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プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史

ASCII.jp / 2024年2月19日 12時0分

 消え去ったI/F史の2回目はセントロニクスI/Fの話だが、その前に前回のお詫びを。RS-232-Cポートですとかキャプション付けて25ピンのセントロニクスポートの写真を堂々と掲載したのは純粋に筆者のミスです(現在は訂正済み)。

 36ピンのMicro Ribbonの方は覚えていた(なにしろPC-98シリーズでさんざん使ってきた)のですが、D-Sub 25ピンはDOS/Vマシンに移行してからで、ところがその頃にはプリンターはLAN接続にしてた関係で使ってなかったため、キレイさっぱり失念していました。ということで間違った写真を掲載して申し訳ありませんでした。

自社プリンター用に誕生した セントロニクスI/F

 ということで今週はそのプリンター向けポート。正式名称はIEEE-1284ポートになるわけだが、業界ではセントロニクスI/Fなんて呼び方もされていた(以後本稿ではセントロニクスI/Fで統一する)。

 なぜか? というと、この規格はもともとCentronics Data Computer Corporationというメーカーが自社のプリンター用に利用していた規格が広く使われるようになり、IEEEで後追いで業界標準規格に制定されたからだ。それもあって社名を取ってセントロニクスI/Fと呼ばれることが多かった。

 そのCentronics Data Computerは1970年に、これまた有名なCentronics 101というドットインパクトプリンターをリリースする。

Centronics 101のマニュアル表紙より。ちなみに幅70cm、高さ29cm、奥行き49cmと結構大きく、重量は53.5Kgであった。業務用である

 なにしろ1970年なのでまだマイコンもない時代の話で、ミニコンなどに接続して利用していたわけだ。ちなみにドットインパクトプリンター、というものがご理解いただけないかもしれないので簡単に説明しておくと、構造そのものは下の画像にある構造で、縦に7つのスチールワイヤー(説明ではPrint Wire)が並んでいる。右側の図の"A"と書かれた部分だ。ワイヤーの端にはソレノイドコイルがつながっている格好だ。

このPrint Head Jewelとそれにつながるソレノイド類が結構な速度で左右に移動しながら印刷するため、振動(数kgのヘッドが毎秒1回ほどの速度で左右に移動するのだからすさまじい)や騒音(ソレノイドの音とヘッドを左右に移動するモーター、それと紙送りのモーターと、騒音源はたくさんあった)はすさまじかった

 ワイヤーの端にはソレノイドコイルがつながっている格好だ。例えば"B"という文字を印字したい場合、以下のように印字にすれば"B"と認識される。

**** *   * *   * **** *   * *   * ****

 そこでプリントヘッド(上の画像左側の"Print Head Jewelと書かれている部分)は左から右に移動しながら、"*"にあたる部分が来たらソレノイドを使ってスチールワイヤーを押し出し、" "の部分は逆にスチールワイヤーを手元に引っ張る。

 スチールワイヤーと紙の間には(上の画像にはないが)インクリボンが挟まっており、スチールワイヤーが押し出されるとインクリボンが押されて紙に"*"が印刷される。縦一列を印刷したら、少しだけ右に移動しても今度は2列目を縦方向に印字、次いで3列目、という具合に5回移動しながら印刷することで、"B"という文字が完成する格好になる。

 1文字分の印刷が終わったら、また1列分だけ横に移動して2文字目を印刷し始めることになる。この調子で最大132桁の印刷が可能であった。ちなみに当然ながら当時のことだから英数字と一部の記号くらいにしか対応していないし、まだグラフィックの印刷も考慮されていない。

 このあたりはその後、PCの広範な普及や多国語対応などにより次第に変わっていく。多国語対応しようとすると縦方向に8本が最低限必要になるし(例えばフランス語のアクサンテギュ"É"の印刷など)、漢字では縦方向16bit欲しいことになる。あるいはカラーリボンを使えば多色印刷も可能になるわけで、こうした対応でどんどん複雑化・高機能化していくわけだが、それは今回の本題ではないので割愛する。

高速なプリンターはRS-232-Cでは転送速度が足りず セントロニクスI/Fが業界標準に

 さて、このCentronics 101は平均132キャラクター/秒、最大で165キャラクター/秒での印刷が可能であった。幸いというか、Centronics 101は内部にコントローラーを搭載しており、"B"という文字を印刷するのに先ほど示したビットマップを送らなくても"B"の文字コードを送れば、プリンター内部でこれをビットマップに展開して印刷する機能を持っていたが、それでも平均132キャラクター/秒、最大165キャラクター/秒の転送が必要になる。

