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歩くより遅いからこそ見える風景がそこにある 「新しい低速自動走行モビリティ実証実験」実施中

ASCII.jp / 2024年10月31日 18時0分

 時速5キロメートル――これは都市部における歩行者の歩く速度だ。2023年4月に道路交通法が改正されて新たな移動手段が増え、より合理的に目的地へアプローチできる方法が求められている。そうした中、大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)では街の回遊を促し、新たな移動体験を提供する「新しい低速自動走行モビリティ実証実験」が実施されている。

 東京国際映画祭と連携し、移動自体に新たな付加価値を与える低速モビリティとは? 今回、丸の内仲通りを中心に実施されているゲキダンイイノ社製「iino type-S712」の実証実験に参加し、走行風景や実際の乗り心地などを試してきた。

丸の内仲通りを走る「iino type-S712」

歩くより遅いモビリティにニーズはあるのか?

 大丸有エリアでは都市のリ・デザインの実現を目指し、アプリやウェブサービスなどを通じた、都市の価値を高めるモビリティやロボットなどの実証実験を重ねている。これまでも電動キックボードの公道走行や自動運転バス、自動搬送ロボットの走行実証などが行われ、そこで得たデータを元に新たな取り組みが推進されている。

 今回の実証実験では低速モビリティiinoを用い、丸の内仲通りの移動手段としての活用と、乗車中に見られる回遊コンテンツ視聴の提案など、移動そのものを楽しむという提案を掲げている。iinoは、あらかじめ決められた3つのコースを巡回していて、利用者は道中のどこからでも搭乗でき、どこででも自由に降りることができる。

 iinoは3人乗りの低速モビリティで、離れた場所から監視し遠隔操作で稼働する。大きさは電動車椅子と同等の70cm×120cm程度で、歩道を走ることがこれまで実証実験されてきたモビリティなどとの違いだ。最高速度は時速5kmで、走行中に人が乗り込もうとすると時速1.5km程度まで減速する。つまり、歩行速度よりも遅いモビリティということになる。これを聞くと歩くよりも移動が遅くなってしまうモビリティにニーズはあるのか?という疑問を持つ人も多いのではないだろうか。

 通常のモビリティであれば、歩くよりも速い時速7~8km程度、ジョギングしているときの速度が求められると考えるが、iinoの場合はどこでも乗れて、どこでも降りられるというのが一つの特徴であり、時速7~8kmでは速すぎて乗り降りしづらくなる。歩きながら乗り降りする移動手段で社会に実装されているエスカレーターは時速2km程度、動く歩道が時速2.5kmというのを思い浮かべてもらえれば時速7~8kmがいかに速いかがわかるだろう。

iinoは遠隔操作だが、カメラやセンサーが各方向に配置され、走行前方に人や障害があればすぐ停止する。またiino横に人がくると速度を落とし、乗りやすくする

歩かないことで得られる新たな発見

 速度面では歩いたほうが速い。だったらモビリティに乗らず歩いたほうがいいのではないかという点においては、目的地が決まっており、そこへ移動することが最優先であればそのほうがいいに決まっている。いまやスマホで目的地までの道のりがナビゲートされ、最短でもっとも合理的な移動ができる。しかし、歩くというのは意外に視界が狭くなり、正面や地面しか目に入っていないことが多い。iinoはその移動中に情報が取得できるというのがメリットの一つだ。

 iinoに乗って、歩くという動作がなくなると何が起こるのか。例えば左折する目印であるコーヒーショップを目に捉える、地面の段差や障害となるものを認識する、といった目的地に向けて必要な情報を取得する必要がなくなるので、歩いていたとき以上の情報を受け取れる。毎日歩いているのに、その横にあるお店を見逃していた、張り紙などのちょっとした変化を見落としていたということはよくあることだが、歩く必要がなくなるとそういったことに気づきやすくなる。

普段歩き慣れている道でも新しい発見があるかも?

