なるほどそう来たか!! 似てそうでまったく違った「DENON HOME AMP」の感激サウンド、これは本当に音がいい!!
ASCII.jp / 2024年7月10日 17時0分
デノンはアンプ一体型のネットワークプレーヤー「DENON HOME AMP」を7月19日に発売する。価格は12万1000円。
豊富なデジタルとアナログの入力、ネットワーク再生機能を持ち、内蔵のデジタルアンプでスピーカーを駆動できる製品。デノン製品ではおなじみのHEOSモジュールを内蔵しており、Amazon Music HDなどストリーミングサービスの音楽も楽しめる。
市場では同じグループのマランツが一足先の6月に発売した「MODEL M1」が注目を集めている。明言はしていないが、幅22cm以下のコンパクトな筐体を採用し、利用できる機能なども共通化されているため、両機種が設計や基本コンセプトを共通化した姉妹機であるのは明白だろう。
双子の二機種、でも受け継いだブランドの遺伝子は異なるようだ
一方、よく似た外観とは裏腹に、国内のオーディオ専門ブランドが開発したHi-Fi機器として、両機種が全く異なるアプローチの音質チューニング結果、生まれたのも事実のようだ。DENON HOME AMPの音質責任者は、ほかのデノン製品同様、サウンドマスターの山内慎一氏。同氏に音質面での違いを聞いた際に返ってきたのは「(MODEL M1の音は)まだ聴いたことがない」という驚きの答えだった。
実は、このDENON HOME AMPとMODEL M1。HEOSモジュールの搭載やAxignと共同開発したClass-Dアンプの採用などのキーデバイス、あるいは小型の筐体内に収めたインナーシャーシ、3枚重ねの基板構造など、設計の基本コンセプトは共通化されているものの、ベースの設計からHi-Fi製品として仕上げていくプロセス(つまり音質に関わるチューニング)は、まったく別個に実施されているそうなのだ。
結果、コンデンサーなど使用する部品、基板のレイアウトなどはかなり異なるものになったそうだ。こうした違いはカタログスペックには表れないので、漫然と数字を眺めているだけでは違いが伝わりにくい。違いは筐体デザインのみ、もしくは低価格化しているのでMODEL M1から省略した部分があるのだろう思う程度の人も多いだろう。
しかし、聴いてみるとこういった先入観が間違いであることにすぐに気づいた。試聴室は異なるものの、同じスピーカー(B&W 801 D4)を接続したデモを体験したが、多くの曲を聴いて比べれば比べるほど、音の違いを意識するようになったのだ。
端的に言うと、DENON HOME AMPはVivid & Spaciosを標ぼうする現代のデノンらしさを存分に感じる音。MODEL M1は少々粗削りだが、力強さや勢いがあって、新しいサウンドの世界を切り拓いてくれそうな期待感を感じさせるものだった。
ここには両ブランドの特色、そしてタクトを握る音質責任者の狙いの差がかなり明確に反映されているように思える。
単純な廉価版やサブセットではなかった(MODEL M1との違い)
DENON HOME AMPは実売では10万円を切りそうな価格設定となる。結果、より多くの人が手に取れる製品になるだろう。だからといってMODEL M1の下位モデル、もしくは廉価版ではない。できれば2台を聴き比べてテイストの差を感じ取ってほしいし、ブラインドで聴けばその実力やキャラクターの違いがさらによく分かるだろう。
基本レシピは同じでも、調理する人の好みやちょっとした調理法の際によって、料理の味は変わってくる。それができるのがHi-Fiブランドのこだわりであり、底力でもある。そんな気付きを改めて与えてくれる経験でもあった。当然発生しうる、音の優劣や比較/批判などに敢えて向き合う選択を取り、真剣に取り組んだ開発者の勇気も称賛したいところだ。
さて、この原稿はDENON HOME AMPの試聴直後に書いており、筆者もちょっと興奮している。そこで前置きが少々長くなってしまった感があるが、ここでDENON HOME AMPとMODEL M1の差分を簡単に確認しておこう。
まず、価格差(コスト)に響く大きな違いは、筐体素材/デザインと製造工場である。デザインはおわんのように下側を絞ったシルエットになっており、コンパクトさを強調したデザイン。パンチングメタルの処理を施した天板は鉄製となっており、石庭をイメージした波があしらわれている。それ以外の部分は樹脂を使用。ステンレス素材でウェーブ状のMODEL M1とは対照的な外観だ。