 当時のことなのでまだ7bit/キャラクターであるが、必要な転送速度は最大でも924bps程度。したがってシリアルでも十分間に合うし、実際Centronics 101はオプションでRS-232-Cに対応(最大9600bpsまでサポート)していた。それにもかかわらずRS-232-Cが標準ではなかったのは、もっと高速なプリンターがすでに存在していたからだ。

 ラインプリンター(1行分をまとめて印刷する方式:Centronics 101も、基本は一行分のデータを受け取ってから印刷を開始するのでラインプリンターとも分類される)の中でも、印刷桁分の印刷ユニットをドラムの形で搭載し、極めて迅速に印刷が可能なものがすでに存在していた。

 例えばIBMが1959年に発表したIBM 1403プリンターは1行あたり132桁の印字が可能だが、初期モデル(Model 1/2)では毎分600行、後期モデル(Model N1)では毎分1100行に達している。初期モデルですら毎秒1320文字=9240bps、後期モデルでは16940bpsの転送速度が必要だった。

 ちなみにこのIBM 1403は高速な部類ではあるが、最高速ではなく、世の中にはもっと高速なプリンターが存在した。こうなってくるとシリアルでつなぐのがそもそもナンセンス、パラレルでいいと当然なってくる。Centronics自身も、創業は1971年(つまりCentronics 101の発表後)であるが、元はWang Laboratoriesというワープロの元祖である会社の印刷装置部門が分社化・独立したものであり、業務用にもっと高速なプリンターを扱っていた。

 この際に利用されていたのが8bitのパラレルI/Fで、Centronics 101でもこれをそのまま採用し、それが業界標準になった格好だ。

 バス構造は簡単で、nStrobe(クロック信号:このnStrobeの立ち上がりに合わせてデータの送受信が行なわれる)とData 1~8(8bitのデータ信号)、それと制御信号(nAck/Busy/Perroe/Select/nAutoFd/nInit/nFault/nSelectIn)から構成される。

これはDSub 25ピンコネクター同士での接続図だが、他のコネクターでも信号線の数は「基本」変わらない(例外は若干あり)

 すべてツイストペアになっているのは、配線をけっこう引き回す際のノイズ対策を考えてのことだ。なにしろプリンターはうるさかったので、しばしば扉の閉まる別の部屋に置かれたりした。試しにAmazonで調べたらまだ15mの製品が売っていたが、昔はもっと長いプリンタケーブルもあったように記憶している。こうした長い距離を引っ張りまわすとなると、ツイストペアの上に外部シールドくらいしないと問題が起きやすかったということだ。

 ケーブルのコネクターだが、Centronics 101に搭載されているコネクターが下の画像である。これはプリンター側の仕様であって、ホスト側がどうなっているかはミニコンメーカー次第という感じだったが、後追いのプリンターメーカーやコンピューターメーカーもこのコネクターとI/Fを利用するようになったことで、これが結果的に業界標準化したという格好である。

一般名称はアンフェノール36Pコネクター/レセプタクルだが、あまりにもプリンター用途で使われ過ぎたためか、セントロニクスコネクターで通用してしまっている

 ちなみにCentronics自身は1987年にGenicom(General Electricのプリンター部門などが独立した会社)に買収され、そのGenicomは2003年に同じくプリンターメーカーのTallyと合併してTallyGenicomとなり、そのTallyGenicomは2009年にプリンターサプライメーカーのPrintronicxに買収されている。その意味ではまだCentronicsがなくなったわけではないのだろうが、そうしたCentronicsの運命とは別にセントロニクスI/Fは業界標準となりさらに拡張された。

 セントロニクスのもともとのI/Fは単方向の送信である。nStrobeとData 1~8はホスト→プリンターに、Ack/Busy/Paper Emptyはプリンター→ホストに転送する仕組みで、逆方向の転送は考えられていなかった。転送速度も理論上で100KB/秒、実質10KB/秒程度でしかなかった。

 ところが1991年になると、業界15社(Adaptec、キヤノン、Digital Products、Extended Systems、GENICOM、IBM、KODAK、京セラ、NEC、沖データ、Pennant Systems、QMS、Tektronix、Unisys)によりNetwork Printing Allianceという業界団体が策定され、ここがセントロニクスI/Fをベースにした標準規格を策定する。これは最終的にIEEE 1284-1994として標準化された。

 このIEEE 1284-1994では、新たにNibble Mode/Byte Mode/ECP Mode/EPP Modeという4つの転送モードが追加された。Nibble Modeは1992年にHPが自社プリンター向けにセントロニクスI/Fを自社で拡張したBitronicsと呼ばれる仕様を取り込んだもので、制御信号線を使って4bitのデータを送信できる仕組みである。これは拡張プリンターステータスの取得などを目的としている。

 Byte ModeはData 1~8を使ってホスト→プリンターに転送するのでこれだけでは従来のセントロニクスI/Fとなにが違うのかわからないが、PS/2で追加されたDMA転送に対応して連続的にデータを送り出せる仕組みが搭載された。

