【レビュー】Macよりも先にM4搭載「iPad Pro 13インチ」はアップル最高密度のモデルだ!
ASCII.jp / 2024年7月15日 12時1分
2024年5月のiPadの新製品としては、iPad AirとiPad Proが同時に登場した。しかもiPad Airにも13インチモデルが追加されたため、iPad AirとiPad Proのそれぞれに11インチと13インチの2モデルが揃い、合計4モデルが同時に登場するというにぎやかな新モデルの登場となった。iPad AirはiPad Proの後を追って進化し続けているのに対し、iPad Proもその独自性を磨いてiPad Airの追従を引き離そうとしているかのように見える。iPad Proならではの魅力はどこにあるのか、詳しく見ていこう。
M2からM4へ超越的に進化を遂げた!
2021年4月、iPad Proに本来Mac用として開発されたM1チップが搭載された時には、少なからず驚いたものだった。それが翌年にはiPad Airにも波及し、さらにiPad ProはM2チップを搭載するようになる。そうしてミッドレンジ以上はMシリーズのApple Siliconチップを搭載するのが当たり前になった。2024年5月に登場した今回紹介する新iPad Proも、M2を採用したiPad Airに対して、iPad ProがM3を搭載して登場したのなら驚く必要は何もない。しかし新iPad Proは、まだどのMacも採用していないM4チップを搭載したのだから、十分驚くに値する。
今回のiPad Proには、公式には「第何世代」という呼称は与えられていないが、強いていえば、11インチモデルは第5世代、13インチモデルは第7世代ということになるだろう。世代の数字にこのようなズレがあるのは、それぞれのモデルが初登場した時期が大きく異なるからだ。このことが、iPad Proのモデルの呼称として混乱を招いてきたことは否めない。
今回から公式な世代の呼称を廃した理由は、そのあたりにあるのだろうと推察できる。今後は世代の数字の代わりに、採用しているチップ名を入れて、「iPad Pro M4」モデルのように呼べばモデルを特定できるなるものと思われるが、将来のことは分からない。
これまで紛らわしかった呼称の問題もあるのでM1チップ搭載以降の主要なiPad Proのモデルも含めて、基本的なスペックを確認しておこう。
M1チップ搭載以降、11インチと12.9インチの各モデルの違いを別にすれば大きな変化がなかったiPad Proだが、今回はまったくの新モデルと言ってもいい。これまでのモデルにデザインを似せた「別モノ」と考えたほうがいいだろう。
搭載するチップがM4に変わったことを除いても、まず本体のサイズが11インチ、13インチの両モデルとも、これまでの11、12.9インチモデルとは異なる。11インチモデルは、長辺の長さはやや長くなり、短辺はわずかに短くなった。13インチモデルは、長辺、短辺とも、これまでの12.9インチモデルよりも少しずつ長くなっている。厚みは、いずれのモデルも旧モデルより薄くなっている。11インチモデルは5.3mm、13インチモデルは5.1mmといずれも極薄だ。これまでは、11インチモデルが5.9mm、12.9インチモデルが6.4mmで大きい方が厚かったのが、今回は大きい方が薄いという逆転現象が見られるのもおもしろいところだ。
実際に13インチモデルを手にしてみると、まず何よりも「薄さ」に感動すら覚える。ガラスとアルミニウムの薄板を貼り合わせたモックアップなのではないかと疑いたくなるほどだ。この中に、本当に最新のタンデムOLEDディスプレイ、M4の基板、バッテリーなどが入っているのか、電源を入れて動かしてみても、なお信じ難いと感じる。
そのほか、今回のM4モデルから使用可能なSIMはeSIMのみとなったことは、同時に発売されたiPad Airと同様だ。
iPad Proの場合、iPad Airよりもカラバリが少ないのは昔からだが、今回からそのカラバリの選択肢にも変化があった。従来のシルバー/スペースグレイから、シルバー/スペースブラックの二択となった。スペースブラックは、スペースグレイからそれほど大きく印象の変わるような仕上げではないが、より精悍に感じられるようになり、また薄さがより強調されるようなカラーリングになったといえる。
まだMacにも搭載されていない「M4」とは?
