メッシュWi-Fiで日本参入のAmazon、eeroの創業CEOの熱意がすごい
ASCII.jp / 2024年9月19日 6時0分
本日、国内市場に参入を果たした「eero」。その共同創業者でCEOのニック・ウィーバー氏が来日し、記者たちの質問に答えた。eeroの新製品については別記事も参照してほしい。
日本はテックの国、憧れの市場だった
会見の冒頭、「日本はテックの国、さまざまな機器がネットワークにつながっている」と日本市場への憧れを語ったウィーバー氏。10ギガビットの高速光インターネットが利用でき、最先端の技術が生まれる日本市場への参入は夢であったともコメントした。
eeroは2014年、小さなアパートで創業。3人の共同創業者、1人の従業員、そして1名のインターンがメンバーだった。
最初の製品は2016年に登場、その後2019年にはAmazonの傘下に入り、潤沢なリソースを活用して急速な成長を遂げた。グローバル展開やポートフォリオ(製品ラインアップ)の拡大を図っている。日本はアジア市場では初の地域だが、同時に創業後10年経ってようやく参入する最も遅い地域でもある。
「なぜ、いま日本に参入するのか?」という問いに対して、ウィーバー氏は「5年前に参入できていれば良かった」と話す一方で、物事には順序があり、アジアに参入するのであれば「Wi-Fi 7が登場した規格以降のタイミングで、最先端の新しい領域で戦いたい」と説明した。Wi-Fi 7に対応した「eero Max 7」は来月の発売。同時に日本は世界でも有数の高速ブロードバンド通信が利用できる地域であるとリスペクトを示し、この地域での成功に対して大きな期待を感じている様子も示していた。
メッシュWi-Fiの確固たる技術、そして使いやすいアプリ
eeroが得意とするのが、「TrueMeshテクノロジー」と称するメッシュWi-Fiの技術だ。複数のルーターとその機器がシームレスにつながって、ネットワーク内のデバイスが高速かつ低遅延、切断がなく最適な接続先を通じて通信できる。eeroの目的は高速で信頼性の高い通信を提供し、家庭におけるデジタル機器の体験すべてをあるべき姿にしていくことであり、クラウドを通じて全世界から集められた機器の情報を用いて、開発者がプライドを持って24時間休むことなく改良を続けているという。
利用のしやすさも特徴だ。専用のモバイルアプリを用意しており、機器の状態は東京からサンフランシスコのオフィスなど離れた場所でも把握できる。また、Amazonデバイスとの連携機能も持ち、アプリ上で対応するEchoスピーカーを接続すると、このスピーカーを経由してWi-Fiの到達範囲を延長することができる。このレンジエクステンダーの機能もなかなか面白い発想だ。
メッシュWi-Fiは、1台のWi-Fiルーターよりもカバーレンジが広い点(広い家のさまざまな場所でも品質の高い通信ができる点)が注目されがちだ。そのため、集合住宅や戸建でも木造の家が多い日本の家庭では米国ほどのニーズがないのではないかという疑問もあった。しかし、ウィーバー氏によると「米国でもテキサスのように土地の広い地域ではその通り」だが、「ニューヨークなど密集した都市部では日本と同じようなチャレンジが必要であり、そのための対策を続けてきた」と話す。
具体的にはクラウドコントローラーと通信して、常時通信状態を監視、適切な無線チャンネルを選択していく仕組みであったり、集合住宅などに住む隣人のネットワークと干渉がないことの確認などが挙げられるという。また、混雑した住環境では、それほど広くなくても2台のルーターが必要となる可能性があるという。2台セットのパッケージを用意しているのはそのためで、コンクリートやガラス、鉄、レンガなど、電波を阻害するさまざまな素材で仕切られ、電波が到達しにくい場所がある場合は、2スポットでカバーした方がよく、そのための接続性を担保できるという。実際、創業時のオフィスも通信には厳しい環境だったそうで、挑戦的であったとする。
有償化せず、フリーで提供するカスタマーサポート
一方、新しい技術にはトラブルがつきものだが、eeroはひとつコミットしていることがある。それはカスタマーサポートを有償化せずフリーで提供することだ。日本においてもそれは同様で、日本国内にセンターを置き、日本語でサポートが受けられる点にこだわっている。また、日本の市場は競争が厳しいと話す一方で、内部のヒートシンクやパッケージングに至るまで、製品のすべてにおいてこだわりが詰まっているのがeeroの製品であり、品質にこだわる日本の顧客のニーズにもマッチするはずだと説明していた。
