マランツの最上位機種がすごい! 敢えて一体型にした「MODEL 10」と極限の物量を注入した「SACD 10」
ASCII.jp / 2024年8月30日 16時0分
マランツは8月30日、Hi-Fi向けコンポの新フラッグシップ「New 10 series」を発表した。マランツの理想の音を提案するリファレンスモデル。価格はインテグレートアンプの「MODEL 10」が242万円。SACDプレーヤーの「SACD 10」が198万円。シャンパンゴールドとブラックの2色展開で、10月の発売を予定している。
MODEL 10
MODEL 10は、Class Dアンプを搭載したプリアンプ/パワーアンプ一体型モデル。ハイエンドオーディオの世界ではプリアンプ部とパワーアンプ部を別筐体にした、セパレート構成を選択するメーカーが多い。マランツも過去に「SC-7S2」「MA-9S2」などの製品を投入してきた。しかし、新発売のMODEL 10は、単体で200万円を超すフラッグシップ機でありながら、敢えて一体型の筐体を選択している。
その理由は、一体型ならではの自由度が高く、突き詰めた設計ができる点を重視したためだ。ブロックごとに自由度の高いゲイン配分が可能になるほか、デカップリングコンデンサーを減らし、配線用のケーブルも少なくできる。他社製品との接続などを考慮して、汎用性に配慮しなければならないセパレートアンプにはないメリットなのだという。
MODEL 10は、Class Dアンプやスイッチング電源が持つ省スペース性を生かしてパワーアンプ部をコンパクトにまとめ、空いたスペースにセパレートアンプに匹敵する回路規模のプリアンプ回路を搭載している。これは2017年発表の「PM-10」と共通する考え方だが、一筐体で完結するからこそ追い込める合理的な回路設計を追求した結果のひとつと言えるだろう。
また、パワーアンプ部の電源は左右それぞれのチャンネルで独立している。プリアンプの電源ももちろん独立しており、ステレオアンプというよりは、モノラルアンプを2基内蔵するイメージに近いものだ。
複数台のプリメインアンプのボリュームを連動させて、コンプリートバイアンプやマルチチャンネル再生ができるF.C.B.S.(Floating Control Bus System)にも対応。2台のMODEL 10を用意し、バイワイヤリングに対応したB&W「801 D4」などに接続すれば、パワーアンプだけでなくプリアンプも左右独立した状態で駆動できる。2018年の「PM-12」まで対応していた機能が、久々に復活した。
2台のMODEL 10を組み合わせたL/R完全独立駆動のバイアンプ駆動は、B&Wスピーカーのポテンシャルを完全に引き出す「純粋さの追求」(In pursuit of purity)の体現だ。マランツ製品の試聴室で音決めに使われているリファレンススピーカー「801 D4」の能力を完全に引き出すための製品として開発したのが「まさにこのMODEL 10であった」のである。
30kgを超える重量、見た目のインパクトも重視
筐体の見た目もゴージャスだ。2020年の「MODEL 30」と「SACD 30n」から展開している新生代デザインをより理想形に近づけた”Modern Classical Design”はマランツの伝統的なデザインエレメントを盛り込み、ステンレス素材で作った波状メッシュの天板「Waved top mesh」を採用している。
「MODEL M1」も同様の天板だが、実はMODEL M1とMODEL 10の開発時期は重なっており、元々はMODEL 10で先行して採用する想定だったようだ。音楽の旋律とリズムを再現するコンセプチュアルな形状だが、上部を完全にふさがないことから、音の面でも広大な空間表現に寄与するという。
フロントパネルの全周に加えて内部にもイルミネーションを施し、マランツの技術とサウンドを視覚的に表現している(従来はフロントの左右のみの点灯)。発光するディンプルをあしらったフロント部、そしてサイドもアルミの削り出しとなっている。コーナー部は押し出し加工では完璧な直角が出せないため、L字に押し出した型から全周を機械で削り出すことで、完璧な精度を出しているそうだ。外装部品の多くは厳選した国内メーカーだけが製造できるものだという。