旧来のモデルと比べて最も大きく重要な変化は、やはりM4チップを採用したこと。元来、Macをターゲットにした最新チップのはずだが、このiPad Proが初めて採用した。Macを中心とするアップル製品ユーザーにもまだ馴染みがないものなので、これまでにiPad Proが採用してきたMシリーズのチップと簡単に比較しておこう。
まずCPUは、M1、M2の8コア(高性能4+高効率4)に対して、M4では9または10コアに増えている。もちろんCPUのコア数だけでCPU性能が決まるわけではないが、少ないよりも多い方がいいのは間違いない。iPad ProのCPUコア数は、単独のオプションとして選択できるわけではなく、発注時に選択可能なストレージの容量によって決まる。具体的には256GBと512GBを選択した場合が9コア、1TBと2TBの場合が10コアとなる。これは少し不自由な気もしないでもないが、パフォーマンスを求める用途では、どうしてもストレージ容量も大きくなる傾向があるので、合理的な選択方法だと言うこともできる。
GPUのコア数は、M1が8、M2とM4は10で変わらない。やはり、GPU性能がコア数だけで決まるわけではないので、これだけでGPU性能を推し量るのは困難だ。この効果については、別記事として掲載予定のベンチマークテスト結果を見て判断していただこう。
その他、機械学習系のアプリが利用するNeural Engineのコア数は、M1からM4まで、すべて16で同じ。ここにも性能向上が見られるのかどうか、気になるところだ。またメディアエンジンがハードウェアとしてサポートするコーデックの種類も、M2とM4では変化がない。表には書かなかったが、iPad Proが採用を見送ったM3と、今回採用したM4には、ハードウェアによるレイトレーシング機能がサポートされている。その効果はすでにMacに搭載されたM3で評価し、確かな性能向上が確認できている。今回のM4ではまだ評価していない。
チップ性能とは直接関係ないが、ユニファイドメモリとしてほとんどチップと一体化しているRAMの容量も、同じM4搭載のiPad Proでも8GBと16GBの2種類ある。これについても単独のオプションでは選択できず、やはり選択したストレージ容量で決まる。CPUコア数と同様に、256GBと512GBが8GB、1TBと2TBが16GBだ。選択可能なストレージ容量と、それによって自動的に決まるCPUコア数、RAM容量との関係を表にまとめておく。
大きなRAM容量を要求するのは、主に高解像度の動画編集、エンコーディングなどといった作業であり、そうした作業では必然的に大きなストレージ容量を必要とする場合が多いから、このようなオプションの組み合わせは合理的だろう。同じiPad Proでも、ストレージ容量が256/512GBのモデルと、1/2GBのモデルでは、適合するアプリ、作業内容も含めて、かなり性格の異なるマシンといえそうだ。
11インチモデルにも搭載された超ハイコントラストディスプレイ
M4の採用と合わせて、今回のiPad Proのもう1つの大きな特徴は、iPadとして初めてタンデムOLEDを採用した「Ultra Retina XDRディスプレイ」を搭載していること。用途によっては、M4の採用よりも、こちらの方が意味が大きいと感じるユーザーも多いかもしれない。
「タンデムOLED」自体は、ディスプレイ方式として特に目新しいものではない。その名の通りOLEDを2段重ねにしたもので、発光効率の高さと長い寿命を狙った方式だ。最悪、直射日光が当たるような戸外で使うデバイスや車載用ディスプレイなど、特に明るい場所で使うのに適している。今回のiPad Proでは、従来のミニLEDを採用した「Liquid Retina XDR」に対して、「リキッド」が「ウルトラ」になり、「Ultra Retina XDR」ディスプレイとして採用している。
スペックを比べてみると、SDRコンテンツの最大輝度はミニLED方式の600ニトから1000ニトへと、60%以上も向上している。XDR最大輝度はフルスクリーンで1000ニト、ピーク輝度は1600と変わらないが、コントラスト比はミニLEDの100万対1から200万対1へと向上している。100万対1でも人間の目には十分すぎるほどだと感じていたが、200万対1となるともはや想像を絶するコントラストのように思える。
しかも、ミニLED方式とは異なり、原理的に1ピクセル単位で制御可能なコントラストを実現している。ミニLEDは、液晶のバックライトをディスプレイ全体で2596分割し、その分割単位ごとにLEDの照度を調整するというもの。12.9インチモデルの全体のピクセル数は、2732×2048で559万5136だったから、単純計算で1つのミニLEDあたり約2155ピクセルをカバーすることになる。つまりミニLED方式で得られる最大のコントラストは、2155ピクセル単位ということになる。コントラスト比が2倍になったことよりも、1ピクセル単位で最大のコントラストが得られるようになったことの方が意義が非常に大きい。
