楽天モバイル 契約は絶好調だが、黒字化にはテコ入れが必要だ
ASCII.jp / 2024年5月29日 7時0分
一時期は経営危機かと騒がれていた楽天グループに楽観ムードが漂っている。
同グループには今後数年間で1兆円を超える社債償還が迫っていると言われていたが、2024年並びに2025年に満期を迎える社債に対するリスクは概ね解消。あとは楽天モバイル事業を2024年に月次黒字化、2025年には通気で黒字化させるというのが当面の目標になった。
契約者数は、2024年3月末で648万件、5月13日現在で680万件と絶好調だ。
昨年末までは法人需要が伸び、春商戦では、家族や若者、子供をターゲットにした割引やポイント施策が好調のようだ。
三木谷浩史会長は「回線数が伸びているのは大きく分けて3つ理由がある。法人と個人の加入が増える一方、脱退(解約)が大幅に改善している」と胸を張る。
一般メディアや株式市場では楽天モバイルの黒字化は目前と見る向きが強いようだ。
確かに契約者数で見れば、楽天グループでは800〜1000万件を目標としており、このままのペースが持続すれば、すぐにでも800万件以上の達成は容易だろう。
しかし、同社では「契約回線数・800〜1000万件」に「ARPU目標・2500〜3000円」というかけ算に、その他の収益を足すことで、ようやく、「毎月の営業費用・230〜250億円」を上回り、黒字化できるという計算を立てている。
この「ARPU目標・2500〜3000円」を達成できるかが、単月黒字においての大きな「課題」といえるのだ。
KDDI、ソフトバンクも苦戦する「ARPU」
ARPUとはユーザー1人あたりの通信料収入のことを指す。データ使い放題など大容量プランをつかってくれたり、オプションを契約してくれれば数値が上がるし、安価なプランに切り替えられてしまってはARPUは下がることになる。
実際、他社のARPU収入を見ていると、昨今の料金プラン改定もあって、ARPUの改善にかなり苦戦しているのがわかる。
例えば、政府による値下げ圧力でダメージを追い、ようやく立ち直りつつあるソフトバンクの場合、2023年度第1四半期が総合ARPUの底で3720円であったが、第4四半期にようやく3750円と30円しか上がっていない。実は1年前の2022年度第4四半期は3780円で、むしろ前年よりも30円、減少しているのだ。
KDDIも直近は3930円で、1年前と比べて10円しか上がっていない。
ソフトバンクであれば「ペイトク」、KDDIなら「auマネ活プラン」といったようにデータ使い放題プランを組み合わせた、お得な施策を投入し、それなりにユーザーを獲得しているようだが、全体のユーザー数も多いためか、ARPUが急激に上がるかと言えば、そんなことはないのだ。
では、楽天モバイルには500〜1000円のARPUをすぐに上げる秘策はあるのか。
ARPU改善の鍵は「5Gエリア」
三木谷浩史会長は「特にデータ通信をたくさん使う方々については、データ無制限で最強家族プログラムの割引を受けることで月額2880円(税別)というのは、非常に魅力的だなと感じていただいている」と語る。
実際、20GB以上を使うユーザーの増加率を見ても、かなり増加しているデータを示してきているので、確かにARPUの高いユーザーが増えているのだろう(全体のどれくらいの割合で、月額2880円を支払っているユーザーがいるかは不明)。
現状の楽天モバイルの料金プランでは、ユーザーに「いかにデータ通信を使ってもらうか」が最もARPUを上げる近道と言える。
その点、キラーとなるのが「5G」だろう。
ユーザーとすれば、5Gに接続され、サクサクとデータが流れてくると、快適に感じて、動画やゲームをする時間が長くなり、結果として消費するデータ量が増えるようになる。
キャリアとして通信料収入を増やすには、高速で使えるエリアを増やし、ネットワーク品質を上げるのが急務なのだ。
その点、三木谷会長は「5Gになると、やっぱりARPUがかなり上がる。たとえば大阪地区でもフルスケールでやっているが、5Gが中心になってくると、データボリュームが非常に増えていく。
5Gが普及していくと、当然ネットワークスピードが速くなり、よりデータが必要になる」と語る。楽天モバイルでは衛星との干渉がなくなったことで、関東地方の5Gエリアが最大1.6倍に拡大するとしている。5Gエリアが広がることで、ARPUの向上につながるはずだ。
ハイエンドスマホをばらまくのが手っ取り早い
ただ、楽天モバイルの弱点と言えるのが、端末販売が手薄ということだろう。既存3社は、街中のキャリアショップを中心に、限られた割引施策を駆使し、最新スマホを売ろうと躍起だ。
最新のスマホは、チップは高性能、画面は大きく綺麗で、通信速度も速い。結果として、ついついSNSや動画などデータ通信を消費しがちだ。
楽天モバイルの場合、既存3社に比べると、グーグル「Pixel」などもなく、ハイエンド端末のラインナップが手薄だ。他社からMNPしてくるユーザーが多ければ、端末も持ち込んでくる人の割合も高く、最新のスマートフォンを持っているというわけではない。その点、やはり、データ通信量の消費という面では若干、不利にならざるを得ないのだ。
三木谷会長は「端末販売については、大変正直に申し上げまして、SIMフリーになっていくということですので、デバイスのディスカウントをしすぎないようにしていきたい」と語る。
ユーザーのARPUを上げるには、ハイエンドスマートフォンをばら撒き、5Gをガンガン使ってもらうのが手っ取り早いのだが。
20GB未満しか使わないユーザーをいかに20GB以上に上げて、料金プランの上限まで使わせるか。20GBという閾値(しきいち)を下げれば、簡単にARPUは上がるが、ユーザーの不満も爆発してしまう。楽天モバイルが黒字化するためにはARPUの改善が急務であり「何かしらのテコ入れ」が必要なのではないだろうか。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。
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