「ググる(サーチ)」から「尋ねる(アスク)」へ、AIが変える検索の形
ASCII.jp / 2024年8月21日 12時0分
「ググる」という言葉は2006年に流行語大賞に選出され、一般的に広まった。
「グーグルで検索する」を略してググるとなったわけだが、いまこのググる=検索するという概念が変わる時代に近づいている。
AIの登場によって、この検索自体が不必要となる未来がくるかもしれない。
本連載はAI PCに着目し、それを取り扱うメーカーにインタビューしていく企画だ。なぜ冒頭で、ググるについて取り上げたかというと、日本エイサーの取材で“検索の概念がなくなる”といった興味深い話を聞けたからだ。
日本エイサーは、デスクトップ・ノートPCのほか、サーバーや、ディスプレー、周辺機器などを幅広く開発しているメーカーだ。
ノートPC事業においては、コンシューマー市場をメインで進めている。日本メーカーがあまり取り組んでこなかったChromebookに関しても推進し、教育市場や法人からの評価も上がっているという。また今年の6月にはCopilot+ PC「Swift 14 AI」を発表している。
コンシューマーPCに力を入れている日本エイサーにAI PCに対する考えを聞いた。
取材を受けてくれたのはノートブックPC プロダクトマネージャーの武富 温氏だ。
いまは啓蒙中 ハードができあがった第1段階
――AI PC(Copilot+ PC)についての考えを聞かせてください。
いまはAIという言葉が独り歩きしている状態に感じられます。コクリエイターなど、PC内で完結できるアプリは登場していますが、多くのユーザーは「それを使ってなにができるの?」という段階で止まっているのが実情で、啓蒙が必要だと感じています。
PC業界はハードができ、サービス・アプリが育ち、それを快適に使うために、さらにPCが進化するサイクルで回っています。今はハードができあがった第1段階で、ここからAIのサービス・アプリが出てくる第2段階が始まるのでしょう。 とはいえ、ハードが売れないと、そもそもサービス・アプリも育ちません。弊社としては重要なカテゴリーとして、AI PCをアピールしていこうと思っています。
――そのサイクルには、どれくらい時間がかかりそうでしょうか?
2~3年はかかるのではないでしょうか。購入しやすい価格になっているかどうかも重要だと思います。日本のコンシューマーPCの平均価格は13万円ほどですが、Copilot+ PCは20万円台半ばからとなり、かなり高価な部類に入ります。 ただし、コンシューマーの買い替えサイクルは約8年と言われているので、AI PCを今のうちに買っておくべきというメッセージは出していきたいですね。
IT大国のように思われがちな日本ですが、総務省の調査によると、生成AIをつかっている日本人は9.1%ほどで、中国は56%というデータもあります。
日本では、PCでなにをするかと聞かれて、年賀状・メール・ウェブブラウズだけの時代が長く続いてきたので、AIを切り口にして、もっとPCには使い道があることをアピールしていきたいですね。
マイクロソフトさんによるとPCを使うユーザーは1週間で平均5時間以上、何らかの探し物をしているそうです。まだ実装前ですがリコール機能(一定間隔に保存したスナップショットから過去の利用履歴を検索できる機能)をつかえば業務時間の削減もできるので、業務改善にも大きくつながっていくのではないかと。
“ググる”ではなく“アスク”する
――日本とグローバルで比較したときのAI PCの売れ行きはいかがでしょう?
日本では非常に少なく、10%です。ただし、グローバルでいくとAI PCの出荷台数は40%を超えています。
(ここまで差がつくのは)やはり日本人がAIを受け入れていないということでしょう。法人・個人問わず同じような状況ですので。
――グローバルですと、どんなふうに生成AIを使われているのでしょうか?
