24万円を払ったのに音沙汰なし? レーザー機器の個人輸入が大変だった
ASCII.jp / 2024年2月27日 16時0分
バットマンやマジシャンはナルシスト?
映画「バットマン」(マイケル・キートン主演、1989年)では、主人公のバットマンが使う武器や車に、ほぼ必ずコウモリ型のロゴが入っています。忘れ物をしたくないのか、あるいはナルシストなのかと思ってしまいそうですね。
バットマンの“本名”はブルース・トマス・ウェイン。彼は、幼少時に大量のコウモリと遭遇したのがトラウマになり、両親と見に行った演劇でコウモリを怖がったことがきっかけで悲劇に巻き込まれてしまいます。大人になったブルースは、「犯罪者に恐怖を与える象徴」として自身の恐怖の象徴でもあるコウモリを選び、故郷のゴッサム・シティでバットマンとして活動を始めるのです。
つまり、バットマンが使うさまざまなツールにロゴが入っているのは、犯罪者たちに対して自身の存在をアピールする意味があるのでしょう。しかし、映画の舞台であるゴッサム・シティに「メルカリ」などのサービスがあったとしたら、バットマンのロゴ入りのツールなどが出品されているかもしれません(笑)。
筆者は、マジックで使う道具や、ショーで使う箱などに自分のロゴを入れることがあります。バットマンは自身の存在を(悪人たちに)知らしめるためにロゴを入れたわけですが、筆者の場合は違います。テレビ番組などで、ロゴなどの模様がないと地味でさびしく映るから。といっても、メーカーのロゴが映るとテレビ局が嫌がるので、自身のロゴにしています。決してナルシストなわけではありません。
ロゴ入れにはレーザーマーカーが便利
ロゴを入れるときに活用しているのが、レーザーマーカー。レーザーマーカーなら、いろいろな種類の素材に短時間で鮮明なロゴが入れられるからです。
![レーザー加工機](https://ascii.jp/img/2024/02/24/3691255/x/2e630a2cd8ba8a60.jpg)
筆者は、以前の記事(「悩みに悩んだレーザー加工機選び、筆者のベストは『LaserPecker2』」)でも紹介した、「LaserPecker2」というレーザーマーカーを使っていました。これは、木や皮などの加工に向いたレーザー。どのレーザーがどの素材に向いているかは、レーザーの波長と出力に関係しています。
材料の切断などに使用するなら、「CO2レーザー」と呼ばれる「10μm」付近の波長のレーザーが一般的です。
一方、筆者が所有しているLaserPecker2はダイオードレーザーと呼ばれるタイプ。これは「450nm」の波長のレーザーで、木、皮、布、(透明ではない)アクリルなどの加工に向いています。
今回、筆者が欲しいのは「ファイバーレーザー」というタイプで、レーザーの波長は「1064nm」。この波長のレーザーが得意なのは金属への彫刻。DIYが好きな方にはわかると思いますが、金属に自分のロゴを入れるって、やはり憧れですよね。
金属彫刻向きの高出力機は高価です
![レーザー加工機](https://ascii.jp/img/2024/02/24/3691256/x/10bc4d3241adcce2.jpg)
ところが、金属加工ができるような20W以上の出力のレーザーは30万円台から60万円ほどの価格帯。ほとんどが海外製で、サイズも小型冷蔵庫ぐらいの大きさになります。
ショッピングサイトなどを検索すると、「金属にも加工可」と説明する出力5Wほどの製品もありますが、経験上、加工に時間がかかりそう。レーザーの照射時間が長くなると、加工素材が熱を持って危険ですし、レーザー発生器の寿命も短くなります。
金属を短時間で深く掘るには、できる限り高出力が欲しいのです。しかし、マジシャンが自分の道具に名前を入れるためだけには、高価すぎる気もしていました。
ところが、あるメーカーがクラウドファンディングの名残か、20Wのファイバーレーザーを1000ドル(およそ15万円)値引きした1599ドル(およそ24万円)で販売しているのを発見。サイズも小型です。3日ほど悩んで注文することにしました。
筆者の個人輸入ルール
筆者は、たまに個人輸入をしていますが、以下のルールで購入しています。
●日本への輸入時、禁製品として通関しないケースがあることを理解する ●出荷される前に注文先の会社が倒産する可能性があることも理解する ●海外の感覚はそれぞれ、日本の製品クオリティーを期待しない ●以上の理由から、製品が送られてこなくてもガッカリしない ●支払い損をしても後悔しない金額の商品だけにする
今回はおよそ24万円なので、上のルールにおける最後の2つを破って注文したことになりますね。注文前にサイトのテキストチャットで英語で15分ほど質問してみましたが、なかなか信頼できそうな対応だったこともあります。
筆者は、マジックを仕事に選ぶほどですから、綱渡りの人生といえなくもありません。そんな筆者でも、24万円の製品を個人で輸入するのはなかなかの綱渡りです。清水の舞台に東京スカイツリーを重ねた上から飛び降りるほどの気分で、クレジットカード番号をサイトに入力し、思い切って注文しました。