シャーシの底板は3層構造で合計5.6mm厚。全て銅メッキされているが、ブラックモデルは銅メッキを施した上でさらに黒く塗装するという念の入れようだ。インシュレーターは内側が銅板で、外側がアルミのハイブリッド構造。サイズも94mm径と非常に大きい。サウンドマスター自身がリクエストしたもので、アルミと銅の音質のいいとこどりができる脚部だという。
内部は2層3ブロックの高剛性構造で下側にパワーアンプ部、上側のプリアンプ部を配置している。内部にはPurifiと共同開発し、スイッチング電源部から独自開発したアンプモジュール、パワーアンプ部の省スペース化によって実現できたセパレートアンプ(SC-7S1)に匹敵する規模のプリアンプ回路を搭載している。
パワーアンプ部
下層にあるパワーアンプ部は前側が新規開発の電源回路、後ろ側が「マランツオリジナルのクラスDスイッチングパワーアンプ」となっている。Class DアンプはデンマークのPurifiと共同開発。Purifiの基本設計に基づいてマランツが自社で部品選定や基板設計をして、白河工場で製造している。
Purifyは新興の設計会社であり、知名度は高くないかもしれないが、マランツとは関係の深い企業だ。共同創業者のBruno Putzeys氏は、過去にフィリップスの研究所に在籍しており、サウンドバーやB&Wのサブウーファー用のアンプを設計して供給していた。Hypexにも在籍し、Ncoreモジュールの開発に携わっている。マランツの開発陣とBruno氏はフィリップス傘下にあった1980〜90年代から親交があり、2017年の「PM-10」でHypexの「NCore NC500」を採用したのもこのつながりがあったためだという。
MODEL 10ではPM-10のコンセプトをさらに進化させたデュアルモノラル構成を採用。これは上述の通り、電源を左右にひとつずつ搭載し、モノラルパワーアンプがふたつ入っているような構成になっている。専用設計のスイッチング電源(SMPS)を用いた500W+500W(4Ω)の高出力を持ち、電源とスピーカー出力をつなぐ配線には、バスバーを用いて信号ロスを最小化できるようにしている。
Class DアンプはBTLを前提とした専用設計/完全バランス回路となっている。250W+250W(8Ω)、500W+500W(4Ω)などの出力を1kHzなど制限した条件ではなく、20Hz〜20kHzなどすべての可聴帯域で保証している点もポイント。
アナログアンプでは当たり前だが、スイッチングアンプでそれを実現できるよう、電源から検討している。出力はPM-10との比較で25%アップ。歪みもTHD+N=0.05%と低く抑えている。単体のモノラルパワーアンプに遜色ないハイパワーと低歪みを実現している。
プリアンプ部
上層に置かれるプリアンプ部も独立した専用のリニア電源で駆動している。単品プリアンプ並みの回路規模を高密度実装で実現。高密度実装でコンパクトにした2枚の基板を積み重ねている。上部に来るのが電流帰還型の電圧アンプと可変ゲイン型のボリュームアンプ、下側に来るのがプリアウトバッファー、バランス-アンバランス変換回路、トーンコントロールなどだ。4層基板を採用したことで電源やGNDも強化、低インピーダンス構造にした。信号経路の最短化に加え、内部で使う配線も最小にしている。
マランツ独自のHDAMモジュールはモデルごとに改良が加えられているが、MODEL 10はその最新版を採用している。
図の青色の部分(入力JFET)にカスコード素子を追加して歪みを下げ、赤色の部分に2in1パッケージのトランジスターを採用して、動作の安定化と小型化を実現しているという。部品もマッチ箱程度のサイズがあった初期のリードタイプから面実装のチップに入れ替わり、全体の小型化を果たしている。新型のHDAM-SA3ではMELF型抵抗を音質の良いVishay製のモデルにするなど部品を再選定している。
