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超小型でも、驚くほど「いい音」のK-array最新スピーカー、もっと知られるべきイタリア製品

ASCII.jp / 2024年12月18日 22時0分

アルミ削り出しで作られたスピーカーの筐体

これは何だ? イタリアのPythonだ!

 まずは写真から。超ミニサイズだが、これはカプセルトイなどではない。れっきとした単品スピーカーの筐体(エンクロージャー)だ。ブランドはイタリアのK-array。「Python」と呼ばれるシリーズの最も小型のスピーカーである。

Pythonシリーズ、冒頭の部品をスピーカーとして組み上げたのが上のスピーカー

 K-arrayの製品は爬虫類の名称がシリーズに用いられている。Pythonはフルレンジスピーカーを密集した状態で並べ、近距離はもちろん遠距離でも完璧な移送応答性を確保できる仕組みになっているという。

 要するに、距離に関する減衰が少なく、広い範囲に均一な音を届けられるスピーカーということになる。この仕組みは大規模なライブ会場などでコンサートホールの天井から吊り下げられているラインアレイスピーカーと同じ。水平方向に音が均一に拡散する一方で、垂直方向の音の拡散は抑えられ、天井や床による反射の悪影響は排除できるので、石造りの教会など、反響が大きな環境でも明瞭な音の再生が可能になっている。

 Pythonを駆動するための専用のアンプやサブウーファーも用意されており、製品や設置される環境に合わせた最適かも可能となっている。Pythonは非常に小型のスピーカーだが、質感が高く、そして驚くほど音がいい。こういったスピーカーソリューションはなかなか思いつかない。

一堂に集められたK-arrayとKGEARの製品

 Pythonのような独創的な製品を生み出すK-arrayは、デザインの世界的な中心地でもあるイタリア、その古都フィレンツェで2005年に創業したスピーカーブランドだ。国内の総代理店はオーディオブレインズが務めており、「世界で最も革新的なハイテク・ハイエンドスピーカーメーカー」のひとつという触れ込みだ。実際、美術館、ホテル、劇場などでの導入例が多く、視覚と音が融合するような空間の演出に適したスピーカーの開発に強みを持ち、高い評価を得ているそうだ。

 筐体も質感の高い削り出しで、24金メッキをはじめとした様々な表面処理を加えられる。高いカスタマイズ性を持つ点も特徴だ。カテゴリーとしては業務用スピーカーだが、そのイメージかは大きく逸脱した、ファッション性やアクセサリー性も兼ね備える。非常にユニークなブランドがK-arrayなのである。

 購入は施工業者などを通じて発注するためはっきりと決まっていないが、最も小型のスピーカーが8万円程度、スピーカーを4つ配置したものが10万円程度、8つ並べた長いものが30万円程度。これにサブウーファーやアンプなどを合わせるとかなりの金額になってしまうが、仕上げの美しさに加えて、パフォーマンスも高く、アイデアが広がりそうな製品だ。

組み合わせるサブウーファーは2種類が用意されている。
駆動に使用するClass Dアンプ

ギャラリーやホテルなど、視覚的と聴覚両方を刺激する空間で活躍

 そんな特徴を持つK-array。その姉妹ブランドには、より汎用性が高くコストパフォーマンスにも優れた「KGEAR」、オーディオとライティングを混在させた「KSCAPE」などもある。

照明と一体化したスピーカー

 そして、Kーarrayを始めとした業務用スピーカーが一堂に解する輸入総代理店オーディオブレインズ主催のイベントが12月10日に開催された。この試聴イベントでは大手町のよみうりホールを貸し切って、この3ブランドの製品が一堂に会したほか、普通はあまり機会のないSRスピーカーの聴き比べなども実施された。オーディオブレインは、イギリスのMartin Audioの代理店でもあり、別会場ではMartin Audioのデモも実施。ブランドの性格の違いも体験できる機会となったのが印象的だった。

