Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ
ASCII.jp / 2025年1月20日 12時0分
今回はCESにおけるインテル製CPU製品のアップデートをお届けしたい。といってもすでにジサトライッペイ氏による「インテルがCore Ultra 200HX/H/Uシリーズを発表、285HXの性能は前世代から最大41%向上」と「Core Ultra 200SシリーズにNon-Kモデルが追加、国内販売はいまのところ未定」が掲載されているわけであるが、この2本目の記事で少しだけ触れられている、エッジ・コンピューティング向けのアップデートである。
エッジ・コンピューティング向けCPUを追加
インテルはエッジ・コンピューティング向けに、Core Ultra 200H/U/SとCore 200S/H、Core 100U、それとCore 3 Processorをラインナップした。
もっともこのうち左端のCore Ultra 200H/U/Sに関しては、既存のデスクトップ/モバイル向け製品をそのままエッジ・コンピューティング向けに投入する、Core Ultra 200Hシリーズの5製品とCore Ultra 200Uシリーズ、およびCES2025でも言及されたCore Ultra 200SシリーズのNon-K/Non-KFモデルが対象である。もっとも実際にはFモデル(Core Ultra 7 265F/Core Ultra 5 225F)が使われることはないだろうと思われるが。
これ、エッジ・コンピューティングという言い方をしているのは、組み込み用のSBC(Single Board Computer)やプロセッサー・モジュール/カードに搭載される格好になるからだ。例えば台湾Portwellはインテルの発表に合わせて米国時間の1月6日に、Core Ultra Series 2を利用するSBCを発表している。後で紹介するが、ほかの製品も似たようなもので、組み込み向けのソリューションとして提供される格好である。
ただ不思議なのは、なぜ組み込み向けSKUではないCore Ultra 200H/U/Sをエッジ向けに投入するか、という話である。この手の製品の場合、設計もそうだが最終製品を売る側も実は時間がかかる。PCの場合は端的に言えばハードウェアだけ組んでしまえば、あとはお客さん(つまりエンドユーザーだ)が勝手にOSやアプリケーションやゲームを入れて使ってくれるから手間はかからない。
ところがエッジ向けと言われているソリューションは、ハードウェアだけ構成してもダメで、その上で用途別のアプリケーションを構築する必要がある。最近で言えば、例えば無人POSの類だが、基本的な機能(決済機能であるとか入金/釣銭管理、レシート/領収書発行機能、バーコードによる読み取り機能、etc...)は共通的な機能だからそれほど手間はかからない。
しかし、実際には個々の店舗かチェーン店かにもよるが、その店舗なりチェーン店なりの独自機能(レシートや領収書への店名などの印刷から始まり、決済中に液晶画面に表示する広告やその他機能、クーポンその他の登録、そもそもその店で扱う商品の登録、etc...)とやることは多い。
個人店はともかくチェーン店ともなるとバックエンドで本部とつながっているのが普通なので、そのバックエンドのシステムとの接続機能も要求される。したがってオーダーを受けても納入までの間に数ヵ月掛かるのは普通だし、チェーン店ともなると台数も大規模になるから納入まで年単位になることも不思議ではない。
そしてそんな大規模なものでは、そもそもお客の側も導入に先立っていろいろ検討やら社内でのネゴシエーションが必要になったりするので、これも半年から1年掛かったりする。こういう用途なので「お客さんからPOSのオーダーが来たので、CPUを発注しようとしたらもう廃番になってました」という可能性があるPC向けのCPUは、普通は選ばれない。
もちろんどうしてもほかに選択肢がなければ、大赤字になる可能性を踏まえたうえで、そのPOSシステムが今後10年とかの間に売れるであろう台数+交換用の台数を算出した上で、それを発注して自社内で在庫として抱えるという方法がないわけでもないが、無駄に出費が増えることを考えると「そんなCPU使うの止めよう」という方向に行くのが普通だ。
そんなことをわかった上で、それでもあえてインテルが投入したのは、ほかに選択肢がないためだ。
NVIDIAのJetson AGX Orinに対抗するには Core Ultra 200Hシリーズでないと太刀打ちできない