完全バランス構成の可変ゲイン型ボリュームアンプでは、この改良したHDAMやHDAM-SA3を多用。NISSHINBOのボリューム素子「MUSE S72323」を4基使用したバランス駆動のリニアコントロールボリューム回路、DCサーボ回路を採用し、信号経路のカップリングコンデンサーを排除し、高純度な伝送を追求。HDAM-SA3の使用はコンパクト化にも寄与したという。
フォノイコライザー回路は銅メッキしたケースでシールド。アルマイト処理をしたアルミ製のトップカバーと銅メッキ鋼板によるボトムケースとなっており、MM/MCカートリッジに対応、MCは3段階(33Ω、100Ω、390Ω)。回路構成は+20dBのMCヘッドアンプと+40dBの無帰還フォノイコライザーアンプの2段構成。
また、ヘッドホン出力専用の電流帰還型のフルディスクリート・ヘッドホンアンプも搭載している。普及価格帯のアンプではスピーカー出力にアッテネーターなどを入れてヘッドホン出力と共用するものも多いが独立した回路にしている。低インピーダンスのヘッドホンでも本来の性能を引き出せるよう、低い出力でのインピーダンスに注力。オペアンプを使用しないフルディスクリート構成として、HDAM-SA3やマランツの従来製品で定評のあるダイヤモンドバッファーを組み合わせつつ、きめ細かな音質チューニングをしているとのこと。
事前検討を含む音質検討の時間は通常モデルの10倍。MELF抵抗など高音質パーツを随所に使用している。
入力端子はバランス2系統、アンバランス3系統、PHONO入力、パワーアンプ入力(バランス/アンバランス各1系統)、プリアウト出力(バランス/アンバランス各1系統)、アンバランス出力などを装備する。なお、スピーカー出力は2系統あるが、流れるのは同じ信号だという。本体サイズは幅440×奥行き473×高さ192mmで、重量は33.7kgだ。
SACD 10
SACD 10は、コンパクトディスク再生機の集大成として開発したディスクプレーヤー&USB DAC。マランツはフィリップス傘下で、CDプレーヤー/SACDプレーヤーの両方のオリジネーターとして製品を開発した。その自負を込めて、オリジナルDACの搭載、自社開発のSACDドライブ、こだわりのアナログ回路などを搭載した最高クラスの製品を開発した。
デザインはModern Classical Designを採用。MODEL 10とも親和性が高い。アルミ製のトップカバーは厚さ12mmとのことだが、これはシャーシの底板よりも厚いというから驚異的だ。騒音や振動を対策するために採用した。内部は2層4ブロック構造で、下層に電源とドライブメカ、上層にデジタル回路やDACを収めている。新デザインとなるアルミ無垢のトレイトップも目を引く特徴だ。
メカ部はアルミ押し出しベースの上に堅固に取り付けてある。ドライブメカの下にはCDデコーダー基板がある。ここはブラックボックス化されており、普通はカスタマイズできないが、SACD 10では設計段階で使用部品などを再選定できたという。SACD 10はUSB DAC機能も持つが、ディスクを再生しない場合はCDメカに供給する電源をシャットダウン。低ノイズ化を図れるという。
DAC部も汎用チップを使わず独自開発している。
オリジナルディスクリートDAC:MMM(Marantz Musical Mastering)は、フィリップスのビットストリーム技術の系譜で、前段に置かれた「MMM-stream」がデジタル信号処理を担当するブロック。ここで入力したPCM信号はオーバーサンプリングなどを経て11.2MHzのDSD信号として出力される。後段に置かれている「MMM-conversion」は1bitの信号をアナログ信号として出力するためのフィルターとして機能するブロック。前段と後段はアイソレーターを挟んで繋がっている。アナログフィルターは8タップの作動出力になっており、4ch(L+、L-、R+、R-)の信号レベルを取り出すための操作を8回繰り返すものとなっている。従来は1パッケージの半導体ICを使っていたが、SACD 10ではバラバラに32個並べたものに変更。抵抗値が下がるので、出力電流が約3倍となり、性能と音質の改善に寄与した。
