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実質的に110周年モデルのリミテッド仕様、デノン「DCD-3000NE」発表、SACD新ハイエンド

ASCII.jp / 2024年11月5日 16時0分

 デノンは11月5日、SACDプレーヤー「DCD-3000NE」を発表した。7月に発表したプリメインアンプ「PMA-3000NE」と対になるハイエンドモデル。A110シリーズやSX11シリーズは年内で終了とアナウンスされているため、実質的なトップモデルと言える。価格は46万2000円で、12月下旬の発売を予定している。

これは110周年モデルのリミテッド仕様だ!

 コンセプトは2019年の「SX-1 Limited」同様、「オーディオ的快感と、音楽的感動の両立」。デノンのエンジニアが次の10年につながる技術にチャレンジした110周年モデル「DCD-A110」(2020年発表)をベースにしている。

 D/Aコンバーターを4機搭載したクアッドDACやアナログ波形再現技術アルファプロセッサー「Ultra AL32 Processing」の最新・最上位版を搭載している。

DCD-3000NEの内部、基板は左、中央、右の3つに大きく分かれているが、その間はケーブルではなくボード間接続でつないでいる。

 このA110から踏襲し、高い完成度を持つ回路を継承しつつ、徹底的な試聴を実施。SX-1 Limitedで作り上げたカスタムパーツを、SX-1 Limitedに匹敵する物量で投入したモデルとなっている。デノンによると、DCD-3000NEは「DCD-A110のLimited版と表現してもいいモデルだ」という。

ベースモデルとなったDCD-A110
DCD-A110はさらにこのモデル(DCD-2500NE)がベースになっている。基本的なレイアウトは近い一方で、ドライブカバーなどの違いにも注目。

 また、回路構成は同じだが、オーディオ基板を刷新している。従来は表面と裏面を使用する2層基板だったが、今回は4層基板。GNDを再設計することによってS/N感が改善したほか、DACの発熱対策にも有利。熱に弱いコンデンサーを発熱源から離せるためだ。ドライブメーカーのピックアップの安定動作、製品寿命の延長にも貢献するという。

 信号経路も最短化。ケーブルの使用箇所を減らしている。基板は大きく3つに分かれているが、これらを結線する際、従来はケーブルを用いていたが、DCD-3000NEでは「Borad to Board」でジョイントする方式を採用している。デジタル電源基板とデジタル基板、アナログ基板の接続ケーブルをなくして、アンテナ効果や不要な電気的な干渉を低減している。また組み立て時のばらつきが減ることは、低コスト化にも貢献する。

 電源部も改良。カスタムコンデンサーをオーディオ信号の通らない電源部にも採用している。フルディスクリート化したオーディオ電源も引き続き採用している。

電磁波対策の例となるフラットケーブル。A110のようにカバーで遮蔽せず、金属を巻いてケーブルをシールドすることで電磁波の影響を受けないようにしている。

 最適化したD/Aコンバーター回路では、768kHzのAdvanced AL32 Plusから1.536MHzのサイン波にする「AL32 Ultra」に変更。4つあるDACチップはTI製からESS Technology製に代わり、DACチップに合わせた基板パターン(部品点数も低減)、乗数の変更などを実施している。

SYコンデンサーには「S.Y.」の文字が刻まれている。

 DACマスタークロックデザインなど、デノン製品独自のノウハウも当然盛り込んでいる。クロックはPCM用を2つ(48kHz系と44.1kHz系)に加え、DSD用も独立させた合計3つを装備。IV変換の出力カスケード回路のパワートランジスターも大型化しているが、あえてオーディオ用ではないが音にいいものにしているという。また、作動入力回路、作動合成回路に使うトランジスターも最適化。熱の影響を受けにくいものにしている。

DAC部のコンデンサーなどで使用されている部品が違うのがわかる。
2つの基板を並べたもの。

いつまでも聴いていたい、没頭感がサウンドのゴール

 結果として得られるVivid & Spaciousサウンドに関しては、いつまでも聴いていたい、音楽に没頭できるサウンドがゴール。そのために、鮮度、明瞭度、純度(雑味のなさ)をあげ、躍動感とスケール感のある音場再現を目指したとする。

 音質検討にはレギュラーモデルでは珍しい長い時間をかけ、カスタムのSYコンデンサーやNEコンデンサーをはじめとして、PPSC-X、RFY/YH(カスタムコンデンサー)を大量投入。占有率はSX-1 Limitedに匹敵するものとなったという。高価だが、供給は安定しており、デノンならではのプレーヤーを開発できる理由となっているという。

 これ以外もワイヤリング、ビスの材質や長さ、抵抗の改善、銅プレートの採用など、サウンドマスターの入念なチェックは多岐にわたる。DCD-A110には静電気対策のため、ドライブメカの後ろにプレートを置いていたが、DCD-3000NEではこれを取り去っている(銅箔を用いたフィルムケーブルの使用などで対策)。音の開放感、振動や音の悪影響の抑制に効果があるという。電源トランスはデジタル、アナログ用に分離。それを固定するベースプレートは1mmのアルミ板を2枚重ねていたが、これを3mmと厚く、ドライブメカのトップカバー同様、A6061の高級アルミ板に変更しているという。

 ちなみに、内部のドライブカバーはかつてはステンレスだったが、110周年モデルでは銅が用いられていた。今回はこれに加え、一般的なA5052アルミの1.0mm圧、航空機グレードのA6061の1mm、1.5mm、2.0mmをそれぞれ試聴。結果として、A6061の1.5mm圧に決定したそうだ。

 本体サイズは幅434×奥行き405×高さ138mmで、重量は16.8kg。フロントパネルのディスプレーは視認性が高いOLEDパネルを使用している。

デノンフラッグシップの20年を振り返る

 試聴は少し変わった趣向でできた。20年前の「DCD-SA1」(2004年発売、以下SA1)、その9年後に登場した「DCD-SX1」(2013年発売、以下SX1)、そして、新製品「DCD-3000NE」(2024年12月発売)を比較するというもので、「デノンブランド20年の進化がわかる」内容になっていた。アンプはPMA-3000NE、スピーカーはB&Wの「801 D4」。ケーブルを含めて共通だ。

手前がDCD-3000NE

 サウンドマスター山内氏の解説では、アップサンプリングとビット拡張をするAL32の進化に注目すると進化がわかりやすいという。まず、信号処理のために新技術を取り入れ、、FPGAを最初に採用したのがSA1(それ以前のプレーヤーでは既存のデジタルフィルターを通してDACにデジタル信号を入力していた)。SA1の開発には山内氏も携わった思い出深い機種だという。

 次のSX1はハイレゾ化の流れの中、ビット拡張を24bitから32bit出力に変更している。さらに、DCD-3000NEの元となったDCD-A110はアップサンプリングを16倍の768kHzから32倍の1.536MHzにしている。

 カスタムコンデンサーはSX1の前モデル「DCD-SX」で初投入している。DCD-3000NEでは、SX-1 Limitedに匹敵する多数のカスタムコンデンサーを採用しているのはすでに述べたとおりだ(ちなみに、山内氏はSX1には直接関わっていなかったそうだ)。

 3000シリーズとして見た場合、プリメインアンプのPMA-3000はかなり大きな変更があったが、DCD-3000NEはDCD-A110とは設計を大きくは変えていない。音質検討に加えて、音質とトレードオフになりやすいEMC対策など設計上の課題にも時間をかけて取り組めたという。

独自技術の一つAL32 Processor

 まずは3機種の比較から。まずはジェニファー・ウォーンズのアルバム『Hunter』から最後の曲「I Can’t Hide」。アタックのあるリズム帯とシンセ系のストリングス、スライドギター、女性ボーカルの組み合わせ。フォーカス感や、低域の分解能などの要素がどう変わるかを中心に聞く。

 まずSX1とSA1では、冒頭のドラムス連打の表現の違いを感じた。SX1ではボーカルがステージの中心にいて、その周りを半円で囲むようにドラムやストリングス、ギターなどの楽器が配置されている感覚がわかる。SA1はこの空間性がやや控えめ。ボーカルが手前、その奥に広がる広い空間を意識できるのが印象的だ。これと付随して、パート感のまとまり、役割も明瞭になる印象があった。音源が整理された結果、音源全体のまとまりが上がる印象だ。

 新モデルもSX1に近い音場感があるが、よりダイナミックスの表現が上がり、音の切り込み感と抑揚が付く。感情をより揺さぶる表現になったと言ってもいい。加えて、ドラムスの重量感や声のボディー感なども強く意識され、腰の座った、実在感のある音になったように思う。音楽のまとまりや音源として仕上がりに加えて、制作者がこめた、あるいは現場に漂う熱気が直に伝わってくる感覚がある。音楽の醍醐味を感じさせるし、より大きな音で聞いてもうるささを感じさせないダイナミックレンジの広さもまた魅力だろう。

 ちなみに、ギターの楽曲として、ドミニク・ミラーの「Gabe」も再生された。レイヤーの分離、見通し、広がり、トランジェント、アコースティックギターと、木管楽器(フルート系)の対比などを聞く。

 ここはSX1とSA1の比較のみだったが、SX1では空間の広がりの中にポツンとギターが立ち上がる感じ、フォーカスが絞られて、声やシンセ系のサウンド、フルートなどとの対比が明瞭になる感じがあった。

 SA1は音場型というよりは音像型というか、ギターが大きく近い印象になった。この辺りは音源のハイレゾ化によって、音の明瞭感や解像感だけではなく、音場の広がりや空気感の再現などへの関心が移ってきた時代の求める音の変化も反映されているのだろう。

 対比があるというのは、バックに鳴るギターそのものの音がよく感じられるということでもある。これにはハードウェアの進化が大きく、32bit対応に加えて、基板も多層化が始まり、分解能なども上がっているという。SX1ではAL32によって、空間や定位の再現が大きく変わっており、これは現在のモデルのベースになるサウンドだという。

20年間のハイエンドプレーヤーの足跡を辿れる試聴デモ。k

音楽の世界に没入する楽しさを与えてくれた試聴デモ

 ここからはDCD-SX3000NEを中心とした試聴で、様々なジャンルの曲が再生された。まずはオーケストラ。まずはシベリウスの交響詩『レンミンカイネン組曲』から、1曲目「レンミンカイネンと島の乙女」。指揮はユッカ=ペッカ・サラステ、演奏はトロント交響楽団。1998年の録音。印象的なオーボエの音とオーケストラの対比、流れるような流麗なサウンドが心地よい。解像感は高いのだが、滑らかさがある音調であり、ナチュラルで引き込まれるような雰囲気がある。音質の心地よさに、思わず聞き惚れてしまった。

 次にローリング・ストーンズの『刺青の男』(Tatoo You)から「ウォーリード・アバウト・ユー」。曲は1979年で、2017年のリマスター盤とのこと。録音現場の生々しさが伝わってくる音源。当時の空気感、そして、ミック・ジャガーのファラセットボイスが印象的だ。きりりと冷えた空間の鋭利さを感じさせる。声の高域が伸びているためかなぁ。セッションの声で掛け合いや、鮮度が高いギターリフの質感、背景に立体的に浮き上がるミック・ジャガーの声などが生々しく新鮮。かといって分析的になりすぎず、少し気だるさというか、ファッションで言えば「抜け感」のような緩さもある。これとシャープなサウンド表現のマッチ感が面白い部分だ。

 シャープさと空間表現の高さは、この機種の特徴と言えるが、一方で大音量にしてもうるさくならないのもメリットと言える。後半のがなり声も、あまり汚くならない、全体にクリーンさと品があるサウンドである。

 ジャズボーカルでは、ケイコ・リーの「Fragile」。音源の移動感なども楽しい曲だ。まず、声のハスキーなボディー感が、美音系で聞きやすく落ち着く印象。スネアをブラシで擦る音、トライアングルを叩くような金属音、低域の沈み込みと広がりなど、各音が極めて明瞭。システムが悪いと、ちょっと混濁してしまいそうな感じもある音だが、分離感が好ましい。バックコーラスの男声も寄り添う感じで、ニュアンス豊かだ。

