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パナソニック、ビルをスマート化する「ビルOS」開発へ “ビル版App Store”を目指すオープンプラットフォームに

ASCII.jp / 2024年2月13日 7時0分

 私たちの生活や仕事がスマート化するなか、ビルもまたスマート化しています。パナソニック エレクトリックワークスと福岡地所は2月9日、ビルをスマート化させる「次世代オープンビルプラットフォーム(ビルOS)」の実証実験を始めたと発表。ビルの設備から得られるデータを使ったアプリやサービスを開発・配信しやすくする、「ビル版App Store」のような仕組みづくりも目指します。パナソニックの取材協力を得て、福岡の現地を取材しました。

福岡のビル、OS入れてスマートビルに

 実証実験の場所に選ばれたのは天神ビジネスセンター。いま天神で進められている大規模な再開発計画「天神ビッグバン」の規制緩和第一号案件です。ボストン コンサルティングやグーグルがオフィスを構える最先端の高層ビルですが、もともとスマートビルとして設計されたわけではありません。それでも竣工後もサービス水準を維持し続けられる建物にしたいという思いがあったことから、ビルOSの仕組みにより“後付け”でスマート化を進めていくことになりました。

カッティングエッジなデザインの天神ビジネスセンター

 パナソニックが開発を進めるビルOSは、ビルの照明や空調など、様々な設備から取得したデータのアップロード先となるプラットフォームのこと。

 これまでのビル管理システムは建物ごと、設備ごとにシステム構成が完結してしまっていたため、新たな設備の更新・追加が困難でした。もし設備のデータがオンラインで1ヵ所にまとめられていれば、開発者はAPIでデータを取得し、複数の設備を連携させたアプリを簡単に作れるようになります。

アプリ開発者は「ビルOS」にアップロードされたデータをAPIで取得できる

 ビルOSではアプリを利用者向けに配信する「ビル版App Store」のような仕組みも想定。ビルのオーナーやテナント企業は好きなアプリをダウンロードして、ビルの高度な運用ができるというものです。スマートビルではオフィスの人流データを取得して会議室の利用状況を見える化するといった事例がありますが、ビルOSはこうしたスマート機能を“後付け”で可能にする仕組みと言えます。

 天神ビジネスセンターで実施する実証実験の目的は、こうしたスマート機能の追加により、ビル管理者の業務効率が良くなるか確かめること。具体的には、業務用エレベーターの稼働状況とビルの清掃スタッフの動線を見える化したうえ、そこから改善すべき課題を見つけるという内容になっています。

 技術的には、清掃スタッフと業務エレベーターそれぞれに取りつけた小型ビーコンが発信する信号を、ゲートウェイと呼ばれる装置で取得し、データとしてビルOSにアップロード。次に、アプリ側がAPI経由でビルOSからデータを取得し、グラフやヒートマップなどの形で可視化。建物管理者が可視化された情報のなかから解決すべき課題を見つけるという流れです。

業務用エレベーター
エレベーターの壁にテープで固定した小型ビーコン
清掃スタッフのパスケースにつけた小型ビーコン
ビーコンの信号を取得するゲートウェイ
業務用エレベーターの稼働状況を示したグラフ
同じくヒートマップ。数値は稼働状況を独自指標で評価したもの

 実証期間は2023年12月1日から始められ、2024年3月31日まで継続。その後は2026年度の実装に向けて実証実験やアプリコンテストなどを実施予定です。

 なお今回は建物管理者向けということで清掃員がデータ取得の対象となりましたが、今後はテナント企業の従業員などにも対象を広げていきたいということ。データをアップロードできる設備なども増やし、たとえばオフィスの受付から会議室までの案内を一元化できるサービス、ビル内に入っているレストランの予約を取れるアプリなどを開発できるようにしたいという展望を持っているそうです。

セキュリティゲートから会議室までを案内できるアプリが実現するかも
レストランの席予約ができるアプリも実現するかも

スマートビルを“オープン”にする

 これから本格的に開発が進められるビルOSは、オープンな設計を目指しているのが特徴です。

 いま建設業界では、ゼネコンを初めとして、通信キャリアやメーカーなど様々な業者がビルOSのようなシステムを開発しています。しかし、システム同士の相互運用性に乏しい閉鎖的な仕組みだった場合、利用者は特定のシステムに縛られる形になってしまいます。その場合、複数のビルで同じアプリを使おうとしても、互換性の問題から難しくなってしまうかもしれません。将来的にシステムの提供が終了した際に、乗り換えが難しくなってしまうことも考えられます。

 デジタル業界でたびたび起きる“乱立あるある”問題を避けるため、ビルOSではどんなシステムとも連携できる、オープンなビルOSの設計を目指しています。そのためパナソニックとして進めているのはスマートビル標準規格の策定。IPAが2023年4月に策定したスマートビルガイドラインとも連携しながら、業界全体で盛り上げていけるような形を目指したいとしています。

 ビルOSの発起人のひとりであり、福岡地所のアドバイザーであるIBM出身の荒井真成氏も、オープン設計の重要性を強調。スマートビル間の互換性を保つため、異なるシステム向けに開発されたアプリを簡単に移植できるようにする開発支援ツールのような仕組みが必要になるという主旨の話もしていました。

ビルOSの発起人のひとりであり、福岡地所のアドバイザーである荒井真成氏

 さらに荒井氏は、スマートビルのビジネスモデルそのものについても言及しています。

 一般的にスマートビルはシステム導入時のコストが高くなりがちで、億円単位ということも珍しくありません。しかしそれでは利用者が限られてしまうため、ビルOSでは導入コストを限りなく下げ、アプリ提供側と収益をシェアすることをビジネスモデルとする、いわゆるリカーリング型のモデルを考えなければならないとも話します。「基本無料」でスケーラビリティを高めて成長してきたIT企業のビジネスモデルをスマートビルにもあてはめたい考えです。

パナソニック 業界標準作れるか

 いま、少子化に伴う人手不足、リモートワークの普及などにより、ビルに求められる機能は高度化してきています。今後、ロボットやセルフサービスタイプの自動化された情報設備が増えるに連れ、設備同士をデータ単位で連携させるスマートビルの重要性はさらに増していくことになるでしょう。様々なプレイヤーがスマートビルのパイを狙うなか、パナソニックはオープン戦略で切り込んできた格好ですが、果たしてビルOSは業界標準となれるでしょうか。

 

書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ。6歳児と2歳児の保護者です。Facebookでおたより募集中。

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