ちなみに、eeroのルーターでは一般的なルーターにあるように、SSIDごとに接続する周波数帯(2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯など)を指定できないが、これは簡便な設定という観点だけでなく、ローミングの性能を上げるという観点もある。つまり、通信する位置や機器に応じて最適な周波数帯は常に変化するため、一般的には干渉が少なく最も速いと言われる6GHz帯よりも、電波が回り込みやすい2.4GHzの方が良い場合もある。その度に都度都度バンドを切り替える(接続するSSIDを変える)のでは、ユーザー体験が悪くなってしまうためだ。
一方で、特定の帯域でのみ接続したいと考えるシチュエーションとしては、トラブルシューティング(問題の切り分け)なども考えられる。ここはアプリ機能を利用することで、一時的に5GHzや6GHzを無効にして、2.4GHzだけで通信するといったことも可能になっている。こういった細かな問題を解決するためには、サポートが必要だ。早期に解決策を提示して、ユーザー体験を高めるという点はeeroが非常に重視しているポイントだという。
アンテナを内蔵したホワイトの筐体には、意外な秘密も
外観についても面白い視点を聞けた。ひとつは白いカラーを採用している目的だ。白い壁や白木の家具が多いリビングにマッチしやすいというのは容易に想像がつく内容だが、実は白くすることで積極的に機器を見せる意識が生まれるため、結果として棚の奥に押し込んだり、ラックの影に隠したりといった通信の障害になるような置き方を防げるという利点もあるのだという。
eero 6+やeero Pro 6Eはスクエアなフットプリントで高さを抑えたコンパクトなサイズだが、Wi-Fi 7対応のeero Max 7はかなり大型になる。記者から「Wi-Fi 7対応のeero Max 7が一番いいと思うが、大きすぎるとも思う」という意見も出た。これに対して、ウィーバー氏は「サイズについては、何度議論したかわからない」とさまざまな検討を経た結果である点を強調し、製品の実現には2倍の電力が必要であり、カスタムのサーマルクーラーなどを備えるなどさまざまな工夫を取り入れたが、現状では限界があると説明していた。また、eero Max 7はシングルパックのみの提供だが、これは生産上の問題ではなく。早期の調査で1台あれば大部分の家庭に対応できると判断したためだという。
価格的にも10万円弱と高価にはなるが、先進的な通信環境を求める人の注目を集めそうだ。
なお、日本ではWi-Fiルーターを固定回線の事業者が貸し出している場合が多く、一度設置したら長年にわたって置き換えることがないという面もあるが、eeroとしては製品は一般的に3〜5年を過ぎたあたりから故障が出始めるため、その置き換えや上に述べたWi-Fi 7や10GbE通信など、テクノロジーの大きな転換点も存在するため、こういった機会を活用していきたいとした。
シームレスな接続には、自社製品同士の接続でなければならない
最近では「Wi-Fi EasyMesh」のように、他社の製品と相互接続ができるメッシュWi-Fiルーターも登場してきているが、ウィーバー氏はその有用性については少し懐疑的な姿勢も示していた。理由は現状のEasyMeshは部分的な仕様に限定されており、本当の意味ではシームレスな体験が得られないためだという。
動向は注視しているが、現時点では自社製品で完結した開発にメリットがあるとい見解のようだ。そのための検証にも力を入れており、サンフランシスコやアジアなど世界各国にある試験場では数千台の相互接続の検証をしたり、技術者の要望に沿ってフェラーリより高い検査機材を導入したりと技術改善に余念がないという。
メッシュWi-Fiのプライオリティついては、まず高速化、次にカバレッジの広さがあり、その後ゲームなどで求められる低遅延化のニーズが生まれてきている。これらは地域によってニーズが変わる面があるため、日本でも現地に属した専任チームを置いているという。ゲーミング用途では、DNSクエリーなどの改善で低遅延化をはかっているほか、上述したEchoデバイスをエクステンダーとして活用することで、高額なアクセスポイント用のラジオ波を用いず、安価に到達距離を延長できる仕組みを取り入れている。
技術に対する高い熱量、どこか応援したくなる開発姿勢
ウィーバー氏は開発担当者、営業担当、そして経営者としてeeroで長年のキャリアを積んできた。いわばeeroについては全てを語れる人物だ。通訳を介しながらのグループインタビューだったため、時間はあっという間に過ぎ、まだまだ語れる、記者も聞きたいといった雰囲気の中で終了した。
一連のやりとりから伝わってくるウィーバー氏の語り口は明快でとても印象的だったが、それと同時に日本市場へのリスペクトや熱意の高さもまた印象的だった。ローカルのベンダーが強い日本の市場で、eeroはどのような評価を受けるのか、も大きな関心事である。
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