 EPP(Enhanced Parallel Port)はデータ通信が双方向(ただし半二重)に拡張され、プリンター以外のデバイスの利用が可能になっている。その昔(確か1996年ごろ)には、カノープスがV-Portという静止画ビデオキャプチャー製品を発売したことがある。これはプリンターポートに接続して、最大1500×1125ピクセルの画面キャプチャーが可能(画像入力はRCAとS端子)というものだった。

 このEPPにRLE(Run Length Encoding)という可逆圧縮技法を組み合わせて転送速度を向上させたのがECP(Extended Capability Port)で、EPPが最大2MB/秒の転送速度だったのにECPでは最大2.5MB/秒まで向上している。

 ちなみにこの4つの転送モードはIEEE 1284 Modeと呼ばれており、これとは別に従来のセントロニクスI/Fとほぼ互換のCompatible Modeもあるため、5モードが利用可能になった。

 コネクターは、IEEE 1284では25ピンのD-Sub、36ピンのアンフェノール、それと同じく36ピンのMDR(MDR36と称する)の3種類が定義され、それぞれIEEE 1284-A/B/Cと名付けられている。また電気的にはIEEE 1284 Level 1とLevel 2があり、Level 2の方がより長距離伝送が可能なほか、耐電圧の幅が広がるなどしている。

 ちなみに先に15mのプリンターケーブルを紹介したが、仕様上は最長のケーブル長は規定されていない。したがって、長いケーブルをつなぐとちゃんと動かないことも起こり得る(起こり得た)。こうした場合に対応して、プリンターケーブル延長器という機器もあった(例:https://www.amazon.co.jp/dp/B000EZ8NDC)。このIEEE 1284の登場以降、セントロニクスI/FはこのIEEE 1284互換に切り替わっていくが、呼び名はセントロニクスI/Fがそのまま使われることが多かった。

イーサネットでプリンターを共有するようになり 出番が減っていったセントロニクスI/F

 そんなセントロニクスI/Fだが、まず大規模オフィスなどで次第に使われなくなった。オフィスではプリンターがないのは不便だが、だからといって全部のPCに全部プリンターをつないでいたら邪魔でしょうがない。そこで次にプリンターを台車に載せて、必要なところに引っ張っていってつなぐとか、プリンタをつないだPCにフロッピーを持っていって、印刷はそのPCで行なうなどいろいろな運用レベルの回避策(?)が取られたが、ここでさんぜんと登場したのがプリンターバッファである。

 現バッファロー、旧メルコが大きく飛躍したのがプリンターバッファで、これは単にPCとプリンターの間に入って、印刷データを一旦蓄えておき、早めにPCを開放することですぐにPCが作業に移れるようにするものだったが、この後継製品では複数のPCを1つのプリンターバッファにつなぎ、プリンター共有が可能になった。

 ただこれでは結局オフィスの中を、プリンタケーブルが這いまわることになる。先ほど示した15mのケーブルも、こうしたオフィス内を引き回すのには最適だったわけだが、やっぱり邪魔である。結果、LANが登場するとこのあたりが急に変わることになった。

 Netwareで簡単なサーバを1台立ち上げて、そのサーバーにプリンターをつなぐ(これはセントロニクスI/F経由)ことでLANでつながったPCならどれでも印刷ができるようになったし、そのうちLANのI/Fを持つプリンターなどが登場し、プリンターサーバーなしで直接イーサネット経由で印刷が可能になると、ますますセントロニクスI/Fの出番が薄れるようになった。

 特にイーサネットに関しては、レーザープリンターの登場で印刷データ量が圧倒的に増えると、もうセントロニクスI/Fベースではどうにも遅すぎて仕方がないということで、一応サポートはしているもののイーサネットでの接続を推奨という具合に変わってきた。ちなみにイーサネット以外の解決策として、SCSI I/Fで接続するプリンターというものもあった(あまり流行らなかったが)。

 そしてとどめはUSBである。USB 1.1ですらLow Speedで1.5Mbps(187.5KB/秒)、High-Speedで12Mbps(1.5MB/秒)の転送速度なので、普通にプリントするには十分であり接続も簡単である。

 RS-232-CやSCSI、GPIBなどに比べると設定項目は少ない(基本つなげば動く)という感じだったが、ケーブルの取り回しや着脱は圧倒的にUSBの方が楽であり、またプリンターのネットワーク対応が進んだことで長距離引き回しの必要がない(遠い所に設置する場合はイーサネットでつなぐ)といったことにより、RS-232-C同様に2010年ごろにはもうセントロニクスI/Fはオプション扱いになり、昨今ではまず見かけなくなった。業務用にはまだ生き残っているRS-232-Cとは対照的である。

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