シャープ「AQUOS R9」はデザインやチップの変更で評価が分かれたが、実機であらためて実力を検証した
ASCII.jp / 2024年8月24日 12時0分
シャープのスマートフォン新機種「AQUOS R9」は、同社がハイエンドに位置付ける「R」シリーズの最新モデルとなる。
最上位の「Pro」シリーズが投入されなかった上、デザインの大幅な変更やミドルハイクラスのチップセットの採用など、物議を呼ぶ変更が多くなされたAQUOS R9だが、実際の使い勝手はどう変わったのだろうか。シャープから貸与された実機で検証してみよう。
海外を意識してかデザインが劇的に変化
まずはサイズを確認すると、AQUOS R9は約6.5型のディスプレーを搭載しており、サイズは約75×156×8.9mm、重量は約195g。前機種に当たる「AQUOS R8」はディスプレーサイズが約6.39型で、サイズは約74×159×8.7mm、重量は約179gであったことから、画面サイズが少し大きくなったぶん、やや重くなった。
前面はディスプレーに「Pro IGZO OLED」を採用し、リフレッシュレートは1~240Hzの可変駆動だが、より大きく変わったのはデザインだろう。
AQUOS R8を始めとしたここ最近のAQUOS Rシリーズは、背面のカメラを中央に配置し、カメラを際立たせたデザインが大きな特徴となっていたが、AQUOS R9ではカメラの位置が左に寄せられただけでなく、その形状も円とも楕円ともつかない独特のものに変更がなされている。
このデザインの大幅な変更は、シャープがあえて狙って取り組んだもの。デザイナーの三宅一成氏が設立したmiyake designが担当し、あえて違和感を覚えるデザインを取り入れ、新たな特徴を打ち出している。
従来のスマートなデザインのAQUOS Rシリーズを使ってきた人からすると違和感は大きく、特徴的ではあるが評価を分ける要素となっていることは間違いないが、一方でカメラの出っ張りが低く抑えられており、実用面では大きな影響はない印象だ。
カメラ部分以外のデザインにもいくつか変更が加えられている。たとえば背面では、AQUOS R8はマットな質感の素材が採用されていたのに対し、AQUOS R9は光沢のあるガラス素材を採用。質感は大きく変わっているが実際に使ってみると指紋はあまり目立ちにくくなっているなど、素材面で工夫が施されているようだ。
そしてもう1つ、大きく変わったと感じるのが角の部分で、AQUOS R8と比べると丸みが小さくなり、よりスクエアな形状であることに重点が置かれている。このあたりも好みが分かれるところだろうが、筆者としては角に手に当たる時のフィット感が弱まった印象がある。
側面のインターフェースも変化している部分があり、具体的には上部の3.5mmのイヤホン端子がなくなったことだ。国内のスマートフォンメーカーはこれまで、ハイエンドモデルであってもイヤホン端子を残す傾向にあったのだが、AQUOS R9は元々海外で販売することが想定されていることもあってか、最近のハイエンドモデルでは一般的なイヤホン端子なしの仕様に変わったようだ。
それ以外のインターフェースは大きく変わっておらず、右側面には音量キーと、指紋センサーを搭載した電源キーが搭載。
本体上部にはSIMトレイが備わっており、SIMピンがなくても抜き差しできる仕組みは維持しながらも、トレイは「AQUOS R8 Pro」など従来のフラッグシップモデルと比べると頑丈になっている感がある。
カメラは画素数の統一を図るも切り替えがやや遅い
続いてカメラを確認すると、AQUOS R9の背面のカメラは約5030万画素/F1.9の標準カメラと、約5030万画素/F2.2の広角カメラの2眼構成。フロントカメラも約5030万画素/F2.2で、いずれのカメラも高い画素数に統一しているのが大きな特徴。標準カメラ以外の画素数が低かったAQUOS R8と比べると、大きく進化したポイントだ。
ただ標準カメラはほかのカメラとは異なり、1/1.55インチのイメージセンサーを搭載するほか、AQUOS R8と同様にライカカメラが監修した「HEKTOR」レンズを採用。電子式だけでなく光学式の手ブレ補正にも対応するなど、最も力が入れられていることは確かだ。
標準カメラを主体に撮影しながら、対応しきれない場面でほかのカメラを使うという使い方は基本的に変わらない。
一方で気になったのが、「写真」モードで標準・広角ズームの切り替えにやや時間がかかることで、長い時は体感で2秒近くのタイムラグが発生してしまうのには不満が残る。「動画」モードでは同様のタイムラグが発生しないだけに、撮り逃しを防ぐためにも改善がほしい。
またAI技術を活用した機能もいくつか追加されており、1つはAIが被写体の動きを予測して追尾する機能。被写体が一瞬陰に隠れても追尾を続けられるというもので、ソニーのフラッグシップモデル「Xperia 1 VI」もより高度な処理を用いて実現しているが、それよりも安価なAQUOS R9で同じような機能が実現ができているのには驚きがある。
