B&W、「忠実路線の音」を極めたワイヤレススピーカー「Zeppelin Pro Edition」
ASCII.jp / 2024年10月7日 17時50分
iPod全盛の2007年。B&Wが市場投入したDockスピーカーが「Zeppelin」だ。サイズ、価格、音質の全てに驚きがあった。
当時はポータブルだけでなくホームオーディオの世界でも、iPodが重要なソースとして認識され始めた時期だった。Zeppelinはその巨大さ、デザインのインパクト、そして音質によって業界に強い印象を与えた製品だったが、この時期を境にオーディオメーカーが手がける、音に注力した製品が増えていったように思う。
これに前後して、iPodのDockコネクターがデジタルオーディオ出力に対応したことも関係しているかもしれない。
さて、時代は跳んで2024年。オリジナルから数えて5機種目となるZeppelinの新製品「Zeppelin Pro Edition」だ。2022年に発売した現行のZeppelinをベースとしつつ、ドライバーユニットを自社開発/自社製造のものに変更。
Proの名称が示す通り、高忠実度度再現にこだわったワイヤレススピーカーとなっている。
最高級の音でストリーミングを楽しめるスピーカー
さて、現在のZeppelinのポジショニングからおさらいしておこう。時代は変わって、音楽再生の中心はスマートフォン、さらにはインターネットやBluetoothを経由した再生が大きく普及するようになった。
現在のZeppelinをシンプルにまとめると、ストリーミングを中心に、省スペースで最上の音を楽しみたいという人に向けたワイヤレススピーカーだ。Wi-Fi接続機能を備え、「Amazon Music HD」や「Spotify」のコンテンツをストリーミングで楽しめるほか、Bluetooth 5.0やAirPlay 2にも対応し、スマホで再生中の音を高音質に楽しめるようになった。
Amazon Music Unlimitedに契約している人は、再生時に最大96kHz/24bitのハイレゾ品質を選べるほか、Amazon Musicのアプリで楽曲を選択し、キャストすることも可能だ。こういった従来機ゆずりの機能性を維持しながら、さらなる高音質化に取り組んだのがZeppelin Pro Editionということになる。
外観上の違いはあまりなく、確認できるのはカラーリングや背面の上部にあるボタンのひとつがAlexaの起動ボタンからBluetoothのペアリングボタンに変わった程度。サイズや形状などは全く同じだ。
しかし、音については確実に進化している。従来外部のサプライヤーから調達していたドライバーを自社開発/自社製造に変更しているが、その結果として、自社製造だからできるこだわりを多く盛り込むことができたためだ。
低域の明瞭感がアップ、音楽の真価がより伝わる
音は実機でも確認できた。明確に感じたのは低域の再現性がより良くなったことだ。単に量感があるだけでなく、はっきりとした音階が感じられ、打楽器やベースなどアタックの強い楽器は、各音が分離して正確なリズムを感じられる。
その結果として、音楽を聴くことにより深く没頭でき、その体験が上質となる印象だ。まずはそこから紹介していこう。
現行のZeppelinとは、オーケストラ曲と女性ボーカル曲の2つで比較できた。大型で投入できるコストにも多少余裕があるとはいえ、ともに設計には制限がある一体型スピーカーだ。
しかし聞いてみると、音の広がり、解像感、トーンバランスなどが各要素が優れており、低域も35Hzまでと、このタイプのスピーカーではまず考えられないほど深い領域まで再生可能となっている。
B&Wは「True Sound」を標榜した音作りを実践しているが、Zeppelin Pro EditionのサウンドデザインもHi-Fi機と同様の開発者が担当し、まとめているそうだ。
Proには「Professional」という意味が込められている。これは「業務用」という意味ではなく、創業者の一人、ジョン・バウワース氏が最初に手がけた「P-1」と同様の「忠実再現」を示している。
ZeppelinとZeppelin Pro Editionのスピーカー構成は同じで、アンプなども同じものを使用しているそうだが、ツィーターの振動板がアルミ素材から、単品の600 S3シリーズでも採用しているチタン素材にに変更になった点は大きな違いの一つだ。これは音調にも表れている。
両者を比べると、Zeppelin Pro EditionはZeppelinよりも、中音域を中心に落ち着きとバランス感の取れたしっかりとしたサウンドを奏でる機種となったという印象がある。その大きな理由がツィーターだろう。
