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3Dオーディオでライブを楽しむなら、いま最高のコンテンツはこれだ! MR.BIG最後の日本武道館ライヴ『The BIG Finish Live』

ASCII.jp / 2024年11月23日 0時0分

 MR.BIG(ミスター・ビッグ)による最後の日本武道館ライヴ『The BIG Finish Live』が2024年11月22日に発売となった。

The BIG Finish Liveの内容は?

 MR.BIGは1989年のデビュー以来、日本で愛され続けたロックバンド。内容は2023年7月26日に開催された最後の日本武道館公演(追加公演最終日)だ。香港に拠点を置くEvolutionはEvolution Music/Evosoundなどのレーベルを通じて高音質盤を提供。以前紹介したボブ・ジェームズ氏の楽曲などもリリースしている。

 筆者は8月の上映会でその世界を体験したが、映像と音声の融合によってもたらされる没入感は大変素晴らしかった。ライヴならではの熱気はもちろんだが、34年にわたって活動を続けたバンドによる集大成的なツアーであり、日本最後の公演という意味も加わって非常に感動的な内容であるのも印象的だった。

 MR.BIGのファンの人は絶対に手にするべきコンテンツと言えそうだし、オーディオファンとして最先端の映像とサウンドを楽しみたい人、純粋にライヴで感動したい人も一度視聴して見ることをお勧めしたい。

 内容は、1991年の大ヒット2ndアルバム『Lean Into It』の全曲演奏や、恒例となっているバンドメンバーの楽器パート替え演奏、ビリー、ポールによる超絶ソロプレー、そして伝説となったビリーの最後の挨拶と感動的なフィナーレを収録。ほぼ2時間半の長編コンテンツとなっている。

映像の有無に加え、アナログ/デジタルなど多彩な提供形態

 さて、最先端の品質に目がないオーディオファンとして、注目したいのはやはり「3Dオーディオ」(イマーシヴ・オーディオ)の完成度だ。武道館に50本以上のマイクを設置し、バンドとしては初のイマーシヴ・オーディオ録音を実施していること。そして、これを担当したのが、サラウンド界では有名なWOWOWの入交英雄氏であるという点だ。

 すでに述べたように、存分に会場の臨場感が楽しめるのはこのサウンドがあってこそだし、レーベルサイドもこのコンテンツを非常に力をこめて制作したのが伝わってくる。ちなみにレーベルがこの作品にこめている熱量は、提供形態の多彩さからもうかがい知ることができる。具体的にはMQA-CD(2枚組)、SACD (2枚組)、MQA-CD+Blu-ray(3枚組)、4K UHD Blu-ray Disc、180g重量盤LP(通常盤 / カラーヴァイナル(3枚組)、カセット・テープ(2枚組)など。

 価格はいずれもオープンプライスで、国内流通版と海外流通版などがある。販売価格はストアごとに異なるので、ぜひ確認してほしい。

 なお、この中でイマーシヴ・オーディオを楽しめるのは、Blu-ray(品番:EVSD2853MBJ)と4K Ultra HD Blu-ray(品番:EVOB2854UJ)となる。どちらもDolby Atmosと96kHz/24bitのハイレゾ音源を収録。さらに4K Ultra HD版はAuro-3Dのトラックも収録している。また、4K Ultra HD版の映像はDolby Visionによる4K HDRで、カメラ22台で高画質撮影したものだという。

 発売直前の11月8日〜22日の期間は109シネマズプレミアム新宿で映画館上映されたそうだが、映画館で映像と音を浴びられた人は大変幸せな経験ができたことだろう。

制作の裏話を少し紹介

 そんなThe BIG Finish Liveのイマーシヴ・オーディオについていくつか追加情報を紹介していこう。

 イマーシヴ・オーディオをバンドとしては初めてビデオ商品として展開している点はこのコンテンツの価値だが、その意味はやはり、2023年7月23日に武道館で繰り広げれた音を、現実で聴いているのと同じくらいリアルかつ自然に表現してくれるという点になる。

 7.1.4chのトラックを用いて再生されたサウンドは、武道館で起こった雰囲気や音をそのまま忠実に再現していると確信させるほど優れた出来栄えだ。筆者がデモを体験したのは、WOWOWの辰巳放送センターに用意された試写室「オムニクロス・スタジオ」。さすがに武道館のライヴほどではないだろうが、かなり大きな音量で音を浴びる体験ができた。

 The BIG Finish Liveは、コンテンツ的には元が13.1chと96kHzとなっている。つまり、Auro-3Dを基本とし、それを7.1.4chに落とし込んだ音声が収録されていることになる。

 制作のポイントは、「現場の印象を再現すること」であり、「武道館の様子をできるだけわかるようにしたい」という思いがあったそうだ。実は武道館では、収録用のマイクを吊ること自体の許可が難しく、制作段階の初期から入り込んで交渉を続ける必要があった。コンサート会場で設営に使うトラスにマイクを仕込ませてもらい、高さがあり武道館の響きを自然に収録できるマウスセッティングにこだわったという。苦労は非常に多かったようだ。

 会場では聞いている場所によって音がそれぞれ違うが、その再現にもこだわったという。

 ステージ上には正面のビリーのベース、中央がニックとエリック、一番近いのはポール。一方、武道館のアリーナでは正面はバンドに近い音、奥はエコーが強く、後方で聞いている人もいる。どこで聞くかで違う音が聞ける。そんなライヴの音をそのまま再現しようとした。これこそがイマーシヴ・オーディオの良さであるが、その音をなんと家庭で楽しめてしまうというのがすごい。