本体はベトナム工場で生産。D&Mでは製品ラインによって白河工場とベトナム工場を分けているが、それぞれで厳密な製造基準を設けているという。MODEL M1は白河工場だが、単純に国内だから上というわけではなく双方にメリット・デメリットはある。大きなところでは人件費などのコストに加え、電磁波(EMC)試験を日本と海外の両方でできるのがポイントで、開発費などに影響を及ぼす部分だという。
また、細かな違いとなるが、本機はMODEL M1にあった「リモコン受光部」を省略している。
学習リモコン機能を利用したい場合は別途サードパーティの赤外線受光デバイスを購入し、IR端子に外付けする必要がある。とはいえ、HDMIコントロールを利用したテレビリモコンとの連動やHEOSアプリからの操作には標準で対応。大きな支障はないだろう。
中身もよくみると、似ているようで違う部分が多いことに気付く。基本構造やコアデバイスは同じだが、音質の決め手となるパーツの選定が異なり、その結果、回路パターンや周辺部品が変わってくるからだ。音質面では、質感が高く、繊細であることに加えて、パンチの効いた音にしているそうだ。音調もニュートラルなものとし、デジタルアンプらしさを感じない、しなやかさのある音を目指したという。
和のテイストを取り入れたデザインには独特の味わいがある
デザインは「これは何だ?」と驚かされるような斬新なもの。一方で、下を丸くおわんのようにすぼめた和のテイストを感じさせるデザイン。音量調節用のノブもなければ表示デバイスもない生活になじむものを目指したという。
デノンと言えば、フルデジタルアンプを搭載したUSB DAC内蔵プリメインアンプ「PMA-50」が人気機種となったが、本体サイズはほぼ同じである。一方で、「サイズはコンパクトだったが、オーディオのデザインだった従来製品」のコンセプトを捨てるのは挑戦的。ここもオーディオの新しい世界を提案するため、敢えて取り組んでいる。
まず目に飛び込んでくる天板は、枯山水をイメージしたもの。穴を開けることで開放的なサウンドに寄与、サブシャーシの見え方にもこだわったという。また側面も陶芸をイメージ。和のテイストを入れるとともに、これらはアメリカ人のデザイナーが担当したという。コンパクトかつコンセプチュアルなデザインだ。
LEDは青く、コンセントを差すとすぐ電源が入る仕組みだ。HDMIコントロールに寄り、テレビと電源は連動するほか、再生/一時停止ボタンを長押しすることで電源を落とすことができる。
小型筐体にはオーディオ機器としての魅力が詰まっている
HEOSモジュールを中心に多彩なネットワーク再生、デジタル入力機能を持つ点は同様。内部には高剛性のインナーシャーシを入れて堅牢かつ振動を抑制する構造としている。一番上に入出力用の基板、その裏側にHEOSの基板(ヒートシンクを下向きに配置)、それと少し空間を置いて底部にアンプ基板を備えた三層構造を採用。発熱や電磁波に配慮して高出力が可能となっている。ベース部には4mm厚のアルミプレートを使用している。熱源と熱に弱いパーツの配置などにもこだわり、何度も回路パターンを書き直したという。
HEOSモジュールは、当初上向きに置いていたが、筐体構造を考えるうえで難しかったため、現在の形に落ち着いたという。外観上の配慮からコンデンサーを留めるグルーも黒くする(通常は白い)など細かく変えている。
内部処理はデジタル信号で完結。アンプはBTL構成で100W(8Ω)または125W(4Ω)出力に対応。コンデンサーには山内氏オリジナルのSYコンデンサーを複数使用。実はコスト的に高くなるため、音質検討時にこっそり入れたものを提出したところ、採用になったという。パワーアンプにはDP-3000NE用に開発した新型コンデンサーも使用している。
背面にはEthernet、USB-A、HDMI、光入力、アナログ入力、サブウーファー出力を搭載している。DENON HOMEのサブウーファーとも接続可能だ。eARC/ARCを活用したテレビ脇での利用に加え、Hi-Fiオーディオを自由での高いレイアウトで楽しめる。クイックセレクトはインターネットラジオを含めて再生中に本体の番号を長押しするだけで記憶可能。デフォルトは1がテレビ、2がライン入力、3が光/同軸接続となる。
本体サイズは幅217×86×242mmで、重量は2.1kg。シャーシ自体は正方形だが、奥行きは端子のぶんが増えている。
音を聴いて興奮、でも時に知的に音楽の全体像も楽しめるのだ
気になる音についても少しふれておこう。まずは、光デジタル入力で基本性能を確認するところから。スピーカーはすでに述べたように、デノン試聴室のB&W 801 D4を使用している。
最初はCD再生でFourplayの「Bali Run」を聴く。音のバランスが全体に良く、調和感、やさしさ、まとまりの良さなどを感じる。奥行き感の表現や、音の立ち上がりの速さ、そして楽器の音色感など、全体的に優れた再生であることに驚かされた。山内氏によると、同じHi-Fiでも積極的な方向の音に追い込んでるそうだ。デノンの「RCD-N12」が敢えてHi-Fiらしい、おとなしい音調にしているのとは対照的に攻めた感じの音がする。
