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新幹線、進歩続けて60年 次は運転士が消える時代へ

ASCII.jp / 2024年10月2日 18時0分

トンネルを抜ける新幹線
PAKUTASO

 世界初の営業用高速鉄道として1964(昭和39)年10月1日に誕生した東海道新幹線は、2024年で開業60周年を迎えた。開業当時、時速210kmだった最高速度は60年の時を経て、時速285kmまで向上。2028年から自動運転の段階的な導入が決まるなど、今も絶えず進歩を続けている。

 一方、2024年9月には東北新幹線で走行中の列車分離事故が発生するなど、安全神話が揺らいでいることも事実。この記事では、新幹線誕生の経緯やこれまでの技術の発展、そして未来の新幹線の姿と課題について簡単にご紹介していく。

世界を変えた夢の超特急

初代新幹線0系
初代新幹線0系(写真AC)

 世界初の営業用高速鉄道である東海道新幹線の建設が始まったのは、東京五輪を5年後に控えた1959年のこと。当時、高度経済成長期に入っていた日本では、鉄道の需要も年々増加。特に東名阪を走る東海道本線は需要に対して設定できる列車の数が限界に来ていたことから、そのバイパス線として計画されたのが東海道新幹線だった。

 検討段階では在来線の線路を増やすといった案もあったが、紆余曲折を経て最高時速210kmで走る高速鉄道とする案を選択。結果、東京〜大阪間の所要時間を従来の6時間から半分の3時間へ短縮され、東名阪の日帰り移動を実現するなど、ビジネスや旅行を中心に大きな変化をもたらした。

 また、新幹線の成功は自動車に押され斜陽化しつつあった欧州の鉄道業界にも影響を与え、後に「TGV」や「ICE」といった高速列車の誕生へと繋がっている。

高速運転を支える数々の技術

 在来線の2〜3倍の速さで走る新幹線は、安全性や環境への配慮から、在来線とは異なる技術も数多く開発されてきた。

●ATC(自動列車制御装置)

 時速200km以上で走っていると、線路脇の信号機や標識を十分に目視できない可能性も出てくる。そこで開業にあわせて開発、導入されたのがATC(Automatic Train Contro/自動列車制御装置)だ。

 ATCは線路脇に物理的な信号機や標識を設置する代わりに、車両の運転台にその区間で出せる最高速度を表示するというもの。制限速度を超えた場合は、システムが自動で減速してくれるので、運転士は手動扱いとなる加速と低速域のブレーキ操作に専念することができる。

速度計に内蔵されたランプで制限速度を表示していた0系の運転台
速度計に内蔵されたランプで制限速度を表示していた0系の運転台(写真AC)

 2024年現在は列車間隔の最適化や、スムーズな減速を実現した発展型のデジタルATCに置き換わっており、列車の増発や乗り心地の向上に寄与している。

●CTC(列車集中制御)

 CTC(Centralized Traffic Control/列車集中制御)は、中央の指令室から担当路線のすべての列車の位置、各駅のポイントの切替状況などを常時監視、制御する仕組みで、在来線でも比較的ポピュラーな存在だ。

 2024年現在、新幹線ではダイヤ乱れ時の運転整理支援や車両管理、旅客向けの案内板制御など、複数の機能を統合した発展型のPTC(Programmed Traffic Control/列車運行管理システム)が使われており、回復ダイヤの設定など、人の手を介した作業は減少している。

●騒音を減らす不思議な「鼻」とパンタグラフ

 新幹線の先頭車は、初代の0系では旅客機のような丸みを帯びた流線型だったが、最近のN700SやE5系などではカモノハシのクチバシのような、何ともいえない独特の形をしている。

E6系新幹線の先頭部

 これは高速走行に発生する空気抵抗や騒音、トンネル突入時に発生する(トンネルドン)などを軽減する効果があり、住宅街など人口密集地帯を高速で通過する日本の新幹線特有の事情から発展した技術だ。

 また、架線から電気を受け取るパンタグラフも騒音の発生源となるため、小型化やカバーの取り付け、静かに飛ぶフクロウの羽根をヒントにした表面加工など、数々の試行錯誤がなされてきた。そのなかでも、60年前と比べ特に変化が大きいのがパンタグラフの搭載数。16両編成の場合、初代の0系では8個もパンタグラフを使っていたのに対し、最新のN700Sではわずか2個にまで減少している。

●カーブの高速通過を実現する車体傾斜装置

 東海道・山陽新幹線ではN700系から、カーブの多い東海道区間の所要時間を短縮するため、カーブ通過時に車体を傾け、より高速で通過できるようにする車体傾斜装置が搭載されている。

N700系列の新幹線
PAKUTASO

 最初に建設された東海道新幹線は、あとから建設されたほかの新幹線よりきついカーブもあり、所要時間短縮の妨げとなっていた。車体傾斜装置は、このボトルネックを打破するための最終兵器に近い存在だ。

 なお、車体傾斜装置自体は、N700系の後に登場した一部の新幹線車両(E5系など)でも採用されており、こちらは元々緩めのカーブをさらに高速で通過するために使用している。

運転士なしの無人運転と安全面の課題

●さらなる高速化と自動運転に向けたテスト車両「ALFA-X」

 最後に、冒頭でも軽く触れた未来の新幹線の姿を、少しだけ紹介しよう。

 JR東日本では「ALFA-X(アルファエックス)」と呼ばれる試験車両を製造し、2019年から夜間を中心にさまざまな試験を実施している。設計最高速度は時速405km。2024年10月時点では、時速360kmでの営業運転実現に向けたデータ収集や、将来の自動運転化に向けた基礎研究が主な役割だ。

ALFA-X
ALFA-X(写真AC)

 同社は2028年度から、上越新幹線で営業列車の半自動運転や、回送列車の無人運転を順次導入することを決めており、ALFA-Xでも遅延を検知して自動で回復運転をする定時運転装置の試験を実施中。早ければ2030年代中頃には、上越新幹線から「運転士」という職業が消滅する見通しだ。

 一方、JR東日本では9月19日、東北新幹線で走行中に連結が外れ、緊急停車する事故も発生。車輌製造時に付着した金属片が連結解除スイッチを誤作動させたものと推定されているが、原因が何であれ、新幹線の安全神話が大きく揺らぐ出来事であることは確かだ。

 また、JR東海でも7月、保線車両の脱線により東海道新幹線が一部区間で終日運休する事態が、JR西日本でも9月に入り、作業員による検査数値の見落としが原因で列車の運休が発生するなど、内容や程度の違いはあれど、JR東日本以外の新幹線でもトラブルは出ている。

 次の10年間で、自動運転の導入など、開業以来最大の変化が訪れる新幹線。その成功は、今起こっている問題をきちんと解決し、安全性を高めることができるかどうかに掛かっている。

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