SA-10と比較した特性はSINAD(Signal-to-noise and distortion ratio)で4.5dB、S/N比で8.1dB改善したという。また、MMM基板とデジタル基板の両方をそれぞれ4層から8層に変えることで、低ノイズ/低インピーダンス化。アナログ回路もHDAM、HDAM-SA3の最新版を採用するなど、使用パーツの再選定で音質改善を図っているという。
ノイズ対策も徹底している。アナログフィルター部の基板の上下にシールドケースを設けて低ノイズ化。またL/Rの回路やアナログフィルターとユニティゲインバッファーの間を銅板でシールド。ここも電源やGNDを強化でき、低ノイズ/低インピーダンス化に寄与する8層基板にしている。
各ブロックのノイズが相互に混入することを防ぐため、デジタル回路用の電源とアナログ電源用の電源トランスと電源回路を左右に分けて配置。また、スタンバイ電源用の回路も別途用意している。トランスは銅製のアルミ棒で持ち上げて固定。非磁性体のものを浮き上がらせているという。
ヘッドホンアンプはMODEL 10と共通の電流帰還型だが、MODEL 10にはない3段階のゲイン切り替え機能を装備している。
本体サイズは幅440×奥行き442×高さ192mmで、重量は33kg。バランス、アンバランス、同軸デジタル、光デジタル、ヘッドホン(6.3mm)出力、同軸デジタル、光デジタル2系統、USB-A、USB-B入力を装備。
入力できるデジタル信号は、最大11.2MHzのDSDまたは最大384kHz/32bitのPCM(USBデジタル入力)、最大192kHz/24bit(光/同軸デジタル入力)。なお、USBメモリーからの再生時はDSD(dsf/diff)が最大5.6MHz、PCM系が最大192kHz/24bitとなる。データディスクの再生も可能だ。
単純な情報量だけでなくアナログ的なニュアンスも豊富
マランツの試聴室で実機のデモを体験できた。
今回は旧機種との比較はなく、最初にSACD 10とMODEL 10の組み合わせて試聴。その後MODEL 10を1台追加し、F.C.B.S.を使って801 D4をコンプリートバイアンプ駆動する内容だった。
まずは1台ずつの構成から。音とは直接関係がないが、リモコンにはライティングボタンが用意されていて、電源を押すとちょっと間があってふわっとディスプレーが点灯する。こうした細かな演出にも気を配ったデザインになっているのは上質感があるし、好感を持てる。
SACD 10はディスクの再生はもちろんだが、データディスクやNASとの連携など、ディスクプレーヤーの枠をこえ、現代のソース機に求められる多機能性を一式取り込んでいる。ヘッドホン端子も持つため、単体でも利用できる機種にもなっている。
製品の魅力やパフォーマンスを多面的に感じ取って欲しいという意図なのだろう、デモ曲はかなり多かった。全体を通した感想としては、非常にパワフルで重厚なサウンドを聞かせてくれたこと。801 D4が相手でも余裕があり、重たそうなダブルウーファーも軽く動いているなあと感じた。この駆動力の高さ、低域再現へのこだわりは魅力の一つだろう。
ハイエンド機らしい高解像度はもちろん備え、801 D4との組み合わせでは空間表現の秀逸さ、つまり広い音場感とそこに浮き上がる明確な音源の存在(定位)を感じ取れた。一方で、音調はあまりギスギスせず、アナログ的な温度感も感じさせるものだった。このあたりは同じくClass Dアンプを搭載したPM-10が登場した際の感想にも似ているのだが、マランツブランドとしての音のつながりを感じさせてくれた。
最初は低音ファンに向けた企画SACD盤『ウッド・ベース』から「Come Together カム・トゥゲザー」。その名の通り、ブライアン・ブロンバーグによるウッドベースのソロ演奏だ。広い空間にビンと浮き上がるウッドベースの深さ、その力感の強さなどが印象的だった。
女性ボーカルとして、藤田恵美の『camomile Best Audio 2』の「Runaway」。力強さと明瞭な定位感が同居していることや、楽器の鮮やかかつ軽やかな音色が印象的。801 D4のいかにも重たそうなウーファーが軽々とドライブされている感じがある。これだけでもこのシステムの実力の片鱗を垣間見れたように思う。