 山内氏によると、DCD-3000NEはA110からの進化、この関係性はSX1からSX1 Limitedに進化したものと同じで、冒頭に述べたように「リミテッド色がある」という。また、DCD-A110とSX1 Limitedが持つ両方の良さを融合できたとしている。

 今回のデモで印象的だったのは「Vivid & Spacious」の解釈についてだ。ビビッドは瑞々しさ、スペーシアスは広大さなどと訳されるが、仮にこの言葉で伝わらないとしても、曲に最後まで浸れたとか、知らず知らずに音楽を最後まで聴いてしまったという没入感や曲の世界に入り込む感覚を味わわせることがデノンサウンドの目標なのだという。Vivid & Spaciousはそのための手段であり、目的ではないということだ。

 楽器演奏では、ボブ・ジェームスの「Westchester Lady」。リズムのはぎれがよく、ドラムが活躍するバージョンとのこと。機械的で幾何学的な文様を思わせるピアノの細かいフレーズが印象的な楽曲だが、その歯切れがいい。ドラムも弾ける感じで、残響の感じに気持ちよさがある。ベースとピアノの掛け合いも絶妙だ。細部に耳を傾けると、ピアノのキンと硬質に抜ける感じだったり、シンバルの金属音が伸びている感じが緊張感を伝えてくれるし、低域もかなり下の方まで伸び、ズーンとしたから自分に迫ってくる感じが迫力満点だ。このドラムのパワフルさは後半、激しくなってくる。その音は細かさもあり、力強さもある。重たく力が伝わってくる印象だ。

 加えて、途中に挟み込まれる休符と打楽器のアタックなど、メリハリ感が非常に高い楽曲であり、そのサウンドをうまく引き出すシステムに思えた。金属を叩きながらのピアノの音色であったり、最後のピアノとドラムの速いパッセージなどからは、ダイナミックスの高さに加えて、大音量でも破綻の少ない許容度の少なさが魅力に覚えた。

 デモの締めは、山内氏自身、SA1でもよく聞いていたというリンダ・ロンシュタットの『Dedicated to the One I Love』から「Angel Baby」。ウィスパーボイスの癒される声が魅力的な楽曲だ。

 この曲に限定せず全体に言えることだが、このシステムの音は分解能やアタックが優れているので、ある程度の硬質さやシャープさはあるのだが、不思議と聞き疲れしないのが特徴であり、気づいたら音を上げてしまいそうな刺激感の少ない音色、没入感の高さが魅力に思えた。仮に自宅で導入しているのであれば、ボリュームを1目盛上にして聞きたいと感じてしまうに違いない。

 また、あと高域の伸びの良さは魅力ではあるが、腰高にならず、かなり深い低域まで再現できるのも特徴だ。B&Wのスピーカーは個性があり、高域が少し暴れてしまいがちになる面もあるが、このシステムはまとまり感が良く、不快感につながるような付帯音がないのも特徴になっているように思う。

 デモの体験から感じたのは、まず最初に仮にハイエンドのSACDプレーヤーを所有しているのであっても、20年の時を減ると音に何段階かのステップアップがあるということ。ここは、概ね20年前に最後の単品SACDプレーヤーになるかもしれないと思って買った機種がある筆者自身も、興味を持ったところだ。

 もう一つが、Vivid & Spaciousが音の特徴ではなく、体験の質のアップであるということに改めて気づけたことだ。オーディオは録音の良さ(時には悪さ)を最大限に引き出すものであるのだから、そこは当たり前ではあるのだが、このシステムは高域がいいとか、空間が再現されているというのはあくまでもそのためのステップであって、究極はこのシステムでどれだけ音楽を聴きたいと思うかなのだと改めて認識した。ハイエンド機器に埋もれてしまうと、つい忘れがちになる部分だが、重要な要素に思えた。

 その意味で、今回の試聴は機器の優劣ではなく、純粋に楽しい音楽体験が得られたことに価値があったと書き添えておきたいと思う。

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