AI PCはいずれ生活の一部に 「いまはインターネット黎明期と似ている」
ASCII.jp / 2024年8月7日 13時0分
2024年6月のCopliot+PC発売、そしてWindows 10のEOS(サポート終了)など、大きな変化を迎えつつあるノートPC市場。
ノートPCの新時代ともいえる今、AI PCを取り扱う大手メーカーに取材・インタビューしていく本連載。第2弾はデル・テクノロジーズへ訪問。パソコンや周辺機器のほか、サーバー、ストレージ、ネットワークなどのITインフラ、サービスや保守に至るまで、さまざまなITソリューションを自社で提供しているのが特徴だ。
ノートPC事業においては、「XPS」「Latitude」「Inspiron」ブランドで、クアルコムのSnapdragon Xシリーズを搭載したCopliot+ PCを3機種発売している。
Copilot+ PCは、クラウドに問い合わせることなく、パソコンの中で生成AIの複雑な処理をこなせる新たなPCのカテゴリーとなっている。そのために必要な高性能をマイクロソフトは定義し、その仕様を満たすパソコンの開発を各社に働きかけているが、デルもその働きかけに応じた最初のメーカーのひとつだ。
Copliot+ PCを含むAI PCについて、前向きな印象がある同社に、2024年以降のノートPC戦略、そしてAI PCがもたらす生活の変化について聞いてきた。
インタビューに応じてくれたのは、コンシューマー向けPCのプロダクト マーケティングディレクター 文 英梅氏だ。
計5機種を投入 AI PCを積極的に推していく
――本日はよろしくお願いします。早速ですが、今年はCopliot+ PCが発表され、来年にはWindows 10のEOSがあります。ここからノートPC市場が大きく動いていくと思いますが、御社の戦略からお聞きしたいです。
PC業界としては、コロナ禍の特需以降、数年間市場の停滞が続いています。ただCopliot+ PCが発売されたということでお客様からの関心は高くなっています。
2025年にはEOSもあるので、私どもとしては来年の需要をキャッチするために、AI PC(Copliot+ PC)に注力していきます。今年はすでに3機種発売していますが、9月には2機種追加し、年末~2025年にむけてさらに増やしていく予定です。
――新型コロナ対策の行動制限によってPCの需要が一時的に上がったけれど、その反動があったわけですね。
最初の1年~2年は高い需要がありました。おそらく過去最高だったかと。ただコンシューマーは(買い替える)サイクルが約7年と言われており、そのサイクルはさらに伸びています。
コロナ禍の最初の年から、4年目に入ったいま本当に必要に迫られた人たちは買い替え始めていますが、一般的にはその波がきていないですね。Copliot+ PCの登場は買い替えを加速してくれそうですが。
――現在の販売チャネルとしてはどこがボリューム層になりますか?
国内のコンシューマーの場合、半分以上がダイレクトビジネスで販売しています。
ユーザー層としては30代後半から50代前半の男性の比率が高いですが、傾向が変化して、学生などの若い層も増えてきていますね。(若い層は)昔は1割未満でしたが、いまは2割以上となっている状況です。
――御社の方針としては、Copliot+ PCをどんどん推していく形でしょうか?
Copliot+ PCは新しいもので、関心も高いですが、まだ様子見のお客様が多いです。我々としてはCopliot+PCは積極的に宣伝していく方針ですが、従来型PCも継続して販売する予定です。 AI PC(Copliot+ PC)はスマホではカバーできないこともできますから、お客様にもいろいろなメリットがあると思います。
お客様の反応として「これでなにができるの?」という声が多いので、タッチ&トライイベントなどを企画して、実際、触ってみてどういうことができるかを知って購入してもらえればと。
いまはインターネット黎明期と同じ状態
――AI PCでなにができるのかというのも重要なメッセージですね。
いまはインターネットが流行る前と同じ状況かと。インターネットがここまで我々の生活に浸透するとは誰も想像してなかったですし、個人的には、AI PCは今後生活と離れられないぐらい重要になると思います。
Copliot+ PCはローカルでAI処理ができるので、インターネットにつながなくても仕事ができます。タイムパフォーマンスを上げることができ、自分の時間を創出できるメリットがありますね。
――マイクロソフトは2026年に市場の半分をCopliot+ PCが占めると予想していますが、御社はどうでしょう?
将来的にはCopliot+ PCがメインになってくると思います。我々としても2026年には半分以上のシェアになると予想しています。
――Copliot+ PCが市場に出始めても、いざ使えるようになるまでにはラグも発生するかもしれません。
昔は発表される媒体が限られていたので、浸透するまでに時間がかかりましたが、いまはSNSなど、いろいろな媒体があり、拡散スピードも速くなっているのではないかと。
マイクロソフトさんもCopliot+ PCについては積極的に宣伝しているので、弊社としてもどんどん我々の製品を宣伝していきたいと思っています。
――いろいろなユースケースを御社が出すことで積極的にAI PCを使ってみようっていう気持ちが盛り上がってくる部分もありそうです。
AIとPCは親和性が高いとか、ユースケースを提示することはいいアイデアですね。PCは家族などで共有できるデバイスでもあるので、コラボレーションしながら使える魅力もあるのではないかと。
――Copliot+ PCは現状だと尖っている製品という見方もありますが、ここまで多くの機種を投入する理由はなんですか?