ギター・男性ボーカルでは、TOTOの「Rosana」やマイケル・ヘッジスの「Jitterboogie」を聴く。ギターのアタック感、低域の重量感、広がり感などが良好。TOTOの演奏からは、解像感の高さはあるが、あまりきつすぎず、全体にほぐれた感じの音を出すことが伝わってくる。解像度は損なわないのだが、独特の柔らかさというか粘着性があり、音と音がとろとろとつながっていく感じがある。
クラシック曲としてパーヴォ・ヤルヴィ指揮、NHK交響楽団の『ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」管弦楽曲集』から「ワルキューレの騎行」。サントリーホールでのライブ録音。
音調としてはウォーム系で、オーケストラの位置関係がすごくよく分かるのが印象的だ。あとで調べたところ、DSDレコーディングのようだが、美音系の音色でレコード再生のようなアナログ感のある音はそのせいかもしれない。低域の支え感、そして分離感がとてもよく、スケールの大きな演奏を堪能できた。
空間の広がり、そして緻密な再現に息を呑んだ
SACD 10に1台のMODEL 10をつないだ構成はHoff ensemble『Quiet Winter Night』から「Stille, stille, Kommer Vi」で終了。2Lレーベルからのリリースで、ノルウェーの教会での録音。ピアノとドラムのムードあふれる演奏に、ブラス系のソロが加わり、「スティラ、スティラ」と歌う女性ボーカルがニュアンスを添える。
F.C.B.S.の使用にはマイコンと物理スイッチ両方の切り替えが必要だそうだ。MODEL 10の背面にバイアンプとステレオを切り替えるディップスイッチがあるので、バイアンプ側に設定。3.5mm端子を持つケーブルを2本用意して入力と出力をつなぎ、最大4台までデイジーチェーン接続ができる。その上で、ソース機のLchとRchをそれぞれのアンプにつなぐ形だ。
この状態でF.C.B.S.ボタンを押して電源を入れると設定メニューが立ち上がり、Leader/Member1/2/3のどれに当たるかを指定。再起動することで設定がアクティブになる。この状態にすると、ボリュームに加えて、電源も連動してオン/オフできるようになる。
一般的なセパレートアンプでは、アンプはモノラルでもソース機と繋ぐ上流のプリ部はステレオになるのが通常だ。しかし、MODEL 10でF.C.B.S.を使うとプリ部も完全なセパレートになる(左右の機器がお互いに干渉しない)のがポイントだ。
同じ曲を聴いてまず感じたのは、空間再現の違い。恐ろしく広く立体的なサウンドステージ、非常に広い所にいる感覚、アリーナぐらいの広さにポツンと移動したような意識になって驚く。低域の深さも特徴的で、キックが腹にくる。同時に、スピーカーが鳴っているという感覚が減り、部屋そのものが広くなったような広大な音場、数段増しになった情報量を感じる。空気の密度が上がり、自分の周りに渦巻く音の情報量が濃密になった。
続いてジャズ。角田健一ビッグバンドの「A列車で行こう」は、まず声の掛け声がリアル。様々な場所から降り注ぐブラス系の楽器の定位感が明瞭で、それが次々とつながっていく演奏のリレーが楽しい。
オルガン伴奏の合唱曲では有名な「カンターテ・ドミノ」。オルガンの演奏の後のファンファーレ、そして合唱。指揮者の位置に立ち、ここも合唱団の人それぞれの顔の位置がわかるような分離感、定位感がある。音は割と近い印象で臨場感があった。高さ方向の広がりについても、セパレーションの良さが貢献しているようだ。
データディスクでSACDを上回る5.6MHzのDSDが楽しめるのもSACD 10の特徴。小馬崎達也+プラハスピリットクインテットの『ガイアに祈る』から「フェズの市場」では打楽器系の音の上でストリングスが鳴るがその深さ。そしてギターの跳ねる音の立ち上がり、立ち下がり感が印象的だった。
また、USB DAC機能も持っているため、USB出力を持つオーディオNASなどとの接続も可能だ。DSD 11.2MHzのファイルにも対応する。DELAとつないだ再生としてEDM2曲もデモされた。
