トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート
ASCII.jp / 2025年1月13日 12時0分
昨年12月7日~11日にかけ、サンフランシスコでIEDM(International Electron Device Meeting) 2024が開催された。IEDM 2024の第4弾は、2-1の"Silicon RibbonFET CMOS at 6nm Gate Length"を紹介しよう。インテルのプレビューでは下の画像が該当する。
RibbonFETにはゲート長6nm、フィン厚3nmが最適
この論文では、複数枚のRibbonではなく1枚だけのRibbonを構成し、その特性を調べるとともに、ゲート長およびゲートの厚みが性能に与える影響を評価し、最終的にゲート長6nm、フィンの厚みを3nmとすることで極めて性能の良いRibbonFETが構築できることを確認した、というものである。
FinFET構造が使われるのは3nmあたりのノードまでで、それより微細化するにはGAA(Gate All Around)が有望であり、さらにその先はNMOSとPMOSを縦に積み重ねるCFET構造が有望、という話は連載803回で紹介した招待講演でも語られている話でもある。
こうした将来のRibbon FETに向けて今回試作したのは、ゲート長が6nmというトランジスタである。
ちなみにこの中央の写真は、トランジスタを横から見たもの(下の画像でいう所の赤矢印方向)である。従来ゲート長とCPPは上の画像の左側のように、おおむね比例関係があったのだが、CPPが30nmを切ったあたりからゲート長は10nm程度で停滞していた。これをさらに短縮できる、というのが今回のポイントとなる。
CPPというのは要するにトランジスタのゲート同士の間隔である。上の画像の写真は、2つのRibbon FETが並んでおり、間にSource/Drainの端子(S/D EPIはSource/Drainを構成する部分で、その上にコンタクト電極であるCONがつながっている)が入るわけだが、トランジスタの密度を上げようとすると、CPPを小さくしなければならない。
そのためにはS/D EPIを含む電極の薄型化はもちろん重要だが、もう1つはゲートの厚みを薄くすることも効果的である、とする。
ゲート厚を3nmより薄くすると 性能は向上しないどころかむしろ低下する
論文では実際に1NR(NR:Nano Ribbon)、つまりフィンが1枚だけのRibbon FETを構築し、その特性を測定したとしている。
実際にVg-Vt(ゲート電圧としきい値電力の差)と、その際に流れる飽和電流をプロットすると、対数軸(グラフ左側)では大差ないように見えるが、直線軸(グラフ右側)で見ると、複数フィンの場合には最大で24%ほどズレるとしており、以下のレポートはすべて1フィンのものである。この1フィンのNMOSトランジスタの性能を測定したのが下の画像である。これは言ってみればこの後の比較の基準となるものである。
ゲート長は18nmのままにして、フィンの厚みを変更したときの特性が下の画像である。薄くするほど特性は改善することは見ての通り(DIBLは少ないほどいい)のだが、PMOSはともかくNMOSに関してはTsiが4mmあたりで特性が飽和してしまい、その先の特性改善があまり期待できないとする(PMOSは多少マシだが)。
同様に厚みを変えた際のVt(しきい値電圧)とRext(外部抵抗)の推移が下の画像だ。まずVtの方は、6nmより薄くするとバラつきが次第に大きくなる。またRextについても、NMOSなら4nm未満、PMOSでは6nm未満にすると急激に抵抗値が増えるとされる。
下の画像の左側は電荷移動量で、こちらも3~4nmあたりまで薄くしてもそれほど大きな損失はないとされる。右側は、過去の論文で示されたものを黒線、今回の測定結果を赤線で示した比較であるが、解説によればNano Ribbonの表面の粗さを改善したことにより、フィンの厚みが薄くなった場合でも電荷移動量が改善することを示しているとする。
表面の粗さに関する説明が下の画像となる。ここではさまざまな温度で電界移動度を測定し、その挙動を分析することで、移動度を支配するメカニズムを導き出したとする。
右側のグラフは、フィンの厚みが3nm以上であれば移動度を支配するのはフォノンになるが、3nm未満では表面散乱が電界移動度にとって支配的であるとする。要するにここまでの話は、フィンを薄くすれば良いというものでもなく、3nmあたりが薄くする限界であって、それを超えて薄くしても性能は向上しないどころかむしろ低下する、ということを示したわけだ。
チャネル長6nmのRibbon FETが優位 それ以上でも以下でもダメ
次はShort Channelに関する検討である。Short Channel、日本語では短チャネル効果などというが、チャネルを短くするといろいろ不都合が生じることが知られている。
具体的にはしきい値電圧の低下、DIBLの悪化、サブスレッショルド係数の劣化、電流非飽和、Punch Throughなどで、これは別にRibbon FETに限らずFinFETやその前のプレーナー型のトランジスタでも発生していた事柄である(個々の説明はここでは割愛する)。
では短いとなにが発生するか? という話であるが、下の画像がこれを模式図的に示したものだ。中央のSiNR(Silicon Nano Ribbon)がチャネルそのものであり、その周囲をHigh-K素子で囲い、さらにその外側に金属ゲート(MG:Metal Gate)が存在している。
このチャネル、素子そのものはシリコンがベースであるのだが、そこに不純物をドーピングすることで特性を改良している。ところがゲート長が10nm以下になると、前述したShort Channelの問題に加え、チャネル内に残留ドーピング、つまりに均一にドーピングなされず、ドーピングが濃い部分が残ってしまう現象が発生。このドーピングにより、電荷移動量が低下することで性能が劣化する問題がある、としている。
ただしこれは適切なドーピングプロファイルを管理することで、チャネル長が10nm以下の場合でも性能を改善できるとしている(具体的にどう適切に管理するのか、は言及がない)。上の画像右のグラフは、なにもしない場合がProcess A、プロファイルを管理したのがProcess Bで、残留ドーピングを減らせることを示している。
