デノン、新しいハイエンドプリメインアンプ「PMA-3000NE」を発売、110周年モデルの先を目指す新機軸
ASCII.jp / 2024年7月25日 11時0分
デノンは、プリメインアンプ「PMA-3000NE」を9月中旬に発売する。価格は52万8000円。新しく3000番の型番を採用。110周年を記念して開発した「PMA-A110」を進化させた、ハイエンドのプリメインアンプだ。
デノンのプリメインアンプは、フラッグシップの「PMA-SX1 Limited」に続き、PMA-A110や「PMA-SX11」の生産も年内で完了する予定。PMA-3000NEがHi-Fiプリメインアンプでは事実上のトップモデルになる。
ちなみに、PMA-3000NEの米国価格は3499ドル(1ドル155円換算で約54万2345円)。為替を考えると日本は比較的リーズナブルに導入できる地域と言えそうだ。
究極のシンプルを追究、多層基板やバスバーでケーブルを排除
ほかの製品同様、長い伝統で培った技術に基づいて開発されている。デノンが30年以上前に開発したUHC-MOSは「半導体素子の数を増やさずに大電流を取り出したい」という矛盾した目標に研究開発部門が取り組み、実現したデバイスだ。
音をにごらせる原因となる、素子ごとのバラツキ。その悪影響を最小化することを目的にした。オーディオの世界では当時、音響機器にはオーディオ用のデバイスを使うのが常識だったが、オーディオ用に作られた既存の半導体では、高S/N、低歪みのデバイスを見つけられなかった。そこでエンジニアが目を付けたのが産業用半導体。検証を続けた結果、製鉄工場などで巨大な設備の制御に用いるデバイスにたどり着き、これが大電流を取り出せ、電気抵抗が低く、高S/Nであることに気付いた。
このUHC-MOSを用いたシンプルな回路構成が、現在も継承されている「UHC-MOS Single Push-Pull Circuit」である。PMA-3000NEの新型パワーアンプ回路でも、ミニマムシグナルパスという思想、進化したD/Aコンバーターなどともに用いられている。
3000という型番は、デノンが1970~90年代初頭の高級機に使用してきた「POA-3000」から引き継いだものとなる。3000NEシリーズとしては、昨年末にアナログレコードプレーヤーの「DP-3000NE」が登場している。白河デザインワークスで設計を担当したディーアンドエムホールディングスの渡邉和馬氏によると、「過去のモデルに立ち返って現在のモデルをとらえ直すという検討を継続している」という。
PMA-3000NEが搭載するパワーアンプ回路は、新型のUHC-MOS Single Push-Pull Circuitを用い、高忠実な再生を目指すもの。110周年モデルとして2020年に登場した「PMA-A110」からの進化点は、パワーアンプの前段が差動1段となったこと(PMA-A110やPMA-SX11は差動2段アンプ)。信号経路がよりシンプルになり、動作が安定性が上がり、結果的に音のダイナミクスや安定感が高まっているという。差動1段のアンプは音はいいものの設計が難しいのが難点であり、その課題も解決したという。
また、配線に使うワイヤーや基板の数を減らすことにも成功した。PMA-2500NEシリーズの流れを汲んだPMA-A110はワイヤーも多く用いていた。ワイヤーをなくすことで組み立て時の効率を上げやすくなるほか、精度のバラツキも出にくくできる。
可変ゲイン型のプリアンプ部も回路構成を考え直して1枚にした。基板を2層から4層に多層化したことも、ワイヤーをなくすことに貢献した。結果、信号経路を短縮でき、ノイズ耐性が上がっている。S/Nの静特性も改善。入力からパワーアンプまでの経路も一直線にできた。
フォノイコライザーとヘッドホンアンプも改良。フォノイコライザーはコストをおごった独立基板とし、ヘッドホンアンプもパワーアンプから出力した信号をアッテネートするのではなく専用回路にしている。ここも信号経路の短縮化を目指した思想に基づくものだ。