新しい製品であり、尖った部分もあるので、現状は一定のユーザーしか興味を持たない部分もあるのかと。ただ、個人的にはこれからAIは普段の生活と離れられないものになってくるので、一過性ではなく、将来的にはCopliot+ PCがメインストリームになると思っています。
弊社としてはCopliot+ PCをもう少し推していきたいと思っています。数が出るまでには時間がかかると思いますが、それをいまやらないと、いざ流行ってきたときに乗り遅れてしまうので。1年後に市場投入している効果が出ていくのではと。
Z世代にCopliot+ PC「XPS 13 」は打ってつけ
同社は、ワークステーション以外のすべてのノートPCブランドでCopliot+ PCをラインアップする。既出の製品としては「XPS 13 」「Latitude 7455」「Inspiron 14 Plus 」(2024年7月30日取材時点)が展開されている。 共通仕様としては、Snapdragon Xシリーズを搭載し、40TOPSを超えているため、スピードとパフォーマンス性能は非常に高い。省エネ性能のほか、バッテリー持ちもいいので、ビデオ会議が長くできるなどハイブリットワークで使えるところがメリットだ。
ちなみに、Copliot+ PCと従来型のPCでブランドは分けず、各シリーズの上位・下位モデルとして展開する予定だそう。注意点は今年2月以降のモデルは、Copilot+ PCであるかどうかにかかわらず、キーボードにCopliotキーが搭載されていること。つまり、CopilotキーがあってもすべてがCopilot+ PCではない。少し判別が難しいところではある。
XPS 13は、シリーズを通して「デザイン」「サステナビリティ」「ハイパフォーマンス」が特徴のプレミアム感にこだわった製品となる。
同製品は、Z世代・ミレニアム世代など、新しい世代のユーザーをターゲットに据えている。開発段階で、Z世代が製品にシンプルさを求めており、余分なものを取り除いたデザインになったという。
注目なのは、タッチファンクションメディアキー。普通のキーボードだと、それぞれファンクションキーが配置されているが、XPS 13の場合、利用できる機能だけ点灯するため、インターフェースがシンプルとなっている。
またタッチパッドは段差をなくし、パームレストとシームレスに一体化させていることで、窪みがない分すっきりとした見た目となのも特徴だ。
主なスペックとして、CPUにSnapdragon X Elite、グラフィックスにQualcomm Adreno GPU、16GBメモリーと512GBのストレージを搭載。ディスプレーは13.4型FHD+(1920×1200)、インターフェースにはUSB Type-C×2を装備する。
製品サイズは幅295.30×高さ14.80~15.30×奥行199.10mmで重さが1.17~1.19kgで、価格は24万9980円~。周りと差別化したい、スタイリッシュなCopliot+ PCを探しているユーザーにとってはおすすめなモデルではないだろうか。
Inspiron 14 Plusは、プレミアム感よりはユーザビリティーの高さを意識した製品となっている。
ユーザーのコスパを重視した製品で、XPS 13と比較すると、いい意味で従来のPCデザインを踏襲しているので、癖のない使用感となっている。個人向けとして非常に使い勝手がよさそうだ。
タッチディスプレーを採用しているほか、最大21時間(ローカルに保存したビデオを再生した場合)とバッテリー性能もなかなかにいい。
主なスペックとして、CPUがSnapdragon X Plus/Elite(選択可能)、グラフィックスにQualcomm Adreno GPU、16GBメモリーと512GB/1TB(選択可能)のストレージを搭載。ディスプレーは14型QHD+(2560×1600)、インターフェースにUSB 3.2 Gen 1 Type-A、USB Type-C×2、オーディオジャック×1を装備する。
製品サイズは幅314.00×高さ14.69(最薄)~16.90(最大)×奥行223.75mmで重さが1.44kg(最小構成時)。Copliot+ PCながら、価格は17万3552円~と安く抑えられているので、はじめてAI PCをつかってみたいユーザーは一考の価値ありだ。
インタビュー中にはPC本体の大きさについても興味深い言及があった。デルでは現在、15型ノートPCを主流としつつ、13、14型が伸びており、半分くらいを占めるという。
また、文氏によると市場のトレンドは15インチから16インチなどワンサイズ上の画面サイズに移行しているという。これは液晶ディスプレーのベゼルが狭くなっているためで、本体の大きさはほぼ同じとなる。ベゼルのぶんだけ画面が広くなるわけだ。
実際に今年は、13型から14型、15型から16型などノートPCをワンサイズ大きくしている人が多いので、業界的にもこの流れが進んでいくだろう。
いまは大きなチャンスの時期
同社への取材を一言で表すと“AI PCを積極的に投入していく”、ということだった。
XPS、Latitude、InspironとノートPCのすべてのブランドでCopliot+ PCを発売していたり、タッチ&トライイベントを何度も実施してCopliot+ PCの魅力をしっかり訴求していくというのも、その強い現れではないだろうか。
文氏の「生成AIの今の状況は、インターネットの黎明期に近い」という言葉も印象的だった。 ある大学では、プログラミングの講義をする際、ChatGPTを利用可能にしているそうだ。結果、学生が主体的になり、講義中に寝てしまう学生が減ったり、出席率が上がったりする効果が得られたという。
ChatGPTを使うことで手軽にプロンプトエンジニアリングなどを学べるので、当然、それに触れていない学生との差も広がってくる。新しいものをいち早く使うことで、周りと差がつく現象は昔からあることだが、Z世代の間で今後生成AIが普及して、インターネットと同様のインパクトを社会にもたらすのであれば、そこには大きなチャンスが待っているだろう。
あえてZ世代という言葉をつかったが、世代を問わず、多くの人々がAI PCに触れ、インターネットの一般化、ブロードバンドによる常時接続に続く、新しい波を作って行くのであれば面白い。
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