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自動車電話から5Gまで進化を、レースで30年タッグを組むドコモとダンディライアンに聞いた

ASCII.jp / 2025年1月18日 12時0分

5年ぶりのチャンピオンに輝いた 「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」

 PC/IT系のメーカーがモータースポーツにスポンサードすることは珍しくないが、長期にわたって支援していることは珍しい。モータースポーツに限ったことではないが、スポンサー活動は景気に左右されやすく、会社の業績が落ちたり、世界的な不況になると真っ先に予算カットの対象にされてしまうからだ。

 そんな中、30年以上にわたって継続的にパートナーシップを続けているのが、日本を代表する通信キャリアのドコモだ。現・スーパーフォーミュラという日本のトップカテゴリーで「ダンディライアン・レーシング」とタッグを組み「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」として2024年のチームチャンピオンに輝いた。

 なお、モータースポーツのほとんどにドライバーチャンピオンとメーカーチャンピオンの2通りがあり、ドコモとしてはドライバーのチャンピオンは惜しくも逃したものの、チームチャンピオンは獲得したというカタチになる。

 そんなチャンピオンになったDOCOMO TEAM DANDELION RACINGの代表である村岡 潔氏とNTTドコモ ブランドコミュニケーション部 コーポレートブランド コーポレートブランド担当主査の島﨑大介氏に、あらためて王座を獲得した想いと、これまでのドコモとの取り組みやその歴史を聞いた。

左からDOCOMO TEAM DANDELION RACING 代表 村岡 潔氏、ドライバーの牧野任祐選手、NTTドコモ ブランドコミュニケーション部 コーポレートブランド コーポレートブランド担当主査の島﨑大介氏

飛び込み営業でドコモのスポンサーを勝ち取る

 まずは村岡氏に、いつからドコモとの歴史が始まったのかを聞いた。

村岡 まず1989年の11月くらいに「ダンディライアン・レーシング」を立ち上げたんですけど、レースをするならスポンサーが必要ですよね。1993年くらいにNTT移動通信網(現・NTTドコモ) に飛び込みで営業をかけたんです。なぜかというと、NTT移動通信網って自動車電話の事業部だったんですね。だったらレーシングカーに自動車電話を積んでピット無線代わりに使えばプロモーションにもなるんじゃないかって。ドコモさんも賛同してくれて、そこからがスタートです。

 そのスポンサー契約をきっかけに、全日本F3選手権に参戦し、実際にマシンの足元に電話を搭載して、そこからイヤホンマイクに繋いでレース中に使っていたという。果たして、戦績はどうだったんだろうか。

村岡 野球で言うところのプロ野球に、高校球児が出るレベルでしたね。毎年クルマを買い替えて出ているチームの中で、1~2年前の中古車で出て、完走できれば御の字という。その時代は6位までしかポイントが付かなくて、6位なんてとんでもない話だと。10位くらいに入れればいいと思ってましたが、毎回12位前後を走ってましたね。

島﨑 ちなみに、ドコモはこの頃「mova」がスタートして、右肩上がりで非常に勢いがありました。

村岡 だからもっと大きなレースで自動車電話の宣伝をしようってことで、フォーミュラカーではなくハコ車(ツーリングカー)のレース「全日本ツーリングカー選手権(JTCC)」に1995年から参戦したんです。自動車電話の実験はやりやすくなりましたよ。フォーミュラカーより機材を積むスペースがたくさんあるので(笑)。

 レーシングカーにアンテナや計測機器を搭載しての実験とは、実際どのようなものだろうか。

島﨑 高速で移動しているときに電波が途切れず通話できるか、というのを常に同じ条件でできるのがレースなんです。たとえば200km/hでの移動中に電波が途切れないか、サーキットは同じところ同じような速度で走るので、データが取りやすいんですよ。

 レースなので抜きつ抜かれつのバトルはあるものの、基本的には高速域で走っているため、同じ条件でのデータ取りができるというのは納得だ。

村岡 とはいえ、このJTCCも結構キツくて。まわりは自動車メーカーのチームばかりの中に、我々はプライベーターとして参戦したもんですから、お金はかかるわ成績は上がらないわで。おまけにレースの人気もさめてきて、1998年でシリーズが終了しちゃったんですけど。その後、1999年からフォーミュラニッポン(現・スーパーフォーミュラ)に「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」として参戦し始めました。

 ここからチームの快進撃が始まるのかと思いきや……。

村岡 最初の2年くらいは1台体制だし、まったくポイントも取れませんでした。しかしあるとき、当時のドコモの社長が「レースに行きたい」とのことでサーキットに視察に来まして。「なんでほかのチームは2台なのに、このチームは1台なの?」という話になりまして。実験しながらやってるので……みたいな話をしたら「ドコモとしてやるんだったらほかと同じ2台にしないとダメでしょ。どのくらい予算いるんだ?」と、トントン拍子に話が進んで、2001年くらいからかな? 2台体制になってましたね(笑)。

 この頃はiモードの契約者数が2000万人を突破して、さらにFOMAもサービスインした時代。自社の名前を前面に出しているチームだからこそ、戦えるようにしたかったのだろう。しかし、研究開発とはいえ、極限まで軽量化されているフォーミュラカーに機材を積むのはハンデにならないのだろうか?

村岡 機材はだいたい7~8kgくらいですね。単純に7~8kgを軽くすればいいってものでもありません。レーシングカーは走行中遠心力がかかりますから、ざっくり倍の重量になるんです。だから超簡単に説明すると15kgの軽量化が必要になるわけです。重量バランスの問題もあるからできるだけマシンの中心に置きたいですが、そうもいかないこともあり、いろいろ知恵を絞っていますね。

実証実験の機材をリアまわりに搭載して走り、データを取る

 レーシングカーは真っ直ぐ走ってより、コーナリングしている時間のほうが圧倒的に長い。だから旋回中にG(重力)がかかって、常に重量バランスが変動しているため、どこに重量物を置くかが非常に大事になる。ドライバーが中心に配置されているのも、そのためだ。現在、同チームのドライバーを務める、牧野任祐(まきの ただすけ)選手も「あるのとないのじゃ、クルマの動きが全然違う」と教えてくれた。

テストに使われていた端末。取材をしたテスト日も、実証実験をしていた

村岡 重くなるかわりに、イギリスのパーツメーカーとか回って軽いのを探してきて、それを使っています。うちはプライベーターなので最初は怪しまれましたが、日本の通信事業者がメインスポンサーだというと、一気に心を開いてくれるんですよ。

 海外に行ってパーツの買い付けは、たしかにメーカーチームではできないことだ(基本的に自社のものを使うので)。

継続は力なりを地で行くチーム ドコモは常に寄り添ってくれた

 30年以上という長きにわたってドコモとのパートナーシップを築いているが、不景気にも負けずに途切れなかった理由はなんだろうか。

村岡 不景気だけじゃなく、我々の成績次第でも予算が増えたり減ったりします。企業側だって大変です。バブル崩壊やリーマンショックでたくさんの潰れた会社を見てきました。スポーツへの投資というのは真っ先に打ち切られます。しかし、我々が辞めずにずっとやってきたのが大きいと思います。辞めるのは簡単ですが、辞めたあとに再開するのは非常に難しい。ドコモさんに続けてもらえているのは、「継続は力なり」だからだと思います。

島﨑 もう30年以上も繋いできたバトンですからね。その間、通信も2Gから3G、4G、5Gときて、6Gも見えてきています。今まで途切れずにバトンを受け継いできたのは、その当時の担当ごとに「継続させたい理由」があったんだと思います。

 30年は非常に長い歴史。その中で悲喜こもごもがあったに違いない。

村岡 良いとき、良くないときって必ずありますので、とくに良くないときはどうやって乗り切るかですよね。レースを始めたばかりの頃はレイズ(ポーカーにおける掛け金を上げていくこと)することばかり考えてましたが、規模が大きくなってくると経営者にならないといけない。人も増えて部門に分けて、みたいな。バックギアに入れてるヒマはありません。こうやってテストに来るのも、来年、そしてその先を見越しているわけなので。

 村岡氏によると、チームがいい雰囲気のときは勝てる予感があるという。ドコモの人たちが見に来てくれて、良さげですね! と言ってくれるときは決まって勝つという。2024年の最終戦もそうだったようだ。ただ最近は全体的にレースがレベルアップしていて、1勝するだけでも大変とのこと。

