AI時代に入り、中国独自の半導体による脱米国の可能性は少し出てきた!?
ASCII.jp / 2024年6月22日 12時0分
中国産半導体のみでのPCの代替はこれまでも話題になったが なかなか難しい現実があったが、大分状況は変わった!?
米国によるファーウェイへの制裁以降、中国では西側諸国に対抗するためIT機器を自前で揃えようとする動きが加速している。
本連載ではこれまでも、「中国独自の命令セットのCPUとパーツを用いた「完全中国製PC」でWindowsアプリが動いたと話題に」「中国産CPUやGPUが続々発表、中国政府も力を入れる脱米国は現実化するか?」といった記事を書いてきたが、後者の記事からは2年が経過した。この2年の間に大規模データモデルと生成AIが大きなトレンドとなったのは中国でも同じ。自前のソフトとハードで西側と同じようにAIが活用できることが課題となっている。では2年間でどれだけ中国の独自パーツは成長したのか。
中国製GPUを採用したビデオカードは エントリーレベルには達してきたようだ
中国製ビデオチップを開発する「Moore Threads(摩尓線程)」という企業がある。ファーウェイと同様、米商務省によって2023年10月にエンティティリストに登録され、取引制限措置が課されている。同社は2年前にはビデオカード「MTT 60」を出していたが、この2年間で「MTT S70」「MTT S80」という新製品を発売。過去の製品についてはドライバーを頻繁に更新し性能を引き出しつつ、さらに次世代の「MTT S90」を発表した。
これらの製品は京東(JD)などのECサイトでも普通に発売されている。中国の独自ハードというのは概して発表だけが先行して購入しにくいのだが、同社製品ほど入手しやすい製品というのは数少ない。価格だが「MTT S70」は900元(約2万円)、「MTT S80」は1300元(約2万9000円)程度で、実際にベンチマークテストをした中国の快科技(https://news.mydrivers.com/tag/moerxianchengmtt_s70.htm)によれば、「MTT S70のフレームレートはほとんどのDirectX 11ゲームで同価格帯のGeForce GTX 1650 D5と同程度か上回っている」とのこと。
さらにエントリーレベルの「MTT S30」は358元(約8000円)という低価格でGeForce GT 740以上のスコアを出している。最新のビデオカードの水準ではないが、一昔前レベルの製品が格安で買えるのであれば、好事家にはたまらない製品かもしれない。
同社製ビデオカードが入ったデスクトップPC「智娯摩方」も、さまざまなゲームをインストールされる形でリリース。最近の中国のネットユーザーはスマートフォンは使いこなせるが、PCはファイル操作すらできない人が多く、そうした層を対象にしたオールインワンパッケージ製品だ。最近中国でじわりと人気が上昇しているSteamのゲームも問題なく動くという。
さらに摩尓線程は、昨年12月に大規模コンピューティング向けアクセラレーター「MTT S4000」や、数千億パラメーターの大規模モデルの学習をサポートするように設計されたクラスター「摩尓線程KUAE」プラットフォームを発表。百度や智譜AIなど、LLMやマルチモーダル大規模モデルを提供している中国企業と次々と提携し、ハードウェア面でサポートして実績を重ねている。
これまではx86互換チップが話題になってきたが AIアクセラレーターの世界では台頭の可能性もありえる!?
中国製CPUについては、独自命令セットで第10世代Core i5相当の「龍芯3A6000(龍芯科技)」、x86で第1世代Ryzen相当の「海光C86 3350(中科海光)」、同じくx86で第7世代Core i5相当の「兆芯KX-6000G(上海兆芯集成電路)」、ARMで第6世代Core i5相当の「飛騰D2000(飛騰信息技術)」などがある。
x86 CPUでは「海光C86 3350」が中国製CPUの中では最も優秀と言われているが、中国独自製品あるあるというのだろうか、なかなかパッケージ製品として販売されているのを見ることはなかった。
最近になり中科可控という龍芯搭載端末を出す企業から海光搭載のPCが発表された。これに「芯動科技(INNOSILICON)」の「風華2号(Fantasy II)」というビデオチップが入っていて、パーツの中国色が極めて強い機種となっている。AIにより操作が簡略化したことが特徴だといい、中国独自パーツ端末でもAIの波がじわじわと来ている。
最も期待されているのが独自の命令セットの龍芯だ。龍芯はかつてのトランスメタ「Crusoe」のような「命令を変換して処理する」仕組みを採用していて、その技術もさることながら、同社業績発表会において「龍芯の命令セットはライセンス料やロイヤルティを支払う必要がない。テープアウト、人件費、その他の関連経費にかかる一時的な費用だけを回収できれば、数十万個を販売すればコストを回収できる」と強気のコメントをしている。
ただし過去に、DVDの中国製上位互換のEVDという規格と製品をリリースした際、「オリジナルなのでライセンス料やロイヤリティを支払う必要はない」という態度を出し、日本などから猛反発を受けた過去もある。
龍芯はCPUにとどまらず、AIアクセラレータカード「2K3000」やビデオカード「9A1000」といった製品を近々リリースする予定で、中国のAIブームは龍芯の将来的な製品ラインアップにも変化を与えている。
龍芯搭載端末はNASを含め、政府や国営企業ほか、医療、教育、金融、電力、公安などで数百万台納入されているというが、今年に入り中国の国民的SNSの微信(WeChat)のLinux版が動作し、龍芯上でも動作することが確認された(ようやくといったところだろうか)。さらには龍芯は、中国を中心とした「(Open)Harmony」のエコシステムを構築しているファーウェイとの協力に前向きという意思表示を発表している。
これまでの中国独自パーツ開発企業は、まったくといっていいほど将来のビジョンが見えなかった。しかし今は摩尓線程であれ龍芯であれ、目指すところが見えるようになり、そのキーワードがAI時代のチップ開発である。他の企業もこの状況の中で台頭する可能性はあるかもしれない。米国が厳しく規制すると中国はなにもできなくて困るというフェーズではなくなり、どうにかやっていけそうだ。
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