総務省の“アップルつぶし”か スマホ下取り価格規制
ASCII.jp / 2024年11月1日 7時0分
前々回の連載で、総務省の「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドライン」の改正案に対する意見募集について「ソフトバンクを刺しに来たのではないか」と書いた(参考:総務省がソフトバンクを刺しに来た? もう割引規制なんて撤廃すべきだ)。
現在、各キャリアではスマートフォンの販売において「端末購入プログラム」を展開。端末を分割払いで購入できるのに加えて、1年もしくは2年後に端末を返却すると、残りの支払額を免除するため、ユーザー負担額が下がる仕組みが導入されている。
ただ、ソフトバンクは将来における下取り価格を高めに設定することで、ユーザーの負担額をさらに軽減。最初の1年においては支払額を月額2円や3円などに設定し、実質24円や36円という見せ方にするなど、総務省の施策をあざ笑うかのような販売方法を実施してきた。これに総務省がブチギレしたようで、「端末の販売価格×残価率×その他考慮事項」という算出式が設定され、合理的な「買取等予想価格」を算出することと追加があった。
この算出式が出てきたことで「ソフトバンクによる無茶な販売方法が塞がれた」と言われてきた。
ただ、この記事が出たあと、別のスマホ業界関係者からは「ソフトバンクだけが狙い撃ちにされただけではない。総務省はアップルも潰しに来ている」と語る声が聞こえてきた。
業界関係者は語る。
「総務省の改正案によって影響が出るのはiPhoneではないか。リセールバリューの高かったiPhoneの下取り価格が大きく下がる可能性が出てきた」
なぜiPhoneの下取り価格が下がるのか
iPhoneの下取り価格が下がるとはどういうことか。
キャリア関係者は、「買取等予想価格を設定する上で、総務省では中古買取、販売業者の業界団体である一般社団法人リユースモバイル・ジャパン(RMJ)が公表している数字を利用するとしている。このRMJの数字が業界に大きな影響を与えそうだ」と語る。
RMJはスマートフォンの買取や中古販売において、市場の健全な発展や消費者保護を目的として設立された、正会員23社、賛助会員11社が参加している業界団体だ。
これまで、キャリアが展開する端末購入補助プログラムにおいては、各キャリアが独自に将来の下取り価格を設定しているため、ソフトバンクは強気に出て、高額買い取りを設定。結果、ユーザーは月々の支払額を抑えられるというメリットがあった。一方で、他キャリアはソフトバンクよりも控えめに設定するため、月々の支払額に差が出ていたというわけだ。
総務省としてはこれを問題視しており、今回「RMJの数字を参考にさせることで、同じiPhoneであればすべてのキャリアで将来の買取価格を統一化していきたい」と目論んでいるようだ。
ここで大きなあおりを食らいそうなのがアップルのiPhoneというわけだ。
キャリアはiPhoneの下取り価格を下げざるを得なくなる
iPhoneはリセールのバリューが圧倒的に高い機種とされ、2年使っても、状態がよければ結構、高額な価格で下取りされるスマホとして定評がある。
キャリア関係者は、「RMJの下取り価格は総じて安価な傾向が強い。総務省の改正案が導入されるとRMJの数字に影響を受けて、キャリアはiPhoneの下取り価格を下げざるを得なくなってくる。結果、iPhoneがさらに手が届きにくい価格になる可能性が高い。またすべてのキャリアで買取価格が統一化されれば、競争も起きなくなってくる」というのだ。
スマホの中古業者からすれば「安く買い取って、高く売る」というのはビジネスモデルとして当然のことだ。一方で、キャリアとしてはスマホはできるだけ短期間で買い換えてもらい、ユーザーには最新機種を使ってもらうことで、ARPUを上げたいというのが本音だ。また、他社よりも魅力的な価格をつけることで、ユーザーを奪いたいという戦略もある。
だからこそ、端末購入補助プログラムを導入して買い換えを促進しているのだが、その価格設定をRMJの数字に左右されてしまうと、買い換えを抑制されてしまうだけでなく、顧客の獲得競争を封じられてしまいかねない。
アップルとしても、キャリア間の販売競争があるからこそ、ユーザーが手軽にiPhoneを買い換えられる環境が整備され、結果としてiPhoneが売れるという構図がある。
すべてのキャリアでiPhoneの下取り価格が安価に統一化されてしまえば、手軽に買い換えられる術が封じられてしまうわけで、ユーザーの「買い換えよう」というモチベーションは下がってしまうことは間違いない。
日本市場はますます世界から取り残されることになる
アップルとしても、今回の改正案で、日本でさらにiPhoneが売れなくなる可能性が出ているため、危機感を募らせている可能性が極めて高い。
キャリア関係者は「仮にRMJが出してくる数字が間違っていて、その数字を信じたキャリアがミスを犯した場合、総務書は行政指導をRMJとキャリア、どちらに出すのか。いずれにしても、RMJだけを頼りにするのは本当に正しいことなのか」と警鐘を鳴らす。
販売施策だけでなく、中古端末の下取り価格の設定にまで口を出す総務省。ここまでがんじがらめにしている市場は世界の中でも日本だけだ。ヨーロッパでは、5G促進に向けて「1ユーロ端末」なんてのが当たり前に売られているだけに、日本のスマホ市場はますます世界から取り残されることになりそうだ。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。
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