島﨑 ドコモ側でも旧プロモーション部をまとめて、実証実験にも宣伝部隊が関わっていなかったので宣伝部もまとめて、今の応援態勢が整ったのです。自動車電話から始まり、ケータイときて、iモードで画像データも飛ばしました。そして5GのハンドオーバーやIOWNの実験もしています。長いことやってると我々もできることが増えてくるんです。

 「だから継続は力なり、なんだよ」と村岡氏は笑う。GPSの精度も上がっており、今、クルマがサーキットのどのあたりを走っているか、誤差10cm程度でほぼ正確にわかるようになったとのこと。

島﨑 もちろん全部の実験がフィードバックされているわけではないのですが、一般のみなさまがスマホを快適に使ううえで、かなり貢献しているのがわかっていただけるかと思います。

これからもダンディライアン×ドコモは一緒に戦っていく

島﨑 私たちがうれしいのは、村岡さんもドライバーさんもインタビューのときに、最初に「スポンサーさん、ありがとう」って言ってくれるんですよ。それをドコモの社員が見て「やっぱり応援してきて良かった」というキモチになるんです。だからってわけでもないのですが、応援しがいのあるチームなんですよ。

ahamoやeximoといったおなじみのロゴも貼られている

 スポンサー側であるドコモとしては、そういった部分も継続のモチベーションになっているという。チームグッズである赤いTシャツを着ているファンも増え、最終戦ではスタンドで真っ赤になっているエリアがあって、感動したとか。島﨑さんもグリッドなどでファンから声をかけられるようになったようだ。

島﨑 実はこのチームに関わるまではモータースポーツはあまり知らなかったんです。でも現場(サーキット)に来てみると、そのスゴさに圧倒されて。ガソリン垂れ流しとかCO2排出量がとか言われますけど、今はモータースポーツもカーボンニュートラルにこだわってたりバイオ燃料を採用したりしてますよね。元々実証実験がベースになっているワケですが、SFじゃないとできないようなことを、我々はやっていきたいですね。

 モータースポーツはもっと広くその活動内容を知られるべき! と島﨑さんは熱く語った。

村岡 スーパーフォーミュラも2024年は観客動員が増えたってニュースになったくらいですからね。レース自体も面白いので、直接見たら絶対ハマると思うんですよ。ただ、この上り調子がいつまで続くのかはわかりません。たとえば、さっき話に出たJTCCは始まった頃、すごい人気だったんですよ。それがあっという間にダメになった。この機会に、何度も見に来たくなるレースをしないといけません。

 村岡氏はかなり冷静にSF人気を見ているようだ。チームとスポンサー、その両輪がないと走り続けられないという。ドコモ側ではまだ内容は未定だがショーケースも考えているという。

島﨑 サーキットは日本全国にありますし、各地域の社員が応援にいけるようなエンゲージメントも必要だと思っています。実は社内でもこの活動を知っている人が少ないので……。

まずは社内での認知を上げていくことが大事、と島﨑氏

 村岡氏も島﨑氏もまだまだ続ける気は満々だ。これからもモータースポーツとモバイルで、我々を楽しませてくれそうである。それでは、最後に牧野選手から2024シーズンの振り返りと、スーパーフォーミュラの魅力を教えてもらって終わりにしたい。

牧野 いろんな方から「今年はいいシーズンだったね」って言われるんですけど、ドライバーチャンピオンを逃したのがそれ以上に悔しかったですね。この悔しさを2025年の力にしていきたいですし、個人的には大きく成長できたシーズンだったかなと思います。

牧野 まず我々のチームはドコモさんのカラーリングで走っているので、親近感を覚えていただけるんじゃないでしょうか。「ドコモ」の名前を知らない人はいないと思うので。そんな知ってるロゴが貼ってあるクルマが非日常的なスピードで走って、さらにその速度域で抜いた抜かれたのバトルをしています。レースもアプリで状況を把握しやすくなったし、ファミリー向けのアクティビティも多いので、ぜひとも現地に見に来て迫力を体感してもらえればと思います。

 今年はKDDIもSFに参戦することが決まっている(KDDIが電撃参戦! 2025年はドコモとKDDI、モバイルの両巨頭がスーパーフォーミュラで最速を競う!)。回線速度もレースもどっちが速いのか、現地で見届けよう!

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