【写真家レビュー】iPhone 16 Proのカメラは15からの継承 カメラコントロールは予想できない進化に期待したい
ASCII.jp / 2024年11月17日 12時0分
このところ新しいiPhoneが発売されるたびに、カメラ部分のレビューを任されている。そこで試す機種は、基本的にカメラ機能で優位性のある「Pro」になる。
今回もiPhone 16 ProとiPhone 16の2台をお借りしたが、結局すべて16 Proで撮影した。しかし最大のトピックである「カメラコントロール」が、無印の16にも採用されている点はAppleがこのインターフェイスに賭ける熱意を感じた。これまでProと無印ではカメラ本体だけでなく、操作系にも違いがあった。それが16 Proと16では同じなのだ。
iPhone 16シリーズには無印/Proともに 「カメラコントロール」が追加された
「カメラコントロール」をあらためて説明すると、画面に向かって右下の側面にある、細長いトラックパッド。操作としては強めのクリックでカメラが起動。画面がロックされている状態でも、ダブルクリックで起動する。
そのまま押し込めばシャッターボタン、長押しすれば動画の撮影が始まる。また軽くクリックした後に上下にスワイプすると、あらかじめ決めた項目の数値が変動する。ちなみに項目を選ぶには、触れながらダブルクリックした後でスワイプ。露出・被写界深度・ズーム・カメラ(ステップズーム)・スタイル・トーンの6項目が用意されている。
本体を横位置で、つまりカメラのように構えると、「カメラコントロール」は右手人差し指の位置にくる。つまり操作感はまさにカメラだ。
iPhone 15 Pro/Pro Maxで登場した「アクションボタン」(iPhone 16シリーズにも搭載されている)も180度回転すれば同じなのだが、ボタンに与えられた機能の数がまるで違う。アクションボタンはただ押すだけだからだ。
最初はやや反応の悪さが気になったカメラコントロールだが 結局は慣れが重要となってくる部分かもしれない
そのカメラコントロール、しばらく触っていると反応の悪さが気になった。パッドは側面からほんの少し凹んでおり、タッチパネルのように軽く触れるだけではダメ。指先を気持ち奥へ押し込む必要がある。かといって強く押すわけでもなく、たとえば触れながらダブルクリックといった感圧を利用した操作もある。今までのiPhoneにはないものだが、そのあたりがわかってきたら、気持ちよく操作できた。
ちなみに某カメラメーカーが満を持して発売したミラーレスカメラに、同じようなユーザーインターフェイスが採用されたことがある。カメラを握る右手の親指部分で操作できる横長のパッドで、それまでのダイヤルに置き換わるものだった。
今後発売する機種はこのパッドを採用します……という話だった記憶があるが、操作したいときに反応しなかったり、意図せず反応したりで多くのユーザーが「無効」を選択。次に発売されたカメラにパッドの姿はなかった。そういえば今この原稿を書いているMacBook Proには「タッチバー」があるが、これもすでに今のモデルにはないんですよね?
カメラではファインダーや背面液晶で被写体を凝視ながら数値の設定をすることも多く、必然的にクリックのあるダイヤルが好まれる。
しかしスマートフォンではダイヤルというインターフェイスは現実的ではない。また液晶画面を見ながら撮影をするため、そこにスライダーを表示してスワイプする仕組みでも不満はなかった。しかし操作をする以上、どうしても意識や視線がそこが行く。多くのユーザーは無意識のうちに、視線が設定箇所と被写体を行き来しているのだ。
カメラコントロールはそれを画面の外に追いやることで、視線を被写体から離すことなくズームや絞り、明るさなどを調節できる。小さなことではあるが、撮影時のストレス軽減効果は大きいと思う。
カメラコントロールは主に「被写界深度」、たまに「露出」に 一眼レフとボケ味を比較
そのカメラコントロールに、僕は主に「被写界深度」をアサイン。ときどき「露出」に切り替えた。普段ミラーレスや一眼レフで撮影するとき、その2つがもっとも頻繁にいじる数値だからだ。「被写界深度」はiPhoneなら後から変更することもできるが、ボケ具合をシミュレーションしながら撮影するほうが楽しいし、より的確な画面構成ができる。
「被写界深度」をスワイプすると、上限はF1.4。撮影用レンズは明るさがF値という数値で示され、「小さいほど明るい=ボケが大きいレンズ」となる。
F1.4はミラーレスや一眼レフの交換レンズで“明るいレンズ”の代名詞ともされる数値で、とりわけ肉眼に近い遠近感とされる。そのため標準レンズでは「50mmF1.4」というのがスタンダードなスペックになっている。
iPhone 16/16 Proのカメラでは、2倍が48mm相当とかなり近い。明るさに関してはF1.78だが、これはカメラのセンサーの面積が違うのであまり関係ない。実際にはよほど寄らない限りボケは生じないのだが、画像処理で擬似的にボカすわけだ。そこでiPhone 16 Proで2倍/F1.4で撮りつつ、一眼レフに50mmF1.4レンズを装着して、同じ場面を撮ってみた。
左がiPhone 16 Pro、右が一眼レフ。背景がシンプルで、ボケの比較をするにはちょっと物足りなかったと反省しているが、iPhone 16 Proで撮った写真をみると、ピントの合った顔から自然にアウトフォーカスしているのがわかる。
光学的にボカす一眼レフにはかなわないが、あちらはカメラとレンズ合わせて約50万円、何より重量が2kg近い機材。そう考えるとiPhone 16 Proは善戦どころではない。いつもダンベルのように重たいカメラとレンズを持ち歩いていた自分がバカバカしく思えてくる。
ピントは面で合うので、顔とほぼ同じ距離にある右手や、前輪の上のあたりがシャープなのも、距離情報をしっかり把握している証拠だ。一方でカゴの処理が少々不自然ではあるが、ひと昔まえのポートレートモードに比べたら格段に進化している。
以前だったら車輪の内側とか自転車と足に囲まれた部分などは、バグって奥の砂利がくっきり見えていたと思う。ただ実際にはF1.4は強引にボカしすぎるきらいがある。自然に背景をボカしながら被写体を浮かび上がらせるなら、少し抑えたF1.8〜F2がよい。ちなみにポートレートモードで撮影すると、さらに抑えめなF2.8に設定される。
予想のできない進化を期待したいカメラコントロール
カメラコントロールについてあらためて言えば、“初物”なのは確かで、まだこなれていない印象はあるし、設定項目の選択ももう少しスマートだったら……というのが正直な感想だ。
一眼レフに電子ダイヤルというものが登場したとき、僕はまだ高校生だったがそこに未来を感じた。しかし1つでは操作に限界があり、やがて2つ、3つとダイヤルの数が増えていった。
カメラコントロールもひょっとすると左右両側とか、メインは側面、サブは画面上といった進化をするかもしれないし、僕が予想できない進化をするかもしれない。
いずれにせよスマートフォンが「写真や動画も撮れる通信機器」から、「通信もできるカメラ」にますますなりつつあるのは間違いない。なお年内には半押しでピントと露出の固定、そのまま全押しで撮影という、これまた既存のカメラのような機能が加わるということだ。
またカメラコントロールが登場したことにより、アクションボタンをカメラに割り当てていたユーザーは、他の機能に変更することができる。
といいことづくめのような新インターフェイスだが、凹んだ部分に指を押し当てるので、素材が厚かったり開口部が狭いケースは操作しにくい。純正ケースはこの部分にサファイアグラスが埋め込まれ、同じ感覚で操作できるらしい。
iPhone 15シリーズでひと皮むけた印象だったが iPhone 16はそれを継承したという印象