高域の表現が割合派手なZeppelinに対して、Zeppelin Pro Editionは付帯音が少なく落ち着いた雰囲気の表現に進化している。パッと聴きではおとなしい印象もあるが、聞き込むと音のエッジをしっかりとトレースした、よりHi-Fi的な表現に近づいた再現であることに気づける。これに精度と分離感のいいロー・ミッドレンジの再現が加わることで、ベースラインの音階感や打楽器の明瞭性がかなり改善している印象だ。
音楽の世界に没頭し、その構造を的確に伝えられる
デモ曲の一つに、カラヤン指揮でベルリンフィルが演奏するパッヘルベルのカノンがあった。この曲を聴くと、その違いがよく分かる。
ニ長調のド・ソ・ラ・ミ・ファ・ド・ファ・ソで始まる3声のカノンの最も低いパートが、Zeppelinでは曲が進み、参加する楽器や演奏者の数が増えてくるにしたがって不明瞭になってしまう(そのぶん主に聞こえる、高域パートが際立ち、華やかにリスナーに届くのだが)。
一方、Zeppelin Pro Editionでは音階や音程がはっきりとした状態で曲が進んでいき、3声のカノンが等価のバランスを保ちつつ掛け合っている演奏(構造)が良くわかるのが印象的だった。
また、女性ボーカル曲(『Best Acoustic Voices』から「Fields of Gold」)でも、数を絞った楽器の音、それぞれが明瞭に聞こえつつ、全体が調和していた。帯域バランスが整っており、何かの音に気を取られて集中感を失うこともない。安心して音楽の世界に浸っていけるサウンドだった。
男性ボーカル、ジャズ、女性ボーカルなど一連のデモを通じて得た感想としては、高域の抜け感はそこまで求めず、中音と低音を重視したバランスに思えたが、その一方で低域の解像感が高く、支え(量感)もしっかりしているので、音楽としての安定感や曲全体の構造がよく伝わってくる印象だった。
量感はあるが音がぼんやりしているような、よくあるワイヤレススピーカーの音とは一線を画す音だし、音場の広さには多少制限があるものの、エントリーシステムとブックシェルフで組んだシステムと比べても、遜色ない出来栄えのサウンドである。
一体型筐体のスピーカーというカテゴリーには制限もあるが、しっかりとした音作りを経て市場投入された製品であるのがよくわかった。
奇抜なだけでない、外観デザイン
改めて、製品について紹介していこう。
従来のZeppelinからの大きな改善点は外観上はカラーリング(新色の追加)、音質/技術面ではドライバーユニットの改善だ。順に見ていく。
Zeppelin Pro Editionの外観は、従来機種同様、気球を思わせる楕円形だ。一見奇抜なデザインに見えるが、その裏にはユニットを取り付けるフロント部分は振動板ギリギリの面積に抑えつつ、流線型のキャビネットによって音の反射は最小限に抑えたいというB&Wの思想が込められている。
音の回り込むことによる干渉を防ぎ、無理のない空間表現を実現する理にかなった形状だ。見た目は大きく異なるが、その根底に流れる思想は、B&Wを象徴するスピーカーであるオリジナルNeutilusと同様であるという。
カラーについては新たに「ソーラー・ゴールド」というベージュ調の色が追加されたほか「スペース・グレー」という黒もより落ち着いた雰囲気になっている。光の演出という点ではLEDのダウンライトの色が調整可能となり、Bowers & Wilkins Musicアプリで明るさと15色のカラーが選べるようになっている。加えて、操作系ではAlexaのボタンがBleutoothのボタンに変わっている。
自社製造だからこそこだわれる作り込み
ドライバーについては、左右に25mmのツィーターを2基、90mmのミッドレンジ/ウーファーを2基、中央に150mmのサブウーファーを1基備える点は同様。ただし、従来は外注していた部品を自社開発/自社製造に変更することで、品質を大きく上げている。
また、最新機種で培った技術をさまざまな場所に注入している。
具体的には、600 S3シリーズで採用した「チタンドーム・トゥイーター」や、Continumコーンと同様の製法による自社開発・製造のFSTドライバー(ミッドレンジ)、ボイスコイルボビン先端に装着するアンチレゾナンスプラグ、サブウーファーの設計思想を反映し、35Hzまで出るロングストローク・サブウーファーなどだ。
最近は信号処理技術が進化しており、低域を出すだけ、あるいはフラットな特性を得るだけであれば、DSP処理で補正すればいいが、DSPによる補正を最小限にしたアコースティックにこだわった設計になっているのも特徴だ。
ツィーターは単にチタンを採用しただけでなく、600 S3と同じダブルドーム構造にしている。チタンは重い金属のため、薄型化してアルミに匹敵する軽さを実現。その強度を確保するために、周囲にもう一層重ねて補強する構造となっている。
