レース写真は乗ってる本人が一番良く撮れる!? レーサーしか撮れない写真に嫉妬!
ASCII.jp / 2024年6月22日 15時0分
ドライバーがカメラマンになったら? 国本雄資選手が再びカメラに挑戦
SUPER GTを始め、様々なレースカテゴリーで活躍する国内トップドライバーのひとり、国本雄資(くにもと ゆうじ)選手にレース写真の撮り方を教えたことがある(チャンピオンドライバー・国本雄資に写真の撮り方を教えたことと教えられたこと)。
そんな国本選手と、再び撮影をする機会に恵まれたのだが……。
「悔しいです。今回は、思うような写真が撮れませんでした」スポーツランドSUGOでの撮影を終えたあとの、国本選手の言葉だ。過去にも、モビリティーリゾートもてぎと富士スピードウェイでレース写真に挑戦した国本選手。今回は、4月20~21日にスポーツランドSUGOで行なわれた「スーパー耐久」でカメラマンに挑戦することになった。
撮影前の国本選手は「もてぎや富士と違ってSUGOは、自然の中を走る感覚があります。だから今回は“自然とレース”をテーマに撮りたいと思っています」と語っていた。現役のドライバーである国本選手目線での作品の仕上がりは、毎回のことだが楽しみだ。
国本選手の使用機材を紹介すると、カメラはキヤノン「R6」、レンズは「RF 35mm F2.8、RF50mm F1.4」「RF100-300mm F2.8」を使用している。
カメラマンとドライバーでは見ている部分が違う ドライバーゆえに撮れる写真もある
写真1は国本選手の撮ったもの。我々プロレースカメラマンのスタンダードである、流し撮りはかなりハイレベルと言って良いだろう。写真2は同じ場所で筆者が撮ったものだが、シャッタースピードが速いので国本選手の写真の方が動感があり、良いのかもしれない。ただ、これはあくまでも基本ができていることを証明する写真だ。
写真3と4は、筆者から言わせるとチート級の作品だ。なぜなら我々プロがレンズを向けても、こんな表情を撮れることはほぼない。被写体であるドライバーの屈託のない笑顔を撮れるのは、同じドライバーだからにほかならない。これこそが現役ドライバーが撮れる、珠玉の1枚とも言えるだろう。プロカメラマンの筆者だが、無条件で降参するしかない。
写真5は国本選手の作品。レースクイーンを被写体として、レース感を演出するためにレーシングカーをバックに使っている。国本選手の作品で注目する点は、レースクイーンを後ろ姿にすることにより個人ではなくレースクイーン全体をイメージさせたことだ。
顔が見えてしまうと個人感が強くなり、レースクイーンの象徴の写真になりにくくなってしまう。レーシングカーをバックに使ったのも、秀逸なアイディアと言える。
写真6は、筆者が撮ったレースクイーンの写真。国本選手の写真に比べれば、レース感が薄いかもしれないが、表現したかったことは同じと言えそうだ。
写真7は国本選手が撮影。あとで話したときに「アングルが中途半端になってしまったんですけど、やっぱりマシンは全部入れた方がよかったんでしょうか?」と本人も気にしていた作品。たしかに、左下のマシンが切れてしまったのは気になるところだ。もう少し短いレンズを使うか、観客席を無視してアングル全体を左にずらす方が完成度は上がったと思う。
筆者の撮影したのが写真8。広いアングルで撮影することで、山の迫力は減るもののバランスは良いと思える。
レース前の緊張感を知っているからこそリアルに撮れる
写真9と10は、出走前の緊張感を演出した作品。本人は「バックを空だけにしたかったのですが……」とのこと。筆者が感じることは、もう少し何をしているところか分かりやすければ、と感じた作品。たとえば手にバラクラバ(ヘルメットの下に被る耐火性の目出し帽)を持っていれば、ヘルメットをかぶって走り出すことが表現できる。
もしくは筆者が撮影した写真10のように、ヘルメットをかぶったあとに撮影すると、問答無用で走行前の説明になる。ただ、常に開放値近くで撮影し、被写体を浮き立たせる表現を狙っているのは撮影上級者の証だ。
国本選手が今回のSUGOで、一番撮りたかったのがこのカットとのこと。現地では「シャッタースピードは、どれくらいにすれば良いのですか?」と質問され、「1/30以下で撮影するべき」とアドバイスしたので、そのとおりのシャッタースピードで撮影している。
結果、筆者の撮影した作品と大差なく撮影できている。このシャッタースピードでの撮影は本当に難しく、筆者自身も一番時間をかけて撮影した1枚だ。本人は納得いかない様子で冒頭のように「またリベンジしたい」と言っていたが、作品として十分に成立している。
逆光を活かし、マシンを浮き立たせ色を強調した作品。逆光の写真は絞って撮影しない限り色が抜けやすく、白っちゃけた写真になりやすい。国本選手は黒く潰れることをおそれず、ボンネットの露出に合わせていることが素晴らしい。レタッチでバックを潰すことで、より被写体を強調させ、間違いなく「狙って撮った」ことを裏付けている。
筆者はほぼ同じ時間に撮影しているのだが、バックに蔵王を入れて、SUGOのサーキットを表現してみた。同じ時間に同じ場所で撮影しても、まったく違う表現になっているのが面白い。
レース終了後の写真はカメラマンだと撮らないことも だがあえてその部分をファインダーに収めた
写真15は国本選手の作品。「イベントの最後を表現したかったので、夕暮れのピットロードを撮影しました」とのこと。撮影者の想いが伝わってくる、個人的には大好きな作品だ。誰もいないサーキットは、静かでもの悲しい。夕暮れの色と相まって、祭りの終わりを見事に表現している。
筆者たちプロは、写真16のようにチェッカーから表彰式で撮影を終えてしまうことが多い。終わったあとでも表現できることはあるのだと、叱咤激励された思いだ。
ドライバーならではの写真や、国本雄資選手の感性の写真もたくさん見せてもらった。どれも優秀で、すぐにでもこちら側の人間になりメディアセンターに居ても不思議ではない感じだ。とは言え、まだまだ現役のトップドライバーだ。もうしばらくは筆者の被写体でいてくれるだろう。
いつかドライバーを引退したら、メディアセンターで肩を並べて写真の話をしながら同じ仕事ができたら面白そうだ。そう考えさせられるほど、彼の写真は魅力的だった。
■筆者紹介───折原弘之
1963年1月1日生まれ。埼玉県出身。東京写真学校入学後、オートバイ雑誌「プレイライダー」にアルバイトとして勤務。全日本モトクロス、ロードレースを中心に活動。1983年に「グランプリイラストレイテッド」誌にスタッフフォトグラファーとして参加。同誌の創設者である坪内氏に師事。89年に独立。フリーランスとして、MotoGP、F1GPを撮影。2012年より日本でレース撮影を開始する。
■写真集 3444 片山右京写真集 快速のクロニクル 7人のF1フォトグラファー
■写真展 The Eddge (F1、MotoGP写真展)Canonサロン Winter Heat (W杯スキー写真展)エスパスタグホイヤー Emotions(F1写真展)Canonサロン
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