続いて再生されたのが、アリソン・クラウスのボーカル曲「Away Down The River」。こちらはCDではなくネットワーク再生になる。最初に感じたのは、声のチャーミングさ。そして、芯のある低域の支えだ。ドラムを叩く位置の違いといった細かなニュアンスなども明確に描き分ける力があるのには感嘆する。一方で、ギターのアタック音などはちょっとなまるというか独特な響きがある。中高域の詰まり感はMODEL M1でも感じたので、Axignのデジタルアンプの特徴の一つかもしれない。一方、音場の広さという点では、間奏部の音の広がりが素晴らしい。「積極的な鳴り方である一方、S/N感がいいので安心して聴ける」というのが山内氏のコメントだが、このあたりはミニコンポとは出せない単品機ならではの魅力と言えるかもしれない。アナログ的で滑らかな音の再現性も持っている。先日のサウンドバー「DENON HOME SOUND BAR 550」の発表時にデノンは、その音の特徴を“音楽を奏でる”という言葉で表現したが、DENON HOME AMPもまた“奏でる”タイプのオーディオ機器である。
続いて、高音質レーベル2LからHoff ensembleの「Stille, Stille Kommer Vi」。ピアノとドラム、ブラス楽器による調和感のある伴奏の上に載る声の重なり感が非常にいい。ここも少しウォーム系と言うか、ブラスの音色(抜け感)に少し特徴があるように感じるが硬い金属系の音は硬質に鳴るのでレンジの再現自体は広いと言える。
ストリーミング再生として、Amazon MusicからEkcleの「Moonstone」。EDM系の楽曲。効果音を交え、アンビエンス感のある冒頭のフレーズのあとにくる「ずーん」という音が試聴室に広く響く、逆にそのあとはデッドで音場が狭く、響きを抑えた表現になり、空間の広さと近さの対比が明確なのが面白い。スクラッチ音、スピーチ音などが曲の合間に挟み込まれ、個々が明瞭。全体が鳴りにぎやかなクライマックスは、音が整理されにくい面もあるが、大型の801 D4でも駆動力不足は感じない。低域の沈み込みがよく、ウーファーをしっかりと動かしている様子が印象的だった。
その後はCDに戻り、ピアニスト、ユジャ・ワンの演奏するリストのロ短調ソナタではホールの空間性に加えて、ステージに近いかぶりつきで聴いているようなタッチの鋭利さ、低域の量感や支え感などがあり、演奏の迫力が伝わってきた。
山内氏は「RCD-N12の開発から1年が経過しており、スムーズに開発ができた」とする。その背景としては経験を積んだことで、カスタムコンデンサーを使える局面で効果的に入れていけるノウハウを得たことがある。構成自体はRCD-N12と似ているが、個々の作り方やパーツ選定などはかなり異なる。しかし、その開発で培ったノウハウや経験は非常に役立ったとコメントしていた。
最後の再生はドナルド・フェイゲンの『Kamakiriad』から「Teahouse on the Tracks」。弾む感じの低域が印象的な曲で、少し低域に寄ったバランスにも感じた。音の感じはリアルで拍手やクラップは多少硬いもののしっかりと前に出てきていた。
音のレイヤーが整って重なる、マエストロの実力を発揮する逸品
DENON HOME AMPの音を聴いて総合的に感じたのは、空間表現の多彩さである。特に音の発する場所が左右方向、奥行き方向にしっかりと整理され、レイヤーがきれいに分かれるのが印象的だった。定位が非常にクッキリしているため、個々の音の楽器やそのニュアンス、そして音楽の全体構造がハッキリと理解できるのがいい。色彩感の描き分けが優れており、個々の楽器の音にフォーカスを当てていくのも楽しいが、オーケストラ曲などでは、指揮者がそうであるように、知的かつ俯瞰的に音楽全体を眺めることも可能かもしれない。
指揮者と書いたが、冒頭でも触れたようにMODEL M1との比較でブランドによる音楽へのアプローチの違いが感じられるのも面白いところだ。話は少し飛躍するが、オーケストラコンサートでは、同じスコアを演奏しても指揮者や演奏者によって、曲の表現も印象も大きく変わってくる。それと同じことが起きているように思えた。同じ素材と課題が与えられたが、それを異なる料理人がさばく。その結果はいかに……。そんな楽しみや醍醐味を改めて感じさせてくれたのが、DENON HOME AMPの試聴体験だった。
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