インテルにエッジ・コンピューティング向けの選択肢がないことを端的に示したのが下の画像である。
要するにNVIDIAのJetson AGX Orinと戦おうとすると、Core Ultra 200Hシリーズでも持ち込まない限り太刀打ちできない、ということであろう。
ただこれも微妙なところで、Jetson AGX OrinはAmpereベースのGPUコア(32SM:2048 CUDA core)が処理のメインであって、Cortex-A78AE×12はそのCUDA Coreに処理をさせたり、あるいは入出力をつかさどるのがメインという使い方になる。
一方Core Ultra 200HはメインはCPUであり、NPUは12TOPSしかないので、AI処理はむしろGPUをメインにすることになるが、一番性能が上のCore Ultra 9 285HでもGPU TOPSは77TOPSに過ぎない。NPUとCPUまであわせれば99TOPS、というのは理論上の話で、実際にはうまく処理をそれぞれに分散させないとこの数字は出ない。というより、一番遅いユニットの処理の完了にタイミングを合わせる形になるから、実効性能は下がる。
したがって、むしろAI処理以外の部分を高速化することで、トータルでの性能は上とアピールしたいのだろうが、これアプリケーションを組む開発側にとっては相当手間がかかる話であって、実際にAIを利用するエッジ向けアプリケーションでJetson AGX Orinをしのぐ性能を出すのは相当困難であろうと思われる。
いや先程例に出した無人POSであればJetson AGX Orinよりも明らかにCore Ultra 200Hの方が適しているのだろうが、逆にエッジAI向け(例えばカメラを組み合わせた画像認識/画像識別による製造ライン管理や欠陥検出、監視カメラと連動した警報装置、etc...)には現状Jetson AGX Orinの方が適している。その意味ではCore Ultra 200Hは本当に「ほかに対抗すべき製品がない」というギリギリの選択だったのだろう。
加えて言えば、「ならCore Ultra 200Hも組み込み向けSKUにすれば?」という案がおそらくは取れない。理由はCPUタイルにTSMCのN3Bを使っているためである。TSMCは別に長期供給ができないわけではなく、いまだに130nmや90nmのプロセスを提供しているし、先端プロセスでもN3AやN5A、N7Aといったプロセスは自動車向けということで長期供給が保証されている。
N7や16FF/12FFCなども同じで、これらは半導体ベンダーから依頼があれば長期にわたりプロセスそのものが提供される。ところがN3Bは、おそらくこうしたことになっていない。そもそもインテル自身が、たまたまAppleが使うのをやめた関係で空いた枠を購入できたという理由で契約しているし、そのため長期契約にはなっていない。
これはもともとここはIntel 20Aを使う予定で、ただしIntel 20Aだけに頼ると危険ということでTSMC N3Bも並行して契約している結果である。加えて、TSMC自身がN3Bを長期提供する予定がない。もともとほとんどの顧客はN3Eに移行してしまっている。
したがって、インテルとそのほか向けの若干の供給が終わったら、おそらくN3EあるいはN3Pなどの提供に切り替えると予測される。仮にインテルが長期契約を望んだとしても、その場合はN3Eへの移行を促される形になると思われる。組み込み向けSKUがないのは、こういうどうしようもない理由もあってのことである。
「Arrow Lakeの供給が終わるころにはPanther Lakeが出ているから、それに切り替えればいいのでは?」という意見も出てきそうだ。PC向けはそれでいいのだが、組み込み向けはそう簡単ではない。Arrow Lakeで構築したシステムがPanther Lakeで同じように動くことの検証は、猛烈な手間と追加コストになる。というか、時には仕様が変わって動かなくなったりするなど、使い方が変わったりするケースもあるため、油断ができない。
検証だけで済めばいいのだが、動かなくなったりすると大変で、その分を別のシステムで補ったりしないといけなくなる。こういうことが現実に起こり得る(インテルでも過去の製品で発生している)から、顧客は組み込み向けSKUを求めるのであって、それをわかっていながら非組み込み向けSKUの製品を提供せざるを得ないあたり、本当に追い詰められているのだろう。
組み込み向けのBartlett Lakeは Raptor Lake Refreshと互換性あり?
