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277もの特許を使用して標準化した高速シリアルバスIEEE 1394 消え去ったI/F史

ASCII.jp / 2024年5月13日 12時0分

 FireWire、i.Link、DV、Lynxといろいろな呼び名があるのがIEEE 1394。IEEEで標準化がなされているので本稿ではIEEE 1394で通すが、AppleはFireWire、ソニーはi.Link、TIはLynxという名称を使っており、また一般にはDV端子と呼ばれることも多かったが、中身は「原則として」一緒である(多少例外はあり:後述)。

DFI 852GME-MGFのバックパネル。赤丸部がIEEE 1394コネクター。コントローラーはVIA TechnologiesのVT6307が搭載されている

SCSIよりも美しいI/Fを求め Appleが立ち上げたIEEE 1394

 IEEE 1394の規格をそもそも立ち上げようとしたのはApple Computerで、1986年のことである。1986年といえばMacintosh Plusが出たばかりの頃で、外部ストレージはSCSIを利用していたが、Apple的にはSCSIが美しくなかったのだろう。具体的には太いケーブル(なにしろ8bitのパラレルバスである)やPlug&Playの欠如、5MB/秒に過ぎないSCSI-1の遅い転送速度などがApple的に許せなかったのかもしれない。

 コネクターも本来なら50ピンのモノを使うはずがMacintosh Plusでは25ピンのD-Subコネクターで、本来のコネクターに比べて一回り小さかったものの、相対的には大きなコネクターだったあたりも嫌だったのかもしれない。

 最終的に完成したIEEE1394が高速シリアルバスをベースに100~400Mbps(12.5~50MB/秒)の帯域を持ち、コネクターは6ピンないし4ピンの小さなもので、ケーブルも細く、最大63台ものデバイスをディジーチェーンで接続可能で、しかもPlug&Playに対応していた。

 このスペックだけ見ていれば大変素晴らしいI/Fなのだが、1986年当時にAppleは独自でこの規格を策定できるだけの技術を持ち合わせていなかったのが不幸の始まりと言うべきか。

 もっとも当時のAppleは自社でチップを製造していたわけではなく、企画と一部設計まで踏み込みつつ、基本はさまざまな半導体ベンダーに設計と製造を委託(場合によっては共同で設計も行なった)していたので、IEEE 1394についてもパートナー企業と協業する形で開発が進められた。

 ただ1986年という時期は、まだ高速シリアルバスに関する知見が十分とは言えない時期だった。もっと速度の遅いUSB 1.1ですら、開発が始まったのは1990年に入ってからである。高速シリアルバスに関する技術的知見は存在したものの、それはメーカーが特許で囲い込んでいるものだった。

 USBは、「特定の企業の保有する特許を利用せずに標準化する」というのがインテルというか、USBの元になる技術を開発していたIAL(Intel Architecture Lab)の方針であったが、IEEE 1394は複数企業の保有していた特許技術をふんだんに使った形での標準化が行なわれることになった。

 その数は実に277個で、うちソニーが102個、Appleが58個、Panasonicが46個、Philipsが43個と続き、他にLG Electronics/東芝/日立/キヤノン/Compaq/Samsung Electronicsが名前を連ねている。当然これらの企業は特許を放棄したわけではないのでIEEE 1394製品を製造・販売する際にはライセンス料を支払う必要があり、最終的にこれが命取りとなった。

 さてAppleとしては珍しく(?)、仕様はIEEEのワークグループで策定されることになった。秘密主義のAppleからすると「らしくない」振る舞いであるが、おそらくApple以外のメーカーは、当然これをMacintosh以外でも広く利用することを望んでおり、そうなると規格が標準化されている方が当然好ましい。

 また規格の標準化によって広範に使われることになると、当然コントローラーやケーブルなどの入手性が向上するし価格も下がる。これはAppleにとっても悪い話ではない。

 しかし仕様策定はかなり難航した。最初のスペック(まだIEEE 1394ではなくFireWireという名称である)は1987年に完成するものの、これはいろいろと問題も多く、このままでは製品化できるものではなかった。