一つはデンマークのDJ兼音楽プロデューサーHEDEGAARDの「Ratchets」、もう一つがGhost Riderの「Make Us Stronger」。少し目線より上のところから音が降ってくる感じで、空間のちょっとした表現の違いが明確に変わるのが面白い。RatchetsはMODEL M1のデモでかかった曲だが、低域がとてもしっかり再生されており、非常に安心感がある。また、Make Us Strongerは、声と音の定位感、音の動きが興味深い楽曲。バックの演奏と中央の音源が全く別のスピーカーからなっているようだ。
最後の締めは2Lレーベルの「MAGNIFICAT」。ハイレゾからサラウンドまでさまざまな形態でリリースされているが、11.2MHzのDSDで聞いた。比較的はっきりとした人工的な音のデモの後だけに、繊細な音の表現力、再現性の高さを再認識することができた。音の伸び、空間の広がり、そしてコーラスなどが印象的な楽曲の魅力を存分に感じさせてくれる再生だった。
サウンドマスターの尾形好宣氏に音の狙いを聞いた。端的に言えば「情報を限りなく引き出す」ことであり、そこに気を配ったという。
「クリアネスや高音・低音の再現など、もちろん個別に気になるところはあるし、やったことを挙げればきりがないが、課題をひとことで言えば『(音の情報を)ロスなく取り出すことをいかに突き詰められるか』だった。『もっと情報があるんじゃないか』と、部品一つ一つを交換しながら探し出し、採用していき、その結果として緻密で滑らかな音が出せたらいいなと思ってきた」(尾形氏)
一方で、「『これがハイエンドの音だ』とこれみよがしに出す感じの音にはしたくなかった」とも話す。例えば、低音もソースに入っていれば出すし、そうでなければ出さない。そのままの純粋さを追求したという。結果、先行試聴した評論家などからは「自然な音でナチュラルで、聴き疲れしない」という声も得られているという。
その上で「情報量の再現には、高域ばかりではなく、音の密度が重要。ここが臨場感にも関わってくる」とコメント。ロスをなくすというのは「それを出すための取り組み」でもあったようだ。
New 10 seriesは、これまでマランツが提供してきたフラッグシップ機と比べてもかなり大きな進化を遂げたような印象がある。一方で、メーカーを変えながら継続して開発してきた一連のClass Dアンプの集大成であり、サウンドマスターの尾形氏を中心に培ってきたマランツサウンドの現時点での到達点とも言えるだろう。
音質調整もMODEL M1と並行して進められたそうだ。かたやシステムで700万円のハイエンド、かたや1台で完結するエントリー機種。性格も価格帯も全く違う機種だが、近いタイミングで両者を聞いてみると、何か音の根っこの部分が通じている印象もあった。対照的な機種だが、変化のきっかけになる機種なのかもしれない。
マランツは現状では7や9の型番は封印して、10の型番を最上位として展開していくという。そこは従来のSA-10やPM-10も同様なのだが、ゼロ年代の中盤に登場した「SA-7S1」や「SC-7S2」「MA-9S2」と比べると(実際のパフォーマンスはともかく)ややダウンサイジングした印象もあった。そういった意味では、新しい10シリーズは、圧倒的な物量投入とリミッターレスの仕様で企画されたマランツとしても久々の本格的なハイエンドモデルにも思える。
導入のハードルは高いがF.C.B.S.の復活も嬉しいところだ。駆動力はもちろんだが、セパレーションの圧倒的な改善があり、これまで感じたことのない音楽体験、広大でありながら極めて明確かつ緻密な音の空間表現を示してくれた。それはB&W「801 D4」の実力、その懐の深さを感じさせてくれるものでもあった。
世界に名だたるほかのハイエンドスピーカーと組み合わせたら果たしてどんなサウンドが得られるのか? そんな期待も感じさせるデモだったように思う。
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