歳をとるほど“ゆるく生きる”ことが重要になるワケ
ASCII.jp / 2024年2月22日 7時0分
日本という国に生きてきて、つくづく思うのは、自分にも人にも厳しい人が多いことです。 もちろん、自分に厳しく、ストイックに生きてきて、成功することもあるでしょう。そして、そういう人の成功は美談として語られます。 「自分はまだまだ」と思う人も多いでしょう。逆に手を抜いたり、楽をすることが悪いことのように思っている人も多いようです。(「まえがき」より)
『ゆるく生きれば楽になる: 60歳からのテキトー生活』(和田秀樹 著、河出新書)の著者は、本書の冒頭でこのように述べている。ご存知のように、高齢者専門の精神科医。患者さんに対しても、「もっとゆるく生きられるようになればいいのにねと話しているのだという。
「たしかにそのとおりだよねえ」と少なからず共感できる方も多いのではないかと思うが、見逃すべきでないポイントがもうひとつある。
現場で高齢者と接するなか、「ゆるく生きる」ということが、若い人以上に歳をとるほど重要になると実感しているというのだ。
多少の無理をしてもなんとかなった若いころとは違い、40歳以降ともなると体力は衰えてくる。さらに高齢期になれば、いろいろなことができなくなってくるだろう。その結果としてストレスがたまっていくわけだが、もうひとつの問題は、「自分に厳しい人は、人にも厳しくなりがち」だということ。
すると、人間関係にも悪影響をおよぼす可能性が出てくる。だからこそ、ゆるく生きるべきだという考え方なのだ。
ゆるく生きることは、高齢になってから元気で豊かに暮らせるための秘訣なのです。たとえば定年というのは、労働の義務や人間関係の縛りから解放されることです。前よりずっとゆるく生きる権利を与えられるようなものです。せっかくなのですから、ちょっとゆるく生きてみようと思ってほしいのです。(「まえがき」より)
「うまくいかない自分」にイライラしてしまう
そこで本書において「そのきっかけになるヒント」を紹介している著者は、「なにかをしようとするとき、いくつかの方法があったとしたら、どのようなやり方を選ぶでしょうか」と読者に問いかけている。楽な方法と、ていねいだけれど難しい方法があったなら、どちらを選びますか、と。
こう聞かれたとき、「楽をしようとするのは悪いことだ」「厳しい道を進んだほうが学びは多い」と考え、つい茨の道を進んでしまう人は多いのではないだろうか? そういう人は過去の人生において、困難な道を選んで成長してきた実感があるからなのだろう。しかし、簡単な方法を敬遠して無意識のうちに難しい道を選んでしまう癖があるなら、改めて考えなおすべきだと著者はいう。
楽な道を選ぶことは決して悪いことではありませんし、怠惰な選択というわけでもありません。それどころか、物事を効率よく進めるために有効な手段です。まず、「楽な道は手抜きで悪いこと」という思い込みを捨てましょう。(65ページより)
しかも歳をとれば、なおさら楽な道を選ぶことが正解につながっていくようだ。
たしかに年齢とともに体力は落ち、集中力もなくなっていくに違いない。だとすれば、そんな状態でいままでどおりの物事を進めたとしたら、当然ながら時間はかかり、成果のクオリティも下がることになる。
その結果、「うまくいかない自分」「うまくいかない結果」にイライラしてしまい、ストレスが増大するという悪循環に陥るかもしれないわけだ。
そのため、「多少大変でも厳しい道を進むべき」「がんばればなんとかなる」というやりかたはもう通用しないと著者は断言するのだ。むしろいい結果を残したいのであれば、大切なのは「できるだけ楽で成果の上がる方法」を見つけること。
なぜなら人は、経験を蓄積しながら生きているからだ。つまり自分では楽をしたつもりでいても、結果的には「悪くはない結果」が得られるということである。
だいいち、多くの人が陥りがちな「成果が出ないのはがんばりが足りないから」という考え方は、なんの解決にもならない。追い詰めれば追い詰めるほど、自分を苦しめることにもなるからだ。
楽な方法は「手を抜く」ことではない
だから、もっと無理なくできる効果の高い方法を探し、実践すればいいのである。
楽な方法というと、「手を抜く」「サボる」「ズルをする」というイメージがあるかもしれません。けれども、決してそうではなく、無理することなく、苦しまず、体や心に負担をかけることなく、高い効果を得られる方法は必ずあります。それなのになぜか、苦しいこと、つらいこと、困難なことのほうが正しいに違いないという思い込みがいまだに生きているのです。(68〜69ページより)
著者が一貫して、「いまよりもっと楽で成果を上げる方法を探そう」「自分が楽をすることを許せる人間になろう」と訴え続けていることの背景には、そんな理由があるのだ。
どんな道であっても、いい結果を出すためには楽な方法があるはずです。今までの方法を見直して、もっと効率よく結果を出す方法を工夫してみましょう。そうやって自分なりのいい方法を見つける人のほうが、人生うまくいくものです。(70〜71ページより)
前述のとおり、基本的に本書は60代以降の読者に向けて書かれたものである。たしかに、いろいろな理由で精神的な余裕を失いつつある高齢の方々にとって、大きく役立ってくれそうだ。
しかし、だからといってこれは、必ずしも「60歳以上限定」ではないようにも思える。なぜなら現代に生きる以上、誰しもがなんらかのストレスを抱え込まなければならないのが現実だから。
つまり「テキトー生活」を実践することは、どんな年齢層にとっても必要なことかもしれないということである。
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ゆるく生きれば楽になる 60歳からのテキトー生活 (河出新書)和田秀樹河出書房新社
筆者紹介:印南敦史
![](https://ascii.jp/img/2023/08/16/3587116/x/c9de6a18ea526b6f.jpg)
作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。 1962年、東京都生まれ。 「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。 著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。
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