40年間を凝縮し、デンマーク発の人気スピーカーブランド「DALI」の魅力を振り返る
ASCII.jp / 2024年7月12日 11時0分
2023年に40周年を迎えたDALI。そのモニュメンタルな製品を展示する「DALI MUSIUM 1983-1993」「DALI MENUET TIMELINE 1992-2020」がD&Mホールディングス本社で開催された。
アニバーサリーイヤーを迎え、さらなる拡大を続けるDALIのラインアップをメディア関係者などに紹介する試み。創業の第1歩となったブックシェルフ機「DALI 2A」(1983年)、自社製のリボン・トゥイーターなどを採用した「DALI SKYLINE」(1992年)、日本で人気の高いMENUETシリーズの初代機「DALI 150 MENUET」などが並んでいた。
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DALIの現行ラインアップは、2年前に発表された超ハイエンド機の「KORE」を筆頭に、受注生産の「EPIKORE11」、一般販売モデルでは上位から順に「EPICON」「RUBICON」「OPTICON MK2」「OBERON」シリーズ、さらに小型ブックシェルフ機である「MENUET」「MENUET SE」などがある。
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また、海外のショーではKOREの技術を多く取り入れた新シリーズ「RUBIKORE」の投入も発表されている。その詳細はこれから分かるが、国内では価格100万円を切る程度、秋から冬の発売を目指しているという。実機は7月26日~28日に東京・有楽町で開催される「2024 東京インターナショナルオーディオショウ」でも参考出品される予定。DALIのCEOを務めるラース・ウォーレ(LARS WORRE)氏も来日して参加するという。
D&Mホールディングスでは、DALI創業40周年記念のキャンペーンとして「OPTICON MK2」「MENUET」シリーズの購入者向けにAudioquestの「Q2」「Red River」(各2万6400円)をプレゼントする。購入期間は9月30日までが対象だ。
販売店のブランドから独立、自社工場を持つまでに
1983年にデンマークで生まれたDALI。日本市場には1989年に参入し、「Menuet」「SKYLINE」など記憶に残るスピーカーを数多く提供してきた。創業者はピーター・リンドルフ氏。現在の本社はノーアエにある。
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DALIの名称は「Danish Audiophile Loudspeaker Industries」の略だという。デンマークを出自としたオーディオファン向けのスピーカーブランドという企業の性格がこの名前からも分かる。
歴史を振り返ると、もともとHi-Fiオーディオの販売店HiFi Klubbenのスピーカー製造部門として生まれた。最初の製品は「DALI 2A」というブックシェルフ機。価格は現在のレート換算で1万1000円ほど。Hi-Fiスピーカーとしては安価で、HiFi Klubbenが扱っていたカナダのブランドNADと組み合わせて使えるリーズナブルなスピーカーとして開発されたそうだ。そのスタートから、手の届く価格で音楽性の高い製品を提供することを主眼としたブランドであることが分かる。
さらに1986年には米国Cerwin Vega (サーウィン・ベガ)のスピーカーを自社工場で製造して販売するようになる。本社もあるノーアエの自社工場はそのために作られたものだという。
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デンマークのスピーカーブランドはDALIに限らず、Bang & OlufsenやDynaudioなど数多くあり、日本でも人気が高い。また、デンマークはラウドスピーカーの開発において重要なムーブメントが過去にいくつも起こった場所であり、部品としてのスピーカーユニットを手掛ける企業も存在し、シンプルで高品位な北欧家具を作れる質の高い木材加工技術などでも知られている。CEOのラース・ウォーレ氏は過去に「フランスがワインやチーズの国であるように、デンマーク人がスピーカーをつくるのはとても自然なことなのです」というコメントを残したそうだが、こうしたデンマークのDNAはDALIの製品にも受け継がれている。
音楽を楽しみ、ユーザーの欲しいに応える製品企画
こうした経緯をまとめると、(1)DALIは「In Admiration of Music」というキャッチフレーズからも分かるように、音楽への敬意や憧憬を前面に打ち出したブランドであること、BBCモニターが高性能スピーカーの象徴であり、オーディオファンの憧れだった時代に、(2)スタジオの音をリビングに持ち込むという価値観をさらにユーザーに寄り添ったものしようとしたこと、(3)販売店の一部門からスタートしたこともあり、ユーザーのニーズ(手の届きやすい価格や市場のトレンド)に対して敏感なブランドであることなどが透けてくる。
オーディオの世界ではよく、リファレンス(忠実再現)と、ミュージカリティ(音楽表現)が対比軸で示される。音楽の趣向も軸足も対照的だ。前者は製品に高水準・高性能を求め、再生する音楽ソースもそれに見合う質の高い録音を好む。後者は広いジャンルの音楽をゆったりと楽しむことを主眼とし、仮に録音の質が悪くても良い演奏を楽しく聴けることに価値を見出す。DALIは後者に属するブランドだろう。
ちなみに、日本の輸入元D&MはイギリスのBowers & Wilkins(B&W)のスピーカーも扱っているが、こちらは明らかに前者だろう。ともにヨーロッパを出自とし、日本でも大きなシェアを持つブランドだが、好対照といってもいい関係性を持っている。
技術的な側面について解説したD&Mのシニアサウンドマスター澤田龍一氏は、DALIの特徴はB&Wと比較すると分かりやすいという。ポイントの一つはツィーター。DALIは初期の製品ではメタルドーム型を使用していたが、現在はソフトドーム型に集約している。逆にB&Wはソフトドーム型からハードドーム型へと移行した経緯がある。
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振動板にシルクなどの素材を用いるソフトドーム型は不快な音を出にくいのが特徴。高域は素直にロールオフするので、歪みは出るが目立たない。一方、金属など硬い素材を用いるハードドーム型は、硬く変形が少ないため低損失でトランジェントも良く、歪みも出にくいが、あるタイミングでピストンモーションができないピーク(共振)が起こる。この共振は耳に残りやすく、人間の耳に聞こえない高域に追いやってもその1/2、1/3の周波数に残ってしまう。