 1993年11月に開催されたCOMDEXでは、ソニーのカメラとビデオカメラ、AdaptecのI/Fカード、TIのPCI to 1394ブリッジチップ、Molexのコネクターなどが参考展示されたが、最終的にIEEE 1394-1995として標準化が完了するまでに8年以上を要したのは、この手の規格としてもかなり長めの部類に入る。とはいえ、当時はまだ高速シリアルが一般的ではなかったことを考えれば、よく健闘したというべきなのかもしれない。

3度改良され転送速度がアップ

 そんなIEEE 1394は、1995年に標準化が完了したIEEE 1394-1995がベースであるが、この後2000年にはIEEE 1394a-2000 Amendment 1、2002年にはIEEE 1394b-2002 Amendment 2、2007年にはIEEE 1394c-2006 Amendment 3がそれぞれリリースされる。

 "Amendment"は「修正」の意味だが、ここでは「追加」と言う方が正確である。転送速度で言えば初代のIEEE 1394-1995と、これに続くIEEE 1394a-2000は100/200/400Mbps、そしてIEEE 1394b-2002とIEEE 1394c-2006では100/200/400/800/1600/3200Mbpsの転送速度が定義されている。

 これに加えてIEEE 1394dという仕様も検討されていたのだが、これはシングルモード光ファイバーを利用した接続であり、2013年に検討そのものが中止されたので、IEEE 1394c-2006がIEEEとしては最後の標準化規格ということになる。

 以後IEEE 1394/1394a/1394b/1394cと表記するが、各バージョンでなにが違うか? というのが下表だ。

 IEEE 1394は仕様がリリースされてもまだ市場は小さく、本格的に周辺機器が増え始めたのは2000年以降だったと記憶している。なにしろAppleがIEEE 1394を搭載したのが1999年発売のPower Macintosh G3からである。

 その2000年にIEEE 1394aがリリースされ、コントローラー類がわりと早くにIEEE 1394a対応をうたい始めたこともあってか、IEEE 1394a対応とする製品も多かった。

 理由の1つには、IEEE 1394→IEEE 1394aでは電気的特性に差がなくプロトコル層側の変更だったため、ファームウェアの更新だけでIEEE 1394a準拠をうたったコントローラー類があったからだ(もっともこうした製品が、どこまで本当にIEEE 1394aに対応していたかは定かではないのだが)。

 ちなみにIEEE 1394aで追加された4ピンというのは、電源供給を省いたものである。もともとIEEE 1394の6ピンコネクターは、送信/受信がそれぞれ1対の信号線で、これとは別に電源(8~30V、最大1.5A)を供給可能だった。

右はIEEE 1394bで定義された9ピンのBetaコネクター。1394aで定義された4ピンのものは、右のコネクターよりさらに小さい

 USBのバスパワーと同じ仕組みであるが、この電源供給に関しては別に電源供給のためのプロトコルが定義されている。4ピンではこの電源ラインを省いて、送受信の2対4本の信号だけを接続するようにしたものだ。

 こちらはDV端子として家電(レコーダーやカメラなど)に多く採用されることになった。冒頭で「『原則として』一緒である(多少例外はあり)」と書いたのはこのことで、通信規格そのものは完全に一緒なので4ピンと6ピンの変換コネクターを介してDV端子に6ピンのIEEE 1394/a機器を接続する(あるいはその逆)ことは可能だが、電源は自前で供給する必要がある。

 ちなみにIEEE 1394aまでの場合、ケーブル長は「定義上は」4.5mとなっている。定義上、というのは下の画像にもあるように運が良ければ10m程度まで伸ばすことも可能だった「らしい」のだが、あまりそういう使い方を聞いたことがない。

Alphaコネクター用のケーブル仕様。直径6mmを太いと思うか、細いと思うかは難しいところ

 1つのIEEE 1394/aポートに最大64台までディジーチェーンで機器を接続可能であり、この場合ケーブル長が4.5mでは最大288mもの長さになるわけだが、さすがにこれが実際に可能かどうかは怪しい。

 IEEE 1394bでは、CAT 5eのUTPケーブルを利用した場合には100Mbpsで最大100m、200Mbpsでも50mまでケーブルを延長できるようになった。