iPad ProのM4モデルをこれまでのモデルと比較して、もう1つの重大な違いは、この超高コントラストのUltra Retina XDRディスプレイが13インチモデルだけでなく、11インチモデルにも採用されたこと。これまでの11インチモデルは、iPad Airとも同じ方式のLiquid Retinaディスプレイを採用し、XDR表示には対応していなかった。
ディスプレイサイズの差以上に、12.9インチモデルには大きな差をつけられていたわけだ。今やiPadとしても小さく感じられる11インチのディスプレイで、これだけの高品質表示を実現したことは、性能面でも13インチモデルに引けを取らないことと合わせて、画期的といえる。
見た目以上に進化しているApple Pencil Pro
新しいiPad Pro M4モデルは、対応するApple Pencilも進化している。M1以降のiPad Proは第2世代と、USB-C充電ポートを備えたものという2種類のApple Pencilに対応していたが、M4搭載のiPad Proは従来のUSB-Cタイプと新しいApple Pencil Proに対応する。このあたりの事情は新しいM2モデルのiPad Airとまったく同じだ。フロントカメラの位置が、ディスプレイのベゼルの長辺の中央に移動したことで磁気コネクタの仕様が変更となり、それに完全に対応するためにApple Pencil Proが開発された。したがって、USB-CタイプのApple Pencilの場合、「使えなくはないといった程度の対応」であり、iPad本体に吸着しての充電やペアリングはできない。
この新しいApple Pencil Proは、見た目はこれまでのApple Pencilとほとんど変わらないが、中身は大きく進化している。たとえば、指先に力を入れてペンシルを強くつまむようにすることでツールパレットを表示してツールを簡単に撰ぶことができるようになった。
また、ジャイロスコープの搭載によりペンシルの回転も検知するので、描画部分が円形ではないツールの場合、ペンシルを回転させることでツールの向きも変わる。
さらにペンシルを近づけた画面には影のようなものが表示されるが、これは実際に外部から光が当たってできた影ではなく、ツールの形状や向きを反映して映像としてiPadが表示する擬似的なもの。こうした視覚的なフィードバックに加えて、触覚エンジンによって操作に対する感触的なフィードバックも得られるなど、まさに新たな「体験」と呼べる操作感覚を実現している。
これらのメリットは、従来のApple Pencilが使えないというデメリットを大きく補って余りあるものだ。価格も第2世代のものと同じ2万1800円に抑えられていて、かなりお買い得な感じのする価格設定だ。
こっそり省かれたリアの超広角カメラ
一般的に、新製品や新モデルの発表時には、採用されなかった機能や旧モデルから省かれたり劣化した機能、性能については言及しないのが常識だ。よもやそのような事象が、今回のiPad Pro M4でも発生していたとは意外だった。リアのメインカメラとして、前モデルまであった「超広角カメラ」が削除されてしまった。また同様に、前回まであった「2倍の光学ズームアウト」機能もなくなってしまった。
公式のスペックには「超広角カメラ」という言葉は残っているが、それはフロント側のTrueDepthカメラとしてのみだ。撮影する方向も用途も異なるから、当然ながらそれで代用するわけにはいかない。これまで、リアの超広角カメラをスキャナーとして使うようなワークフローを構築して使っていた人は、何らかの回避策を考える必要があるだろう。
フロントカメラについては同時に発売されたiPad Airと同様に、ディスプレイのベゼルの短辺ではなく長編の中央に移動している。これまでは、ビデオ会議などでiPad Proを横向き(ランドスケープ)に設置していると、カメラの位置がディスプレイの右または左に寄ってしまい、視線の方向が不自然になりがちだった。それが解消されたのは喜ばしい。
iPadの場合、iPhoneほどカメラの重要性が高くないのは理解できる。またおそらく、リアの超広角カメラを実際に利用するユーザーは少ないといった調査結果があったのかもしれない。しかしここにきて、iPadのハイエンドモデルでカメラをダウングレードするというのは、どうにも残念な気がする。もし、本体の薄さを追求するためには、こうせざるを得なかったということであれば、薄さを取るかカメラを取るかでユーザーの意見も分かれることになるだろう。
iPad Airにはやや劣るバッテリー持続時間
本体の薄さを追求した新しいiPad Proではその分バッテリーの体積を確保することが難しくなるから、バッテリー容量や実際の持続時間がどうなったのか心配になる。以前のモデルと容量を比べてみると、11インチモデルでは本体の厚みが5.9mmから5.3mmへと薄くなったにも関わらず、バッテリー容量は28.65Whから31.29Whへと増えている。これは一種のマジックといってもいいかもしれない。
一方の13インチモデルでは、本体厚みは6.4mmから5.1mmへと1mm以上も薄くなり、バッテリー容量も40.88Whから38.99Whへとわずかながら減少している。厚みが20%ほど減っていることを考えると、約5%というバッテリー容量の減少は誤差範囲といえる程度だ。
スペック上のバッテリー持続時間は、アップル独自の「Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生」で「最大10時間」となっている。これは少なくとも上の表にあるモデルはすべて同じ数字で、まったく当てにならない。そこで、実際にWi-Fi経由でインターネットに接続し、YouTubeのプレイリストとして編集したApple EventのビデオをSafariを使ってフルスクリーンで連続再生可能な時間を計測するテストを実施した。音量は消音状態から本体のボタンで1段階上げ、画面の明るさはスライダーで暗い方から4分の1程度の位置とした。
フル充電状態でアダプターを外して再生を開始し、バッテリー残量が0%となって強制スリープとなるまでの時間は19時間43分だった。同じ条件でテストした前任のM2モデルでは19時間8分だったから、いずれもわずかながらバッテリー容量は減っていても持続時間は延びている。M4の消費電力を考慮し、そのあたりのバランスを取った設計が施されているのだろう。ちなみに、同じテストでiPad Airの13インチM2モデルは21時間47分だったので、それにはやや劣る。いずれにしても、アップルの公式なiPadのバッテリー持続時間はかなり控えめで、iPad AirやiPad Proではだいたいその2倍はもつものと考えてよさそうだ。
その後、バッテリーが空の状態から充電を開始し、iPadの画面を表示したまま特にアプリは動かさず、残量が100%となって充電が自動停止するまでの時間を計測した。これは付属の20Wの電源アダプターを使って3時間8分だった。こちらは同じ条件で計測したiPad Air 13インチの2時間50分と比べてやや長いが、iPad Airのバッテリー容量が36.59Whであることを考えると、妥当なところだろう。
iPad Proは、これまでに人類が手にした最もモダンで高性能なタブレットであることは間違いない。特にM4チップの処理能力とUltra Retina XDRディスプレイの表示品質は、群を抜いている。これらは、現状ではMacBook Proを凌ぐものといえる。MacBook Proと比べると、拡張性では難があると思われるかもしれない。確かにMacBook Proは3つのThunderbolt 4、HDMIの各ポート、SDXCカードスロットなどを備えている。1つのThunderbolt / USB 4ポートしか備えないiPad Proは、やや窮屈な感じがするが、Magic Keyboardを使えば不自由さをかなり解消できるだろう。Magic Keyboard側に充電用のUSB-Cケーブルを接続することで、iPad Pro本体を充電しながらiPad Proのポートは周辺機器接続用に確保できるからだ。
MacBook Proを凌ぐほどの高性能と、より優れた表示品質を身につけたiPad Proには、その能力を活かし切ることのできるアプリが必要だ。アップル純正アプリとしてはFinal Cut ProやLogic Proも登場し、サードパーティ製も含めてプロ用iPadアプリも充実してきている。iPad Proを選ぶ際にはそうしたアプリの動向にも注目し、本当に自分のニーズを満たす組み合わせを検討すべきだろう。
今回のアップグレードで、11インチと13インチの差は単純なサイズの差でしかなくなった。それだけに両モデルのどちらを選ぶべきか。選択はかなり難しくなったといえる。
筆者紹介――柴田文彦 自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。
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