パワーアンプ部は 安定動作のため熱管理を徹底。電圧増幅段をパラレル化。多数のトランジスターを並列に置くことで環境の変化にも強い設計とした。また、単層基板ではなく両面実装の2層基板にし、信号経路を短縮している。これもワイヤーの減少に貢献する。ワイヤーの取り付けによる微妙な差を減らし、精度を安定化できるため、音質に加えてコスト的にも有利だという。使用する銅箔は通常は35μm程度の厚さだが、その4倍となる140μmまで厚くし、低インピーダンス化、ノイズ低減を図っている(従来は倍までだった)。
電源はトランスの巻き線から再検討している。従来はデジタル電源とプリ電源が同じ巻き線から取られていたが、PMA-3000NEではデジタル電源用、アナログ電源用、プリ部用がそれぞれ専用のものになっている。電源部の配置もPMA-A110と比較すると分かるように、フロントパネルの真後ろにデジタル系の電源をまとめ、パワーアンプ部はアナログの電源のみにするなど徹底的な分離をしている。
音質への影響が強いブロックコンデンサーは新規開発したカスタム品。部品選定のための試聴を繰り返したほか、スリーブの長さも含めて検討したという。熱の観点を配慮して、ショットキーバリアダイオードを並列化。インピーダンスが下がるため発生する熱を低く抑えられる。
スピーカーターミナルはバスバーを使用して接続。ケーブルレスでばらつきのない製品というコンセプトはここでも徹底している。ケーブルの渡し方、よじり方による音の変化がでにくく配慮しているほか。止めるネジ、止め方などを変えることで音質チューニングの自由度も上がる。銅箔の箔圧はここも140μm。パワーアンプからスピーカー出力まで厚さを同じにできたことはインピーダンスの低減に貢献しているという。
6層デジタル基板を採用、クロック精度も向上した
デジタル回路や小信号回路を担当した福田祐樹氏はデジタル回路を中心に設計のポイントを解説した。デジタル信号処理は引き続き「Ultra AL32 Processing」に対応。オーバーサンプリングした1.536MHz fsのサイン波をDAC ICに入力する。オーバーサンプリングしても量子化ノイズの総量は変わらないが、そのノイズが広い周波数帯域に分散するので、雑音電力を-6dB/Hz、雑音電圧も-3dB/Hzに減らせる。
DAC ICはESS Technologyの「ES9018K2M」を左右2基ずつ使用。ES9018K2Mは2ch出力のDACなので、片側4chの電流出力を加算して最終出力を2倍にできることになる。出力電流が4倍になる効果としてはS/N比の向上や聴感上のパワー感の改善が挙げられるという。
高出力の電流を受け取るため、PMA-A110同様、フルディスクリートのI/V変換回路を使用している。DACマスタークロックデザインも継承。低位相雑音の水晶発信機を使用し、かつD/Aコンバーターの直近に置く構造だ。
DMA-A110のデジタル基板は4層だったが、PMA-3000NEでは6層まで多層化。ワイヤー配線を用いず、基板上で信号の伝達が完結するので、ここもミニマムシグナルパスに貢献する。多層基板にする利点としては、もうひとつGNDの安定化がある。GNDの層は従来1層のみだったが、2層にして間に高速なデジタル信号を渡す仕組みにすると、GNDで囲んだ高周波シールドと同じ効果を得られる。SACDプレーヤーの「DCD-A110」と同じものにしている。PMA-A110では採用できなかった部品だが、敢えてコストを掛けて採用することにした。
写真のようにAL32の回路を子基板に置いているのは、コロナ禍で生じた部品供給不足の経験から。基板の真下に部品を実装するスペースができるので、クロックバッファーICはそのスペースに置いているという。
ポストフィルターの定数もES9018K2Mに最適化している。DACから出力する信号を通すローパスフィルターの最適化、部品点数の削減などを通じて、帯域のカットオフが緩やかになり、波形の位相が崩れず、癖のない音になっているという。
差動を合成する目的で置いているオーディオ用の高性能オペアンプも専用プレーヤーと同等の高性能なものとして、D/Aコンバーター機能としての性能と音質を追究した。
