なぜグーグル「Pixel」はカメラが横並びなのか
ASCII.jp / 2024年12月16日 7時0分
スマートフォンは大きな画面の板という単純な構成だけに、なかなかメーカーとしてデザインの個性が出しにくい製品だと言われている。
そんななか、ここ最近、メーカーの主張が出始めているのがカメラ周りのデザインだ。カメラを「あえて強調するのか」それとも「目立たなくさせるのか」「どのように配置するか」でメーカーの違いが出始めている。
グーグルのデザインチームでPixel のaシリーズを担当するデザイナー、松岡良倫氏は「うちはカメラを横に並べるのが個性になっている。他社であれば四角や縦などがあるが、うちはいまところ横をキープしていこうかと思っている」と語る。
現在、PixelにはスタンダードとPro、a、Foldという4つのモデルが存在する。そのうち、スタンダードとPro、aに関しては、カメラが横並びになっているが、松岡氏によれば「それぞれでカメラの配置を換えるとAIの処理が追いつかなくなってしまう」という。
製品ごとでカメラの配置を換えると、それぞれでAIのアルゴリズムを変更しなくてはいけないため、あえて横で揃えているのだという。
「Pixel 9」から3世代は同じデザインに?
最近のスマホは特にカメラの部品が巨大化しており、どのメーカーもカメラ部分が大きく出っ張ってきている。
松岡氏は「デザインするのがすごく大変になってきている。車内では『カメラバンプ』といっているが、ズームや解像度が大きくなってくると本体が薄いと入らなくなってしまう。いまズームは望遠鏡のような部品が横たわっているが、それだけでも大きくて本体内部に収めるのが大変だ。デザインチームとしては本体を薄くしてくれと設計部門にお願いしているが、Pixelはカメラの画質で購入してくれる人も多いので、戦っている」という。
ただ、Pixelの場合、AIの処理によって画質を上げる取り組みをしており、闇雲に大きなカメラモジュールを入れる必要がないという面もある。実際、aシリーズはProやノーマルシリーズよりもカメラスペックは劣るが、画質的には申し分のないクオリティを確保している。
松岡氏は「aシリーズはカメラ部分が1mm出っ張っているだけなので、他のモデルに比べて薄くでき、デザイン的な魅力を高められる」と胸を張る。
ちなみに、スタンダードなPixel 8からPixel 9になった際、デザイン的に大きな変更が入ったように見える。松岡氏によれば「カメラの技術は日々、進化しているが、毎年、新しいモノが出るわけではなく、3年ぐらい熟成しないと良いものが出てこない。コレだという良い技術が出てきたときに新しい造形を作っており、今回のPixel 9は節目ということでデザインを変えた。だから、Pixel 6、Pixel 7、Pixel8は似ている一方で、Pixel 9からは……という感じ」と将来モデルに関しては口を濁した。
想像するに、Pixel 9から3世代はデザイン的には落ち着くことになりそうだ。
AIにあたたかみをもたせるデザインに
スマホのデザインが似通ってくるなか、グーグルとしてはカメラ配置以外にも「Pixelらしさ」をデザインに落とし込んでいる。
松岡氏は「AIを訴求しているが、一方でAIはなんとなく冷たい感じがしてしまう。そこでデザインでできるだけ温かみを感じられるようにしている。AIっていいよね、AIがあると便利で助かるよねという見た目にしていきたい」と語る。
実際、最近のPixelシリーズでは、本体の角の部分に丸みを持たせるなど工夫が施されている。この丸みも30個ぐらい試し、3Dプリンタで出力したものを触り、さらに画面を入れ、モックアップを作るなど、様々な検討を重ねて形を決めていく。
角をあまり丸くしてしまうと、画面上部の表示部分が狭くなってしまい、アンテナピクトやキャリアの表示も入らなくなってしまう。
松岡氏は「アイコン表示が少なくなるとソフトウェア開発の人とケンカになる。そこではデザイナーとソフトウェア開発者の駆け引きが展開される。ただ、これもPixelというハードと、Androidというソフトの両方をやっているグーグルの強みと言える」と語る。
美術館で「Pixel」デザイン展示も
ちなみにグーグルは、東京・国立新美術館にて特別展示「GOOGLE HARDWARE DESIGN STUDIO DINING TABLE, 2024」を12月23日まで開催している。入場は無料で写真撮影が可能だ。
この展示は2024年ミラノサローネ国際家具見本市で「Making Sense of Color」として登場し、8月にグーグル本社で開かれたPixel 9シリーズの新製品発表会でも披露されたものだ。
メープル材の特注ダイニングテーブルに8つに色分けされた食器と共に、Pixelなどのハードウェアが色鮮やかな食材と共に置かれている。
これまでも、Pixelなどグーグル製品がデザインに注力している取り組みは発表会などで明らかにされていたが、今回、わざわざ日本に展示物を持ってくるとは思わなかった。
グーグルは結構、本気でPixelのデザインに取り組んでおり、日本のユーザーにも理解されたいようだ。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。
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