文章のたたき台(提案・アイデア出し)をつくることでしょうか。時間短縮につながり、企業で使うのに非常に有益です。
今後はウェブブラウザーでググる(サーチする)のではなく、CopilotやGeminiなどにアスクする(尋ねる)ことが普通になっていくでしょう。
グローバルでは、検索結果を見て判断する方法からAIから回答をダイレクトに得る方法への移行が進んでいます。 日本ではまだそれが遅れているというイメージですね。シンプルに知らないという人もいますし、現状のPCでなんとかなる状況がまだAI PCが浸透していない理由の1つではないかと。
――「AI PCでこんなことができるんだ」というユースケースを伝えることも重要そうですね。
今年の1月に家電量販店で、画像・音楽生成AIの実演をしたのですが、生成AIにはじめて触れたお客様からはアンケートで「5万円高くても買う」という声もいただきました。まだ生成AI自体を知らないお客様もいるので、価値を認めてくれれば、購買につながっていくと思います。
AIを「見える化」できるSwift 14 AI
日本エイサーが8月9日から順次販売しているCopilot+ PCがSwift 14 AIだ。CPUにクアルコムのSnapdragon Xシリーズを搭載、メモリーは16GB、ストレージはPCIe Gen 4で1TBとなる。
ディスプレーは14.5型WQXGA(2560×1600ドット)、リフレッシュレート120Hz、sRGB比100%の色域で、10点マルチタッチに対応したIPSパネルを採用している。Copilot+ PCを使う際はコクリエイターなど手描きしたいアプリもあるので、タッチディスプレーに対応しているのは嬉しいポイントだ。
大きな注目点はAIがローカルで動いているとタッチパッドにあるインジケーターが光ることだ。個人的には、AIが本当に動いているのか「見える化」できるので、最先端の技術に触れている気持ちになれる。
通話機能にも進化がある。一般的なPCでは、2基しかマイクを搭載しておらず、ビデオ会議時など、周囲の雑音も一緒に取り込んでしまうが、Swift 14 AIは、PC前面に第3のマイクを搭載。このトリプルマイク配列によって、人の声と周囲の騒音を分離できるため、クリアに人の声を届けられるという。
さらに、NPUを搭載するPCのみで利用できる「Windows Studio Effects」はリリース当初は背景ぼかし・アイコンタクト・自動フレーミング機能のみが提供されていた。Copilot+ PCではこれがバージョン 2.0に上がり、音声フォーカス・ポートレートライト・クリエイティブフィルターなどが追加されている。Swift 14 AIではこれに加え、エイサー独自の映像向上機能を実装。ポートレートとシャープさをさらに強化しているという。
ハイブリットワークも当たり前になってきたので、マイク・カメラなどの機能が充実しているのはいいところだ。
バッテリー駆動は最大26時間。インターフェースはUSB 3.2 Type-A×2、USB4対応 USB Type-C×2、ヘッドホンジャックとなる。製品サイズはおよそ幅322.6×奥行き225.95×高さ17.95mmで、重さはおよそ1.45kg。
同社はAI PCについて、マイクロソフトのアピールと同様、モバイルPCを中心に展開していく考えで、今後の動向次第でクアルコム以外のCPUを搭載したAI PCも出していきたいと言及していた。
主にハイエンドモデル中心に展開するので、エントリーモデルではNPUを搭載しないモデルも同時に扱っていくとコメントした。 とはいえ、AI PCが普及して価格が落ちてくれば、ソフトウェアメーカーも参入しやすくなるので、将来的にはAI PCが主流になっていくとも語っていた。
たとえば、TOPS値で比較した場合、NVIDIAのディスクリートGPUを積んだゲーミングノートPCはCopilot+ PCを超える性能を持つ。
同社の「Acer Nitro 5」はモバイル版のGeForce RTX 4060を搭載できる。TOPSでいえば300以上の性能があり、かつ実売価格は16万円前後だ。
こうしたPCは現状ではCopilot+ PCを名乗れないが、将来的にはディスクリートGPUを積んだゲーミングPCがCopliot+ PCと呼ばれる日がくるかもしれない。
もっとAIに触れてほしい
武富氏はインタビューの最後で「価格を下げる企業努力は引き続きしていくので、まずはAIに触れてみてほしい」と語っていた。
冒頭で述べたように、検索という概念がなくなり、アスク(尋ねる)だけでAIが答えを示してくれるのなら、仕事のあり方は大きく変わってくる。 仕事の下調べや資料作りに膨大な時間を奪われなくなる未来は、もうすぐそばまで来ているのかもしれない。新時代の仕事術にいち早く触れたい人にもAI PCはおすすめだと言えるだろう。
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