イタリアブランドならではの音楽性を感じさせる音色

 このイベントの体験を紹介しながら、それぞれのラインアップについて簡単に説明していこう。

 K-arrayは、3ブランドの中ではフラッグシップになり、専用アンプと組み合わせた提案が中心となる。わずか3cmの小型スピーカーから、巨大なスタジアムもサポートできるアレイシステムまで幅広いラインアップを用意しているのが特徴で、すでに述べたようにシリーズ名には爬虫類の名前が用いられている。

 具体的には壁面などに設置して音の空間を演出する「Lizard」や「Viper」、パッシブタイプのアレイスピーカーである「Kobra」や「Python」(ステージ上ではグランドスタックした状態で設置)、「Keyman」(こちらはセンターステージ上に吊った状態で設置)などがある。

 筐体は金属製(アルミやスチール)で、「RALカラー」を指定してペイントしたり、24金塗装など、プレミアム仕上げが選べる。RALカラーは工業デザイン、建築、インテリアなどの色を決める際の基準として、ヨーロッパを中心に国際的に用いられている色見本だ。また、IP65に準拠したり、海辺で使用する際の塩害に配慮したりと全天候型のスピーカーになっているのも特徴だ。プレミアムな外観と信頼性の高さが両立したブランドと見ることもできそうだ。

 KGEARは、パフォーマンスラインとして導入しやすさを重視しているのがポイントだ。ポイントソースとしても、複数を組み合わせでコンパクトなコラムアレイスピーカーとしても使えるGFシリーズやGHシリーズ、サブウーファーのGSシリーズ、持ち運びできるポータブルPAシステムであるGPシリーズなどをラインアップしている。

 最後のKSPACEはすでに述べたように、照明と融合したスピーカー。光と音のテクノロジーを融合して没入感のある体験がで提供できる製品となっている。設置形態も埋め込み式、吊り下げ式など様々で、照明の種類についてもスポットライトタイプが選べたり、調色も可能であったりと柔軟性が高い。ハイブランドの店舗や美術館、ギャラリー、ウェブ会議システムとしても活躍できるものだという。

組み合わせ方、ソリューションが非常に興味深いブランド

 実際の音も聞いてみたが、なかなか魅力的な音色を持つのも印象に残った。全体にふくよかでボーカルに温かみがあり、女性ボーカルや楽器音もいいが、特に男性ボーカルには色気を感じさせる。

 これはKGEARシリーズの「GF162T I」から感じた印象。2インチドライバーを16個使用することで均一な音響分配を目指す。幅6cm(高さは1.2m)と細身の筐体は10m、15mと離れた長距離でも聞きやすく、ストレートに音が飛んでくる印象だ。また正面から90度、120度と斜めの位置から聞いても音色変化が少ない。これにパッシブのサブウーファー「KU210」(10インチドライバーを2基搭載)を追加すると、低域の量感がますぶん、サウンドにボディー感がしっかりし、ウォームで音に包み込まれる感覚がさらに高まった。

 GHシリーズは、そんなGFシリーズとはまた異なる性格を持つスピーカーだ。組み合わせでさまざまな提案ができる点を特徴としている。注目は4インチのドライバーを内蔵した「GH4」。縦横が11.2cm、奥行きが94mmと非常にコンパクトな立方体型スピーカーだ。小さいので音がどこから鳴っているか意識させないような、敢えて隠す用途にも適している。

立方体の小型スピーカーがGH4だ

 小型といっても、その音は非常にダイナミック。力感も十分にある。再生できる周波数帯はスペック的には150Hz〜20kHz(-6dB)なのだが、低域も十分に出ている。アコースティックギターに男性ボーカルが歌う楽曲では、ギターのダイナミクスも強く付いていた。

