1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. IT
  4. IT総合

自動運転バスがすごい 技術開発の熱意を感じた

ASCII.jp / 2024年10月16日 20時0分

自動運転バスの試験車両

 NTTコミュニケーションズを代表とするコンソーシアム9社は、2024年9月30日から10月8日まで、横浜市内の公道で自動運転バスの走行に関する実証実験を実施した。この記事では期間中に開催されていた関係者および一般向け試乗会の模様と、そこで紹介されたさまざまな技術についてご紹介する。

実証実験の概要

 今回の実証実験は総務省の「地域デジタル基盤活用推進事業(自動運転レベル4検証タイプ)」として実施されたもので、前述のNTTコミュニケーションズのほか、ドコモ・テクノロジ、NTTテクノクロス、NTTデータ経営研究所、相鉄バス、先進モビリティ、東海理化、スタンレー電気、パナソニック コネクトの各社が参加している。

 本実証実験の目的は、最先端の通信技術と路車協調システムを活用することで、混雑エリアでも安全に自動運転が実現できるかを検証すること。詳細は後述するが、いずれの技術も運転手の介入なしで走行できるレベル4以上の自動運転には欠かせないものだ。

 車両は日野自動車の「ポンチョ」をベースとした自動運転バスを使用。走行エリアは年間来場者約100万人の人気動物園「よこはま動物園ズーラシア」に隣接した公道(往復約2km)が利用された。

走行ルートと基地局等の概要
走行ルートと基地局等の概要

気になる乗り心地は? 乗客としての感想

●シンプルな運転席と機械っぽさが残るブレーキ扱い

 筆者が乗車したのは10月7日の15時台の便。当日の天候は晴れで、多少風はあったが、概ね穏やかな気候だ。

 実験用のバスは車体の各所にカメラやセンサー類が設置されていることを除けば、どこにでもある一般的なバスと見た目は変わらない。車内についても客室側は一般の路線バスと同じ。運転席についても車両の状態や速度、測位衛星の受信状況などを表示する小型モニター(カーナビのモニターくらいのサイズ感)が追加されたほかは、特に変わったところはない。乗車前、様々な機器を所狭しと並べた運転席を想像していた筆者は、良い意味で拍子抜けしてしまった。

試験車両の運転席
試験車両の運転席

 そんな筆者ほか数名を乗せたバスは、定刻に正門前のバス停を発車。加速はとても滑らかで、人間の運転との違いはあまり感じられない。一方、ブレーキについては人間の運転よりきつく、少々粗っぽい印象。乗っていて怖さを感じるほどではないが、ブレーキの度に軽い違和感があるため、快適な乗り心地にはあと一歩及ばずといったところだ。通常の運行で使うブレーキについては、もう少し自然な減速ができるよう、ブレーキパターンの改善が必要だろう。

●自動運転と手動運転の切替はスムーズ

 本実験で想定された自動運転のレベルは全5段階中、上から2番目にあたるレベル4相当。具体的には、特定の環境とエリアに限り、完全自動運転を認めるというものだ。

 裏を返せば許可された環境やエリアを外れるとき、即座に人間の運転に切り替え必要があるということ。その点を考慮して、今回の実験では路上駐車を発見すると一旦手動運転に切り替え、追い越し完了後に再び自動運転に戻すという運用がとられていた。

 筆者が乗車した便も運良く(?)路上駐車に遭遇し、走行中の切替を体験できたが、こちらは言われなければ切り替えに気付けないくらいスムーズだった。下車後に確認したところ、この車両では運転手がハンドル等を操作すると即座に手動運転に切り替わり、運転手がスイッチをオンにすると再び自動運転に戻る設定になっているという。これなら、実用化の際の安全確保も心配はなさそうだ。

 なお、実際には自動運転のまま路上駐車を避けることも可能。試乗会での対応は、あくまで走行中の運転モード切替について説明するためのものだという。

スマート道路灯で死角を排除&遠隔監視もPCで

 ここからは、今回の実験で検証された自動運転を支える技術をご紹介しよう。

●「スマート道路灯」でバスの死角を補う(路車協調システム)

 車両に設置されたカメラやセンサー類で周囲360度の状況を常にチェックできる自動運転バスだが、建物に囲まれた交差点など、車両側の装備だけでは死角の発生が避けられない場面もある。それを補ってくれるのが、「スマート道路灯」を使った路車協調システムだ。

スマート道路灯
スマート道路灯

 スマート道路灯は、灯具部にAIカメラとセンサーを取り付け、周辺を走る車両や歩行者を検知する新しい道路灯システム。検知した情報は随時自動運転車へ送信され、接触・衝突事故を未然に防ぐことができる。

灯具部にAIカメラとセンサーを搭載
灯具部にAIカメラとセンサーを搭載

 今回の実験では、出発してすぐの所にある交差点に設置され、動物園外からこちらに向かってくる車両や歩行者の動きを監視。自動運転バスが安全に交差点を通過できるよう手助けしていた。

 スマート道路灯の見た目は通常の道路灯とあまり変わらず、言われなければ区別がつかない。検知能力もかなり高く、接近する車両、歩行者ともにほぼ100%検知できるという。バイクと自転車のように形状が似ている車両の「区別」は失敗することもあるが、このあたりはAIカメラの学習が進めばいずれ解決するはずだ。

 メーカーによると、試作段階のため価格は未定だが、従来の道路灯より少し高くなる程度に抑える方向で開発を進めているという。

●PC1台あればOK! 遠隔監視システム

 バスなどの公共交通機関でレベル4以上の自動運転を実施する場合、人間の監視員が遠隔からリアルタイムで車両の状況を確認することが求められる。

 今回のケースでは、実験エリアから離れた相鉄バスの営業所内に遠隔監視用のPCを設置。5Gなどの無線通信と光回線を併用し、リアルタイム監視の実用性を検証した。

 営業所側ではバスの車載カメラの映像や走行速度、ハンドルの向きなどの情報をPC上でリアルタイムに表示。バスから営業所への映像送信には、通信回線の帯域にあわせて伝送レートを自動調整する「AV-QoS」という技術を採用し、車両からの映像が途切れにくくなるよう工夫されている。

 本システムはデスクトップPCと複数枚のディスプレーを使った運用を想定しているが、動作に必要なPCのスペックは一般的な事務作業向けマシンと同程度。実際、試乗会の会場ではノートPCを使ったデモも披露されている。自動運転の導入自体に相応のコストが掛かることを考えると、遠隔監視システムを市販のPCで運用できるのはバス事業者にとって無視できないメリットだ。

ノートPCを使った遠隔監視システムのデモ
ノートPCを使った遠隔監視システムのデモ

 さらに、運転手不足が深刻化するバス業界の事情を踏まえ、複数台のバスの同時監視にも対応。うまく活用すれば、これまでより少ない人手で、これまでと同等かそれ以上の運行本数を確保可能だ。とはいえ、1人の監視員が同時に何十台も監視することは現実的ではないため、メーカーでは今後、監視員1人あたりの適正な担当台数を見極める必要があるとしている。

運行を支える通信回線

 ここまで取り上げた路車協調システムや遠隔監視システム、そして自動運転バスの走行自体にも欠かせない最重要インフラが、車両や各設備、拠点間を結ぶ通信回線だ。

●ローカル5GとWiGig

 走行エリアのうち出発地点から400mほどの区間は、本実験線用のローカル5Gを展開。自動運転バスとスマート道路灯や遠隔監視システムの間をつなぐ、周辺の混雑状況に左右されない専用通信回線として利用された。

 基地局は正門前の交差点付近と、そこから300mほど離れた道路横にそれぞれ1基ずつ設置。正門前の基地局にはルーターが設置され、直線距離で約4km離れたパナソニックの施設内にあるコア装置と光回線で接続されている。見た目はごく普通の電柱に、箱形の機械やアンテナが付いているだけと、至ってシンプルだ。

ローカル5G基地局(正門前)
ローカル5G基地局(正門前)

 一方、300m離れた2つ目の基地局は、60GHz帯の無線を使った「WiGig」で正門前の基地局と接続。両基地局間で道路がカーブする箇所には中継器を設置し、指向性(直進性)の高いWiGig用電波の向きを変えている。

道路上空に飛び出したWiGigアンテナ
道路上空に飛び出したWiGigアンテナ

 基地局間の通信速度は1Gbps前後。もともとレイテンシーの低い規格のため、中継器によるレイテンシーの増加は無視できる範囲に収まるという。また、WiGigは無線局の開局申請なしで運用できるので、光回線の工事が難しいエリア向けの代用回線としても利用しやすいという。

 周波数の高い電波にありがちな降雨時の通信速度低下についても問題なし。一方で物理的な障害物には弱く、実験期間中には雨水で垂れ下がった街路樹の枝がアンテナを遮り、通信速度が落ちたこともあったそう。こちらはアンテナ設置用のポールを道路上まで延ばし、街路樹を避けることで解消している。

 都市部と郊外で人口密度の差が大きく、また国土のおよそ75%が山地や丘陵地とされる日本で自動運転バスを普及させるには、ローカル5GとWiGigの普及が鍵となるだろう。

●5Gワイド

 走行エリアのうち、ローカル5Gの電波が届かない区間については、NTTドコモの一般向け5G回線を優先的に利用できる「5Gワイド」で通信している。

 ローカル5Gと5Gワイドの切り替えには、無線品質の劣化を予測して最適な通信回線に切り替える「Cradio」という技術を活用。回線の切り替えは全自動で、切替時にバスの動きに違和感が出るようなこともない。自動運転と手動運転の切替と同様、事前の説明がなければ気付けないほどスムーズな切替だった。

 5Gワイドの役割は、コストや基地局の設置スペースなど、さまざまな問題でローカル5Gの導入が難しいエリアで通信環境を提供することにある。

 メリットは、キャリアが設置した5G基地局を活用できるため、自動運転システムの導入コストを削減できること。デメリットは、自動運転バスのルート上に多くの人が集まると、自動運転バスの通信にも悪影響を及ぼす可能性があることだ。

 今回の実験で使われた5Gワイド(NTTドコモ回線)は、あくまで自動運転バスの通信を一般のユーザーの通信より「優先」しているに過ぎない。また、これはドコモに限った話ではないが、キャリアの5G回線が通信障害を起こすと、遠隔監視ができなくなってしまう。

 自動運転バスを本格的に導入するなら、ローカル5Gと5Gワイドを組み合わせるだけでなく、5Gワイドの部分で複数キャリアの回線を利用可能とするなど、冗長性を確保する仕組みが必要となるだろう。

商用化の目標は2027年

 筆者は今回の試乗会で初めて自動運転バスに乗車したが、実はもっとも印象に残ったのは、説明に立っていたある企業の担当者が、プロジェクトに参加する他社の技術の凄さを熱く語っていたことだ。

 今回の実験で検証されたハードウェアやシステムのなかには、複数の企業が技術を持ち寄り完成したものも少なくない。前述の担当者の話にはプロジェクトに携わる他社への強いリスペクトが溢れており、企業の垣根を越え、「すごいモノづくり」に挑戦できる楽しさがこれでもかというほど伝わってきた。

 たった1人の社員の声だけでプロジェクト全体の成否を推し量ることはできないが、きっと上手くいくだろうと筆者は思う。

 本プロジェクトに参加する9社は、2027年までに各技術の商用展開を目指している。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください