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マランツフラッグシップの隠し球「LINK 10n」、超多機能なネットワーク機

ASCII.jp / 2024年10月2日 17時0分

 マランツ最高峰のHi-Fiコンポーネントである「Marantz 10 series」。8月末に「SACD 10」と「MODEL 10」が発表され注目を集めているが、実はもう1機種、隠し玉的な製品が存在していた。それが「LINK 10n」である。

LINK 10n

HDMI ARCにも対応した多機能機

 LINK 10nは「リファレンス ストリーミング プリアンプ」、つまりネットワーク機能を備えたプリアンプである。Hi-Fi機器の音源(ソース)は長らく物理ディスクが主体だったが、この10年でデータ再生やストリーミング再生が主役に躍り出た。

 Hi-Fiオーディオの分野でも、USBでパソコンと接続したファイル再生、LAN内のNASに保管したデータを用いるネットワークで再生、インターネット上のサービスを活用するストリーミング再生、そしてHDMI ARCでつないだテレビ音声の再生など、再生方法は極めて多彩になったている。

背面パネル

 さて、SACD 10はこの時代に敢えてコンパクトディスクプレーヤーの決定版として企画された専用機だが、こうしたソースすべてに対応できるわけではない。そこでLINK 10nでは、SACD 10にはない「HDMI ARC入力」や「HEOSモジュール」を搭載し、Roon Readyを含めた多様なオーディオ再生に対応できる機種として企画されている。

 その一方で、LINK 10nは、Marantz 10 seriesのサブセットという側面も持っている。

 これが意味するのは、LINK 10nは、SACD 10とMODEL 10を組み合わせたシステムから、ディスクドライブとClass-Dパワーアンプ部を除いたものとも考えられるという意味だ。内部にはSACD 10から継承したオリジナルDAC(MMM:Marantz Musical Mastering)やMODEL 10から継承したセパレートクラスのプリアンプ回路が搭載されており、背面から見ると内部が3階建の構成となっているのが分かる。

MMMの最後のアナログフィルター。8chぶんを1チップずつ使用し最終的に合成。出力電圧が3倍になり、8dB以上のS/Nが改善している。

 つまり、最上階にあるのがSACD 10から継承したDAC回路、中央の階がMODEL 10から取り出したプリアンプ回路、1階が電源部になっているのである。SACD 10やMODEL 10は内部がモジュール化されているが、その機能ブロックを取り出して組み合わせ、異なる性格の製品を再構築するというコンセプトが面白い。

SACD 10から継承したDAC回路

 結果としてLINK 10nに、パワーアンプもしくはアクティブスピーカーを追加するだけでシンプルかつ多機能なオーディオシステムを構築できるようになっている。

 また、一部回路が重複する面はあるが、最高級の音を求めるのであれば、F.C.B.S.による「コンプリートバイアンプ」接続がおすすめだ。この接続法はSACD 10とMODEL 10の発表時にも説明したが、この場合はLINK 10n側のプリアンプ回路は使用せずに、右チャンネルのLINE出力に1台、左チャンネルにも1台、合計2台のMODEL 10を接続して、左右のスピーカーをバイアンプ駆動する形になる。

 パワー部はもちろんプリ部も完全に左右独立となるので、左右チャンネルの信号が相互干渉することによる悪影響を極限まで抑えられるのが特徴となっている。

新しいHDAMモジュールは本製品も当然採用。

 機能性を重視するネットワークプレーヤーとしては「NA-11S1」という機種があり、簡易型のボリュームとして使える可変出力(バリアブルアウト)を用意していたが、実際の使用率は少なかったという。単体機としてこだわるのであれば、プリアンプ部も含めて最高音質を目指すというのがLINK 10nのコンセプトなのだそうだ。入力セレクターを含んだ本格的なプリアンプの内蔵によって、Marantz 10 seriesの品質を確保している。そのぶん価格はアップするが、品質には妥協がないものになっているという。

ディスク再生以外はほぼ全網羅

 以上が、Hi-Fi機器として、そしてマランツのフラッグシップ機としてのLINK 10nの特徴だ。機能面についても触れておく。ネットワーク再生機能はHEOSがベース。Amazon Music HDなど各種ストリーミングサービスに対応するほか、後日のファームアップで「Roon Ready」になる見込み。デジタル入力としてはDSDが最大11.2MHz、PCM(WAV/FLAC)が384kHz/32bit(LAN経由)となっている。本体のネットワークプレーヤー部には同軸/光デジタル入力を2系統、USB Type-A端子、USB端子を装備。LINE出力はRCAとXLRを装備。デジタル出力は同軸/光。さらに、HDMI ARC入力やネットワーク入出力、Bluetooth送受信機能などを持つ。なお、これとは別にプリアンプ部にPHONO、RCA、XLRの入力端子、RCAとXLRのプリアウト出力、サブウーファー出力などを装備している。

物量投入したシャーシや外装も魅力だ。
MODEL 10と同じPHONOアンプ回路

 筐体はほかの10 seriesと共通の、リファレンス機専用デザイン&シャーシを採用。フロント、サイドパネル、トップカバー、高合成シャーシなど物量をおごっている。サイズはSACD 10やMODEL 10と同じで、ネットワークプレーヤーということもあり、フロント部には大型のフルカラーディスプレーを搭載している。イメージとしては正面はMODEL 10、外装がSACD 10に似ている形で12mm厚の天板も継承している。