 先に書いた通り、IEEE 1394/1394aは100/200/400Mbpsでの転送となっている。ただこれは丸めた数字であって、正確には98.304Mbpsを差動式で送る半二重の通信が基本になり、これの2倍速/4倍速の196.608Mbps/393.216Mbpsが正確な帯域である。したがって100/200/400Mbpsとしてもあまり問題ないだろう。

 また信号はNRZではなく0/1/ZのTri stateである。今では少し珍しいが、昔は一般的だった方式だ。またIEEE 1934bでは8B10Bエンコードがサポートされたが、これはPCI Expressなどと異なり、Embedded Clockのためではない。

 8B10BエンコードはFiberChannelで利用されていた方法で、データをあらかじめスクランブルしたうえで、ペイロードの5bit目と8bit目に追加のbitを挟み込むことでノイズ耐性を高める仕組みとなっている。信号速度そのものは98.304Mbpsの8/16/32倍速という形だ。

 この8B10Bエンコードは当然800Mbps以上の場合で、400Mbps以下は後方互換性を保つためにエンコードは実行されない。

 プロトコル層が下の画像である。IEEE 1394/a/b/cはあくまで物理層の規格であり、その上にSBP(Serial Bus Protocol)やSCSIプロトコルのRBC(Reduced Block Command)、OpenHCI(The Open Host Controller Interface)、IEEE 1394.3-2003(IEEE 1394の上でピア・ツー・ピアの通信を行なうプロトコル)などさまざまな上位プロトコルスタックが用意される。

これは2004年7月時点の話で、最初からここまでプロトコルスタックが充実していたわけではない

 またこれとは別にAV系に向けてIEEE 1394.1-2004(IEEE 1394のバスブリッジの規格)やDTCPに代表されるコンテンツ保護メカニズムなども用意された。

 AV系に関しては、まずデジタルビデオカメラなどのデータ量の多い映像機器系で積極的に採用されたこともあり、AV機器をすべてIEEE 1394ベースで接続するといった方向性を志向していた。

これは1996年4月に1394TAが行なった"Home Networking"というエグゼクティブ・ブリーフィングの資料。室内機器をIEEE 1394で、部屋の間はPLC(Power Line Communication:電源線を利用した通信方法)を利用するというシナリオである

 こうした動きを後押ししたのは、1394 TA(Trade Association。URLはhttp://www.1394ta.org/だが、今はこのURLの先は全然違うものになっている)である。こちらは非営利の業界団体であり、IEEE 1394に関わる企業によって1994年に設立された。

 1996年の段階でメンバー企業は70社以上あり、IEEE 1394に関わる製品のマーケティングだけでなく、ワークグループを複数立ち上げて、そこの上で仕様策定などの作業もしていた。2000年くらいにはかなり活発に活動しており、このまま進めばIEEE 1394の未来は明るいかと思われた。

 1998年のCOMDEXでは、Device Bayなる拡張ベイまで発表された。これは5.25インチドライブと同じ大きさだが、USB 1.1とIEEE 1394aのI/Fを持ち、さまざまなデバイス(ドライブだけでなく、RS-232-Cの拡張ポートを4つもったベイもあった)をHot Plugの形で着脱しながら利用できるというものだった。

Device Bayのプロトタイプ。COMPAQや富士通、Seagateなどに加え、EIZOのDevice Bay対応モニターまで展示されていた

Windowsでの普及が進まなかったところに より安価なUSB 2.0が登場

 ただこうしたマーケティングの努力は残念ながら実らなかった。1つ目の理由はUSB 2.0の登場である。2000年4月に発表されたUSB 2.0は480Mbpsの帯域を持っており、IEEE 1394/1394aと帯域でそう遜色はない。

 厳密に言えば双方向400MbpsのIEEE 1394/1394aの方が実効性能では上だが、その差が明確にわかるほどの転送をする機会は当時そう多くなかった。USBの方もClass Driverの充実などもあって、使い勝手はむしろIEEE 1394より良い場合もあった。

 2つ目が価格である。USBも一応製品をUSB-IFに登録するのにコストは必要だが、それは1回だけであって、ライセンス料はかからない。対してIEEE 1394では特許使用料が必要で、それを複数の企業に対して支払う必要があった。