GH4をスタックして吊り下げた状態

 また、GH4はスタックしてアレイを作ることも可能で、最大8台の組み合わせが可能となっている。その見た目も可愛らしく、デモ中には来場者がステージの近くまで寄ってしきりに写真を撮っているのが印象的だった。

 K-arrayは、すでに述べたように2005年から展開されているブランドで、国内ではそれから10年程度経った第2世代が多く普及しているという。最新世代は2021年から展開している第4世代だ。

 「Pinnacle」はスピーカー、サブウーファー、それを組み合わせるためのジョイントなどで構成されているシステムだ。例えば、「Pinnacle-KR102 II」の場合、メインスピーカーが「Kobra-KK102」、サブウーファーが12インチの「Thunder-KS1 I」(アクティブ型) と「Thunder-KS1P I」(パッシブ型)、これにダミーポールなどがセットになっている。

 Kobra-KK102は、幅5.9cm×高さ1mと細長いスピーカーで、1アレイで10mぐらいの距離をサポートできるという。これを4台連結すると50mほどの距離をカバーできる。フルレンジのスピーカーを水平に並べる形式でホーンやウェーブガイドなどは利用しない。これは位相特性を高めつつ遠達性を高めるための工夫だという。

 その上位のシステムが「Pinnacle-KR202 II」だ。メインスピーカーの数が4台に増え、サブウーファーも18インチと大きな「Thunder-KS2 I」と「Thunder-KS2P I」となる。結果として、低域がかなり響くようになるほか、2本のスピーカーのカップリングによってミッドレンジのパワー感もグッと上がる印象だ。男性ボーカルにあたたかみと聴きやすさがあって、抱擁感を感じるのはKGEARとも共通する特徴。スリムなコラムアレイだが、遠くに音を飛ばす力はあり、会場として使っていたよみうりホールの小ホールなどには十分マッチするものと言える。

 さらに上位の「Pinnacle-KR402 II」はメインスピーカーとして「Python-KP102 I」を4基使用。サブウーファーは21インチの「Thunder-KS3 I」と「Thunder-KS3P I」の組み合わせだ。流石にここまでくると、パワー感は相当なものだ。これまでのモデルでは、音に適度な甘さがあり、そこが個性にも思えたが、硬質でシャープな音の再現も可能になっている。スタジアムなどで聞くライブの音の熱狂を思い出させるサウンドだった。

 最後にデモされたのは、ステンレス スチールフレームの洗練されたデザインを持つ高性能ラインアレイスピーカーの「KAYMAN KY102-EBS」。EBSはエレクトロニック・ビーム・ステアリングの略で、アンプ(Kommander KA18パワーアンプ)とDSPを個別に設定して音のビームをコントロールする仕組み。

KAYMAN KY102-EBS

 専用ソフトの「K-Framework 3D」を使って、音の届け方を高精度に設計できる。必要なユニット数や、音を飛ばす場所、アボイドする(避ける)場所などを設定して計算を実行し、その結果はアンプからフィードバックして確認できる。取り付け位置に制限がある場所でも、複数のスピーカーを組み合わせ適切な音の広がりを出したい場合には強力な武器になりそうだ。

Martin Audio製品のデモも体験

 以上がK-arrayやKGEARの製品だが、別会場(K-arrayの小ホールに対して、大ホール)でデモされたのがMartin Audioの製品だ。Martin Audioの製品としてイベントで紹介されたのは「FlexPoint」「THS」「TORUS」「WPM」。こちらもポイントソースの製品から紹介が始まり、より大規模な会場に適したラインアレイ製品の説明へと移っていった。最後にソフトウェア処理を組み合わせ会場全体に均一な音を届ける補正技術の紹介や、さらに指向性を制限して、会場内で前方(あるいは後方)のみに音を飛ばすデモなども実施された。

 順に説明していくと、FlexPoint(FPシリーズ)はポイントソースで、プレミアムクラスの再生を提供するための同軸スピーカーとなる。工具を必要としない回転式ドライバー、指向角度もアイコンで視認できるなど使い勝手に優れており、距離別に5つのモデルが用意されている。Martin Audioとしては0〜15m程度の距離で聴く場合にはポイントソース型、15〜30mの距離ではミッドレンジのTORUS、30メートル以上の距離になる場合はラインアレイ型のスピーカーの使用を推奨している。

 4インチのPF4から15インチのFP15まで順に聞いてみたが、FP4は低域の再現などは弱いので小規模なスペースでスピーカーを隠して音を再生する場合にも適している印象。FP6になればだいぶ余裕感が感じられ中高域の綺麗さ、明瞭感にも優れている。FP12ぐらいのクラスになると大ホールの規模感でもサイズに負けない再生ができるという感想を持った。

 ポイントソースではもう一つ「THS」シリーズのデモもあった。台形キャビネットで独特なウェーブガイドを備えた3ウェイのバスレフスピーカーで、ボーカルの帯域にクロスオーバーが被らない点も特徴となっている。サウンドはFPシリーズとは打って変わって、没入感や包囲感を感じさせるサウンドだった。

 3年の歳月をかけて開発したというTORUSシリーズは、上にも述べたようにポイントソースと、ラインアレイの中間を狙ったラインだ。定曲率型アレイはキャビネット間の角度を固定して円弧上に並べる。音を放射する軸が増えるので、より広い範囲に音を広げられる。この方式の弱点は中低域にコムフィルターが発生する点だが、そこはFIRフィルターの活用で解決しているという。その効果を示すため、中域に干渉するピンクノイズの聞こえ方が、聴く位置で変わらないかを示すデモが実施された。会場を歩き回って聞いたが、角度によってスピーカーの音に切れ目が出ない、均質なサウンドが提供されていることを確認できた。

 ラインアレイについては「WPM」のデモがあった。ラインアレイと書いたが、Martin Audioではスピーカーの出口を整った音にするだけでなく、客席で聴く音を整える技術である点を強調して「オプティマイズアレイ」という言葉を使って製品の技術を紹介しているそうだ。

 そのために、SPLコントロール、カバーエリア外に音を行かせない技術、客席内の音圧特性の均一化、Hard Avoidという反射をコントロールするための技術を活用。PCのソフトを通じて設定ができるようになっている。WPシリーズは4サイズあり、iKONというClass-Dアンプで駆動する。WPMはその最も小さいモデルとのこと。理想としてはスピーカーごとにアンプを用意するのがいいが、予算や規模によって1台のアンプに複数のスピーカーを接続する形でカスタマイズできる仕組みになっている。

 デモではソフトウェアによる最適化を一切使用しない素通しの音から、会場全体に最適化した音、そして、会場の前方だけに音を流し、後方には飛ばさない設定で順に再生された。その効果は絶大で、素通しの状態では音がよく聞こえる位置とそうではない位置、いわゆるスイートスポットが明確に存在していたが、オプティマイズをすると壁際やスピーカーから離れた場所(後方)などでも中央付近で聴くのと区別がつかないほど、明確な差がつくのがわかる。

Martin Audio製品がデモされた大ホールの様子

 また、指向性や音を飛ばす場所を絞った再生も明確で、ソフトウェア処理が果たす役割の重要性を改めて認識することができた。

 今回オーディオブレインズが実施したデモは、時間としては各1時間ほどで、内容としては駆け足だったが、ここまで多くの製品を一度に聞ける機会というのは少なく、興味深かった。SRスピーカーはライブ会場などでよく見かけるものの、どういった違いがあり、またどういった差が出るかは、なかなか体験する機会がない。サイズや用途を含めて、ここまでの種類のスピーカーを一気に聞けたことによる発見も多かった。

 冒頭で述べたPythonなど、個性的な製品との出会いもあり、音を活用するシーンの想像も広がった。貴重な機会を提供してくれるイベントだった。

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