ショートシグナル化の試みとしては部品点数を減らし、DAC回路をひとつの基板に集約。PMA-A110ではオペアンプの部分をケーブルで別基板に渡していたが、1枚に収めた。半導体部品の設計技術の向上によって小型化した部品も積極的に取り入れ、基板の実装面積を広げ、大き目の高音質コンデンサーなど音質向上に貢献するパーツを実装できるようにした。
これらの施策を通じて、アンプ内蔵ではあるが、単体DACに匹敵するクオリティーを確保できたという。
定格出力は80W+80W(8Ω)、160W+160W(4Ω)。入力端子はアナログ×3系統、PHONO入力(MM/MCカートリッジ対応)、EXT-PRE入力、USB(角型)、同軸デジタル、光デジタル、出力端子はアナログ1系統、ヘッドホン端子ほか。USB DAC機能は最大11.2 MHzのDSD、最大384 kHz/32bitのPCMに対応。本体サイズは幅434×奥行き443×高さ182mmで、重量は24.6kgだ。
輪郭がハッキリ明確で音像が明瞭、一方でしなやかさは失わない
発表会ではサウンドマスターの山内慎一氏の解説を交えたデモも実施された。「これからの10年間のベースとなるサウンド」を実現したPMA-A110の成果を踏襲しつつ、上述したさまざまな改善を経たPMA-3000NEは「価格帯を超えたハイエンドHi-Fiの雰囲気を漂わせる、高い完成度が得られた」という。
専用コンデンサーの搭載に加え、抵抗、ビス、アルミ製の脚部など、細部にこだわった設計と音質調整が加えられている。見た目はPMA-A110とよく似たPMA-3000NEだが、中身は大きく異なり、その音質はフラッグシップ機のSX-1 Limitedにも少し近づいた面があるとする。
最初に聞いたのはBiaのアルバム『Sources』よりビートルズの「Golden Slumber」をアコースティック風にアレンジしたもので、アコースティック楽器の伴奏で女性ボーカルが歌う。ギターやアコーディオン風の楽器の音は高解像度で空間に浮き立つが、カリカリしすぎず、適度なぬくもり感やボディー感を残している。ハッキリとした輪郭のサウンドであるのが印象的だ。これを受けて入ってくる女声は、鮮度が非常に高く瑞々しい。山内氏によると、サウンドはPMA-A110の完成度を高める方向性で調整しており、スケール感、ダイナミクス、存在感を上げることに注力したという。
デノンレーベルのクラシック曲として、アンドレア・バッティストーニ指揮のストラヴィンスキー:バレエ音楽《春の祭典》を聴く(トラック2)。空気感が明確、というだけでなく聴く位置(マイクの位置)と音源(オーケストラの各楽器)の間に、距離と空間があることがしっかり分かる。一般に空間表現がいいというと、ホール全体の響きや空間の広さを指しがちだが、その音への距離感は比較的ステージに近い印象。鮮度や透明度が高く、個々の楽器の分離感、抜け感、曇りのなさなどが特徴だ。音色の再現も忠実かつリアル。臨場感や熱気、生々しさを感じる。アタックの表現も特徴的。立ち上がりや立下りがいいのはもちろんだが。ボディー感、音の太さ、実在感がある。こうした芯のある表現、確固とした直接音の再現が音全体の存在感を高める要因になっていそうだ。
1990年代の楽曲としてプリファブ・スプラウトのアルバム『The Sound of Crying』から表題曲の「The Sound of Crying」。サウンドには、この時期の楽曲特有の爽快感があり、かつカッチリとしたリズムとビート感が魅力。録音としては、シンセ系の伴奏の上に距離感の近いボーカルが乗るが、最近の音源のように、それほど楽器や声の配置は「空間上のこの位置」と明確には整理されていない。全体にぎゅっと詰まって聞こえる。ウォーム系のテイストに太い低域やそれを支えとしたしっかりと安定した再現は安心感がある。
静かな村を意味する『Stille Grender』は、高音質レーベル2LからリリースされているSACD盤で、ノルウェーのクリスマスアルバム集のようだ。「 Jul, jul, strålande jul」はピアニストのトルド・グスタフセンとノルウェー少女合唱団の共演。響きのいいホールの空間にピアノが浮き上がり、コーラスに体全体が包まれるような感覚が味わえるのがいい。位置の描き分けも明瞭で、ここでも音色感の良さ、弱音の再現を含むニュアンスの表現、空間再現の高さなどを感じられた。
アナログレコードの再生としてDP-3000NEと組みあわせ、Haircut 100の『Perican West』から「Love Plus One」を聴く。ビブラホンとエレキギター、ブラス系の音などが印象的で、1980年代の制作らしい密度感やパワー感のあるサウンドが特徴。ドラムスとコンガ風の打楽器の抵抗感、重量感などもあり、硬さのあるものを叩いているという感覚が良く伝わっている。レコード再生だが、音はクリーンで、バランスが整っている。フォノイコライザーの実力の高さも実感できた。
続いてザ・ポリスのレコード『Synchronicity』から「Tea in the Sahara」も聞いたが、この曲ではムーディーで色気のある、男性ボーカルの雰囲気が独特。そのつやのある音色表現に魅力を感じた。
PMA-3000NEの位置付けについて山内氏は「フラッグシップではないが、(現行のラインアップにおいては)ハイエンドに属する製品である」とし、「(ケーブルワイヤリングを極力なくした構造など設計上の)新しい試みもあったので、試行錯誤の時間はあったが、最終的には音のダイレクト感や音像を間延びせずしっかりと再現できるなど良さを生かす形でまとめられた」とコメントしていた。
そのチューニングに際しては、ネジの留め方ひとつで変わる部分もあり、「ネジの種類や長さを変えるだけでも音は変化してくる」と話していたが、開発時には機器に使うものとして選べる3~4種類の選択肢を入れ替えるだけでも音の変化を感じ、ミリ単位で調整が有効に感じたという。
なるほどこれがVivid & Spaciousか
Vivid & Spaciousはデノンの音質を語るうえで、一貫して用いられているフレーズだが、PMA-3000NEの試聴を通じて感じたのは、それぞれの言葉が示すイメージがより明確に伝わり、腹落ち感が高まったことだ。
Spaciosの面では持ち味の空間再現性の高さを改めて感じたが、特筆したいのはVividの部分。ここは従来機種よりもソリッドで引き締まった印象を与えるものになっていた。ひとことで言えば、最近のデノン製品の中でもかなりハッキリと、ハリのある再生音になっている印象を持った。
その結果として、ディティールの再現性が上がり、より小さな音まで見通せるようになった。ここは音場の広さとの両立が難しい面もあるが、その両者が同居する新しさがあった。筆者としての発見は、Vivid & SpaciousのVividには、みずみずしさや、倍音の伸びといった音色の華やかさだけでなく、より強い主張のあるソリッドさや輪郭の明瞭さの要素が含まれていたことだ。
持ち味である音色のみずみずしさと空間の見通し良さに、ハッキリとした音の輪郭感が加わったPMA-3000NEのサウンドについて、聞く側の筆者としては、これまでの製品とは一味違った音の方向感を感じて驚きもあった。しかし、山内氏としてはチューニングの方向性としては従来から思い描き、常に意識していたものであり、DENON HOME AMPなどを含めて徐々に階段を上ってきた成果だとする。
そして、このハッキリとした音と、しなやかさや空間性を持つ響きを同時に実現していくのには難しさがあったようだ。普段はあまり強調していないため、忘れられがちな面もあるが、特にしなやかさを損なわない点は、デノンサウンドを実現していく上で重視しているポイントだという。
開発を終えた感想として「かなり重いモデルだった。途中めげそうになったモデルでもある」というコメントがあったのはその表れだろう。110周年モデルの延長線を進み、3000番台を継ぐ労作である本機の音はぜひ体験してほしいと思う。
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