 なお、DACはSACD 10と同じ基板を採用している。電源部もSACD 10と同等。プリアンプも基本的に同じ構成だが、MODEL 10では2層になっていたものを高さを抑えるため、平らに並べるよう作り直しているという違いがあるという。ゲインセレクト機能付きのヘッドホンアンプも同じもので、フロントパネルの裏側に縦置きしている。VishayのMELF抵抗を全面的に採用するなど、高音質部品を時間の許す限り吟味している点も同様だ。カラーバリエーションは2色用意している。本体サイズと重量は幅440×奥行き472×高さ192mmで、重量は33.0kg。

フラッグシップ機として統一感のある音

 マランツ試聴室で、音も確かめられた。アナログのプリアウト出力とDELAのオーディオNASを活用。USB DAC接続も使いながら5曲ほど試聴した。ファームウェアは開発中とのことで、今後ネットワーク経由での11.2MHz DSD再生にも対応していくそうだ。

試聴風景

 1曲目は上原ひろみの「Silverlying Sweet Someday」。96kHz/24bitの音源。弦のピチカートなどの表現を聞くことでS/N感の良さを感じる。一方で、全体の音調はウォーム系で、柔らかさや温度感を感じさせる表現だ。SACD 10やMODEL 10の組み合わせの時と同様、アナログ的な滑らかさも感じ取れた。音階表現、ピアノのアタック表現などが優れているほか、掛け合いやセッションの際の楽器の対比などが鮮明で音楽の全体像がよく見通せる。

 2曲目は、男性ボーカルで米津玄師の「地球儀」。空間にボーカルが浮かび上がる感じが良いが、ボーカルの後ろのギギリッといった効果音もきっちり聞こえるのは感動もの。後ろのハミング的な音やメインボーカルの対比、明瞭感の良さ。歌詞「走り出す〜」から始まる印象的なフレーズでは音の広がり感の広さがあるほか、民族楽器の音との調和、アタック感のある低域(キック)の表現、ピアノソロを弾く際に発せられるピアノの軋み音など細かな表現も鮮明に再現してくれていた。音調としては高域はそれほど欲張らない。一方で中低域の制動力は十分にある。サウンドマスターの狙いを感じる音である。

 3曲目はクラシックで、デュダメルが指揮し、ロサンゼルス・フィルハーモニーが演奏するドボルザークの「交響曲9番 新世界より」の第4楽章。雄大さを感じ支える演奏で、右側に位置する金管、左右に配置されたストリングスなど、空間に対応したオーケストレーション効果を楽しめるのがいいところだ。ティンパニーなどにもうちょっと明瞭感、あるいは楽器の音色の描き分けについてはさらにクリアさが欲しい感じもするが量感は非常にあって迫力を感じた。ダイナミズムがあるほか、トランペットの浮き上がり方やストリングスが混濁している感じなどは、観客席というよりはオーケストラの中に入って聞いているような迫力感がある。演奏者になったような臨場感、観客よりはプレーヤーになったような感覚で音楽に没入できる演奏と言ってもいいかもしれない。

 4曲目は、ノルウェーのフローデ・フェルハイムやCantusの演奏によるアルバム『Nothern Lights』から「Dona Novis Pacem」。ポップス寄りの録音で音圧は少し大きめ。途中に入る、男性のウンウンいってるところの音色感、シビランス的なものがはっきりしている。中低音のリッチな再現がなかなか良いと思った。声の倍音感が出るとさらにいい。

 5曲目はUSB DACを使用してDSD11.2MHzの音源、仲野真世ピアノトリオによる「MIWAKU」(ライブバージョン)を聴く。これは高域の抜け感がかなり良く、銅鑼のような音の後にくるブーンという広がりなど、

ダイナミクス、金属系、振動系の質感のリアルさを感じられた。例えば、ピアノのタッチの重さであったり、コンのような打楽器の音の深さなどだ。音色の再現がかなりリアルで、非常に良かった。低域も深く、芯が通っているし。スネア、シンバルなども抜けが良く響く、ピアノの高域の張り詰めた感じやシンバルが空間に立ち上がる感じ、ベースのタッチにしっかりとした硬さがあるなど、音楽はもちろん音を楽しむ良さも感じ取れた。

Marantz 10 series

 全体的な印象は、Marantz series 10として共通するもの。厳密に言えば、LINK 10ならではの音質改善はないが、プリアンプは別基板ゆえに回路が若干違うほか、MODEL 10とは異なり、他社製品のパワーアンプと接続する可能性を含んだゲイン設定やデカップリングコンデンサーの使用などが行われているそうだ。その意味では、基板としてのグレードは同じだが、音質チューニングは専用のものと言える。

 価格は220万円。発売は11月下旬。鮮烈感や力感という意味ではよりSACD 10の純度が高いが、Roon Readyによる音質改善など期待感もある製品だ。3製品が揃った。Marantz series 10が市場にどう受け入れら得るかが楽しみだ。

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