FSTドライバーはグラスファイバーコーンを採用。ここは振動板の強度を上げるなどして、より硬く変形が少なく動くようにしている。そのためにContinuumコーンの技術を導入した。
Hi-Fi機器が採用しているContinuum(コンティニュアム)コーンは繊維の密度を下げて50%の隙間を設け、自由に空気が動く点を特徴としている。Zeppelin Pro Editionで使用しているものは、そこまでではないとのことだが、基本的な思想は共通となっている。
製法の改善について、細かいところでは、裏から塗布する目止め剤がある。かつては手作業で塗っていたが、塗りむらなどが出るとコーンの設計上重要な重量値にバラツキが出るため、作業中に破棄するものも多かったという。B&Wでは振動板に裏から塗る目止め剤を「800 D3」から機械化することで、安定した精度を得ることができた。
Zeppelin Pro Editionも同様の仕組みを採用しており、PVAの塗り厚が均一にな理、強度やダンプの具合が従来機と変わっているという。自社工場でユニットを生産するメリットだ。
ミッドレンジはほとんどの帯域を担当する担当する重要なドライバーであり、均一な特性が得られる点は非常に重要なポイントとなる。その品質へのこだわりは、コーンそのものから内製化できるB&Wならではのものと言える。
ちなみに、B&W初期のスピーカーであるP-1のドライバーユニットはEMIやセレッションの外製品を採用していたが、そのヒットでできた予算を投入した「P-2」では、当時最先端だった、グラスファイバー製のウーファーを使って業界での存在感を示したそうだ。こういった文脈で製品の出自や歴史を眺めてみるのも面白いかもしれない。
このFSTミッドレンジはエッジレス構造だが、形が潰れないようふわふわとしたウレタンで軽くサポートしている。これは「Neutilus 800」シリーズに向けて開発したもので、FSTのアイデアを思いついた開発者は、最初に隙間テープを買って貼って試したところ音が良かったので採用した。しかし、量産のため、発泡ウレタンを用いたところ、音が良くなかった。市販されている素材は、形状を保つため、密度が高かったのが原因だという。エッジレス構造は何もないのが理想なので、むしろ形状をサポートしすぎない方が好ましい。
Zeppelin Pro Editionのマウントダンパー(裏側のウレタン)を内製化するにあたって改善は、一般に多く用いられるエーテル系の発泡ウレタンでは音響プレッシャーがかかった際に、わずかにエラーが抜け、歪みになることを嫌い、連続発泡性のエステル系ウレタンを使用した点だという。結果、周辺からのエアーリークが抑えられているそうだが、ここも内製化ならではのこだわりと言える。
ウーファーの低域を改善する上で活用したのが、横の両側に空いているのがエア抜きの穴だ。吸音材を詰めてダンピングをかけているが、ウーファーとストロークの調整をして、一体型のワイヤレススピーカーでは実現しにくい35Hzの低域限界を出している。
こうしたアコースティックの改善によって、DSPによる信号補正も最小限に抑えられたという。例えば、低域は音量を上げた際にユニットがパコパコと動いてしまわないように、音量を上げたら少しずつ低域を抑えていく処理を入れる。しかしながら、使っているユニットの素性が良ければ、こうした補正は最小限で済ませられる。結果、アンプの負担が軽くなり、無理のない音が出せるようにできるという。
グリルはハニカム状の構造だが、後ろにくるドライバーに合わせて、その深さが調節されているきめ細かい配慮もすごい。基本は細くドライバーの音を遮らないフレームがよく、特に中央のウーファーの前は細く深い形状としているが、中域ユニットの前に来る部分はフレームがやや太く、代わりに少し浅いものになっている。浅くしているのは中高域の指向性を意識しているためで、ツィーターではさらに浅くしているという。グリル一つでここまでこだわるメーカーもまた珍しいだろう。
Zeppelin Pro Editionの本体サイズは幅650×奥行き194×高さ210mmで、重量は6.6kg。5chで合計240Wのアンプを搭載。35Hz〜24kHzの再生ができる。
対応ストリーミングサービスは、Amazon Music、Deezer、TuneIn、Spotify。AirPlay 2にも対応。Formationシリーズなど、他のB&W製ワイヤレススピーカーとの連携もでき、マルチルーム再生が可能となっている。Bluetooth 5.0対応でコーデックはaptX Adaptive、AAC、SBCを利用可能だ。
価格は13万6400円で、発売予定は10月下旬となる。
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