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ボカロには初音ミク、VTuberにはキズナアイがいた。では生成AIには誰がいる?

ASCII.jp / 2024年8月11日 15時0分

前編に引き続き、株式会社taziku 代表取締役の田中義弘さんにAIアニメプロジェクトの詳細と今後の展開などについてお聞きした

〈前編はこちら〉

日本は“キャラクター”が新しいテクノロジーを牽引する国だ

まつもと 私がずっと気になっているのも、『背景はうまく動かせた。実用レベルだと思う。問題はキャラクターだ』ということです。まさに田中さんがおっしゃった通りで、物語性に欠けます。

 「AIのイラストって死んでるよね」って言われることがありますけれど、それを生き生きとした、まさに“アニメする”ことが必要だと思います。それについては今後研究開発していく、という段階なんでしょうか?

田中 ある程度まではできています。2023年12月に具体的な形として、「アイアニ」を発表しました。

 これはどういうことかと言えば、『これまで日本では、新しいテクノロジーの登場したときに、それを象徴するキャラクターも一緒に生まれてきたよね』という話がもとになっています。

 VOCALOIDの初音ミクしかり、VTuberのキズナアイしかり、あるテクノロジーの誕生と共にそれを布教するというか、代表になるキャラクターが生まれ、そのキャラがシーンを牽引することで一般化していった、という歴史があります。

 翻って、生成AIを象徴するキャラクターはまだいない状況なので、では象徴するキャラクターを僕らで作って発表しよう、と。ただし、キャラだけ作っても文脈がないと受け入れられないので、アニメから創っていこう、というのがAIアニメプロジェクトの骨格になります。

「アイアニ」メインビジュアル

まつもと まずは業界を盛り上げる“キャラクター”が必要だというわけですね。

田中 そこからキャラクターって誰なの? 何なの? と考えました。VOCALOIDなら歌姫がいるというのはすごく自然ですし、VTuberは二次元とコミュニケーションを取れることがミソなので、話せる二次元アイドルが妥当です。

 では、生成AIを象徴できるキャラクターの属性は? と問われたら、それはやはりアニメーターというか、クリエイターなんじゃないかと。

 AIを使って頑張るクリエイター、AIを道具として捉えてAIと人間の力で作品を生み出すという熱量があるキャラクターを作ろうという話になり、次にどんな世界観――最終的にアニメにしたいって思いがあるので――ならば違和感がないかを考えました。

 現状、アニメの仮タイトルは『AIで愛情込めて、アニメ制作中!』で略して「アイアニ」。AIって魂がないと見られがちなので、あえてAIと愛情をかけたネーミングにしました。

 “架空のアニメスタジオが、日々AIを使ってアニメ制作に関する無理難題をクリアしていく”という内容です。

田中義弘さん/株式会社taziku 代表取締役。大学を卒業後、グラフィックデザイン事務所を経て、株式会社アイデアクラウドを設立。デザイン、AR・VRなどのテック事業などを立ち上げ、その後、DMM.comへ株式譲渡し代表取締役を退任。tazikuを創業

まつもと なるほど。

田中 そしてこのアニメは1クールのテレビシリーズにするような構成ではなく、現実世界とリンクしながら――AI技術は日々進展しているので――名探偵コナン的に“毎回起こる事件をベースにした一話完結のショートアニメシリーズ”を想定しています。

既存のアニメスタジオ単独では困難な“2段構え”を実現する

田中 最初はクリエイターがAIに振り回されるのだけれど、だんだんAIを道具として使えるようになって、アニメ制作技術の進展とともにクリエイターも成長していく、と。

まつもと メディアはテレビ放送ではなく、YouTube配信などですか?

田中 はい。現在、いわゆる30分アニメを作るには、一話につき2000万円から3000万円は必要です。それを1クール分作るのは現状不可能ですし、AIアニメプロジェクトとしては“アニメのB2C”を目指しているので、権利が細切れになってしまう製作委員会方式は避けたいところです。

 そこで、これはうまくいくかわかりませんが、架空のアニメスタジオに一話協賛で企業からスポンサーを受けれないかなと。リアルに営業をかけて、たとえば“シューズメーカーがアニメでPVを作りたい”という案件をAIアニメプロジェクトで受注したとします。