そしてもう1つ、AIを活用した機能として注目されるのが、料理に映りこんだ影を除去する機能だ。実際に使ってみると、確かに影が目立たなくなるので便利だが、全体的に被写体が明るく写る傾向にもあるようだ。
また、動画に関しても「PROビデオ」モードが用意され、こちらを用いることで夜でも明るく撮影できる「ナイトビデオ」や、背景をぼかした「シネマティックビデオ」などの撮影が可能になる。動画撮影にこだわる人にもメリットは大きい。
Snapdragonの「7+」は「8」にどこまで迫るのか
性能面を確認すると、AQUOS R9のチップセットはクアルコム製の「Snapdragon 7+ Gen 3」であり、メモリーは12GB、ストレージは256GBだが、1TBまでのmicroSDによる増量が可能。AQUOS R8と比べた場合、搭載するチップセットがハイエンドの「8」ではなくミドルハイクラス向けの「7シリーズ」にダウンしている点が、デザイン同様物議を呼んだもう1つのポイントだ。
ただシャープとしては、AQUOS R9の性能はAQUOS R8と大きく変わらないとしている。では実際のところ、Snapdragon 7+ Gen 3の実力はどの程度なのだろうか。ベンチマークやゲームなどで性能を確認してみると、確かに以前のSnapdragon 8シリーズに匹敵する性能はあるようで、ゲームのグラフィックなどは以前のハイエンドモデルと同等の設定が可能なようだ。
ただベンチマークのスコアを見る限りでは、AQUOS R8が搭載していた「Snapdragon 8 Gen 2」搭載機種と比べると低く、リアルタイムレイトレーシングにも対応していないことから、どちらかといえばその1つ前となる「Snapdragon 8 Gen 1」といい勝負、という印象だ。
ちなみに、ここ最近登場したAAAクラスのゲームのいくつかを最高のグラフィック設定にプレイしてみたところ、「ゼンレスゾーンゼロ」はスムーズに動作したが、「鳴潮」は時々フレーム落ちが生じることがあった。
当然、最新の「Snapdragon 8 Gen 3」搭載機種と比べると性能は落ちるが、ミドルハイクラスの中ではかなり上位の性能を誇ることは間違いないだろう。ベイパーチャンバーを搭載したことでゲームプレイ時の発熱もかなり抑えられており、ゲーミングを重視する人も不満を抱くことはあまりないだろう。
一方でバッテリーは5000mAhと、4570mAhだったAQUOS R8から増量された。一般的なハイエンドモデルと同等の容量になったことから、安心感が高まったことは間違いない。
そして通信に関してだが、SIMは物理SIM(nanoSIM)とeSIMのデュアルSIMに対応しており、ドコモからも販売されるだけあって、5Gの4.5GHz帯(バンドn79)にもしっかり対応している。国内で利用するなら安心だ。
その通信に関して、新たに話題の生成AIを活用した「伝言アシスタント」が搭載されている。これは電話に出られない時、端末本体に直接伝言を録音できる「伝言メモ」の発展形というべきものであり、録音した音声を文字起こしし、さらに要約もしてくれる。オンデバイス上のAI処理で実施することから、プライバシー面でも安心感がある。
実際に試してたところ、落ち着いて話せば比較的正確に文字起こししてくれるので、わりと便利だと感じるが、名前など固有名詞の変換がうまくいかないケースが多く、留守番電話で録音することが多い名前などの認識はもう少し改善が必要だろう。
要約機能はかなり長い伝言であれば有効なのだろうが、留守番電話に多い10~20秒程度の短いメッセージでは通常の文字起こしした内容とあまり変わらず、メリットが薄いと感じた。
【まとめ】デザインは好みが分かれるが機能・性能は満足感が高い でもやっぱり最高水準のProモデルの復活にも期待
AQUOS R9は昨今の厳しい市場環境を受けたこと、そして海外展開を意識して開発されたことなど、シャープの戦略転換を強く受けていることもあって、やはり従来モデルと大きく変わった点が非常に多いと感じた。
とりわけデザインに関しては、AQUOS R8シリーズで全体的な統一を図ってから短期間での方針転換ということもあって、好みが大きく分かれることは確かだろう。
ただ、実際に触れてみると、機能面ではAQUOS R8を踏襲しながらうまく発展がなされているし、性能に関してもAQUOS R8と同等とはいかないものの、大幅にスペックダウンしているワケではない。
カメラのズーム切り替え速度を除けば実利用で大きな不満を抱くケースはそれほど多くはなく、オープン市場で10万円をやや超えるという実売価格を考えれば、満足感の高い内容だ。
とはいえ、日本のハイエンドモデルを長年けん引してきたシャープが、AQUOS RシリーズのProモデルを投入しないという選択をしたことは非常に残念だ。やはり最高水準のProモデルの復活を大いに要望したい。
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