スピーカーメーカーが30kHzを超えるような超高域の特性にこだわるのは、この共振の影響が可聴域の特性に影響するのを嫌うためだ。B&Wのダイヤモンドツィーターはその究極形で、可聴域を大きく上回る帯域の特性にこだわっているのは、耳に聴こえる部分の特性をよりフラットで忠実なものにするためである。
一方のDALIは極端なピークがないので、無理をして40kHz以上の再生を可能にするといった目標を立てない。オーディオの世界ではよく「耳には聴こえない30kHz以上の再生に意味があるのか?」という議論が起きるが、DALIもB&Wも意識しているのは、あくまで人間の耳で聞こえる帯域の特性であるというのが面白いところだ。
現実的にはスピーカーの上流にくる機器でも、発生するノイズを可聴域外の高域に追いやりローパスフィルターなどを通して除去する技術が多く用いられている。このローパスフィルターは50~60kHz程度と100kHzまでないのが普通だし、スイッチングアンプなども50kHz付近になるという。
音楽に寄り添う再生を目指すDALIは、不快な音を出さないソフトドームの良さをどう出すかを重視し、そのうえでソフト系のダイアフラムをどう使いこなすかを考えている。これと一緒に使用するウーファーにも、ウッドファイバーコーンを採用し、振動板自体のたわみも使いながら、ソフトドームとマッチングさせた音作りをし、ツィーターとウーファーの担当する周波数帯域についても、そのクロスオーバーを2kHz付近に置いている。これは2ウェイのブックシェルフでは普通だが、3ウェイや4ウェイでもそうしているのが特徴だ。
DALIは2002年のユーフォニア(EUPHONIA)で、ドイツのクルトミューラー社と協業し、伝統的なパルプコーンに木繊維を混ぜたウッドファイバーコーンを開発した。また、エッジ構造には特殊なラバーを使用。ブチルゴムなどは損失が高く弾まないが、低損失化してエネルギーが失われない(動きやすくする)点にこだわっているのが特徴だ。
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そして、SMC(Soft Magnetic Compound)マグネット素材技術は、世界中で特許を取っているDALIならではの技術である。これは表面に絶縁膜を作った鉄粉を集め、それをプレスで固めて焼結するもの。鉄は磁力も電気も通すが、SMCで成形した部品は磁力は通すが電気は通さない。この素材を使用することで、再生に悪影響を及ぼす渦電流を防ぐことができる。渦電流はスピーカーの音が歪む大きな原因のひとつで、各メーカーがいろいろな対策を取っている。例えばB&Wでも鉄の中でも電流が流れにくいものを使用しているそうだが、これも2~3倍どまりだという。一方のSMCは完全な絶縁体なので、無限大倍というパーフェクトな特性が得られるという。
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ウーファーの歪みは、何もしないと上がる(図では600~700Hzから3~4kHzに注目)が、DALIのスピーカーではSMCやショートリングの組み合わせで、ほぼ歪みなしにできている。先述した通り、DALIのスピーカーはフロア型でも2kHzと高い位置にクロスオーバーに設定するものが多いので、ウーファーが担当する帯域ともかぶってしまう。SMCを使うのが非常に効果的だ。ちなみに、B&Wの場合、3ウェイのウーファーが担当するのは350Hzまでなので、磁気回路の歪みの影響が出にくい面もあるという。
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現行モデルの音質もチェック
現在販売されている代表的なモデルの試聴もできた。DALIのタイアップアーティストであり、2017年にグラミー賞も取っているデンマークのルーカス・グラハムの楽曲「セブン・イヤーズ」を用いて、駆け足であったがそれぞれのスピーカーの音を聴けたので感想を紹介しておく。
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まずは日本で非常に人気のあった「Royal Menuet 2」。音色に味があり、最近のワイドレンジかつ高解像度なスピーカーとは少し異なる懐かしさもある。現行の「MENUET」では一気に時代が飛んだように再生音のクリアさが上がる。非常にパキッとして、雑味のない 現代的なサウンドだ。「MENUET SE」はネットワーク回路で使用する部品をムンドルフの高級品にするなど、グレードアップ。より品位が高まるというか、落ち着きやまとまり感、低音のスケール感を感じさせる音になる。
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次にトールボーイを下位から順に聞く。「OBERON 5」はパラレルウーファーの2ウェイスピーカー。解像感はそこまで高くはないが、バランスよく音がまとめており、安心して音楽に集中できる。ミュージカリティを重視するDALIらしさを感じる製品だ。
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「OPTICON 6 MK2」はスタガー接続のウーファーを使用した2.5ウェイ。ペア30万円強の製品になるが、このクラスになるとHi-Fiスピーカー的な雰囲気が出てくる。OBERONと比べると、エネルギー感がまし、中域の再現なども充実したものになる。
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最後が発売前の「RUBIKORE 6」。サイズの違いで2、6、8の3種があるという。音はパキッとした解像感を感じさせるもので、ドライというか付帯音が少なく爽快感のある再現となる。このあたりは、最近のヨーロッパスピーカーのトレンドを取り入れている感じもする。当然、低域の押し出し感も高く、地をはうような腰が据わった表現になってくる。ツィーターはソフトドームだが、ハードドームのようにトランジェントが良い。ソフトドームのタッチと、ハードドームに遜色のない反応やトランジェントを持つ現代的なサウンドを奏でるスピーカーとして期待できそうだ。
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