 そのうえで、“架空のアニメスタジオに実在のシューズメーカーからPV制作依頼が舞い込んできた”というストーリーのショートアニメを制作し、劇中でPVのメイキングを描きます。つまり、コマーシャルフィルムとしてのPVも作りますが、それとは別にティザーとして物語仕立てのショートアニメが存在するわけです。

 これによって、“劇中で作っていたCFが本当に存在する”というかたちになりますので結構話題になるのでは、と。

「アイアニ」に登場するAIアシスタントの設定

まつもと それはありですね。

田中 この仕組みで、大資本を入れない新しいかたちのビジネススキームを組むことを狙っています。

まつもと 私は代理店にいたことがあるのですごくよくわかる話です。架空のアニメスタジオがあって活動していると。彼らもAIでアニメを作るのですか?

田中 そうですね。主人公は新人アニメーターでAIに振り回されている。納期がない、制約も多い、そこをAIで何とかしていく。具体的にはパートナーAIとのやり取りをするなかで、世の中にある実在のAI技術を利用することで難題をクリアーし、最終的に企業のプロモーションムービーを作る。

まつもと ああ、技術のケーススタディーにもなっていると。

田中 そうですね。一方、CFのほうは純粋にユニークなプロダクトをアニメでプロモーションします。この2段構えは、たぶん既存のアニメ制作会社単独では無理でしょう。

 アニメスタジオのK&K、そしてAI技術を持つtazikuの2社が合わさってるからこそ可能なスキームなので。

 これがうまくいけば、製作委員会を作らずに2社でIPを担保しながら、つまりお金を稼ぎながらアニメを作ることが……まだ絵空事ですけれどね(笑) 現段階ではまだキャラクターがFIXしていなくて、今のものをベースとしながら、ここからさらに考えあらためて発表したいと思っています。

「アイアニ」は2030~2040年代前半の日本が舞台だ

技術ギャップを現在進行形の技術進展で乗り越える

まつもと いや、すごく面白い話だと思います。私アニメスタジオにもいたことがあるのですが、そんな急にラインって空けられないし、クライアントは平気で「1ヵ月で作ってよ」とか言うけれど、そんなわけにもいかないのがこれまでのアニメ業界の常識だったので。

 でも、AI技術の使い方次第では出来ちゃうぞってところを、まさに「トリリオンゲーム」の際には示されたわけですし。ただ、1つだけ気になるのが“キャラクターを動かすこと”です。AIが苦手な分野じゃないですか。

 でも、アニメである以上、キャラクターをやっぱり動かしたいわけで……。そこはまだ技術的なギャップがあるわけですよね?

田中 ギャップはあります。

まつもと そこをどうするのか? プロダクトのコマーシャルフィルムならキャラクター推しではなくモノ推しになるから可能とか? そのへんをうかがいたいです。

田中 ショートアニメは普通に(作画メインで)作ることになります。もちろんAI技術で補助しながらですけれど。対してPVは、企業も話題にしたいでしょうからAI推しが良いと思っています。

 “最新のテクノロジーである「AI」を使ってこんなことができました”ということのほうが重要で、かつ人物も1秒程度なら破綻を判別しにくい動画が最近ちょっとずつ作れるようになりました。

 これは4秒ほどの動画ですが、作画も動きもすべてAIです。PVなら短いカットをつなぐことで破綻せず作れると思います。

15秒程度のコマーシャルフィルムなら、短いカットをつなげることで違和感なく作れる時代がやってきた!?

まつもと たしかに、ぱっと見ではわからないですね。

田中 アニメを作っている人ならおかしいと感じるかと思いますが、一般の視聴者に向けていますので。

まつもと しかもコマーシャルフィルムを作るのだから、尺が短いのも当たり前。15秒や30秒で良いわけですから、カットを詰め込むことで違和感を減らせますね。

 なおかつ、すべてのPVにはアニメで描かれるメイキングがあります。今おっしゃったような「破綻の少ない短いカットをできるだけつなげて1本にする」といった試行錯誤をそのまま劇中で再現することで、視聴者に納得感を得てもらう手法も使えます。

田中 そうですね。その時々の最先端の手法を使って、人間の作画ではコスト的に不可能な世界観を描くなど、AIであることを逆に武器にしたいと思っています。

まつもと 失礼な言い方かもしれませんが、“賢い組み合わせ”だと思います。AI動画って、30分アニメとしてお出しされたら「破綻してる!」と言われるでしょうが、CMとして見ると一周回って変な話、格好良く見えますよね。

 AI動画が大量にあふれることで視聴者の目が慣れていき、そのうち短いPVレベルなら違和感そのものがなくなっていくかもしれません。逆に現在なら、破綻している(次々に衣装の細部が変わっていく)こと自体を新しい表現トレンドとしてプッシュできるかもしれません。

法律的にクリアでも……感情を推し量る必要あり

まつもと アニメ業界から、問い合わせや引き合いってありますか?

田中 K&Kさんのところにはアニメスタジオさんから、「この技術はどこまで行っていて、どうやって実現しているのか?」とか、「AIアニメプロジェクトはどこまで進んでいるのか?」といった問い合わせがすごい数来ているそうです。

 あと、テレビシリーズでちょっとAIを使いたい、みたいなお話もありましたが、残念ながら具体的には進みませんでした。

 やはり従来のワークフローにどう組み込んだら良いのかというところは、ちょっとまだイメージが難しいのかもしれませんね。たぶん最終的なアウトプットとしては実用レベルなのですが、ほかの作業にうまく組み込んであげないといけないので。

 ちなみにK&Kの川上取締役曰く、「東京のアニメスタジオさんは稼働が2~5年先まで埋まっているそうで、(AIで制作するアニメの相談を受けても)新たなラインを空けることはできず、膨大な仕事に追われて研究開発もままならない状況でしょう。逆にうちは暇だからできた」と(笑)

まつもと 良い意味で余白があったのですね。新しいものってそういうところから生まれるので、期待されてる方も多いと思います。

 とは言え、現時点で田中さんが感じていらっしゃる「こういう箇所は気をつけないといけないな」といったリスク要因や教訓みたいなものはありますか?

田中 法律面は文化庁さんも啓蒙されていて、現行法で言えば範囲や用途など正しく法律に従ってであれば問題がないという認識です。

 我々が実施するのは生成・利用段階なので、仮にたまたま似てしまったとなっても、あったとしても民事で訴えられて損害賠償だと思うのですが、専門家からは、「著作権侵害の要件にあたる依拠性をAIの場合どう証明するのか?」「AIが意図してやったと証明しづらい」と。要はアウトプットに偶然性があるので「これは意図して真似た」と証明しづらいとか。

まつもと プロンプトで「●●風を出せ」などと明言してない限りは、って感じですかね。

田中 そういった意味ですと、最大のリスクは法律面ではなく、感情面でしょう。大好きなキャラクターがここで蹂躙された、みたいな。「AIで作られたキャラが●●とめちゃくちゃ似てる。こいつが発表してるぞ」となったときの燃え上がり。

まつもと 何度かありましたね。

田中 たとえ裁判で勝っても社会的には潰されてしまいます。ですから、今アニメを大事にされていて大好きな方々の気持ちはきちんと汲んでいかないと、感情面でコントロール不能になってしまったときに、おそらく社会的に抹殺されてしまうというリスクはあるかなと思っています。

まつもと そのお話って、前編でおっしゃっていた「トリリオンゲーム」の際に、きちんと指定しないと既存アニメの絵がアウトプットされがちなので“下絵でパーツを具体的に描いて独自性を出す”といった工程は、感情面でのリスクを避けるための1つの手段という解釈もできるのでしょうか?

田中 そうですね。要はAIってオリジナリティーが消失しがちな一方で、“オリジナリティーを出すために既存のアニメ絵に近づける”こともできてしまう技術ですから、手作業を織り交ぜていくことで若干の人間味をまぶしてオリジナリティーを出すことができると思います。

まつもと 今日のお話を通じて感じたものは、やはり“人の手が介在することによって初めて得られるものがある”ということですね。すごく大事なメッセージだなと。今回はありがとうございました。

〈前編はこちら〉

筆者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし(ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者)

 IT・出版・広告代理店、映画会社などを経て、ジャーナリスト・プロデューサー・研究者。NPO法人アニメ産業イノベーション会議理事長。情報メディア・コンテンツ産業に関する教育と研究を行ないながら、各種プロジェクトを通じたプロデューサー人材の育成を進めている。デジタルハリウッド大学院DCM修士(専門職)・東京大学大学院社会情報学修士(社会情報学)。経産省コンテンツ産業長期ビジョン検討委員(2015)など。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)、「地域創生DX」(同文舘出版)など。

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