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クアルコム、経済圏拡大に“邪魔者” アームとの対立深まる

ASCII.jp / 2024年10月25日 7時0分

 今年もクアルコムの年次イベント「Snapdragon Summit」がアメリカ・ハワイ州マウイ島で開催された。

 2024年はパソコン向けのCPU「Oryon」が発表となり、Snapdragon X Eliteとして、各社のWindowsノートパソコンに搭載された。「Copilot+ PC」というオンデバイスAIに対応したパソコンという触れ込みで、クアルコムはインテルとAMDに牙城に切り込んでいった。

 今年、「Oryon」はスマートフォン向けにも搭載され、「Snapdragon 8 Gen3」から「Snapdragon 8 Elite」へと名称を刷新した。さらに車載向けもOryonが載り、「Snapdragon Cockpit Elite」と「Snapdragon Ride Elite」に生まれ変わった。

 クアルコムとしては、オンデバイスAIによってWindowsパソコン市場で存在感を示すなか、その勢いをスマートフォン、さらにはクルマにも波及させたいのだろう。「Snapdragon Elite」に統一することで、一般ユーザーへのブランド認知を図りたいようだ。

マイクロソフト、メタ、OpenAIまでコメント

 クリスティアーノ・アモンCEOが登壇した基調講演では、まずはマイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏がビデオメッセージを寄せた。この1年でCopilot+ PCという新しい市場を両社で開拓したといえば納得だろう。

 続いて登場したのはMetaのマーク・ザッカーバーグCEOだ。Metaは現在、XRデバイス事業に注力しているが、「Meta Quest3」などはクアルコムのチップセットプラットフォームを採用している。XRデバイスにおいては、今年、アップルのApple Vision Proが目立っていたが、商品ラインアップおいてはクアルコムのチップセットを使った製品のほうが遥かに多い。

 デバイス関連のみならず、クラウド企業からはOpenAIのサム・アルトマンCEOもビデオメッセージを寄せている。同社はChatGPTを展開する一方、クアルコムはスマートフォンやPCでAIを処理するオンデバイスAIを訴求している。アルトマンCEOは「クラウドAIとオンデバイスAIは補完し合う関係にある」と語り、両社の関係は切っても切れないというわけだ。

 もちろん、本丸であるスマートフォン関連からはサムスン電子でGalaxyを統括するTMロー氏、中国メーカーのシャオミ、HONORの幹部がプレゼンをした。ここでもテーマはオンデバイスAIであり、シャオミ、HONORは10月中にSnapdragon 8 Eliteを搭載した新製品を発表するとアナウンスがあった。

「あらゆるものにSnapdragonによるオンデバイスAIを」

 これほどまでに多くの業界キーマンからメッセージをもらう背景にあるのは、クアルコムが「あらゆるものにSnapdragonによるオンデバイスAIを」という世界観を本気で実現しようとしているからだ。

 かつてクアルコムで製品管理担当のシニアバイスプレジデントを務め、現在はXR製品担当のシニアバイスプレジデントとなっているジアド・アスガー(Ziad Asghar)氏は、「スマートフォン、スマートグラス、スマートウォッチ、ノートパソコンのそれぞれに生成AIが動くだけでなく、5G通信によってクラウドAIともつながるようになっていく」と語る。

 パラメーター数にしてスマートウォッチとスマートグラスは10億、スマートフォンは70億、ノートパソコンは130億のオンデバイスAIがそれぞれで動くというわけだ。

 すべてのデバイスでSnapdragonが動くには、パートナーの存在が不可欠だ。そのため、ノートパソコンであればマイクロソフト、スマートグラスはMeta、スマートフォンはサムスン電子やシャオミ、HONORが駆けつけたというわけだ。

 「スマートフォンのパートナーはグーグルではないのか」と思ったが、グーグルはイベントの2日目、車載向けプラットフォームのパートナーとして登場していた。まさにクアルコムは全方位でパートナーを増やし、Snapdragonエコシステムを拡大しようとしているようだ。

クアルコムの世界観実現に向けて“邪魔者”

 クアルコムとしてはこの「水平分離モデル」でいかに強みを発揮していくかが重要だろう。特にグーグルは自社でAndroidOSを作り、チップも自社開発し、Pixelブランドでスマホを売るなど、どちらかといえば「垂直統合モデルのアップル」を追いかけている感がある。

 Snapdragon Summitのさなか、ソフトバンクグループの傘下である半導体設計企業であるArmがクアルコムに対して、半導体設計のライセンス契約を解消すると伝えたという報道があった。クアルコムはArmと契約し、Armの回路設計図を元にSoCを作っている。

 クアルコムは今回の騒動に対して「裁判が12月にあるが、Armによる策略は法的手続きを妨害しようとするものとみられ、契約解消の根拠はない。Armとの契約に基づくクアルコムの権利が認められると確信しており、 Armの反競争的行為は容認されるものではない」と声明を発表している。

 業界関係者の間では「クアルコムの活躍を快く思っていない企業がArmを焚きつけているのではないか」という見立てもある。クアルコムが得意とする水平分離モデルによる「あらゆるものにオンデバイスAIを」という世界観の実現に向けて邪魔者が入ろうとしているようだ。

 

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。

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