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スマホ基地局を安くする ドコモとNECが世界展開する「オープンRAN」とは

ASCII.jp / 2024年2月28日 12時0分

筆者撮影

 2026年2月26日よりスペイン・バルセロナで世界最大規模の通信関連見本市「MWCバルセロナ」が開幕した。

 ここ数年、世界の通信事業者の間では「オープンRAN」という仕組みに注目が集まっている。

 これまで携帯電話向けサービスをキャリアが提供するには、北欧のエリクソンやノキア、韓国・サムスン電子、さらには中国・ファーウェイといったネットワーク機器ベンダーからの調達を余儀なくされていた。

 しかし、専用機器ということで、競合も少なく、導入するにはコストが高いというのが、キャリアにとって頭の痛い問題であった。

 そこで、無線基地局の仕様をオープンかつ標準化することにより、様々なベンダーの機器やシステムを相互接続できるよう「オープンRAN」という仕組みが求められてきたのだった。

ドコモとNEC、オープンRANを世界展開

 そんななか、NTTドコモとNECは4月1日に海外のキャリアにネットワーク機器やソフトウェアを販売、運用や保守などを担う合弁会社を設立する。

 NTTドコモはオープンRANの旗振り役として、2018年2月に世界の主要な通信事業者と「O-RANアライアンス」を設立。2020年3月には全国規模でオープンRANのサービスを開始している。

 さらに2023年2月には「OREX」というブランドを立ち上げ、海外でオープンRANを導入仕様としている通信事業者に対し、導入を支援する取り組みを強化してきた。

 OREXで扱う汎用機器には、NECや富士通、NTTデータといった日本企業だけでなく、インテルやHP、NVIDIA、クアルコム、レッドハット、デルに加えて、今回、AWSやarmなども参加している。いずれも、エリクソンやノキアが牛耳ってきた市場を獲りに来ているようだ。

 NTTドコモとしては国内でのオープンRAN導入実績があり、さらにオープンRANの開発や検証など技術的なノウハウは持ち得ているものの、海外の通信事業者に対して、機器を販売、運用、保守といった体制は整っていない。

 そこでNTTドコモがパートナーとして選んだのがNECだ。

導入コストは3割減、消費電力は5割減

 NECはすでに国内外の通信事業者にオープンRANの導入実績があるだけでなく、これまで世界の様々な国や地域で、通信インフラ構築の実績がある。NECが海外に持つ拠点を活用することで、世界の通信事業者に対して、オープンRANに必要な機器の販売、運用、保守などを担っていく。

 オープンRANは通信業界では数年前から注目されてきたが、コロナ禍があったことで、海外の通信事業者による投資マインドが一気に冷え込んでしまった。4Gから5Gへの移行に関しても「5Gネットワーク構築に対する設備投資がかさむ一方、5Gでマネタイズできる術がない」として5Gへの移行を急がなくなった通信事業者も多いという。

 OREXが提供する仕組みでは、導入や稼働にかかるコストは3割減、消費電力も従来より5割減、ネットワーク設計稼働も5割減になるメリットを訴求する。

 OREXに対して、昨年は世界の5つの通信事業者が「関心がある」と名乗りを上げたが、今年はカタール、シンガポール、フィリピンの通信事業者がフィールドトライアルを実施予定で、2024年度以降に商用化を目指す予定だ。

 NTTドコモとNECの合弁会社の設立によって、世界的にオープンRANの導入を検討していく通信事業者が増えていきそうだ。

楽天はネットワークの仮想化を先導

 「海外の通信事業者にネットワーク機器を売る国内通信事業者」といえば、楽天グループの楽天シンフォニーがすでに成功を収めている。

 昨年12月、楽天シンフォニーが構築したネットワーク機器やソフトウェアをドイツのキャリアである1&1が導入し、商用サービスを開始している。

 そもそも、楽天モバイルは日本国内で第4のキャリアとして携帯電話向けサービスを開始しようとした際、既存のネットワーク機器ベンダーから調達するつもりだった。しかし、あまりに高額で、さらに納入時期も遅かったため、三木谷浩史会長が激怒。自分たちで汎用サーバーを使ったネットワークを構築する決断をしたのだった。

 インド拠点を中心に、自分たちで携帯電話向けネットワークを完全仮想化というかたちで実現。国内で楽天モバイルとしてネットワークを構築するとともに、そのノウハウや運用、保守などを世界の携帯電話事業者に売っていく事業を展開している。

 実際、ドイツの1&1も、自分たちでやっているのは基地局の用地確保とネットでの販売ぐらいなもので、ネットワークの開発や運用、課金システム、サービスの構築などは楽天シンフォニーが担当しているという。

 国内の楽天モバイルは赤字続きだが、楽天シンフォニーは4000億円を超える収入が見込まれており、今後、楽天モバイルの赤字を埋める存在として期待されている。

 三木谷会長は「世界を代表する通信事業者も楽天シンフォニーに関心を寄せている」と胸を張る。

ソフトバンクはAIをRANの世界に持ち込む

 一方、ソフトバンクもオープンRANや仮想化の流れに乗ろうとしている。同社が積極的に絡んでいるAIをRANの世界に持ち込もうと「AI-RANアライアンス」という団体のボードメンバーになったのだ。

 基地局の設備を単に無線ネットワークを稼働させるだけでなく、AIを推論できるようにアップデートさせていく。これにより、ネットワークのトラフィックが多い昼間は基地局として稼働しつつ、トラフィックが落ちる夜間は基地局としての役目を減らしつつ、余っている処理能力をAIの推論などに回す運用を目指すものだ。

 キャリアのネットワークというセキュリティの高い設備でAIを処理することで低遅延で高速通信を組み合わせたAI処理を提供できるようになるという。

 AI-RANアライアンスのボードメンバーにはエリクソン、ノキア、サムスン電子といった既存ベンダーからAWSやNVIDIA、マイクロソフトといったAIに強い会社が名を連ねている。 

乗り換えコストの高さが課題に

 ただ、オープンRANや完全仮想化ネットワークは世界の通信事業者から関心は高いのだが、なかなか導入に踏み切るところがないというのが現状だ。

 やはり、すでに安定的に運用されているネットワークから乗り換えるというのは相当、ハードルが高いのだろう。

 楽天モバイルや1&1のように新規参入でネットワークを新たに立ち上げるのであれば、むしろ、安価に構築できるということもあり、導入しやすいのだが、すでに稼働しているネットワークを持つ通信事業者としては及び腰になりがちだ。

 設備を切り替えることでどれだけコストを下げられるのか、またAIを活用することで、新たな収益源を確保できるのかを証明できるかが、普及のカギとなってきそうだ。

 

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。

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