Core Ultra 7 265Kが最大87度!PL1を159Wに上げても空冷でゲーミングPCが安定動作
ASCII.jp / 2024年11月17日 10時0分
サイコムの「G-Master Spear Z890」は、インテルの最新デスクトップPC向けCPU「Core Ultra 200Sシリーズ」を搭載するゲーミングPC。高性能CPUを空冷で運用するモデルで、試用機材はエアフローに優れたCooler MasterのPCケース「MasterBox CM694 TG」、冷却性能と静音性の高さで定評があるNoctuaのCPUクーラー「NH-U12S」を採用していた。
もちろん、高性能CPUとなると発熱が大きく、水冷クーラーのほうが安心ではある。しかしながら、G-Master Spear Z890に標準搭載しているCore Ultra 7 265Kは省電力かつ低発熱な最新CPUだ。エアフローや電力制限に気を配れば、空冷クーラーでも性能をいかんなく発揮しつつ十分冷却できる。のだが、それはメーカーの腕次第。
前回は構成PCパーツを中心に、空冷ゲーミングPCとしてのポイントを紹介したが、今回は性能面と冷却力についてチェックしていこう。
SMTの廃止によるCPU性能への影響は?
G-Master Spear Z890に搭載しているCore Ultra 200Sシリーズの大きな特徴は、SMT(ハイパー・スレッディング)を廃止し、Pコアでも1コア1スレッドになった点だろう。特に、マルチスレッド処理が有効な用途……、例えばCGレンダリングや動画エンコードの性能が落ちてしまうのではないか、と危惧している人も多いはずだ。
ただし、Core Ultra 200SシリーズのPコアは、従来よりもサイクルあたりの命令実行数(IPC=instructions per cycle)が9%ほど高くなっている。また、EコアのIPCも32%強化しており、トータルで見るとSMTの廃止がマイナスになっていないのではないか、と予想される。
とはいえ、試してみなければわからない。ということで、定番のCPUベンチマークソフト、「CINEBENCH R23」と「CINEBENCH 2024」を試してみよう。なお、比較対象は過去データからCore i7-14700K搭載PCの結果を掲載する。OSやドライバーのバージョン、メモリー速度・容量、CPUクーラーなどは異なるため、厳密な比較ではない点をあらかじめお断りしておく。とはいえ、おおまかな傾向を見るのであれば十分だろう。
ちなみに、CINEBENCHはCGレンダリング速度からCPU性能を調べてくれるベンチマークソフトで、結果は「pts」という独自単位のスコアーで表示する。この値が高ければ高いほど高速なCPUとなる。ただし、CINEBENCH R23とCINEBENCH 2024はテスト内容が異なるため、同じ単位のスコアーだが比較できない点は注意してほしい。
結果は、全コアを使って計算するMulti Coreテストが33509pts、1コアだけ使うSingle Coreテストが2236ptsとなった。過去データからCore i7-14700Kのスコアーを見てみると、Multi Coreテストが31564pts、Single Coreテストが2154ptsと、どちらもCore Ultra 7 265Kのほうが優秀だった。SMTが廃止され、電力制限で無理せずとも、前世代から順当に性能が向上している、と考えて良さそうだ。続いては、CINEBENCH 2024の結果も見てみよう。
こちらは、Multi Coreテストが1922ptsで、Single Coreテストが135ptsという結果だ。一方で、Core i7-14700KはMulti Coreテストが1772ptsで、Single Coreテストが125pts。負荷がCINEBENCH R23よりも高くなっているためか、どちらのテストでも性能上昇幅は約8%ほどと高くなった。
続いて、「3DMark」の「CPU Profile」テストを試してみよう。これは1、2、4、8、16、最大と、同時実行スレッド数ごとにテストを繰り返し、その時のCPU性能をスコアー化してくれる。こちらのCore i7-14700Kのテスト結果は過去データということもあり、CPU Profileのバージョンが異なる。テスト内容が変更されている可能性もあるが、今回は同じものとしてそのまま比較した。
1~8スレッドの結果を見ると、Core Ultra 7 265Kのほうが約6~11%くらいスコアーが高い。コアあたりの性能が高くなっているぶん、スコアーが増えていると考えられる。また、2つのCPUはどちらもPコア×8+Eコア×12という構成。8スレッドまでのテストではPコアが優先的に使われているようで、ほぼリニアに上昇しているのだろう。
面白いのが16スレッド時。Core Ultra 7 265Kでは8スレッド時と比べ60%近くアップしているのに対し、Core i7-14700Kは30%くらいしかアップしていない。これはSMTによる論理コア、もしくはEコアが使われるようになってきたからだろう。SMT廃止とEコアの改良による性能アップは、かなり効果が高いようだ。
ただし、最大スレッド時には、2つのCPUの性能差は約18%まで縮まる。Core Ultra 7 265Kの最大20スレッドに対し、Core i7-14700KはSMTを含め最大28スレッドの同時実行が可能となるため、差が縮まったと考えられる。とはいえ、SMT廃止の影響は小さく、Core Ultra 7 265KはCore i7-14700Kとマルチスレッドもシングルスレッドでも、優位に立てるポテンシャルを秘めていることがわかった。
CPUのパッケージ温度は最大87度と空冷でも超余裕
いくら性能が高くても、CPU温度が高止まりしてしまうのは問題だ。実際、第14世代Coreプロセッサーでは、性能が高いものの発熱が大きく、CPUクーラーの冷却性能次第で、性能が大きく下がってしまうことも珍しくなかった。
発熱を抑えるには電力制限を厳しくすればいいのだが、そうすると今度は性能が下がってしまう。それだけに、発熱と電力制限のバランスをいかにとるかが、BTOパソコンメーカーの腕の見せどころになっていた。
Core Ultra 200Sシリーズは電力効率が向上しているだけに、発熱が小さくなっていることにも期待したい。ということで、CINEBENCH 2024のMulti Coreテストで高負荷をかけ、その時のCPUのパッケージ温度などの情報をモニタリングツール「HWiNFO64 Pro」でチェックした。
なお、Core Ultra 7 265Kの標準は、最大ターボパワー(PL2)が250W、ベースパワー(PL1)が125Wとなっている。これに対し、G-Master Spear Z890の設定では、PL1が159Wに高められていた。
高負荷テスト終了直前のCPUパッケージ温度の平均は78度。最大温度でも87度とかなり余裕があり、PL1の電力制限をさらにゆるめても安定動作が見込めそうだ。なお、CPU Package Powerの最大が約209Wまでしか上昇しておらず、PL2の250Wまで到達していない。このことからも、電力効率が大きく改善され、省電力化されているのは間違いない。
ゲーミング性能も文句なし!
今回お借りしたG-Master Spear Z890の試用機のビデオカードはManli「M-NRTX4070TISG/6RMHPPP-M3604」(GeForce RTX 4070 Ti SUPER、16GB GDDR6X)。フルHDはもちろん、WQHDでも十分快適に遊べるゲーミング性能がある。設定次第では、4Kでも最新ゲームをプレイできるだろう。
まずは、定番のベンチマークソフト「3DMark」で、そのポテンシャルを調べる。3DMarkは多数のテストがあるが、「Speed Way」の結果から見てみよう。このテストは、DirectX 12 Ultimateを使用し、リアルタイムのグローバルイルミネーションや、レイトレーシングといった重たい処理が行われる。最新ゲームのリッチな画面描画に影響が大きい部分だ。
スコアーは6350と高く、さすがGeForce RTX 4070 Ti SUPER搭載ビデオカードを積んだゲーミングPCといった印象。Speed Way以外のテストも試しているので、スコアーをまとめておこう。ほかのPCとの比較などで参考にしてほしい。
実際のゲームに近いテストとして、「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」(以下、FF14ベンチマーク)も試してみた。こちらはDirectX 11世代のテストで、ゲームとしては軽量クラス。そのため、解像度は4Kとし、画質設定はプリセットの「最高品質」、フルスクリーンで試している。
スコアーは12831で、評価は「とても快適」。レポート機能で詳細を見ると、平均フレームレートが約90fpsと高いだけではなく、最低フレームレートも57fpsと十分な速度が出ていた。MMORPGは画面描画速度が30fpsもあれば違和感少なく楽しめるだけに、4Kでも快適に遊べるというのは間違いない。どんなシーンでもより滑らかな動きで楽しみたい、というのであれば、解像度をWQHDに落としてプレイするというのもアリだ。
なお、画質をあまり下げずにフレームレートを上げる方法として「DLSS」を使用するという手段がある。これは、描画の計算は低い解像度で行うものの、表示時に高解像度化処理を行い、高画質化するというもの。これにより、高フレームレート化と高画質化を両立できる。
ただし、DLSSはあくまで低いフレームレートを高めるための技術だ。今回のように最低フレームレートが57fpsもあると、DLSSを使わずに十分な速度となってしまうため、効果は見込めない。実際、DLSSを適用して試してみたところ、スコアーが12245、平均フレームレートが約87fps、最低フレームレートが54fpsと、わずかに下がってしまった。これは、十分な性能があるのに余計な処理が加わってしまったことによるものだろう。
「黒神話:悟空」でDLSSの効果を見てみよう
先ほどは負荷が軽すぎてふるわなかったDLSSだが、より重たいベンチマークとして「黒神話:悟空 ベンチマークツール」(以下、黒神話ベンチマーク)も試してみた。これはアクションRPGの「黒神話:悟空」用のベンチマークソフトだ。細かく画質設定などが変更でき、その効果を画面で確認できるものだ。
まずは重たくなるよう、解像度を4Kに変更。また、グラフィック設定は「最高」とし、フルレイトレーシングを「ON、超高」、DLSSはサンプリング解像度を「100」にして試してみた。
かなり重たい設定ということもあり、平均フレームレートは26fps。95パーセンタイルでは22fpsとさらに低く、快適にプレイするのは厳しいだろう。では、DLSSのサンプリング解像度を下げるとどうなるだろうか。「80」にした場合の結果がこれだ。
平均フレームレートが45fps、95パーセンタイルで40fpsと大きく上がった。シーンによって多少ガタツキを感じる可能性はあるものの、十分プレイできる範囲と言える。しかし、快適に遊びたければ60fps以上を目指したい。なので、さらにサンプリング解像度を下げ、「50」にしてみた。
平均フレームレートは66fps、95パーセンタイルでも58fpsとほぼ60fpsを達成。ここまで落とせば、4Kでも不満なく遊べるレベルとなる。DLSSの効果は高いが、シーンによっては細部のディテールが落ちてしまう可能性もある。画質にこだわるのであれば、DLSSばかりに頼るのではなく、画質設定や解像度まで見直し、納得できる設定を見つけてほしい。
PCIe 5.0対応の超高速SSDまで選択できる
動画編集など、多くのファイルに頻繁にアクセスする用途が多ければ、ストレージの速度も重要なポイントだ。G-Master Spear Z890では、コストパフォーマンスに優れたPCIe 4.0対応SSDだけではなく、さらに高速なPCIe 5.0対応SSDも選択できる。試用機はCrucialのPCIe 5.0対応SSD「T700」(1TB)を搭載していた。定番のストレージベンチマークソフト「CrystalDiskMark 8.0.5」を用い、その実力を調べてみた。
シーケンシャルのリードもライトも10000MB/sオーバーという超高速度をたたき出した。PCIe 4.0対応SSDだと速いものでもシーケンシャルリードで8000MB/sくらいなので、いかにT700が高速なのかがわかりやすい。最強のPCを目指したいというのであれば、SSDの速度にもこだわっておきたいところだ。
まとめ:最新の高性能CPUでも空冷で運用できるバランスの良さが光る
新世代CPUということもあり、しっかり性能は向上しているし、発熱も抑えられているということがわかった。とはいえ、それでもPCパーツ構成がいけてないと、空冷の安定運用は難しいもの。そういった意味では、G-Master Spear Z890はサイコムの妥当なPCパーツ選びと絶妙な電力制限設定が光るゲーミングPCと言える。
ただし、Core Ultra 200Sシリーズは「本来の性能」が発揮できるまで、もう少々時を要する。すでにわかっている問題として、一部のゲームが遅くなることや、OSのバージョンによっては性能が発揮できないといったことが報告されている。
この問題をインテルは11月末から12月初旬にかけて、OSやBIOSアップデートで対策するとしている。ゆえに、既知の問題で食指が動かない人も今後の動向に注目してほしい。もちろん、購入後に自分でアップデートしてその性能向上の模様を見守るのもオツなもの。新世代CPU搭載ゲーミングPCの有力候補として、オススメしたい。
なお、サイコムは2024年11月15日から2025年1月20日まで、「サイコム 冬の特大キャンペーン2024」を開催している。G-Master Spear Z890なら標準構成でも今回の試用機構成でも、1万9920円引きとなる。気になっている方は積極的に利用してほしい。
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