なお、カメラ自体の話をすると、ディテールがとても豊かだというのが第一印象。iPhone 15/15 Proで“ひと皮むけた”という印象を受けたが、それを継承している。つまりまあ、大きな違いはないのだが、望遠カメラだけは別。15シリーズまでProは3倍・77mm相当、Pro Maxは5倍・120mm相当という違いがあった(ちなみに無印はなし)が、iPhone 16 Proは5倍を搭載しているのだ。
iPhone 16 Proでは超広角カメラが進化し、AFにも対応 マクロがオンのときにメリットを感じる
これまで12メガピクセルだった13mm相当の超広角カメラも、16 Pro/Pro Maxでは広角(メイン)カメラと同じ48メガピクセルになった。しかもこれまで被写界深度の深さに頼って固定だったピントが、しっかりとオートフォーカスになった。
広い画角を撮るときはもちろん、マクロがオンのときも超広角カメラのクロップ(切り抜き)になるので、画素数の向上やオートフォーカス化の恩恵は大きい。
僕はこの画質低下がイヤでこれまでマクロをオフにしていたが、16 Proでマクロをオンにして撮った写真を見ると、まだディテールがわずかに劣るものの、普通に撮った写真と並べても違和感がなくなった。これらのスペック向上から考えると、これまでカメラ性能のためにPro Maxを選んでいたユーザーも、同じ性能で小さくて安価なProを選べる一方、Proと無印の差が少し開いた印象もある。そのあたりのラインナップの整え方がAppleはさすがだなぁと思う。
色味を変える「フォトグラフスタイル」が細かく調整可能に
色味を変える「フォトグラフスタイル」も進化。これまでは撮影前に「暖かい」「鮮やか」といった項目を選択。するとその後撮影するすべての写真にそれが適用された。つまりベースの色調を設定する機能だった。
それがiPhone 16シリーズでは「クールローズ」「ローズゴールド」「アンバー」といった15種類のプリセットを用意。さらにグリッドでトーンと色味、スライダーで適用量を細かく選べるようになった。何より注目なのが、それを撮影後でも変更したり、元に戻すことができる……というのを僕はAppleさんから借用していた端末を返却した後で知った。一生懸命いじりながら何枚も撮ったあの苦労はなんだったんだ。
iPhoneのカメラはこの「フォトグラフスタイル」が進化した結果、写真が見た目に近くなったように感じる。以前は撮影すると露出を変えた複数枚を同時に記録。それを重ね合わて階調差を埋めるHDRの効果が目立ちすぎていた。
しかし「フォトグラフスタイル」での調整のしやすさを考えて、ナチュラルな仕上がりを目指すようになったのかもしれない。だから色味やトーンをどの方向に振ってもハマりやすい。このあたりのアレンジはさすがAppleだ。
なお「フォトグラフスタイル」はiOS 18に対応している機種であれば使用可能。ということでまだ頑張ってくれている私物のiPhone 13 ProをiOS 18.1にアップデートした。が、調整はグリッドではなくスライダーのみ。グリッドが表示されるのはiPhone 16シリーズのみなのだろうか。そのあたりが確認できていないのだが、つまりはiPhone 16シリーズを買えということか。
10月28日にはiOS 18.1へのアップデートで、(英語であれば)Apple Intelligenceの初期機能が提供開始となり、今後さらにパワーアップが約束されている。
カメラ機能についていえば、写真の検索性が向上し、アルバムの自動生成などもできるという。もちろんカメラ機能以外で進化する部分も大きく、個人的には「作文ツール」でこうした原稿の執筆を手伝ってくれないかな……とも思ったりするが、手伝うどころかそのうち仕事を食われそうな気がしないでもない。
それはともかくApple Intelligence自体はiPhone 15 Pro/Pro Maxでも対応しているが、逆に言えば14シリーズ以前や、15でも無印のユーザーは、16シリーズに買い替える理由にはなるかもしれない。引き続きアップデートに注目したいところだ。
筆者紹介――鹿野貴司
1974年東京都生まれ、多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーランスの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるかたわら、精力的にドキュメンタリーなどの作品を発表している。
写真集に『山梨県早川町 日本一小さな町の写真館』(平凡社)など。公益社団法人日本写真家協会会員。
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