 さすがにこれは1394 TAの方でも問題視し、最終的に1システムあたり25セント程度の使用量を一括で支払えば良いことに落ち着いた(一時期は1システムあたり1ドルという報道もあった)。支払の方も、ソニー/Apple/COMPAQ/Philips/東芝/Panasonic/STMicroelectronicsの7社が共同で一括して特許を許諾する体制が整った。これはMPEGの特許を一括して供与するMPEG LAが、1999年11月に新しい1394 LAというライセンスプログラムを立ち上げて実施している。ただそれでも明確にUSB 2.0よりは高コストにつく。

 3つ目がマイクロソフトとインテルである。ASYMCOが2012年に出した、1984~2004年のMacintoshとWindowsの出荷台数の比率を見ると、2000年頃はだいたい28倍程度である。つまりMacintoshのシェアはパソコン全体の中で約3.5%でしかない。

 Appleが率先してSCSIを廃して全面的にIEEE 1394に移行したとはいえ、それは市場全体ではほんのわずかだ。したがってIEEE 1394の普及には圧倒的なシェアを誇っていたインテルの協力が必要だし、そのインテルのマシンで動くのはWindowsである以上、マイクロソフトの協力も当然不可欠である。なのだが、両社ともにIEEE 1394には冷淡だった。

 もともとインテルは1994年にIntel 440BX+PIIX4Eというチップセットをリリースしているが、このサウスブリッジのPIIX4EにIEEE 1394aのコントローラーを搭載したバージョンを後追いで出す計画を立てていた。

 ところがこのIEEE 1394aのコントローラー搭載サウスブリッジはまずIntel 820世代に後退。実際にはICHの拡張版で対応するという話になり、そのIntel 820がDirect RDRAMに絡むトラブルで二転三転している間にICHにIEEE 1394aを搭載する話がどこかに消えてしまった。

 インテルのこの当時のマザーボードでIEEE 1394ポートを搭載する製品は、TIのコントローラーをマザーボード上に搭載して対応していた。当然これは高コストになるわけで、高価格のハイエンドマザーボードには搭載されていても、普及帯向けでは実装されないものが多かった。

 マイクロソフトは? というと「中立」で、USB 2.0とIEEE 1394のどちらもサポートする意思を示し、Windows 2000ではIEEE 1394デバイスからのブートや、IEEE 1394ベースのプリンター/スキャナーのドライバーサポートも追加されたが、これはUSB 2.0に対しても同様であって、つまり使い勝手で言えばUSB 2.0とまったく差がないことになる。

 この状況はIEEE 1394bの出現で変わるか? と思われたのだが、昨今のSSDが普及している現状ではともかく、当時のHDDでは800Mbpsの帯域は使いきれなかった。もっと言うなら、Windowsマシンでは、まだ広くSCSIも使われていた。というより、特に高速なHDDはSCSI接続なことも多かった。

 Macintoshではそもそも本体からSCSI I/Fが削除されたので、否応なくIEEE 1394に移行せざるをえなかったが、Windowsマシンでは別にそんなこともない。こうなってくると、IEEE 1394に移行すべき理由が見当たらないことになる。

 Appleはこの後も引き続きIEEE 1394を搭載し続けたものの、2008年のMacBookでついにIEEE 1394ポートの搭載をやめる。Early 2008モデルにはあった「FireWire 400ポート1基(最大400Mbps)」の文字が、Late 2008モデルでは消えている。Appleはこの時期にIEEE 1394に見切りをつけ、Thunderboltの開発をインテルと共同でスタートしている。

 IEEE 1394がうまく行かなかった最大の理由は、インテルを開発当初から巻き込まなかった(巻き込めなかった)ことだとApple(というか、Steve Jobs)は考え、その反省からThunderboltはインテルを巻き込む形で開発を進めた、というのは邪推だろうか?

 Appleの製品からもIEEE 1394搭載モデルが次第に減っていくことで、市場も縮小の一途を辿った。まだ市場ではIEEE 1394aのI/Fカードやケーブルを購入できるが、肝心の周辺機器の方がもう新品はほとんど売られていない。

 古いIEEE 1394機器を使いたい場合には利用できるが、新規製品はもうUSB 3.0やThunderboltなどに移行してしまっていることを考えると、消えたI/Fとしてしまって差し支えないだろう。

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