 今回の実証実験では、そうした情報取得という点で、位置情報と音声情報を連動させ、ある店舗の前でその店舗の情報を音声で流したり、注目すべき場所をiinoからプロジェクションマッピングで教えたり、逆に建物側からプロジェクターによる動画などを描写した移動体験を得るといった試みが行われている。

ビルの一角を使い、プロジェクターにより情報発信。昼間は見づらいが、夜はあざやかに映像が見られる

 建物への描写などは、iinoに乗車している人だけではなく、周囲を歩いている人にも見えるので、その方法によっては新しい宣伝効果も生まれるかも知れない。今回の実証実験のコースは3つあり、その1つはJR有楽町駅のホームから折り返し地点が見える位置にあるので、電車の乗客にもリーチできる可能性がある。

JR有楽町駅付近の折り返し地点。左側には東京国際映画祭と連携したレッドカーペットの敷かれたブースがあり、中では告知などの情報が見られる

 また、最大3人まで乗ることができるので、移動中のコミュニティ形成ということも考えられるし、片手は手すりを掴むとして、もう片方の手は自由にできるので、スマホを確認しながら移動できる。スマホが重要なコミュニケーションツールになっている今現在、歩きスマホは危ないがモビリティで移動中にスマホを見られるのはメリットとなるだろう。

電動キックボードなどの一人乗りモビリティと違い、複数人が乗車できるのも特徴。新たな出会い、コミュニケーションの可能性が感じられる

次世代の移動手段をいち早く体験

 では実際の走行や乗車した様子をお届けしよう。まずは乗車だが、iino側面に寄っていくと速度が落ちるのでそのまま乗ることができる。立つ位置は階段一つ分もない高さなので、乗り降りに困ることはないだろう。

実際に走行している様子。横から近づけば速度が落ちる

 乗り心地は悪くない。速度が遅い分、視野が広がり、周囲をよく見ることができる。

乗車したときの目線からはこのように見える

 課題となるのは、周囲に人が多すぎる場合だろうか。センサーによって人や障害を感知すると速度が落ちるため、混雑した道では思うように進めないということも発生するかも知れない。iino自体が発光しているため、周囲の人からは認識されやすく、避けてもらいやすい。

周囲に人が多いと速度が落ちるので思うように進まないことも?

 さきほど乗り心地は悪くないと書いたが、実際は道路環境に依存するのではないかと思われる。車椅子に人を乗せて押したことはあるだろうか? そのときに最初に感じるのは道表面の状況だ。例えば石畳のようなしゃれた表面になっている道路は車椅子には相性が悪い。歩いている分には気にならないが、道のでこぼこが直接手に伝わってくる。iinoに関しても同様で、歩くには問題ない道路でも振動が伝わってくることがあるだろう。下の写真はiinoの手すりにカメラを固定して撮影したものだが、小さな振動によってブレてしまっている。

奥にあるJR有楽町駅ホームの照明の光が上下した後、波打っているのがわかる。これはモビリティがそのように動いたことによるものだ

 立って乗っている分には影響のない振動だが、道路の表面がどのようになっているかによって向き不向きがあると思われ、どこでも稼働できるわけではないことがわかる。車輪が小さくサスペンションだけでは解決できない問題なので、社会実装される際には道路環境にも気を配る必要がありそうだ。

 「新しい低速自動走行モビリティ実証実験」は11月6日まで丸の内仲通りを中心に3コースで実施されている。今回は取材できなかったが、夜の部では日中とは違った風景が楽しめ、プロジェクションマッピングなどを見ることができる。近未来ではなく、次世代の移動手段としての低速モビリティをいち早く体験してみるのもいいだろう。

令和5年度補正予算 国土交通省都市局スマートシティ実装化支援事業 「新しい低速自動走行モビリティ実証実験」

日時:10月28日(月)~11月6日(水) 昼の部:13時~16時 夜の部:17時~19時30分 雨天時は走行中止

主催:一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、ゲキダンイイノ合同会社 協力:東京国際映画祭、Slit Park YURAKUCHO、東邦レオ株式会社、株式会社SpAcE

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