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どうして太陽光パネルを海の上に設置する必要があるんですか?

ASCII.jp / 2024年5月17日 8時0分

SusHi Tech Tokyo 2024 ショーケースプログラムで展示されていた太陽光パネル

■「先達はあらまほしきことなり」と習ったんですよ

 筆者はデジタルガジェットなどを扱う媒体にいますが、知らないこともあります。いや、「知らない」ことなら素直に聞けばいいし、調べればいい。

 問題は、「知っているつもり」になっていることです。卜部兼好の「徒然草」に「仁和寺にある法師」というエピソードがあります。これは有名ですから、知っている人も多いでしょう。

 仁和寺の僧が、石清水八幡宮に行ったことがなく心残りだったため、1人で行ってみた。しかし、この僧は石清水八幡宮が山の上にあることを知らず、麓にある極楽寺と高良神社だけ拝んで帰ってきてしまった……という話。

 この文の最後は、「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」で締めくくられます。ちょっとしたことにも、そのことに関する先導者はあってほしいものだ、という意味合いですね。

 東京都は、5月26日まで「SusHi Tech Tokyo 2024」ショーケースプログラムを開催中です。

 “持続可能な新しい価値”を生み出す「Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo」を推進する取り組みの一環として開催されているもので、未来の都市モデルを発信する一般層向けのイベントがショーケースプログラムと銘打たれています。

■海の上で発電する理由を聞いてみた

 ショーケースプログラムは、日本科学未来館、シンボルプロムナード公園、海の森エリア、有明アリーナの4つの会場に分かれています。さまざまな最先端テクノロジーの展示や実演、そして体験が可能になっています。

 会場のひとつ、海の森エリアに取材で訪れました。

ショーケースプログラムの海の森エリア
海の森エリアでは、人気マンガ「僕とロボコ」のロボコがわかりやすくテクノロジーを解説してくれます

 先行プロジェクトとして、「次世代モビリティ」「最先端の再生可能エネルギー」「環境改善・資源循環」の3つのテーマで、さまざまな最先端テクノロジーの実装が試されている海の森エリア。そこを会場にすることで、東京、そして日本の技術の現在地を見られるショーケースになっています。

 海の森エリアの取材中、「洋上浮体式太陽光発電」のブースがありました。簡単に言えば、海の上に“浮かぶ”太陽光パネルです。

ショーケースプログラムの海の森エリア、案内パネル
案内パネルでは、「僕とロボコ」のキャラクターたちを使って楽しく解説しています

 説明のためのスタッフもいらっしゃったので、シンプルに疑問をぶつけてました。素朴に聞いてみたのは、「どうして太陽光パネルを海の上に設置する必要があるんですか?」ということです。

 「そんなことも知らないのか!」と思った人もいるかもしれません。いや、筆者もなんとなく知ってはいるんです。でも、「なんとなく、でいいのかな……」とも思っていたので、聞いてみたという次第。

■メリット:「設置可能場所が広がる」

 答えとしては、「設置可能場所が広がるから」ということでした。

 海の上に太陽光パネルを設置できるとなれば、陸上と異なり、土地の造成や森林を伐採する必要がありません。国土が広くない日本における発電としては、そこがメリットなのだそうです。

 海というと太陽光パネルが一面にずらーっと広がる光景を想像するかもしれませんが、湾内の波が穏やかな海域での設置を想定しているとのこと。その点で、東京湾は太陽光パネルの設置に向いているわけです。

SusHi Tech Tokyo 2024 ショーケースプログラム
さまざまにパネルを設置し、発電小売などを検証中とのこと

 他にも、冷却効果で陸上よりも高効率な発電が期待できるという側面もあるそう。こちらは水面を使った太陽光発電すべてに言えることで、日本ではため池(貯水池)などで実施されています。

 また、エネルギーの需給問題が取り沙汰される中で、一大消費地である東京が郊外からの送電に依存している問題もあります。そこで、再生可能エネルギーの発電と消費を達成することで、エネルギーの地産地消による都市モデルの実現も期待できるのだとか。

■課題:「波」「水位の変化」「塩害」に耐えられるか

 もっとも、課題もあります。具体的には、強い波に耐えられるか、塩害の問題はないか、水位の変化に対応できるかというところ。

 ショーケースプログラムで技術を紹介している三井住友建設では、荒波や水位の変化に対応できるような工夫をしているとのこと。

 たとえば、太陽光パネルを搭載した部分と海底に設置したブロックをロープでつなぎ、重りをロープの中間部に設置することでたるみを防いでいるのだとか。塩害に対しても、パネルや部品に加工をほどこしているのだそうです。

SusHi Tech Tokyo 2024 ショーケースプログラムで展示されていた太陽光パネル
ショーケースプログラムの会場では、太陽光パネルを設置するためのさまざまな機構が展示してありました

■学ばなければ、試さなければ、気付けない

 「最先端のエネルギー」「サステナブルなテクノロジー」などと言われて、ピンとくるでしょうか。いや、聞いたことはある、なんとなくわかったような気になっているという人もいるでしょう。

 ただ、「先達はあらまほしきことなり」ではないですけれども、しっかりと技術の現在地を知っておくことも大事だと思うのです。

海の森エリアに展示されていた「舗装式太陽光発電」
路面に太陽光パネルを貼り付ける「舗装式太陽光発電」。実用化が進めば、既存の道路で発電ができるようになる

 「どうして太陽光パネルを海の上に設置する必要があるんですか?」という問いには、ざっくりいえば「設置可能場所が広がるから」という、日本のエネルギー問題を解決するための答えが用意されています。

 しかしながら、それだけであっさりとエネルギーの問題が解決したら、苦労はありません。強い風や波に耐えられるかどうか、陸上に設置した場合と発電量はどれだけ異なるのかなど、チェックすべきことはたくさんあります。

 もしかしたら、今の我々が気づかないような問題が出てくるかもしれません。「思ったより効率が悪かった……」という結果になるかもしれません。

 それはそれで、学ばなければ、試さなければ、気付けないことです。その結果を真剣に受け止める人に教わることも大切。そこから学べるものは、「知っているつもり」ではわからないはずです。

 最先端のテクノロジーって、どんな感じなんだろうか。「夢の技術」とか言われているけれど、実際のところ、実現できそうなのだろうか。

 気になった人は、「SusHi Tech Tokyo 2024」のショーケースプログラムを訪れてみてはいかがでしょうか。もし担当の方がいれば、些細なことであっても、遠慮せずに聞いてみるのがよいと思います。

 ちょっとしたことにも、そのことに関する先導者はあってほしいものだ……と、「案内してくれる人に教わる大切さ」が700年近くも前から説かれていたのですから。

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