ゲーム開発はAI活用が当たり前になりつつあるが、面白さを作り出すのは人間の仕事
ASCII.jp / 2024年9月23日 7時0分
2024年1月、PCゲームプラットフォー厶のSteamで生成AIを使ったゲームの受付が開始されました。それから8ヵ月が経ち、申請が出ているタイトル数の合計約2000本にまで達しました。ただ量が多いものの、大ヒットしたタイトルが出ている段階ではないようです。いずれにしても言えるのは、ゲーム開発で生成AIのアセット(画像などのゲームのデータ)を活用するのは当たり前になりつつあるようです。
新作ゲーム、4本に1本が“AI使用”か
Steamは1月、生成AIを使ったゲームの販売を認めると方針転換しました(参考:“生成AIゲーム”急増の兆し すでに150タイトル以上が登録)。
タイトルのストアオープンのための申請時に、生成AIを利用しているか、利用している場合には、どのように使っているのかを説明する仕組みが追加されました。その情報は、それぞれのゲームのストアページで「AI生成コンテンツの開示」としてユーザーにも提示されます。Steamの情報を検索できる「SteamDB」で検索すると、Steamでの呼称名の「AI生成コンテンツ」を利用していると登録されているゲームは、すでに2000タイトルに達しています。
通常、Steamへのタイトル申請の手続きは、2~3日程度で完了します。申請情報をもとに機械的に判断されていると考えられますが、AI生成コンテンツを認めた後に審査が長くなったという話は出ていないので、基本的には今まで同様の審査手順で行われているようです。登録ベースの本数であり、実際にリリースされた本数ではないことに注意が必要ですが、1日10本程度が登録されていることになります。
SteamDBのデータによると、Steamでは2023年には1日に約40本のゲームがリリースされていたため、単純に当てはめると、新規にリリースされるタイトルの25%程度が、AIコンテンツの含まれるタイトルになりつつあることが推測できます。ただ、大型タイトルで採用されて大ヒットしたというケースは登場していないようで、インディーズゲームを中心とした中小規模スタジオでの採用が広がっているという印象です。
画像や音楽、音声などにAIアセットが活用
SteamではAI生成コンテンツを「事前生成」と「ライブ生成」とに分けて申請を求めています。事前申請では「開発中にAIツールを使用して作成されたあらゆる種類のコンテンツ(アート/コード/サウンドなど)」と、ライブ生成は「ゲームの実行中にAIツールを使用して作成されるあらゆる種類のコンテンツ」と説明されています。この流れを受けて、AIコンテンツの利用方法も、アセットの利用の場合と大規模言語モデル(LLM)を使ったサービスとに大きく分かれています。
アセットとしての使い方としては、カードバトルゲームのカードを作成する手段として使わることが少なくないようです。
例えば、3月に発売された伊Gindro Gabrieleの「ARC TCG」は下記の様に説明しています(オリジナルは英文で翻訳は筆者、以下同)。
「AIはカード・アートワークの生成にのみ使用された。AIツールを使用するという選択は、開発コストを大幅に削減するためになされたもので、そうでなければこのゲームは発売されなかったかもしれない」
10月に発売される欧州を舞台にした戦略ゲームのポーランドŁukasz Jakowski Gamesの「Age of History 3」はシンプルな説明です。
「ゲームには、AIによって生成されたユニット、建物、キャラクターの画像が含まれています」
このゲームは2018年にシリーズ第2弾をリリースしており、その続編なのですが、2ではシンプルなアイコンにとどまっていたものを、AI生成コンテンツを使うことで、リッチ化を図っているようです。
同じような事例は、すでにいくつも登場してきており、AI生成のアセットの使用がインディゲームの開発者に広がっているようです。
ヒットゲームに説明がついているものもあります。2023年12月にリリースされたスウェーデンのEmbark Studiosが開発した無料の対戦型FPS「THE FINALS」は、数百万ダウンロードされ、現在でも常時1万人以上のユーザーを抱えている人気ゲームですが、以下のような説明がついています。
「開発過程では、プロシージャルやAIベースのツールを使用してコンテンツ制作を支援することもあります。いずれの場合も、最終的な成果物には開発チームの創造性と表現力が反映されます。例えば、音声合成ツールを利用して、ゲーム内のコメンテーターであるスコッティとジューンの音声を生成することもあります」
このゲームは「ゲームプレイの様子がテレビ中継されている」というコンセプトで、ゲーム中にコメンテイターがバトルの展開に合わせて発言するという仕組みになっているのですが、その音声にAIを使っているということのようです。ゲーム開発の様々な面に広げていこうと考えていることはわかるものの、全体としてどれぐらいAI生成コンテンツを利用しているのか、この文面でははっきりとはわかりません。
現状Steamの審査は、かなり曖昧な文面であっても、特に問題とされることなく通過しているようです。ただし、ゲーム会社側の申請は画像、音楽や音声といったユーザーに見える部分にのみの表記になっていることが多く、プログラミングに使用したといったことが書かれていることは極めて稀な印象です。
ChatGPTのような「AIチャット」活用はまだ限定的
一方で、ライブ生成のAI生成コンテンツはまだまだ限られている印象です。
そういうなかで、6月に韓国のReLU Gamesは「Uncover the Smoking Gun」をリリースしました。このゲームはアドベンチャースタイル風の推理ゲームで、ゲームを進める過程で、NPCとChatGPT 4oを利用して会話などをしながら推理を進めることができるという仕組みになっています。AI生成コンテンツの説明は以下のようになっています。
「ユーザーは与えられた環境に応じて、ゲーム世界内のNPCと自由に会話することができます。一部の証拠(壁の写真、本の表紙)はAIツールを使用して作成されています。サウンドトラックにはジェネレーティブAI技術は使用されていません」
マイクロソフトのAzure OpenAI GPTをゲームに使ったユースケースとして注目を集めていました。NPCの会話内容はかなり自由にできるのですが、レスポンスは早く、また会話の量に制限が掛けられているようで、過剰にAPIを使わなくて済むようにといった工夫がなされているようです。それでも、一般的なアドベンチャーゲームと違い、関係ない話題を振ったとしても、それなりに会話を返してくれるのは目新しい体験です。
例えば、ゲーム中の相棒となるAIキャラクター「Qボット」に「相対性理論を説明して」と話しかけると、一応は理解したうえで、ゲーム内のキャラ風に味付けした返答をしてくれました。また、字幕の対応言語が、日本語も含め11言語と幅広く用意できているのは、ChatGPT 4oの多言語対応によるメリットと言えるでしょう。
5月に日本のYAMADAが発売した「ドキドキAI尋問ゲーム」もChatGPTを使ったゲームとして話題を集めました。
このゲームは殺人事件の容疑者に尋問する警察官として、尋問して犯人であると認めさせなければなりません。質問できる回数は7回までと制限がある一方で、どんなデタラメな内容で追い詰めても構わないという展開が待っています。1ゲームは10分程度で終了するものの、意外と犯人を落とすことができないのです。相手はAIであるために、脅してみたり、ウソをついて説得することも推奨されていたりしますが、一筋縄ではいかない展開にはヤキモキさせられます。
8月のアップデートで、ChatGPTの最新版に対応したと告知されており、ゲーム中のNPCの返答のレスポンスは非常によくなっています。
「Uncover the Smoking Gun」も「ドキドキAI尋問ゲーム」も、現状は売り切り型のゲームであるため、ユーザーがプレイすればするほど、ライブ生成の場合には、会話をするたびにLLMのAPI使用料が掛かってしまいます。当然、利益が減少してしまうため、規模を大きく広げにくい難しさがあるようには思います。どちらのゲームも会話内容を短く、制限をかけてもゲームが成立するように工夫しているのは、コストが理由でもあるでしょう。
ゲーム特化の生成AIサービスも登場
そんななか、ゲームに特化した生成AIサービスを提供している企業も登場してきています。Scenario(シナリオ)というクラウド生成AIサービスの米スタートアップは、Unityなどと連携して使えるような、特に2Dアセットの開発用ツールを用意しています。
画像を生成する基本機能から、LoRA作成、テクスチャ・マテリアル生成、ピクセル化といった特殊スタイル生成などの基本ツールが用意されています。それを使うことで、アドベンチャーゲームに使うようなキャラの立ち絵から、表情のバリエーションの作成、背景、アイテムのアイコンなどを作成できるというわけです。
共同創業者のEmm氏は、Scenarioを使った新しいアセットの開発法をXに多くポストしていますが、最近では、話題のFLUX.1に対応したノウハウの提案をしています。
