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アップルは「AIスマホ」でどこまで競えるのか? 今後グーグルとの勝敗は(石川 温)

ASCII.jp / 2024年6月14日 7時0分

アップルが開催した開発者向けイベント「WWDC24」の基調講演に登壇したソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長であるクレイグ・フェデリギ氏

オンデバイスAIでの処理が基本「Apple Intelligence」

 アップルは6月10日、本社内で開発者向けイベント「WWDC24」を開催。Mac、iPhone、iPad向けにパーソナルインテリジェントシステム「Apple Intelligence」を発表した。

 特にSiriは複数のアプリをまたぎ、データを受け渡すといった高度な処理が可能だ。「友人から届いたメッセージにある住所を、友人のアドレス帳に保存しておいて」といったこともへっちゃらになるようだ。

 Apple IntelligenceはオンデバイスAIでの処理が基本となる。対応機種はiPhoneであればiPhone 15 ProとiPhone 15 Pro MaxというA17 Proが搭載されたモデルのみ。iPadやMacはM1シリーズ以降のモデルだ。

 アップルとしてはユーザーのデータをできるだけ保護するため、オンデバイスで処理をしつつ、どうしても処理能力を必要とするものはPrivate Cloud Computeに投げる。

 また、専門知識を求めるものはChatGPTにつなぐのだが、この際はユーザーにキチンと許可をもらうなど、データの取り扱いにはしっかりと透明性を確保する。

 世間的にはなぜか「アップルはChatGTPのOpenAIと提携し、OpenAIによる生成AIに頼っている」という論調になっているが、Apple Intelligenceはあくまで、ChatGPTに接続するだけの関係性に留まっている。ソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長であるクレイグ・フェデリギ氏は「今は発表することはないが、将来的には、Google Geminiのとの統合を楽しみにしている」と発言しており、今後は複数のAIを自由に切り替えて接続できるようになるようだ。

 もちろん、ChatGPTが使えない中国市場では現地企業のAIにつなぐことになりそうだ。

 実際、いまのiPhoneのSafariにおける検索設定メニューを見ても、Google、Yahoo、Bingなど複数のサービスから選択することが可能だ。独占的な扱いは、欧州などから突っ込まれやすいため、ある程度の自由度は確保しておくことだろう。

 実は検索サービスにおいて、グーグルがアップルに年間180億ドル(約2兆7000億円)を支払ったとされている(2021年当時)。iPhoneでは初期設定状態でグーグル検索につながるようになっており、グーグルにとって大量のiPhoneユーザーが検索を使ってくれるきっかけになっている。グーグルは検索の広告収入で儲けており、その一部をアップルに支払っているのだ。

 今後、生成AIによる検索でも、こうしたビジネスモデルが成立するのであれば、アップルとしてもすぐにChatGTPからグーグル・Geminiに初期設定状態での接続先を変更するのではないか。

徹底的に「Apple Intelligenceの活用事例」をアピールしたアップル

 筆者は今週、アップルのWWDC、先月はグーグルのGoogle I/Oを取材している。どちらも「生成AIに本気」なのが丸出しなのだが、スタンスというか方向性が全く違うのがおもしろい。

 グーグルも長年、AIに取り組んできたが、2年ぐらい前に彗星のごとく現れたOpenAIに、生成AIのパイオニアというポジションを奪われたしまった感がある。

 昨年のGoogle I/OではなんとかOpenAIに負けていないというアピールをしていたが、社内の方向性もバラバラでとっちらかった基調講演となっていた。

 しかし、今年の基調講演はBardからGeminiに一新した生成AIシリーズを訴求。「Flash」や「nano」といったシリーズ展開をアピールしつつ、それぞれの大規模言語モデルがいかに性能が高いかを訴求していたのであった。

 Geminiシリーズが中心にあったため、「AndroidでAIをどうしたいのか」という説明はとても少なかった。Pixelに「Gemini nano」を載せるという発表はあったが、具体的にどんなことができるかという説明はほとんどなく、「音声電話で詐欺行為をされそうになったら通知が受けられる」といった程度のものであった。

 おそらく、Gemini nanoを使ってどんな便利なことがあるのかというのは、これから小出しにしていくのだろう。

 一方、今回のアップルは徹底的に「Apple Intelligenceで何ができるか」という発表に終始していた。LLMに手を出していないため、スペックなどは一切公表していない。

 Apple Intelligenceはオンデバイスで処理しつつ、処理能力が足りないときは自社のクラウドにデータを上げるのだが、実際、どのタイミングや処理でオンデバイスとクラウドを使い分けるのかといった条件なども非公表だ。アップルいわく「ユーザー体験が優れているほうを選んでいるが、どちらを使っているかをユーザーが意識することはないようにしている」というほどだ。

 実際のところ、どの機能も「どこかで見たことあるな」という気がしないでもない。

 メールの文書を校正したり、自分好みの絵文字を作ってくれたり、手書きのスケッチからきれいなイラストに清書してくれる、写真の背景から不要な被写体を消すといったAIはアドビやグーグルもアプリやサービスとして提供している。

 ただ、すべてのAI機能をOSというカタチにまとめ、ユーザーがAIを意識しないで楽しく使いこなせるという点に終始しているのはアップルならではだ。

 

 まずはGeminiシリーズというLLMを作り上げ、Pixelに落とし込んでいこうとするグーグル。一方で、LLMはOpenAIや(将来的には)グーグルに任せつつ、もしかすると自社でも用意するが、まずはiPhoneやMac、iPadといった自社デバイスのなかにあるApple Intelligenceで、ユーザー体験の向上に徹底的にこだわったアップル。

 2つのプラットフォーマーは、出発点と方向性は違えど、今後は「AIスマホ」で戦っていくのは間違いないわけで、果たして、数年後、iPhoneとAndroid、どちらのスマホがユーザーにとって使いやすいAIスマホになっているのか。いまから競争が楽しみでならない。

 

筆者紹介――石川 温

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)、『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。

 

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