巨大施設と投資で研究を進める ファーウェイのスマートウォッチが目指す世界とは?
ASCII.jp / 2024年10月20日 12時0分
ファーウェイは8月、中国・東莞市でスマートウォッチなどに用いる「HUAWEI TruSense」システムの発表会を開催した。筆者はファーウェイ・ジャパンから招待を受け、同発表会を取材してきた。また、同社の研究開発施設やフラッグシップストアなども取材することができた。
今回のメディアツアーには、多くの国のメディアが参加していたが、日本から参加していたのはフリーランスのジャーナリスト。記事化を求められたわけでもない。ファーウェイのスマートウォッチに対する“本気”を伝えるのが主旨だったと認識している。
実際、3日間にわたる取材で、ファーウェイの“現在”を知ることができた。本記事では、その「HUAWEI TruSense」の発表会と、スマートウォッチの開発のために研究が行なわれている「HUAWEIヘルスラボ」の様子をレポートする。
複数のモニタリングシステムを統合した「HUAWEI TruSense」を発表
「HUAWEI TruSense」の発表会は、東莞市内の高級ホテルで開催された。東莞市は広東省の省都・広州市と香港に隣接する深圳市の中間に位置する、著しく発展を続けている都市。ファーウェイは2018年から東莞市に広大な研究開発施設を構えている。
会場は250人ほどのキャパで、中国と国外のメディアが半々という印象。ほとんどのプレゼンテーションは中国語で、スライドは英語でも投影され、英語の同時通訳もあった。筆者は、ファーウェイ・ジャパンの方による日本語通訳を聞きながら取材した。
HUAWEI TruSenseは、従来それぞれ異なる目的のために開発された「TruSeen」「TruSleep」「TruRelax」「TruSport」などのテクノロジーを1つにまとめたもの。
個々のモニタリング技術を多次元のセンシングシステムに統合し、より高度な健康管理体験を目指している。統合によって、ウェアラブルデバイスでの測定項目が60以上に拡大され、複数の健康モニタリングに対応するシステムになるそう。ファーウェイがウェアラブル製品を手がけて約10年経つが、HUAWEI TruSenseをブランド化して、これからの10年を戦っていくという意図もあるようだ。
その後、国内でこの「HUAWEI TruSense」を採用したスマートウォッチの新製品「HAUWEI WATCH GT 5」シリーズが発表されている。
外部の大学や研究機関と連携していることもアピール
ファーウェイのヘルスケア技術は、同社だけでなく、国内外の150以上の団体や組織と提携して、研究が進められているという。発表会では、共同研究に関わる3名の専門家がゲストとして登壇し、スピーチをした。
最初に登壇した王継光教授は中国高血圧連盟の主席で、高血圧の専門家。血圧をモニタリングすることの重要性について語り、血圧を24時間モニタリングする「ABPM」の優位性など、最新トレンドを紹介した。ファーウェイは血圧計を内蔵したスマートウォッチ「HUAWEI WATCH D」を国内含めてリリースしているが、さらに機能を向上させたモデルの登場を期待してもよさそうだ。
浙江大学の徐欣博士は、メンタルヘルスの研究者。メンタル状態の予測や管理の重要性について語った。その中で、中国でも社会問題化している認知症についても言及。ウェアラブル製品を認知症の早期発見や予防に生かす取り組みも進められているという。
ヨーロッパと中国の大学などが参加して、ウェアラブル製品の標準化を推進する「INTERLIVE」というネットワークがあり、ファーウェイは2024年から2027年までの継続的なパートナーショップを結んでいる。
そのINTERLIVEを代表して、リスボン大学のLuis Sardinha教授が登壇。ウェアラブル製品の普及に合わせて、新しい指標が必要であることを説いた。ファーウェイには、HUAWEI TruSenseをより信頼性のあるブランドにしたいという意図もあるのだろう。
ヘルスラボでの研究がスマートウォッチでの測定の正確さに反映
ファーウェイは東莞市に148万平方メートル(ちなみに東京ドーム約30個分)にも及ぶ広大なキャンパス(研究開発施設)を構えている。そのキャンパスはヨーロッパの街並みを模して設計されていて、テーマパークのような趣きだ。
そこから近い場所にあるのが「HUAWEIヘルスラボ」だ。ここはヨーロッパ風ではなく、近代的な体育館といった印象。ウェアラブル製品の研究開発のために、さまざまな実験をしたり、データを計測したりする施設だ。中国では、ここのほかに西安にもあり、2023年にはフィンランドにも開設したという。
館内の中央には、バスケットボールやテニス、バドミントンなどのコートを設営できるフィールドがあり、それを囲むようにランニングのトラックがあり、屋外へと続いている。さらに、その周囲に高地トレーニング、水泳、ゴルフ、ボルダリングなどのコーナーが並んでいた。
取材に訪れた際には、体育大学の学生のような、いかにもアスリートといった体格の青年たちが被験者となって、データが計測されていた。しかし、実際には、普段あまり運動をしない人も含め、さまざまなタイプの人が運動した場合のデータも計測しているとのこと。中国の政府機関である国家体育総局とも協力関係にあり、オリンピックに出場するような選手が参加することもあるそうだ。
一般的な体育館と大きく異なるのは、多くのカメラが設置されている点。たとえば、バスケットボールなどの球技のエリアには、28台の高性能カメラを設置。プレイヤーの動きをモーションキャプチャで捉える。床の一部にもセンサーが搭載されていて、足の動きや圧力などが記録される。こうしたデータを統合して、スマートウォッチのワークアウト計測のプログラムに生かされているそうだ。
スマートウォッチ開発に対する本気をあらためて実感
ファーウェイは2019年以降、米国からの制裁によって、スマートフォン事業で苦戦を強いられることになった。中国国内の市場ではスマホ事業が復調し、シェアを回復しているようだが、グローバルでは依然として厳しい状況にある。そこで注力しているのがウェアラブルだ。スマートウォッチの世界市場におけるシェアでは、この数年、常に上位を維持している。
HUAWEI TruSenseは、製品の競争力を高めて、よりシェアを拡大するための挑戦だろう。ウェアラブル製品の開発のために、自社でここまでの施設を構えている企業を、筆者はほかに知らない。
スマートウォッチに搭載されるセンサーの精度やデータ分析のアルゴリズムは、一般ユーザーが評価するのは難しいが、ファーウェイがスポーツ・ヘルスケア分野の研究において、こうした投資と研究によって他社にリードしていることは間違いないだろう。
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