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シャープらしい経営とは何か、そしてそれは成果につながるものなのか

ASCII.jp / 2024年8月5日 8時0分

社長として最も成し遂げたいことは、『シャープらしさ』を取り戻すことである。これが私に課せられた一番のミッションである。まずは黒字化しないと『シャープらしさ』は取り戻せない。

シャープ株式会社 沖津雅浩 社長兼CEO

久々の生え抜き新社長

 シャープの新社長兼CEOに、6月27日付けで、沖津雅浩氏が就任した。

 シャープが2016年8月に鴻海の傘下になってから、戴正呉氏、呉柏勲氏と、2代連続で鴻海出身のCEOが就いていたが、約8年ぶりにシャープ出身のCEOが誕生したことになる。

 沖津社長兼CEOは、1980年3月に、京都工芸繊維大学工芸学部電気工学科卒業後、同年4月にシャープに入社。それ以来、44年間に渡り、シャープ一筋で勤め上げてきた。

 長年、白物家電事業に携わった沖津社長兼CEOのキャリアは、シャープ八尾事業所のエアコン技術部に、電気分野の技術者として配属されたのがスタートだ。開発が始まったばかりのインバータエアコンに関っていたという。

 2000年には、タイのシャープアプライアンス(タイランド)に出向し、空調商品を統括。2003年には電化システム事業本部システム事業部中国設計センター所長、2005年には上海夏普電器有限公司総経理として、中国での白物家電ビジネスを立ち上げた。

 タイから中国へと異動する間の1年間、日本で、プラズマクラスターイオン(PCI)の技術部長として、空気清浄機へのPCI搭載にも関わったこともある。このとき、PCI搭載空気清浄機は、33万台の販売計画に対して、50万台の販売実績を達成するヒット商品になったという。

 2009年には健康・環境システム事業本部ランドリーシステム事業部長、2010年に空調システム事業部長に就任。2013年には執行役員  健康・環境システム事業部長に就いた。その後、2016年には取締役兼常務、2017年に常務執行役員、2019年に専務執行役員 スマートアプライアンス事業本部長、2020年にスマートライフグループ長兼SAS事業本部長、2022年にはスマートライフグループ長兼デジタルヘルス事業推進室長を歴任した。

 2022年6月に代表取締役副社長執行役員となり、2024年6月に代表取締役 社長執行役員兼CEOに就任した。

 沖津社長兼CEOは、「44年間、シャープ一筋でやってきた人間であり、シャープという会社を思う強い気持ち、シャープを世界に誇れる会社に成長させたいという気持ちは誰にも負けないと自負している」と語る。

経営理念・経営信条

 沖津社長兼CEOは、「大切にしているシャープならではの3つの言葉がある」という。

 ひとつめは、シャープ創業者である早川徳次氏の創業精神をもとにした「経営理念・経営信条」である。

 シャープが目指す姿を示したのが「経営理念」であり、経営理念を実現するために、全社員が堅持すべき信念や考え方を示しているのが「経営信条」である。

 沖津新社長は、「経営理念と経営信条を大切にしてこそ、真似される商品が生まれる。それによって、他社とは異なる視点で、独自の価値を生み出してきた『真のシャープらしさ』を発揮できると考えている」と語る。

日々努力 何糞

 2つめは、「日々努力 何糞(なにくそ)」という言葉だ。これは、「多くの試練を乗り越えてきた早川創業者の不屈の魂を示した言葉である」という。

 「私自身、入社以降、いくつもの困難に直面し、そのたびに、この言葉を心の支えに自らを奮起させ、乗り越えてきた。いままさに、シャープはこの魂を発揮する時である。私自身が先頭に立って、『何糞』の精神で困難に立ち向かっていく」との姿勢をみせる。

品質第一 私たちの心です

 そして、3つめが、「品質第一 私たちの心です」というシャープの品質スローガンだという。

 これは、沖津社長兼CEOが、課長時代に部品の品質問題を起こしたという苦い経験がもとになっている。

 「品質問題を起こした際に、費用面での損害については解決できたものの、企業として失った信頼を取り戻すには非常に長い時間がかかった。それ以来、私は品質を第一に考えること、そして、お客様に信頼いただくことが何よりも大切であるという思いを一層強くした。」とする。現在も、自身の居室には、このスローガンを掲げているという。

 そして、「品質は、単に商品に限った話ではない。様々な顧客接点において、高い品質の体験を提供し続けることが、シャープのブランドを創ることになる」とも語る。

シャープらしさを取り戻すとは?

 沖津社長兼CEOが、就任会見で打ち出したのが、「シャープらしさを取り戻すこと」である。

 「社長として、最も成し遂げたいことは、『シャープらしさ』を取り戻すことである。これが私に課せられた一番のミッションである」と宣言する。

 沖津社長兼CEOは、「シャープは、他社に真似される商品をつくることで、お客様からの評価を得てきたが、コロナ以降、以前に比べて新しい商品が出ていないことは反省しなくてはならない。ここ数年、シャープらしさが失われていたことの最大の要因は、業績悪化である。その責任は経営の問題であり、事業をやっているメンバーもよくない状況にあった」と語り、「まずは黒字化しないと『シャープらしさ』は取り戻せない。2024年度は黒字化することを誓う」と決意を示した。

 そして、「『シャープらしさ』は、1年程度で、簡単に戻るものではない。ブランドと一緒で、落ちるときはすぐに落ちるが、戻すには時間がかかる。私の後任や、その先の後任によって、『シャープらしさ』をきちっと戻すことにつなげたい」と、長期的視点で取り組む姿勢もみせた。

スパイラル展開が成長の源泉

 シャープは、2年連続の最終赤字となり、経営再建策として、液晶パネル生産のSDP(堺ディスプレイプロダクツ)を停止し、AIデータセンターに転換するなど、デバイス事業のアセットライト化を進めている。

 2027年度を最終年度とする中期経営方針では、デバイス事業を縮小し、白物家電をはじめとするブランド事業に投資を集中。これにより、ブランド事業で利益を稼ぎ、財務体質の強化することで、黒字転換と事業成長を図るシナリオを描いている。

 だが、長年に渡るシャープの成長戦略は、デバイス(技術)とブランド(商品)の両輪による「スパイラル展開」だ。この視点から捉えれば、液晶パネル生産を中心としたデバイス事業の縮小は、シャープの事業構造が片肺飛行になりかねない事態にも受け取れる。

 実際、シャープの歴史を紐解くと、技術と商品のスパイラル展開が成長の源泉だった。

 1964年にトランジスタダイオードを開発し、それを搭載したオールトランジスタダイオード電卓がヒット。この収益をもとに、MOS型ICやMOS型LSIを開発し、それらを最新の電卓に搭載して会社を成長させた。この半導体技術の蓄積は、液晶パネルの開発や太陽電池の開発につながり、計算結果を鮮明に表示できる液晶電卓や、電池が不要な太陽電池電卓の商品化につながった。これは「電卓スパイラル展開」と呼ばれ、技術と商品の組み合わせによって、スパイラルに成長していく構造だった。

 「液晶スパイラル展開」も同様である。セグメント表示やドットマトリクス表示といった技術は電卓やワープロといった商品に採用され、その成果をもとにSTN液晶やTFT液晶へと進化。それらの液晶パネル技術を、PCや小型テレビ、ハンディ端末、携帯電話などに位置早く採用し、その成果をもとに大型液晶パネルへと進化。これらが大型テレビやスマートフォンなどに採用されることになり、シャープの商品の優位性が発揮された。

 このように、シャープの事業成長は、デバイス(技術)とブランド(商品)の両輪があってこそ成しえたともいえ、シャープの歴代社長もそれを声高にアピールしていた。

スパイラル戦略からの脱却を敢えて進めるシャープ

 実際、2007年までシャープの社長を務めた町田勝彦氏は、社長時代に、「ブラウン管テレビの時代には、自社でブラウン管を持たなかったため、シャーシの良さを訴えても、ワンランク下の価格設定となり、ブランド価値があがらなかった。だが、液晶パネルというキーデバイスを自ら持つことで、安売りのブランドから脱却することができた」と語り、それがシャープのテレビ事業を二流のポジションから一流のポジションに引き上げる源泉になっていたことを示す。スパイラル展開の最大の成功事例ともいえる。

 だが、沖津社長兼CEOは、今回、スパイラル展開からの脱却を明確に宣言した。

 「確かに従来は、商品と部品のスパイラル展開がシャープらしい戦略だといっていた。だが、時代が変化して、いまはスパイラル展開ではない企業のほうが成功している。たとえば、アップルは工場を持たずに成功している。ソニーやパナソニックもパネルを作らずにテレビ事業をやっている」と市場の大きな変化を指摘。「『シャープらしさ』を守るには、時代の変化に応じて早く決断し、方向転換することが大切である。しがみついていると出遅れて業績が悪化する。流れを先読みして、変化に早く対応する」と語る。

 シャープがテレビ事業を成長させていたときには、液晶パネルの技術が進化の途中であり、大画面化や広視野角、応答速度といった点での改良余地が大きく、新たな技術をいち早く採用した自社生産の液晶パネルを活用することが、テレビの競争優位性を発揮することにつながっていた。だが、いまでは液晶パネルを使いこなし、画像処理エンジンやAIプロセッシングユニットによって画質や音質を高めたり、ネットコンテンツの市長が広がるなかで操作性を高めたりといったことが競争のポイントになっている。テレビ事業に関していえば、液晶パネルというデバイスにこだわらずに、商品の差別化ができるようになっている。

 こうした時代の変化を捉えたところに、沖津社長兼CEOが語る「スパイラル展開からの脱却」という意味がある。

昔のシャープに戻ることが、シャープらしさではない

 だが、こうも語る。

 「昔のシャープに戻るのが『シャープらしさ』ではない。いまの環境に応じた『シャープらしさ』があると考えている」

 創業者である早川徳次氏が語った「真似されるものを作る」というのは、シャープらしさを示す普遍的要素といえよう。問題は、そこに、新たな時代に向けて、どんな「シャープらしさ」を加えていくかということになる。デバイスではない差別化要素が求められるともいえる。

 沖津社長兼CEOの手腕が試されるポイントともいえるだろう。

「シャープを世界に誇れる会社に成長させたいという気持ちは誰にも負けない」と語る沖津社長兼CEOが作り上げる「シャープらしさ」が楽しみだ。

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