なかなか出荷せず、返信もない……
注文後、すぐに「オーダーを受け付けました!」とメールが到着。しかし、その後、まったく連絡がありません。
3日が過ぎ、1週間が過ぎ、12日が過ぎたあたりでメーカーに連絡してみることにしました。あと数日で、メーカーの国では長期ホリデーシーズンに入ってしまうタイミングだったので心配だったこともあります。
メーカーのサイトのテキストチャットで「12日前に注文したけど、出荷メールもトラッキングナンバーももらえない」「ホリデーシーズンに入るから不安」と英語でやりとり取りをしてみました(もちろん、メールでも)。
それでも、「もしかすると、相手はAIなのか?」と疑心暗記になるほど、出荷予定日や在庫などにおいて納得できる返信が送られてこないのです。
ちなみに、筆者が海外とのやりとりで英語を使うのは、日本語より交渉に向いたストレートな表現が向いている感覚があるからです。今回は、それも効きません。
これは、個人輸入の自分ルールを破った報いなのでしょうか……。
商品は突然に到着
出荷されずに、2週間が経ちました。「さすがに注文をキャンセルして、返金交渉するかなあ……」と、他メーカーの製品に目処をつけていたところ、いきなり自宅のポストに宅配便の不在伝票が入っていたのです。
どうやら、そのメーカーは本国から日本の倉庫に出荷して保管し、注文があると日本国内の倉庫から在庫を発送する……というロジスティックを構築中のようです。今回は、出荷メールやトラッキングナンバーが発行できない感じでした。
もしかすると、レーザー製品の(国内販売の)安全基準における許認可の遅延から、日本国内倉庫からの発送を案内できないのかも……などと邪推もしています。
まれに、そのような海外メーカーもありますが、輸入を管轄する関税局(財務省)と機器の国内販売(経済産業庁)のルールの違いによるものでしょう。海外からレーザー機器を個人輸入すること自体は違法ではありません。
このあたりは、日本の感覚で個人輸入をすると、余計なモヤモヤとイライラを抱えることになるので要注意です。
到着した商品はコレ。品質と性能には満足
いろいろありましたが、無事に製品は到着して、品質と性能にはとりあえず満足。製品はgweike cloud「G2 20W Metal & Plastic Fiber Laser Engraver」です。
![レーザー加工機](https://ascii.jp/img/2024/02/24/3691254/x/b75fb5a17b6b27ba.jpg)
加工の様子をX(旧Twitter)に動画として投稿したので、ご覧いただければ幸いです。
新しいレーザーマーカー。テストでギャンブル・デモンストレーション用のチップを作ってみた😁 pic.twitter.com/EBCyxwk5TM
— 前田知洋 (@tomo_maeda) February 15, 2024
レーザー加工機の購入や使用に際する注意
もし、これをお読みの方でレーザー加工機の(海外からの)購入を検討しているなら、以下の注意が必要です。
●日本の販売サイト感覚だとストレスもある。問い合わせには、翻訳サイトを利用するなりして、英語を使用するのがベター ●高出力レーザーなので、波長に合わせた保護シールドやメガネを使用する、金属から発生するガスを排気するなど、安全管理の知識が必要 ●自分のロゴを刻印するには、「Adobe Illustrator」などで、ベクターデータを扱える必要がある ●使用するPCのOSやレーザー機器ごとのパラメーターを設定する必要があり、海外サイトなどでネット検索できるスキルがあるとスムーズ
いずれにしても、こうした機器の購入や使用は自己責任が大原則。もしレーザー彫刻が初めてなら、日本の国内販売店に相談してみたり、低出力のレーザー機器からスタートしたりすることを強くおすすめします。
日本のことわざにも、「生兵法は大怪我のもと」(十分身についていない知識や技術に頼るととんでもない失敗をする)とあります。これは、海外の製品に関しても大切な教えでしょう。
もちろん、マジックも同じ。あまり知られていませんが、20世紀初頭に流行った「弾丸受け止め術」というマジックでは、12人が命を落としているそうです。
もし筆者が無事なら、次回は「G2 20W Metal & Plastic Fiber Laser Engraver」レビューを紹介する予定です。
なお、レーザーの種類と加工素材の関係は、こちらの拙記事(「個人でもできる!? 理想のレーザー加工機を探す旅」)でも紹介しています。
前田知洋(まえだ ともひろ)
![前田知洋](https://ascii.jp/img/2019/08/16/1521134/x/31a9d34e1514d53d.jpg)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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