次がBartlett LakeとRaptor Lake Refreshの話である。CESの後、Core Processor Series 2は全部で16製品となった。このうち5製品(Core 5 210H/220H、Core 7 240H/250H、Core 7 270H)は昨年10月にモバイル向けRaptor Lake Refreshとして発表されたもので目新しさはない。
新規追加されたのは、同じくRaptor Lake RefreshベースながらTDPを15W(Minimum Assured Power 12W/Processor Base Power 15W/Maximum Turbo Power 55W)としたCore 5 210U/Core 7 250Uと、デスクトップと同じソケットを使う組み込み向けのBartlett Lake-S 9製品となる。
Bartlett Lake-Sは組み込み向けということで、製造はCCG(Client Computing Group)ではなくNEX(Network&Edge)部門の製造となるが、中身そのものはRaptor Lake Refreshである。リリース前には最大12コアのPコア搭載? という噂もあったのだが、蓋を開けてみるとPコアが最大でも8つ、Eコアが最大16コアであり、しかもハイパースレッディングが有効化されているので、まんまRaptor Lake Refreshである。
パッケージそのものはLGA1700で、それもあってイッペイ氏も「Core 200Sシリーズは組み込み市場がメインターゲットですが、この見た目から察するに個人向けでも流通しそうですよね(Xeonみたいに)。だって切り欠きがLGA1700のそれですもの。」と期待する発言をしているのに恐縮なのだが、これはどうなるのかわからない。
ちょうど1年前の連載754回で、Alder Lake-PSの話をした。このAlder Lake-PSはAlder Lakeの組み込み向け製品なのだが、Alder Lakeと異なりCPUとPCHがMCMの形で一つのパッケージに収まっている。機械的なパッケージそのものはLGA 1700なのだが、当然電気信号そのものは異なっているので、既存のLGA 1700マザーボードに装着できない。
このAlder Lake-PSもやはりNEXの製品だったことを考えると、現時点でBartlett Lakeベースの製品がBIOSアップデートだけで既存のLGA 1700マザーボードで動作するかどうかはなんとも言えない。記事冒頭の画像に"Backward compatible with prior gen"と書いてあるが、それが「コンシューマー向けの」前世代なのか「組み込み向けの」前世代なのか判断できないためだ。
ただ独Congatecは1月7日にBartlett Lake対応のCOM-HPC Client Size C Moduleを発表した。
COM-HPC Client Size C Moduleの仕様を見ると、チップセットがR680EないしQ670Eとあるので、つまりボードの側にPCHが必要ということだとするとすると、Raptor Lake Refreshと互換性があることになる。コード名も200S、つまりBartlett Lake-Sなので、PCHまで統合したPSシリーズではない、と思いたいのだが。
なお記事冒頭の画像にはIntel 100Uシリーズもラインナップされているが、こちらは2024年中に発売されている製品なので説明は割愛する。
Twin LakeベースのIntel Processorが追加
最後がTwin LakeベースのCore 3プロセッサーとIntel Processorであるが、Core 3の方の新製品はなし。Intel Processorの方はN150/N250/N350/N355が今回新たに追加になったが、これがTwin Lakeベースである。
このTwin LakeとはAlder-Lake Nのリフレッシュ版で、要するにEコアのみの製品である。いずれもモバイル向けのSKUで、N150/250は既存のN100/N200からのアップデート(CPUの動作周波数が100~200MHz、GPUの最大動作周波数も750MHz/750MHz→1GHz/1.25GHzに引き上げられた程度で、あとは特に差はない)でこちらはTDPが6Wだが、N350は7W、N355は最大15Wまで引き上げられ、またEコアも4コアから8コアに増えている。
こちらはそのうちMini-ITXベースのワンボード、あるいはNUCサイズのPCに搭載される形で市場に製品が投入されるかもしれない。Congatecはやはり1月7日に、Core 3 ProcessorベースのSMARC moduleも発表しているので、こちらを利用した小型の組み込み機器などもでてくるかもしれない。
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