 制作側としても、34年の活動を締めくくる重要な作品になるので、最後の公演ならではの臨場感をパッケージにギュっと凝縮しつつ1年間試行錯誤を続けながら作品と仕上げたという。この感動を伝えたいという思いはもちろんだが、このディスクを再生すれば2023年7月23日の再現がいつでもできるという「タイムカプセル」的な意味合いを持つのもこの商品の魅力だろう。

 画像の美しさも印象的で、冒頭の解像感の良さや中央の花道でのセッションでは音の広がり、その空間性、距離の再現がいい。ギターソロ、ベースソロなど繰り広げられる素晴らしいプレーが、高さを感じさせながら空間に広がる。そこから感じ取れるのは、ライヴは響きのある会場の中で演奏され、そこに観客がいることによって完成するという一体感だ。

「そのまま」と「リアルさ」には少し違う面も

 こうしたイマーシヴ・オーディオのサウンドは、CDなどでの録音とはまた違ったニュアンスが求められるという。端的に言えば、イマーシヴ・オーディオで伝えるものは(武道館で聞いた)「音の印象」であり、これは物理的な音場を「正確に再現することではない」という点だ。曲がよく聞こえて、音色が良いことが第一であり、言い方を変えるなら正確であることではなく、真実味が伝わるサウンドになることが正解であるという点だ。空気感を録るために使用した40本ほどのアンビエンスマイク。そのデータを組み合わせることで、武道館らしいと思わせる雰囲気を出すことを目標に音源は制作されたという。

 こうした経緯を経て制作された音であるため、武道館で同じ音が聞こえるポイントはどこにもない。制作担当の説明では、PA席で聞いても、もっとぼやけた音になり、独特な世界が再現できているという。筆者が参加した視聴会には、一般からの参加もあった。中には現場でライヴを聞いた人もいて、「現実の音よりもクリアであった」という感想を述べていた。また、音源の完成度に関するレーベル担当者のコメントも聞けたが、その内容は「聞いた印象は近いが、コーラスがかなり前に出てくる」など、より聴きやすい仕上がりになっているようだ。

 ちなみに、場所によって違う音が聞けるのは、サラウンド再生の良さであると一方に、エンジニアからすると厄介な面でもあるという。たくさんスピーカーがあるが故に、あるスピーカーに近づくとそのスピーカーの音しか聞こえなくなり、音楽として成立しなくなってしまう。そのためには、スイートスポットを広げるための工夫が必要だ。

 Auro-3DやDolby Atmosは、5.1chなど水平方向だけでなく、天井などに高さ方向の再現ができるスピーカーを配置できるのがポイントになっている。実はその効果は音場が上方に広がるだけでない。5.1chの弱点を補う効果もあるのだ。5.1chでは前方スピーカー(L+Rチャンネル)とやや後方に置いたサラウンドスピーカー(SL+SRチャンネル)の間が離れており、その間に音を定位させるのが難しいが、上方のスピーカーを組み合わせることでその定位が自然になるという。つまり音の動きの再現だけでなく、空間の自然さ、適切な位置に音を配置するといったことが可能になるというわけだ。

 このほか、制作の裏話として、アンビエンスマイクの使用は低域再現にも効果があるという説明もあった。キックなどの低域を再現しようと思った際、素人考えではサブウーファーなどを使って低域を盛ればいいと考えがちだが、実際は単に低域を入れるだけでは上の帯域の音と干渉して、上の音が聞こえにくくなってしまう(いわば低域がかぶる状態)。しかし、ここにアンビエンスマイクを加えると、部屋鳴りの再現が可能となり、その表現が加わると自然にローエンドが知覚しやすくなるという。こうした効果はチャンネル数を増やす効果の一つであり、音の見通しがよく、解像感の高い再現に繋がっていくのだろう。

 以上、The BIG Finish Liveに収録されたイマーシヴ・サウンドには、自分を中心に様々な位置に置かれたスピーカーから出る音で、包み込まれるような体験が得られることに加えて、武道館にいると錯覚するほどリアルな音場と空間の再現、さらに非常に多くのマイクで収録したサウンドを多数のスピーカーで再生するために調整して配置することによって、2chサウンドでは体験できないような解像感やクリアなサウンドを体験でき、より明瞭で迫力のある低域の体験もできるといった多数の利点があることを紹介してきた。

 冒頭にも述べたが、MR.BIGやその日本最後のライヴに興味を持つ人はもちろんだが、現在のサラウンド再生、イマーシヴ・オーディオの到達点を確認したいオーディオファンにとっても魅力的なコンテンツだ。

 また、Evolutionという意欲的なレーベルの存在にも注目したい。香港に本社があるレーベルのため、日本では知る人ぞ知るという存在かもしれないが、アメリカ、イギリス、タイ、フィリピンなどにも展開。東南アジアでは最大のインデペンデントレーベルといって良く、全世界250ヵ国に配信するなどグローバルリリースにこだわっているレーベルだ。

 このレーベルを表す特徴にはもう一つ「高音質」がある。Dolby AtmosやAuro-3Dを採用しているのはその表れだが、没入型のオーディオについても極めて積極的であるため、いい音楽を臨場感あるサウンドで聴きたいと思っている人はぜひ知っておくべきレーベルだと思う。

 The BIG Finish Liveのようなコンテンツがさらに増えていくことをサラウンドファンとしても期待している。

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