This is wild!! Flux Pro generated the full set of UI elements in a single go. 🤯🔥 Even with just one super long prompt (199 words), the adherence is almost 100%! Check it out: here's the full prompt, with each element detailed in the thread below for easy visualization:… pic.twitter.com/ua2XXs7zsh
— Emm (@emmanuel_2m) September 8, 2024
△FLUX.1を使ったアイコンの作成プロンプトの紹介
Seriously, Flux is incredible. Blown away by these detailed design sheets, and the consistency in all the elements. All from the base model. Absolutely mind-blowing 🤯.@robrombach you guys really need to rename 'Black Forest Labs' to 'Black Magic Labs' 🙃🧙🏻♂️. This is wizardry! pic.twitter.com/o1odhfVWE2
— Emm (@emmanuel_2m) September 21, 2024
△FLUX.1で、一貫性を持ったキャラクターデザインシートの作成方法
カナダのRed Meat Gamesは、スマホやタブレット向けアドベンチャーゲームの「Moriarty」という最新ゲームに、Scenarioの環境を実験的に使って自社のアーティストのデータを学習させた上で利用して、スタッフとの共同作業に有効に使っていることを明らかにしています。
一方、ChatGPTのような大規模言語モデル系で注目されているのはInworldという会社で、インタラクティブなNPCを実現するエンジン環境を提供している企業です。6月に発表したNVIDIAとの共同開発したデモでは、ゲーム内のNPCと人間のような会話ができるということをアピールしていました。
ただ、これを本格的に使ったゲームはまだ出ていません。
APIをゲームエンジンに組み込み、会話をさせるということ自体はかなり簡単にできるのですが、会話を1回するたびにAPIの利用料金がかかってしまうことと、AIが“考える時間”をとるために会話にタイムラグが出てしまうことが大きな課題です。この課題を解決するには、ゲーム機(エッジデバイス)側に小さなAIモデルを入れるなどの工夫が必要になります。この2つのボトルネックが解消しないと、なかなかゲームでの本格利用が広がることは難しいと考えられます。
「面白いゲーム」を作るのは、AIではなく人間の仕事
「生成AIを使ってゲームを開発する」という切り口でニュースが報じられることがありますが、ゲーム業界にとって最大のインパクトは少人数でも作れるゲームの幅が広がった点で、1年前と大きく変わったとは言えません。ただし、様々な生成AIの環境が整ってきていることもあり、特定の目的に絞るならば、使い勝手がよくなってきているとは言えます。それが粗製乱造を増やす可能性もあるとも言えますし、激しい競争のなかから優れたゲームを登場させる確率も上げたとも言えます。まだ、正確な評価は難しい段階です。
そもそも、インディゲームのスタジオに生成AIが広がっているのは、開発リソースがないからです。そこを補うために、世界中で利用されるケースは増えていくことは間違いないでしょう。ただ、生成AIをゲームデザインに組み込むとしても、生成AIを使ったからと言って、そのゲームが面白くなることは何も保証されていません。むしろ、品質をコントロールするにはより人間のセンスが必要になっていると感じられます。そして何よりゲームの面白さは、人間が作り出さなければなりません。この点は、1年前から何も変わっていません。
「プロンプトを入れれば、AIが何から何までやってくれて、面白いゲームができあがる」といった未来は、まだまだ当分訪れることはなさそうです。
筆者紹介:新清士(しんきよし)
1970年生まれ。株式会社AI Frog Interactive代表。デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、新作のインディゲームの開発をしている。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。
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