具体的にゲート長が18nmと100nmの場合で比較したのが下の画像である。一番右はトランジスタの利得を比較したもので、ゲート長100mmだとProcess AとProcess Bで違いがないが、ゲート長18nmの場合、Process BはProcess Aに対し、最大で34%の利得向上が可能になっているとする。
中央と右はゲート長18nmの状態でDIBLの特性とRextを比較したもので、Process BはRextがほぼ変わらないにも関わらず、DIBLを-5mV/V削減できた、としている。
さて、18nmは100nmに比べれば短いとは言え、CPPを考えると十分に長い。今回の目的は表題にもあるように、ゲート長を6nmとしたRibbon FETの構築である。その成果が下の画像である。
左端はゲート長6nm、フィン厚み5.5nmのトランジスタのTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)写真と、そのゲート周辺のEDX(Energy Dispersive X-ray:元素マッピングX線)写真である。説明によれば、ゲートのパターニング/エッチング工程を慎重に最適化したことで、均一なゲート長を持つプロファイルが得られた、としている。
その右にあるのが、ゲート長6nm/フィン厚み5.5nm、ゲート長7nm/フィン厚み3.1nm、ゲート長6nm/フィン厚み1.7nmという、寸法を変えた3種類のRibbon FETのTEMでの写真であり、いずれもうまくRibbon FETの成型に成功している。
この3種類のRibbon FETについて、DIBLを測定したのが下の画像の左側である。論文によれば、フィンの厚みが5.5nmの特性は「予想通り」劣悪で、NMOSとPMOSの両方でDIBLが180mV/Vおよび220mV/Vという、Short Channel効果がモロに発揮された結果になっている。
ところがフィン厚みを3.1nmおよび1.7nmにすると、DIBLが低減されることが明確に示されている。実際1.7nmではDIBLが59mV/Vおよび80mV/Vで、5.5nmの場合のほぼ3分の1になる。3.1nmではそこまではいかないが、それでも5.5nmに比べて30~40%の低減が可能である。
この傾向を、フィンの厚みを横軸にして示したのが右側であり、NMOS/PMOSともにフィンの厚みを減らすと単調にDIBLも減っており、チャネル長が長い時にあった飽和の傾向は、このグラフからは見られないとする。
下の画像の左側はゲート長6nmの際の、フィンの厚みを変更した場合のDIBLとピークの利得をプロットしたものである。NMOSの場合は、フィンの厚みを6nm→3nmに減少させても性能へのペナルティはほとんどないが、PMOSの場合はフィンの厚みを減らすとRextが大幅に増える関係で、性能の低下が著しいとされる。
右側のグラフは、ゲート長6nmの場合における、フィンの厚みとスレッショルド電圧の関係をまとめた物である。そもそもゲート長が短いとしきい値電圧が増加する(=動作のための消費電力が増える)傾向にあるが、今回はWF(Work Function:仕事関数 金属内の電子を外部に放出させるために必要な最小の仕事量)を工夫することで、このしきい値の増加を上手く帳消しにできたとしており、厚み1.7nmの場合のしきい値は0V、3.1nmでは-0.1V弱と大幅に下げることに成功したとしている。
論文では最終的に、フィンの厚み5.5nmおよび3nmにおける電子注入速度が1.13x10e7cm/sになることを計測できたとしており、これはCPPが45nmのプロセスで、チャネル長6nmという短チャネルのRibbon FETが優位であることを示しているとまとめている。
この論文はあくまでもフィンが1枚のトランジスタを試作し、その特性を調査したというものであって、これが量産につながるという話ではない。おそらくこれに近い特性のトランジスタが採用されるのは相当先(Intel 6A?)になるだろうし、その頃にはRibbon FETの次のCFETに移行している頃だろう。そういう遠い未来向けの基礎研究、と考えるのが妥当だ。
この記事に関連するニュース
-
“針穴のへこみ”でデータ保存する新ストレージ 浅い/深いへこみで同じ面積に4倍のデータを記録 加熱で消去
ITmedia NEWS / 2025年1月10日 8時5分
-
創刊100年「JTB時刻表」重さ「1kgの壁」 郵送料との闘い、情報・見やすさ追求
産経ニュース / 2025年1月7日 11時0分
-
STマイクロエレクトロニクス、最新のSTripFET F8技術を採用した、標準レベルの40VパワーMOSFETを発表
PR TIMES / 2024年12月26日 17時45分
-
新規アスコルビン酸誘導体配合化粧品の老人性色素斑(シミ)に対する抗色素沈着効果がスイスMDPI社の学術雑誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載
@Press / 2024年12月24日 10時15分
-
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート
ASCII.jp / 2024年12月23日 12時0分
ランキング
-
1外ではAirPodsではなくネックバンド型イヤフォンを使う理由 愛用の逸品はコレだ
ITmedia Mobile / 2025年1月13日 10時5分
-
2「3COINSの監視カメラ」をバレないように設置→“国民的キャラクター”に大変身! 「これは怪しい」「バレバレw」
ねとらぼ / 2025年1月13日 9時25分
-
3「神ゲー」日本からの声高く翻訳後の日本売上7倍に、“日本人に何故か熱い注目あびたため”日本語実装のインディーSRPG―「実際は、賭けだった」語られる裏側
Game*Spark / 2025年1月11日 18時45分
-
4チーズバーガーを固めてカットしたら……? “斜め上すぎる発想”に思わず三度見 「完璧な仕上がり」「とてもクール」
ねとらぼ / 2025年1月12日 20時0分
-
5もう少しで日本語対応!「Apple Intelligence」のこれだけは知っておきたい機能5選
&GP / 2025年1月13日 7時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください