよ」と言われたのだ。
というわけでさらに予定が変わり、日本でした予約はキャンセル。Ala Moanaで現物を買うことになった。移動時間と移動の費用を節約できて、こちらとしては助かった。
結果としてだが、友人知人の多くが「店舗在庫に切り替えて受け取りを前倒し」にするテクニックを使い、素早く受け取ることができた次第である。
箱が大きい理由、付属品が多い理由
さて、パッケージを開けてみよう。Vision Proは「箱がでかい」と言われる。
実際箱は大きく重いのだが、これは「紙素材だけで、Vision Proをしっかり梱包する」ためのものだろう。紙梱包がかなり固く、頑丈に作られている。同梱物と梱包がかなり近い重さになっていて、実質的に倍くらい重く、大きい感じはする。
実機はそこまで簡単に壊れそうなものでもないが、表面がガラスなので気は使う。標準でカバーも付いてくるくらいだ。「出荷時の破損対策」という意味でも、しっかりとした箱を作ったのではないだろうか。
中には本体の他、追加のヘッドバンドとなる「Dual Loop Band」、バッテリーとケーブルにUSB Type-C(30W)の充電器が付いてくる。標準で使うSolo Knit BandとLight Sealは、顔のサイズにあったものが「ついた状態」で受け渡される。購入者にあったバンドとシールをバックヤードで本体にセットし、その上でパッケージしているようだ。
Vision Proは非常に精度の高い視線認識を特徴としている。そのため、視度調整や目とレンズの距離などをかなり厳密に管理する。さらに、できる限り快適な使い心地を目指すためにも、「顔や頭がどういう形状なのか」を知っておく必要がある。
というわけで、オンライン予約でも店舗での引き取りでも、Solo Knit BandやLight Sealのサイズはおすすめのものが選ばれる形になっているのだ。
「空間を作業領域として使うOS」を持つ美点とは
セッティングの細かい説明よりも、やはり「使い勝手」を話したほうがいいと思う。なにより、圧倒的に画質がいい。
解像度が高い、発色がいいということもあるが、画像処理の高さもあり、ビデオシースルーの様子がかなり自然なものになっている。
「ああ、他のHMD(Head Mounted Display)よりもきれいなのか」そんな風に思うかもしれない。だが、それはある意味本質ではない。
画質が良いのは自然さを演出するためだ。Vision Proはビデオシースルーを使い、周囲の状況を把握しながら仕事をしたり、エンターテインメントを楽しんだりする機器だ。いままで我々は、一般的なPCやスマートフォンをディスプレイとセットにして使ってきた。「画面の中身が枠の中にある」という当然の制約はあるものの、そのことを不自然とは思ってこなかったはずだ。
だが、Vision Proでは、空間全体にアプリケーションやデータを配置できる。「ウインドウ」という四角い窓に区切られているが、その大きさや縦横比は自由に変えられるし、前後関係も自由自在だ。
そうした姿は他のHMDでも試みられてきた方法論ではあるが、技術的な制約に縛られてもいた。あるものは解像度が低くて文字が見づらく、あるものはビデオシースルーがモノクロであり、あるものはビデオシースルーの奥行き補正に制限があって、像が大きく歪んだりする。そうした姿は不自然であり、使い勝手を削ぐ要因となっていた。
だがVision Proは、それらの制約のいくつかを取り払い、かなり満足のできるレベルへと引き上げている。
解像度は高く発色も良好。ビデオシースルーの画質も多少解像感で劣るものの、現実にかなり近い。なにより、像に不自然な歪みがほとんどなく、奥行きの推定もかなり正確なので、Vision Proをかぶったまま生活できる。スマホやPCの画面を「かぶったまま」確認することも容易だ。以前なら「なんとか文字は読める」「映像は時に大きく歪む」といったハンデを背負っていたが、Vision Proでは問題ない。
すなわち「できるだけつけたまま生活する」ことが視野に入るHMDとして、Vision Proはようやく合格点を出せる製品になっている、と言えるだろう。
なにより、「PCやスマホでやっていたこと」が、ほぼそのままできるのがすごい。
例えば、ビデオ会議へのリンクを作り、それをメッセージングアプリで知り合いに送り、会議を始める……ということは、PCなら造作もない。
一方でいわゆるVR機器の場合、「画面が大きくなる」「アバターでコミュニケーションが取れる」という進化はあっても、それ以外の体験はマイナスになっていた。
ではVision Proはどうか? 現状「日本語が使えない」という欠点はあるものの、PCと同じような作業ができるし、さらに「ウインドウの大きさや配置数が自由」「Personaというアバターでちゃんと対話できる」といったメリットが追加される。
空間を作業領域として使うOSをちゃんと作り、それに必要なハードウェアを搭載していることこそが、Vision Proの美点である。
課題はあれど大きく確かな未来への一歩
もちろん課題は多々ある。
一番わかりやすいのは「重い」ということだろう。本体は600gあって、さらに別にバッテリーが353gとなっている。まとめて持つとノートPC並みの重量だ。
少し暗いところではビデオシースルーの画質が落ち、解像感も失われがちになる。視線認識による操作は極めて正確だが、それでも不安定な状態になることがある。
なにより、現状はアメリカ版のみであり、日本のApp Storeが使えない。それでいて3500ドル(およそ51万9300円)という高価さ。多くの人にはあまりに大きなハードルだろう。
だが、使えないほど重いわけではないし、画質も悪くはない。ツッコミは入れられるが、Vision Proがもたらしている「空間全部をディスプレイにする」という価値を無意味にするほどではない。
今後いかに軽くするか、快適にするかというチャレンジはあるし、もっと安くなってもらわなければ困る。だが、アップルが目指している「PCやスマホでできることを、別のベクトルでもっとリッチに」という狙いが、着実かつ確実に進んでいることは間違いない。
筆者紹介――西田 宗千佳 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、書籍も多数執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「生成AIの核心:「新しい知」といかに向き合うか」(NHK出版)、「メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略」(SBクリエイティブ)、「ネットフリックスの時代」(講談社)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)などがある。
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